低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第81話 燃え残ったもの

 誰も、すぐには動かなかった。

 

 搬入庫には油の燃える匂いと、焦げた粘液の臭気が立ち込めている。

 

 認証扉の向こうでは、もう物音はしない。

 

「……静かですね」

 

 ミリシャが小さく呟く。

 

「静かな時ほど油断するな」

 

 エルドは短く返した。

 

「魔物が一体とは限らん」

 

 その言葉に全員が頷く。

 

     ◇

 

「前衛」

 

「槍を前へ」

 

 護衛二人が一歩進む。

 

 その後ろへロック。

 

 さらにクラウゼ、神官、ミリシャが続く。

 

 認証扉をくぐる。

 

 石造りの通路は搬入庫より狭く、左右の壁には等間隔で青白い魔法灯が埋め込まれていた。

 

 その幾つかは、今なお淡く光を放っている。

 

「まだ動いているのか……」

 

 ミリシャが息を呑む。

 

「古代王国の魔法設備です」

 

 クラウゼも目を細めた。

 

「数百年を経ても停止していないのでしょう」

 

     ◇

 

「止まれ」

 

 先頭の護衛が槍を横へ向けた。

 

 床が黒く焼けている。

 

 ロックはしゃがみ込んだ。

 

「爆炎の跡じゃありません」

 

「ブロブです」

 

「燃えた身体を引きずって逃げています」

 

 焦げた粘液が一本の帯になって奥へ続いていた。

 

「追跡は簡単だな」

 

「はい」

 

「隠れる気はないみたいです」

 

     ◇

 

 慎重に進む。

 

 やがて通路の途中で、ロックが再び足を止めた。

 

「これは……」

 

 壁に何かが付着していた。

 

 透明な粘液。

 

 しかし、その中心には小さな骨片が閉じ込められている。

 

「人骨か」

 

 護衛が顔をしかめる。

 

 クラウゼは近づいて観察した。

 

「違います」

 

「獣です」

 

「おそらくネズミでしょう」

 

「食ったのか」

 

「いえ」

 

 クラウゼは首を振る。

 

「消化したあと、骨だけ残ったのでしょう」

 

 全員の顔色が変わる。

 

「……飲み込まれたら終わりですね」

 

 ミリシャが青ざめた。

 

     ◇

 

 さらに奥へ進む。

 

 すると通路の先が急に広くなった。

 

 円形の部屋。

 

 天井は高く、中央には巨大な石盤が据えられている。

 

 その周囲を、溝が何重にも巡っていた。

 

「実験室……?」

 

 クラウゼが静かに呟く。

 

「いや」

 

 ロックは石盤を見回した。

 

「処分場じゃないでしょうか」

 

「処分場?」

 

「燃やしたり、凍らせたり」

 

「何かを試験する設備に見えます」

 

 確かに壁際には焼損した金属器具や、割れた水晶管が転がっていた。

 

     ◇

 

「先生」

 

 ミリシャが壁を指差す。

 

 そこには古代語で大きく刻まれた文字が残っていた。

 

 クラウゼがゆっくり読み上げる。

 

「……」

 

 しばらく沈黙し、

 

 静かに息を吐く。

 

「何と?」

 

 エルドが尋ねた。

 

 クラウゼは険しい表情のまま答えた。

 

「“廃棄処分室・第三封鎖区画”」

 

 部屋の空気が変わる。

 

「廃棄処分……」

 

「つまり」

 

 ロックが石盤を見つめる。

 

「ここまで逃げたんじゃない」

 

「ここが、あれの居場所だったんですね」

 

 誰も返事をしなかった。

 

 焦げた粘液の跡は。

 

 部屋の中央――

 

 石盤の向こう側へ続いていた。

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