低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
金を預けた翌日。
ロックは『古代王国の扉』亭の裏口で、荷車を見下ろしていた。
古びてはいるが、車輪は太い。
荷台には縄と厚手の布が積まれている。
「これを使え」
亭主が荷車の柄を叩いた。
「貸し賃は?」
「一日二十ガメル」
「高いですね」
「壊さず返せばな」
「壊したら?」
「新しいのを買ってもらう」
ロックは荷車をもう一度見た。
魔法の鎧は二領。
身につけて歩ける物でも、二つまとめれば話は別だ。
地下水道の中を運び、
人目を避け、
盗賊ギルドまで届ける。
担いで済ませるには、目立ちすぎる。
「借ります」
「毎度あり」
亭主は笑い、貸出票へ印を押した。
ロックは荷車へ布を掛けた。
外から見れば、古道具を運ぶだけの荷車に見える。
少なくとも、
魔法の鎧を運んでいるようには見えない。
問題は、中身を入れてからだった。
◇ ◇ ◇
地下水道の入口には、ヨアヒムの手配した男が二人待っていた。
どちらも地味な服装で、冒険者にも兵士にも見えない。
一人は細身。
もう一人は肩幅が広い。
「この二人は?」
「運び屋だ」
ヨアヒムが答える。
「名前は聞かなくていい」
「向こうも、僕の名前は?」
「聞かない」
細身の男が笑った。
「荷物を運ぶだけだ」
「中身を見ても?」
「見なかったことにする」
それで話は終わった。
三人は荷車を入口へ残し、地下水道へ入る。
昨日まで歩いた道。
淀んだ水。
湿った石壁。
鼻につく臭い。
だが、ロックの感覚は以前とは違っていた。
依頼を受けた時は、
ただ危険を探していた。
今は違う。
どこから荷物を運び出せるか。
どこで足を取られるか。
どこなら一度休めるか。
道を、
運搬経路として見ている。
「ここは滑ります」
ロックは先に注意を促した。
「壁際を歩いてください」
肩幅の広い男が足元を確かめる。
「よく覚えてるな」
「四日歩きましたから」
「それだけじゃないだろ」
男はそう言ったが、それ以上は聞かなかった。
やがて、遺跡へ続く場所へ到着する。
隠してあった鎧は、そのままだった。
壁際。
布を掛け、
瓦礫に紛れさせている。
ロックが布を外す。
鈍い光が現れた。
「こいつか」
細身の男が小さく息を吐く。
「触らないでください」
「分かってる」
鎧に罠はない。
呪いもない。
それでも、
魔法の品は不用意に扱わない方がいい。
一領ずつ厚手の布で包む。
金属同士がぶつからないよう縄で縛り、
木の棒を通す。
前後を二人で担げる形にした。
「僕も持ちます」
ロックが言う。
肩幅の広い男が首を振った。
「お前は先を見ろ」
「でも」
「荷物より、道の方が危ない」
それは正しかった。
ロックは先頭に立つ。
罠。
足場。
水の深さ。
横穴。
地下水道では、
重量物を運ぶ者はすぐには動けない。
何かあった時、
先に気づく者が必要だった。
「止まって」
曲がり角の前で、ロックが手を上げた。
三人が静止する。
水音。
遠くで何かが動く音。
ロックは耳を澄ませた。
鼠ではない。
人の足音でもない。
もっと低く、
水を押し分けている。
「何かいます」
細身の男が荷物を下ろそうとした。
「まだ」
ロックは制した。
音は近づいていない。
横切っている。
別の水路だ。
しばらく待つ。
やがて音は遠ざかった。
「行けます」
「何だった?」
「分かりません」
ロックは正直に答えた。
「でも、戦う必要はありません」
ヨアヒムの男たちは何も言わなかった。
ただ、担ぎ直した。
戦わずに済むなら、
その方がいい。
◇ ◇ ◇
地下水道を出た時には、三人とも汗をかいていた。
鎧は荷車へ積まれ、
さらに布と古い木箱で覆われる。
外から見れば、
壊れた鍋や鉄くずを運んでいるようにしか見えない。
「盗賊ギルドまで真っ直ぐ行くんですか?」
ロックが聞く。
細身の男が首を振る。
「三回曲がる」
「遠回りですね」
「追われてるか確かめる」
荷車は動き出した。
大通りは避ける。
市場の裏手を通り、
職人街を抜け、
一度、廃屋の前で止まる。
誰もついて来ていない。
それでも、すぐにはギルドへ入らない。
別の荷車とすれ違い、
布を一枚交換する。
見た目が変わる。
「そこまでするんですか」
ロックが呟く。
「四万を超える荷物だ」
肩幅の広い男が答えた。
「する」
ロックは納得した。
大金は重い。
宝石は軽い。
そして、
魔法の品は目立つ。
価値が高いほど、
運ぶための手間も増える。
◇ ◇ ◇
盗賊ギルドの地下区画。
鎧を確認したヨアヒムは、すぐに帳簿を開いた。
「傷なし」
「揃っている」
「約束どおりだ」
ロックは黙って待つ。
銀貨四万二千枚。
重さにすれば、
八十キロを超える。
そんなものを受け取る気はなかった。
「どうする?」
ヨアヒムが尋ねる。
「『古代王国の扉』亭へ預けます」
「全部か?」
「いいえ」
ロックは少し考え、
続けた。
「一部は宝石に替えたいです」
ヨアヒムの目が細くなる。
「いくらだ?」
「一万ガメル分」
「理由は?」
「宿に全部預けると、預け料が高くなる」
ひと月一割。
日割りでも、
額が大きければ負担も大きい。
「それに」
ロックは続ける。
「全部を一か所に置かない方がいい」
ヨアヒムは笑った。
「覚えが早い」
帳簿上で、
四万二千ガメルがロックの取り分となる。
そのうち一万ガメル分は、
後日、鑑定済みの宝石へ交換。
残りは『古代王国の扉』亭へ運ばれることになった。
「交換には手数料が掛かる」
「分かっています」
「宝石は売る時に目減りする」
「それも」
「ならいい」
ヨアヒムは帳簿を閉じた。
「これで遺跡から運び出した品は全部だな」
「はい」
剣二振り。
盾一枚。
鎧二領。
すべて売却した。
ロックは一息つく。
遺跡を見つけた時には、
ここまでの金になるとは思っていなかった。
だが、
金を得たから終わりではない。
むしろ始まりだ。
守る。
分ける。
使う。
増やす。
大金は、
持っているだけでは役に立たない。
「次はどうする?」
ヨアヒムが聞いた。
ロックは少し考える。
装備を買う。
技能を磨く。
遺跡を調べる。
選べる道は増えた。
だが、
一つだけ決まっている。
「もう一度、遺跡へ入ります」
「金を得たのに?」
「金を得たからです」
ロックは答えた。
「前より準備できます」
ヨアヒムはしばらくロックを見ていた。
やがて、
小さく笑う。
「冒険者らしくなったな」
ロックは否定しなかった。
少なくとも、
銀貨を袋へ詰めて喜んでいるだけの子供ではなくなった。
魔法の鎧は歩かない。
金も、自分では働かない。
運び方も、
使い方も、
持ち主が考えなければならない。
ロックは帳簿へ記された数字を見つめる。
六万を超える資産。
十五歳の少年には大きすぎる金だった。
だが、
この金をどう使うかで、
次の遺跡探索の結果は変わる。
金は目的ではない。
生き残るための道具だ。
そのことだけは、
もう分かっていた。
ミッション終了
達成経験値:2,000点
ロックはこの経験点で成長判定・技能取得を行えます。
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第9話終了時点 収支表
売却済み資産
内容 金額
魔法の剣×2 17,800ガメル
魔法の盾×1 6,000ガメル
魔法の鎧×2 42,000ガメル
売却総額 65,800ガメル
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現在の資産
区分 金額
手元現金 520ガメル
『古代王国の扉』亭預け金 4,000ガメル
鎧売却代金(受領予定) 42,000ガメル
総資産 46,520ガメル
※この42,000ガメルは、第9話終了時点では「売却成立・受領手続き中」の扱いです。
次章冒頭で、
* 宝石への交換
* 宿への預け入れ
* 手元資金の調整
を行えば自然な流れになります。
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累計成果
* 地下水道点検依頼完了
* 人工始原の巨人計画遺跡を発見
* 魔法の武具5点を安全に搬出・売却
* 盗賊ギルドとの信頼関係を構築
* 『古代王国の扉』亭との預かり契約を締結
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成長報酬
* 取得経験点:2,000点
* 累積未使用経験点:2,000点
ここで成長処理を挟めば、第2ミッション開始時には新しい技能・装備で遺跡攻略へ臨めます。