今回は刃物による負傷、流血表現があるので注意です。
●主人公
雄英高校普通科C組
個性:
「さあ、君の平穏を取り戻そう」
慈悲の皮を被った死神の声。
その男の掌が不動の顔を覆い、指先が彼女の個性の根源に触れた。
──その刹那。
『どうかこの子を守ってくれますように──』
突然、知らない女性の声が不動の頭の中に流れ込んだ。どこか懐かしくて、胸の奥を締め付けるような囁き。
『自分の個性を愛しなさい──』
まただ。
その囁きは耳元ではなく内側から響いた。
まるで誰かの"願い"のように。
「……誰?」
不動がそう呟くと、突如彼女を中心としたその周囲に強力な重力場が発生した。
「……ほう」
男の手が不動の顔からわずかに離れる。その声に先ほどまでの余裕とは異なる色が混じっていた。
「待って……何……!一体どうなってんの……」
不動は両手を相手にかざしていない。発動条件を無視して
暴走する力に翻弄される中、目の前の男の身体が徐々に重力に押し潰されるように沈んでいく。
膝が折れ、やがてその場にうずくまる。
「いいねぇ……ますます欲しい……!」
男が感じていたのは苦痛ではなく抑えきれない高揚だった。その不気味さに不動はごくりと息を呑んだ。
男の動きが完全に止まった、その一瞬の隙を逃さず爆豪が不動の右腕を強く引いた。
「おい重力女!突っ立ってんじゃねぇ、走れ!」
「え、ちょっと待って……ここ重力場の中……なんで君普通に入ってこれるの?」
「あァ!?」
爆豪は迷いのない足取りで瓦礫を蹴り上げながら走り出した。不動は引きずられるように、半ば強引に走らされる。
その時。
空間を断ち切るように、上空からオールマイトが男に向かってまっすぐ飛び込み、両の拳を振るった。
不動が男から一定距離離れたことで重力場は消失した。
男は自由を取り戻し、瞬時にその拳を両手で受け止めた。
「全てを返してもらうぞ!オールフォーワン!」
「また僕を殺すか!?オールマイト!」
激突の瞬間、凄まじい衝撃が爆風となって周囲を薙ぎ払う。爆豪と不動も、ヴィランたちとともに弾き飛ばされた。
先に地面に叩きつけられた爆豪は咄嗟に受け身をとり、空中に投げ出された不動を地面から守るように抱きとめた。
「っ……ごめん、ありがとう」
「ボサっとすんな、さっさと立てや!」
「もしかして君……今の、オールマイトの攻撃が来るのを分かって……?」
爆豪はオールマイトが男の元へ突き進む軌道を瞬時に察知していた。余波すらも致命傷になりかねないその激突から、不動を遠ざけるためにあえて距離をとったのだ。
冷静な状況判断能力と、戦況の先を読む思考能力。
(さすがはヒーロー科……)
というより純粋に彼は頭がいいのだろう。
体育祭の時にA組の人が言っていた「入試一位通過」という言葉。あの時は聞き流していたが、今ならその言葉に納得できる。
「その子たちを連れてここを逃げろ弔。黒霧、皆を逃がすんだ」
オールフォーワンが黒い爪のようなものを伸ばし、気絶して地面に伏している黒霧の胸へと突き刺す。そしてそのまま彼の個性『ワープゲート』を強制的に発動させた。
不動と爆豪は逃げようと一歩踏み出したが、目の前でヴィランたちが
「手ェ出したら殺す」
「分かった」
「そこから動いても殺す」
「分かった」
ヒーローの吐くセリフではないと言いそうになったが、守られている立場であるためこれ以上何も言えず、不動はその言葉をぐっと飲み込んだ。
爆豪は六人を相手に立ち回っていたが、数的な不利は明白だった。
(こいつらさっきまでと違って……強引にでも俺たちを連れて行く気だ……!)
白黒タイツの男の攻撃を躱し、女子高生の投げるナイフを避けながら爆破を放つ。中でもマジシャンのような男の動きには特に警戒を払っている様子だった。一瞬でも隙を見せれば終わり。そんな張り詰めた攻防。
不動はその戦いをただ眺めることしかできなかった。
一方でオールマイトは爆豪たちの救出を最優先に動こうとしているのだが、その行く手をオールフォーワンの容赦のない攻撃が幾度となく阻む。
平和の象徴として君臨してきた彼が、全力を出せないまま戦っている。自分たちがここに留まっていること自体が、最強のヒーローを窮地に追い込む重石になっていた。
(個性使わなきゃ……このままじゃ爆豪くんも私も連れて行かれるし、オールマイトだって本気で戦えない……!)
不動は意を決し、両手をヴィランたちへと向けた。
しかしヴィランは全員バラけており、爆豪を巻き込まずに全員を重力で捕らえるのは不可能だった。
(爆豪くんが一番警戒してる……あの仮面の男……)
仮面の男──コンプレスを含めた三人。
(あのあたりを止められれば、彼も少しは戦いやすくなるはず……)
すると爆豪が、個性を発動しようとする不動の動きに気がついた。
「重力女!手ェ出すなっつったろ!」
「でもこのままだと君も危ない!」
「うるせぇ!ただの
たとえ相手が凶悪犯であろうと、資格を持たない者が公の場で個性を使用することは禁じられている。爆豪は林間合宿での戦闘許可が継続しているが、普通科の生徒である不動はあくまでも"守られるべき一般人"なのだ。
不動が両手を下ろしたその時。
突如、全身に赤い光が纏わりつく。
次の瞬間、見えない力に引きずられるように体が宙へと引き上げられた。
「!?」
抗う間もなく、どんどん身体が引き寄せられていく。視線の先にはサングラスの男──マグネが手にした巨大な金属棒。どうやらあれに吸い寄せられているらしい。
「あらあら仲間割れ?可愛いわね。まずは一匹、こちらにいらっしゃいな」
空中で体勢を崩しながらも、不動はとっさに両手を自分の体へ押し当て、"自分自身"に重力をかけた。すると、ドンッと鈍い衝撃とともに、その体は真下の地面へと引き寄せられた。
まさか成功するとは思わなかった。
「テメェ!個性使いやがったな!?」
「相手に使ってない!自分に使ってるからセーフでしょ!」
「セーフもクソも関係あるか!!」
「じゃあどうしろっていうの!?あのまま捕まればよかった!?」
普段声を荒らげることのない不動は、自らから放たれたその怒声に自分自身で驚く。敵の攻撃を躱し続ける男と、重力で地面に縫い付けられた女の激しい応酬が、戦場のど真ん中で繰り広げられていた。
「やだ全っ然動かないわ、この子!」
サングラスの男──マグネは、磁力を最大限に引き上げ、強引に引き寄せようとする。たがそれに抗うように不動もまた、自らにかける重力を際限なく強めていった。
しかし。
「っ……!」
全身が鉛のように重い。
指先ひとつ動かせない。
身体はじりじりと押しつぶされ、ついには顔が地面に触れそうになる。肺が圧迫され、呼吸すらままならない。意識が朦朧としてきた。
重力が増加するたびに人体にどれほどの負荷がかかるのか──不動はそれきちんと把握しないままひたすら個性の出力を上げ続ける。
完全に動けなくなった不動。その隙を逃すまいと、スピナーが一直線に距離を詰める。
「クソ共が……まとめて爆ぜろ!」
凄まじい爆音が荒れ地に響く。
爆豪の放った一撃がマグネとスピナーをまとめて弾き飛ばした。だが、二人を退けるにしては爆破の規模が明らかに異常だった。
いや違う。
煙だ。
爆発そのものではなく、巻き上がった爆煙の量が異常なのだ。瞬く間に視界が黒く塗り潰される。その煙が不動の姿を完全に覆い隠した。
「……なるほど」
彼女はすぐさま自身にかけた個性を解除した。爆煙に紛れ、ふらつく足を無理やり動かしながら爆豪の守備範囲まで駆け寄った。
爆豪は最初からこれを狙っていたのだ。目くらましの爆煙で相手の視界を遮り、不動がこちら側へ戻るための数秒を稼ぐために。
「……今の爆破の意図を理解したのは褒めてやる。モブにしちゃ頭は回るようだな」
「どうも」
「今のうちに逃げっぞ、着いてこい」
「うん」
吹き飛ばされたスピナーとマグネが、瓦礫の中からむくりと起き上がる。
「ケホケホ……煙が邪魔で何にも見えねぇ……」
「絶対に取り逃がすんじゃないわよ!」
不動は前を走る爆豪の背中を見つめていた。
彼は先ほどからずっと、自分を自身の守備範囲から決して出そうとはしなかった。今のようにわざと爆煙を起こすまでは、あえて小規模な爆破に留め、互いが視界から消えるリスクを最小限に抑えながら立ち回っていたのだ。
(もしかして、全部計算してるの……)
戦いながらも爆豪の脳内では、常にいくつもの状況打開策が同時に組み立てられているのだろう。彼のことは乱暴で、傲慢で、自分とは相容れない人間だと思っていた。
しかし彼はもしかしたら、自分が思っているよりもずっとヒーローなのかもしれない──。
不動の中で、爆豪勝己という人間への評価が静かに書き換えられていく。
そんなことを考えながらふと後ろを振り返る。爆煙はすでに晴れ、連中からもかなり距離を取れたようだ。
(一……二……三……………………)
(あれ、待って)
たしかあの場に動けるヴィランは六人いたはず。
一人いない。
「油断しましたね」
女子高生──トガヒミコの低い声が不動のすぐ後ろで聞こえた。
「なっ……!?」
気付いた時には地面に組み伏せられていた。トガの細い体が不動の上にのしかかる。不動は抵抗しようと身をよじるが、ナイフの切っ先が喉元に突きつけられた。
「爆煙起こすのって目くらましには便利ですけど、敵の接近に気づけないので、使うタイミングはもうちょっと考えた方がいいですよ」
トガはくすりと笑いながら、空いたもう片方の手で別のナイフをくるくると回し遊ぶ。
「チッ……!」
爆豪の手のひらから焦燥を含んだ火花が散る。トガはナイフをさらに近づけ、低い声で彼を牽制した。
「動かないでください爆豪くん。この子を傷つけられたくなかったら、おとなしく着いてきてください」
「ひ……っ」
ナイフの刃先が喉元に押し当てられ、冷たい感触が皮膚をなぞる。ほんのわずかでも動けば皮膚が裂ける。息をするのも怖くて、不動は思わず呼吸を止める。
「ナイスだトガちゃん!」「できるなら最初からそうしろ!」
白黒タイツの男──トゥワイスが一人で支離滅裂な会話をしながら後から駆け寄ってきた。
「仕方がないのです。爆豪くんのせいでなかなか不動ちゃんに近づけなかったんですから」
爆豪は必死に考えを巡らせる。
(どうする……奴らが
「さあどうします?ヒーローである君は、不動ちゃんを傷つけるわけにはいきませんよねぇ?だって彼女は『要救助者』ってやつなんですから」
話し声は冷静だった。しかし右手に握られたナイフは小刻みに震え、トガの呼吸は次第に荒くなっていく。
不動を傷つけてしまいたい衝動を、理性で必死に抑えているのだ。不動を映す彼女の瞳は次第に狂気の色に染められていく。
「不動ちゃん、私……もう我慢できないです……!!」
「──っ!?」
ドスンと鈍い衝撃。
トガのナイフが、地面に置かれた不動の右手の甲へと容赦なく突き立てられた。
「痛ッ……ああぁああぁあああぁ!!!!!」
かつてないほどの絶叫が響き渡った。
不動は今まで体感したことのない激痛に悶絶し、激しく身をよじる。いっそこのまま意識を失わせてくれと願ってしまうほどの苦痛。しかし意識は残酷なほど鮮明で、右手の中で暴れる痛みを逃がしてはくれなかった。
「あ゛……はっ、あ゛……っ!」
呼吸は荒く乱れ、喉の奥から濁った息がこぼれる。肩が激しく上下し、一気に噴き出した冷たい汗が、砂埃にまみれた頬を伝っていく。
突き立てられたナイフの根元からはどくどくと生温かいものがゆっくりと広がっていった。
「カァイイ……」
トガがうっとりと目を細める。
「痛いねぇ、苦しいねぇ……こうして血が流れていると、生きてるって感じがするよねぇ。やっぱり不動ちゃんは血が流れてる方が似合ってます……」
「ちょっとトガちゃん! 人質にとるんなら負傷させちゃダメだって! 」「よくやった!」
「でも片手潰したので不動ちゃんに個性使われる心配はなくなりましたよ?」
「確かに!賢いなトガちゃんは!」「いや馬鹿だろ!」
トゥワイスがトガに向けてサムズアップポーズをお見舞いした。
「クソ……ッ!!」
爆豪がトガとトゥワイスに向けて最大出力の爆破を叩き込む。激しい爆炎が周囲をなぎ払い、黒い煙が再び相手の視界を遮った。そのわずかな隙に爆豪は不動の体を抱え上げると、一気に距離をとり巨大な瓦礫の死角へと滑り込んだ。
「……ッ、おい、しっかりしろ!」
身を隠すや否や、不動の右手へと視線を落とす。手の甲に深く走る刺創。どくどくと血が溢れ、指先まで真っ赤に染め上げる。
「……ん゛ッ……ぐ……っ……!あ゛ぁ……っ……!」
視界が涙で滲む。痛みで喉の奥が引き攣り、くぐもった呻き声と濁った荒い呼吸音とが入り交じる。
爆豪は躊躇うことなく自らのTシャツの裾を掴み、力任せに引き裂いた。
「貸せ、右手上げっぞ」
爆豪は不動の手首をがしりと掴み、心臓より高い位置にある瓦礫の上に不動の手を置いた。
「……ッ、ん……!」
「動くな。止血だ」
爆豪は冷静に傷口を観察する。
「……ン、貫通はしてねぇ」
裂いた黒い布を傷口に押し当て、圧迫するように手際よく巻き付けていく。
「はぁ……っ……、ぐっ…………ぅぅ……!」
不動は声を出して痛みを逃がしたいが、ヴィラン達に見つからないように必死に声を押し殺す。強く歯を噛み締めるあまり、つい舌を噛みそうになる。
「痛ぇのは分かっとる。噛むならこっち噛め」
爆豪は不動の口を無理やりこじ開けると、そのまま強引に自分の右腕を差し込んだ。
「我慢しろ、すぐ終わらせる」
「んんん゛…………っ!!」
不動は反射的に歯を沈ませる。爆豪はほんの一瞬だけ顔を歪ませたが、残った左手と自らの歯を器用に使い、引き裂いた布を使って止血帯の結び目を作り上げた。応急処置としては、これ以上ないほど的確だった。
つい先ほどまで彼女に怒号を浴びせていた彼だったが、今はパニックに陥った不動が悲鳴を上げないよう、終始冷静なトーンを崩さずに接していた。
「……っ、は……ぁ……」
やがて不動の力が抜け、爆豪の腕に噛み沈めていた歯が離れる。
右手の傷の痛みが消えたわけではない。じくじくとした熱は今も脈打ち続けている。それでも傷口を強く圧迫されていることによって、先ほどのような激痛は幾分か緩和されていた。痛みが分散されたおかげで、ようやく対話ができる程度まで落ち着いてきた。
「……っ、ごめん。……腕、痛かったよね」
爆豪の右腕には生々しい歯型がくっきりと残っており、一部は浅く裂け、じわりと血が滲んでいる。
どう見ても不動の方が重症だというのに、真っ先に他人の噛み傷を案じる彼女。爆豪はそれを理解不能と言わんばかりに怪訝な表情を浮かべた。
「…………テメーよかマシだわ」
その言葉に不動は返す言葉を失い、ただ視線を低く落とした。
(なんでこの人はこんなにも強いんだろう……)
自分を"守るべき対象"として扱い、法を犯させぬよう律し、多勢に無勢の絶望的な状況にあっても、一歩も引かずに立ち向かう。言動こそ荒々しく乱暴ではあるが、彼は最初から、一貫して自分を守り続けてくれていた。
オールマイトの勝つ姿に憧れたと言っていた爆豪。そんな彼を突き動かしているのは、ヒーローという名の高潔で揺るぎない志のみなのだろう。
ヴィランが暴れ、ヒーローがそれを制圧する。
そんな光景はテレビの向こう側で起きている、自分とは無関係な出来事だと思い込んでいた。身内にプロヒーローがいながらその実、本物の"現場"をこの目で見たことがなかったからだ。
けれど今ようやく理解した。
これが、ヒーローに守られるということ。
これが、平和を享受するということ。
その残酷なまでの現実を知らないまま、自分はただ何事もない穏やかな日常だけを無邪気に望んでいた。
「立て。ここもすぐ見つかる。今のうちに──」
爆豪がそう言いかけた瞬間、二人の姿を遮っていた瓦礫が音を立てて"崩壊"した。
「いい加減捕まってくれよ二人とも……」
「もう逃げられませんよぉ」
「これ以上手を煩わせないでちょうだい!」
「袋の鼠だな」
四方を囲まれた。
「"窮鼠猫を噛む"って言葉知らねぇンか?ボケが」
爆豪は不動を背にかばうように一歩前へ出ると、手のひらから激しい火花を散らして威嚇した。不敵に口角を吊り上げてはいるが、その表情は最悪の状況を打破するための糸口を必死に探っていたようだった。
その時。
荒れ地のど真ん中に突如として巨大な氷柱が現れた。さらに視線を上げると、上空に人影が。
「来い!!!」
誰かが必死に手を差し伸べる声が響いた。
(誰……?あれは一体……何……?)
謎の状況に困惑する不動に対し、その意図を一瞬で汲み取れたのは爆豪だけだった。
「おい重力女、左手離すなよ!」
「なに!?」
彼の手のひらが閃き、爆音がしたと思った時には既に爆豪の片腕で強引に抱え上げられていた。何が起きたのか分からないまま、不動は唯一動かせる左手で彼の首元にしがみついた。
振り落とされまいと、必死に。
爆発の反動をそのまま推進力へと変え、声の主の元へ一気に飛んでいく。あまりのスピードにまともに呼吸すらできない。風圧に晒され、目を開けていることさえ困難だった。
不動は思わず、爆豪の胸元へ深く顔を埋めた。Tシャツから漂う焦げた匂いが鼻腔を満たす。
爆豪はパシッと
「……馬鹿かよ」
呆れたような、けれど安堵の混じった声。
「爆豪くん!俺の合図に合わせ爆風で──!」
「テメーが俺に合わせろや!!!」
「張り合うなこんな時に!」
至近距離で放たれた爆豪の怒鳴り声に不動はびくりとしてしまい、反射的に彼の胸から顔を離してしまった。そのまま目線を下に向けると、地面が遠ざかっていくのが見えた。
マグネの個性により、コンプレスが追うようにこちらに飛んできたが、巨大化したMt.レディがその身を挺して遮った。 地上に残されたマグネ、トゥワイス、スピナーも、グラントリノの電光石火の蹴りによって次々と沈められていく。
(オールマイトだけじゃなくて、他にもたくさんのヒーローが……)
自分と爆豪を救い出すために、どれほど多くのヒーローが動いたのだろう。
「ヒーローに守ってもらって当たり前」
この光景を目の当たりにした不動には、もう以前のようにそんな風に思うことはできなかった。平和というものは常に誰かの献身の上に成り立っているのだと、身にしみて感じたからだ。
「迷惑かけて……ごめんなさい……」
風に攫われそうなほど小さな声。
遠のく地面を見つめながら、不動は込み上げる申し訳なさと己の不甲斐なさに、ぐっと唇を噛み締めた。思わず傷ついた右手にも力が入り、ずきりと鋭い痛みが脈打つ。
彼女の右手を覆う黒い布──爆豪のTシャツの切れ端が、夜風に激しくなびいていた。