低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第9話 鎧は歩かない

 金を預けた翌日。

 

 ロックは『古代王国の扉』亭の裏口で、荷車を見下ろしていた。

 

 古びてはいるが、車輪は太い。

 

 荷台には縄と厚手の布が積まれている。

 

「これを使え」

 

 亭主が荷車の柄を叩いた。

 

「貸し賃は?」

 

「一日二十ガメル」

 

「高いですね」

 

「壊さず返せばな」

 

「壊したら?」

 

「新しいのを買ってもらう」

 

 ロックは荷車をもう一度見た。

 

 魔法の鎧は二領。

 

 身につけて歩ける物でも、二つまとめれば話は別だ。

 

 地下水道の中を運び、

 

 人目を避け、

 

 盗賊ギルドまで届ける。

 

 担いで済ませるには、目立ちすぎる。

 

「借ります」

 

「毎度あり」

 

 亭主は笑い、貸出票へ印を押した。

 

 ロックは荷車へ布を掛けた。

 

 外から見れば、古道具を運ぶだけの荷車に見える。

 

 少なくとも、

 

 魔法の鎧を運んでいるようには見えない。

 

 問題は、中身を入れてからだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 地下水道の入口には、ヨアヒムの手配した男が二人待っていた。

 

 どちらも地味な服装で、冒険者にも兵士にも見えない。

 

 一人は細身。

 

 もう一人は肩幅が広い。

 

「この二人は?」

 

「運び屋だ」

 

 ヨアヒムが答える。

 

「名前は聞かなくていい」

 

「向こうも、僕の名前は?」

 

「聞かない」

 

 細身の男が笑った。

 

「荷物を運ぶだけだ」

 

「中身を見ても?」

 

「見なかったことにする」

 

 それで話は終わった。

 

 三人は荷車を入口へ残し、地下水道へ入る。

 

 昨日まで歩いた道。

 

 淀んだ水。

 

 湿った石壁。

 

 鼻につく臭い。

 

 だが、ロックの感覚は以前とは違っていた。

 

 依頼を受けた時は、

 

 ただ危険を探していた。

 

 今は違う。

 

 どこから荷物を運び出せるか。

 

 どこで足を取られるか。

 

 どこなら一度休めるか。

 

 道を、

 

 運搬経路として見ている。

 

「ここは滑ります」

 

 ロックは先に注意を促した。

 

「壁際を歩いてください」

 

 肩幅の広い男が足元を確かめる。

 

「よく覚えてるな」

 

「四日歩きましたから」

 

「それだけじゃないだろ」

 

 男はそう言ったが、それ以上は聞かなかった。

 

 やがて、遺跡へ続く場所へ到着する。

 

 隠してあった鎧は、そのままだった。

 

 壁際。

 

 布を掛け、

 

 瓦礫に紛れさせている。

 

 ロックが布を外す。

 

 鈍い光が現れた。

 

「こいつか」

 

 細身の男が小さく息を吐く。

 

「触らないでください」

 

「分かってる」

 

 鎧に罠はない。

 

 呪いもない。

 

 それでも、

 

 魔法の品は不用意に扱わない方がいい。

 

 一領ずつ厚手の布で包む。

 

 金属同士がぶつからないよう縄で縛り、

 

 木の棒を通す。

 

 前後を二人で担げる形にした。

 

「僕も持ちます」

 

 ロックが言う。

 

 肩幅の広い男が首を振った。

 

「お前は先を見ろ」

 

「でも」

 

「荷物より、道の方が危ない」

 

 それは正しかった。

 

 ロックは先頭に立つ。

 

 罠。

 

 足場。

 

 水の深さ。

 

 横穴。

 

 地下水道では、

 

 重量物を運ぶ者はすぐには動けない。

 

 何かあった時、

 

 先に気づく者が必要だった。

 

「止まって」

 

 曲がり角の前で、ロックが手を上げた。

 

 三人が静止する。

 

 水音。

 

 遠くで何かが動く音。

 

 ロックは耳を澄ませた。

 

 鼠ではない。

 

 人の足音でもない。

 

 もっと低く、

 

 水を押し分けている。

 

「何かいます」

 

 細身の男が荷物を下ろそうとした。

 

「まだ」

 

 ロックは制した。

 

 音は近づいていない。

 

 横切っている。

 

 別の水路だ。

 

 しばらく待つ。

 

 やがて音は遠ざかった。

 

「行けます」

 

「何だった?」

 

「分かりません」

 

 ロックは正直に答えた。

 

「でも、戦う必要はありません」

 

 ヨアヒムの男たちは何も言わなかった。

 

 ただ、担ぎ直した。

 

 戦わずに済むなら、

 

 その方がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

 地下水道を出た時には、三人とも汗をかいていた。

 

 鎧は荷車へ積まれ、

 

 さらに布と古い木箱で覆われる。

 

 外から見れば、

 

 壊れた鍋や鉄くずを運んでいるようにしか見えない。

 

「盗賊ギルドまで真っ直ぐ行くんですか?」

 

 ロックが聞く。

 

 細身の男が首を振る。

 

「三回曲がる」

 

「遠回りですね」

 

「追われてるか確かめる」

 

 荷車は動き出した。

 

 大通りは避ける。

 

 市場の裏手を通り、

 

 職人街を抜け、

 

 一度、廃屋の前で止まる。

 

 誰もついて来ていない。

 

 それでも、すぐにはギルドへ入らない。

 

 別の荷車とすれ違い、

 

 布を一枚交換する。

 

 見た目が変わる。

 

「そこまでするんですか」

 

 ロックが呟く。

 

「四万を超える荷物だ」

 

 肩幅の広い男が答えた。

 

「する」

 

 ロックは納得した。

 

 大金は重い。

 

 宝石は軽い。

 

 そして、

 

 魔法の品は目立つ。

 

 価値が高いほど、

 

 運ぶための手間も増える。

 

◇ ◇ ◇

 

 盗賊ギルドの地下区画。

 

 鎧を確認したヨアヒムは、すぐに帳簿を開いた。

 

「傷なし」

 

「揃っている」

 

「約束どおりだ」

 

 ロックは黙って待つ。

 

 銀貨四万二千枚。

 

 重さにすれば、

 

 八十キロを超える。

 

 そんなものを受け取る気はなかった。

 

「どうする?」

 

 ヨアヒムが尋ねる。

 

「『古代王国の扉』亭へ預けます」

 

「全部か?」

 

「いいえ」

 

 ロックは少し考え、

 

 続けた。

 

「一部は宝石に替えたいです」

 

 ヨアヒムの目が細くなる。

 

「いくらだ?」

 

「一万ガメル分」

 

「理由は?」

 

「宿に全部預けると、預け料が高くなる」

 

 ひと月一割。

 

 日割りでも、

 

 額が大きければ負担も大きい。

 

「それに」

 

 ロックは続ける。

 

「全部を一か所に置かない方がいい」

 

 ヨアヒムは笑った。

 

「覚えが早い」

 

 帳簿上で、

 

 四万二千ガメルがロックの取り分となる。

 

 そのうち一万ガメル分は、

 

 後日、鑑定済みの宝石へ交換。

 

 残りは『古代王国の扉』亭へ運ばれることになった。

 

「交換には手数料が掛かる」

 

「分かっています」

 

「宝石は売る時に目減りする」

 

「それも」

 

「ならいい」

 

 ヨアヒムは帳簿を閉じた。

 

「これで遺跡から運び出した品は全部だな」

 

「はい」

 

 剣二振り。

 

 盾一枚。

 

 鎧二領。

 

 すべて売却した。

 

 ロックは一息つく。

 

 遺跡を見つけた時には、

 

 ここまでの金になるとは思っていなかった。

 

 だが、

 

 金を得たから終わりではない。

 

 むしろ始まりだ。

 

 守る。

 

 分ける。

 

 使う。

 

 増やす。

 

 大金は、

 

 持っているだけでは役に立たない。

 

「次はどうする?」

 

 ヨアヒムが聞いた。

 

 ロックは少し考える。

 

 装備を買う。

 

 技能を磨く。

 

 遺跡を調べる。

 

 選べる道は増えた。

 

 だが、

 

 一つだけ決まっている。

 

「もう一度、遺跡へ入ります」

 

「金を得たのに?」

 

「金を得たからです」

 

 ロックは答えた。

 

「前より準備できます」

 

 ヨアヒムはしばらくロックを見ていた。

 

 やがて、

 

 小さく笑う。

 

「冒険者らしくなったな」

 

 ロックは否定しなかった。

 

 少なくとも、

 

 銀貨を袋へ詰めて喜んでいるだけの子供ではなくなった。

 

 魔法の鎧は歩かない。

 

 金も、自分では働かない。

 

 運び方も、

 

 使い方も、

 

 持ち主が考えなければならない。

 

 ロックは帳簿へ記された数字を見つめる。

 

 六万を超える資産。

 

 十五歳の少年には大きすぎる金だった。

 

 だが、

 

 この金をどう使うかで、

 

 次の遺跡探索の結果は変わる。

 

 金は目的ではない。

 

 生き残るための道具だ。

 

 そのことだけは、

 

 もう分かっていた。




ミッション終了

達成経験値:2,000点

ロックはこの経験点で成長判定・技能取得を行えます。



第9話終了時点 収支表

売却済み資産

内容 金額
魔法の剣×2 17,800ガメル
魔法の盾×1 6,000ガメル
魔法の鎧×2 42,000ガメル
売却総額 65,800ガメル



現在の資産

区分 金額
手元現金 520ガメル
『古代王国の扉』亭預け金 4,000ガメル
鎧売却代金(受領予定) 42,000ガメル
総資産 46,520ガメル

※この42,000ガメルは、第9話終了時点では「売却成立・受領手続き中」の扱いです。
次章冒頭で、

* 宝石への交換
* 宿への預け入れ
* 手元資金の調整
を行えば自然な流れになります。



累計成果

* 地下水道点検依頼完了
* 人工始原の巨人計画遺跡を発見
* 魔法の武具5点を安全に搬出・売却
* 盗賊ギルドとの信頼関係を構築
* 『古代王国の扉』亭との預かり契約を締結



成長報酬

* 取得経験点:2,000点
* 累積未使用経験点:2,000点

ここで成長処理を挟めば、第2ミッション開始時には新しい技能・装備で遺跡攻略へ臨めます。
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