24 至るまで
「
「それでも被害者2人の通学先であり、標本事件の最重要容疑者だった
「わざわざ言われなくても分かっている」
「まぁ
「……そうだな」
「犯行が可能な時間帯に学校が出た者がいないか、防犯カメラの画像検索を行いました。しかし怪しいものは何も。防犯カメラの数は十分なはずなんですが」
「これさぁ……やっぱり」
「何度でも言うが、
「まーだ何も言ってないですよ!」
「顔を見れば分かるんだよ」
「ギーノさん敏感っすねぇ〜」
「確かに
「え〜!
「…交代で聞き込みを開始する。まずは縢から。生徒に接する時はコミッサのホロアバターを忘れるなよ。未成年の色相に、どんなに僅かでも悪影響を与えるな」
「では、我々はメンタルケアの名目で生徒に接触を図ります。椋羽ちゃん」
「はい! 任せてください」
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2112年 12月21日 AM 10:00一一
東京都 私立桜霜学園 美術室
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雨が降っている。
生徒たちは粛々と授業を受け変わらない日常を送ろうとする中、雨に機体を濡らすドローンだけが異質だった。
「警備体制……一段と厳しくなりましたね」
「相次いで2人もの生徒が同じ手口の犯罪の餌食になった。これで学園側がなんの対策も講じなければ、保護者が黙っていないよ」
彼女はイーゼルの上に置かれたキャンバスへ絵筆をはしらせ、
「加えて容疑者は元教諭の藤間 幸三郎。公安局の捜査の焦点も、ここ桜霜学園に絞りこまれる」
「しばらく身動きが取れませんわね」
槙島と話しながら、王陵璃華子は絵を描いていた。
独特な色使いであることは彼女の持つパレットからも察せられる。
しかしそれよりも槙島には分からないことがあった。
【なぜ、同じ学園内の生徒ばかりを素材に選んだのか】
今現在の公安局による警戒態勢は当然だ。
いずれ彼女に捜査の手が伸びるのも時間の問題だろう。何せ公安局もそこまで馬鹿ではない。そうでなくては面白くない。
「全寮制女子学校というこの学園の教育方針を槙島先生はどうお考えですか?」
その疑問を本人に聞いたところ、質問を質問で返されてしまったのだが…ここは甘んじて答えてあげた。
「時代錯誤ではあるが、それ故に希少価値がある…かな。今の時代に尚も昔ながらのスタイルで就学させたいと思うなら、ここしか他にない」
「貞淑さと気品、失われた伝統の美徳。それが桜霜学園の掲げる教育の理念。男子には求められない女子だけに付加されるプライオリティ。それを刻みつけられたあとで私たちは〈深窓の令嬢〉というブランド品として出荷され、良妻賢母というクラシックな家具を求める殿方に購入される……結婚という体裁でね」
彼女が描くのは次なる美術品。
2つの少女の頭が捻られた腕を燭台のようにして掌の上に収められている。
「この学校にいる生徒は誰もが淑女という名の工芸品に加工されるための素材なんです。磨きあげられ完成されるのを待つ原石…悲しく、そして退屈な命ですわ。他に花開くはずの可能性はいくらだってあるのに」
「面白い見解ではある。そこに君の初期衝動がある訳か…新しい作品を仕上げたら、今度は何処に展示するつもりだい?」
「そうですね……何処がいいかしら。なるべく大勢の目につく賑やかな場所を探さないと」
槙島には分かっていた。この女はダメだと。
まるで分かっていない。所詮は父親の幻想に取り憑かれた哀れな少女なのだ。
芸術家としてもだが、犯罪を犯す者としてもそれでは早いうちに捕まるだろう。
だとしても、それは槙島には関係のないことだった。
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同日 PM 12:00一一
東京都 私立桜霜学園 被害者生徒の私室
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鑑識ドローンが部屋の中を駆け回り手掛かりを探しているが、めぼしいどころかあまりに何も無く捜査には全く進展が無い。
そんな中コミッサのホロアバターを纏った縢が戻り、笑えない新情報をもたらした。
どうやら2年生で2人ばかり消えた生徒がいるそうで、実家に問い合わせたものの帰宅はしておらず、行方不明となっているらしい。
「しかし妙な話だな…校舎も学生寮も軍事施設並の厳戒態勢。ここから犠牲者を連れ出す方法なんてあるのか?」
「そもそも、なぜ今になって桜霜学園の生徒ばかりを標的にする」
「藤間にとってこの学園は言わば古巣です。どこか警備の穴になる抜け道を知っていたのかも」
「有り得ますよね! この学園創設100年でしたっけ? 敷地の中増減築の繰り返しで見取り図とかも酷いもんすよ」
「まさか……殺しの現場もホシの隠れ家も、全部学園の中ってことは無いですか」
宜野座はカウンセリングと称して生徒に接触する
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同日 PM 15:00一一
東京都 私立桜霜学園 保健室
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両方とも女性であり、公安局から来た正式な捜査官と心理支援官。
不安を抱えていた少女たちにとっては喉から手が出るほどに望んだカウンセリングの機会へ殺到する者が多かった。
私たちは学園から医務室の一角を借り受け、カウンセリングと事情聴取を行っている。
実際不安に苛まれ色相を濁らせている者が多く、椋羽ちゃんは明るく振る舞いつつも私の方を見て困ったように眉根を寄せた。
「犯罪係数はドミネーターを向ければ見れるけどそれはカウンセリングとは違うし…そもそもみんな濁りすぎだよ……」
「うーん、困ったねぇ」
それだけ不安が蔓延っている、ということではある。
正直サイコハザードになってしまわないか心配になるレベルなのだと思う。私にはそこまでの機微は分からないものの、あそこまでそわそわしている椋羽ちゃんを見たことがない。
途中飛んできた宜野座さんの指示にも従い事情聴取を行っているが、特段めぼしい情報は無い。
そもそもこんな場所で怪しい人間がいれば誰かしらが気が付く。
そうでない時点で内部犯かつ、そこそこの影響力を持つ人間が犯行に関わっているのは明白だ。
「2年生で欠席の続いている人がいるみたいだよ」
「十中八九殺されてるね」
「まだまだカウンセリングを希望してくれている生徒さんがいっぱいいるから、私は再開するね」
「分かった。宜野座さんからの質問も聞いてみて。すぐ戻る」
「うん」
私は椋羽ちゃんを保健室に残して文章を纏める。
宛先は勿論、狡噛さん。校内からでは辿り着ける情報に限界が来るだろう。だから彼を捜査に入れないなんて到底考えられなかった。
私は藤間 幸三郎が犯人だとは微塵も思っていない。
あれは人間が理解するにはまだ早い独自の世界観を確立していた。
しかし今回の犯人はそうではない。ただ模倣しているだけで確立した自己が薄い。
きっと狡噛さんは別の視点から犯人へと至るだろう。
だから私は、裏付けの為にも人の心から犯人に至りたいと思っていた。