原作:Fate/stay night
タグ:R-15 オリ主 神様転生 残酷な描写 転生 憑依 性転換 クロスオーバー AI本文利用 ロード・エルメロイII世の事件簿 Bloodborne 時計塔のマリア シリアル
ロード・エルメロイⅡ世は、内弟子のグレイと並んで、廊下を歩いていた。
すると前方から、明らかに「普通ではないもの」が近づいてくる。
羽の付いた帽子に、金糸の刺繍に彩られた古風で貴族的な衣装。 そこに肩当て、グローブ、ブーツ、そして片マント。 整った顔立ちに、後ろで編み込まれた銀髪。 どこから見ても目立つ美人だった。
しかし問題は、そこではない。
その両手にある物だった。
美少女アニメのイラストが大きく印刷された紙袋が、左右にぶら下がっている。
彼女は特別講師のマリアだ。
執行者としても籍を置き、実戦の知見を買われて教室に呼んでいる女。 普段はビジネスライクに接している相手である。
グレイが、フードの下で小さく息を詰める。
「師匠……あの方、また」
「知っている。見えている」
Ⅱ世は短く答えた。 学部長として、無視して通り過ぎるべきだった。 だが、日本のゲームとサブカルチャーに浸かりすぎた感性は、すでに限界を迎えていた。
「……待て」
マリアは、静かに足を止めた。
Ⅱ世は距離を詰めて尋ねた。
「その袋は、何だ」
「紙袋だよ」
「中身を聞いている」
「本と、レトルトさ」
「レトルト?」
「ボーボーカレーだな」
Ⅱ世のこめかみが、わずかに疼いた。 隣で、グレイがきょとんとしている。
「なぜ、それをここに持ってくる」
「帰ってきたからさ」
「どこからだ」
「日本、だよ」
Ⅱ世は深く息を吸った。 いくつかの言葉を飲み込み、別の言葉を選んだ。
「レディ…マリア•アストラル」
「……ただのマリアでいいさ」
そのときだった。
紙袋の底が、重量に耐えきれず破れた。
中身が、廊下の床に広がる。
表紙に美少女が描かれた薄い冊子が数冊。 クリアファイル。 大きくて気品のある犬——ボルゾイ——が印刷されたレトルトカレーのパッケージ。 その他、同人誌即売会で入手したとしか思えない小物類。
沈黙が三者を包む。
グレイが、小さく呟く。
「拙…これ、知りません。何なのでしょうか」
Ⅱ世は、床に散らばったものを見下ろした。 サブカル好きとしての興味が、一瞬だけ動く。 同人誌の装丁。
レトルトカレーのデザイン。
紙袋の材質。
同時に、学部長としての理性が、完全に呆れ返っていた。
「……なぜ、こんな物を持っている」
マリアは、すでにしゃがみ込み、淡々と拾い始めていた。 跪く姿勢はどこか優雅で、しかしやっていることは同人誌やレトルトカレーの回収である。
一冊、また一冊と、冊子を拾う。 クリアファイルの角を直し、ボルゾイのレトルトを紙袋の残骸に戻す。
その所作は丁寧で、かつ洗練されたものだった。
しかし丁寧なのに、状況が状況だった。
「自室に荷物を置きに戻るのが面倒だったからね。戦利品をそのまま持って来たよ。カレーなら分けてやれるが…」
「いいや、結構だ…」
Ⅱ世は、廊下の天井を仰いだ。
有能な執行者であり、実戦の知見を買われて教室に呼んだ特別講師。 その女が、今、レトルトカレーを床から拾って差し出してくる。
「はぁ…君は、一体何なんだ」
マリアは冊子を紙袋の残骸に戻し、片腕に抱えながら答えた。
「時計塔にいる、ただのマリアさ。グレイもカレーを食べるかい?ほら、二人で食べると良い。豚のカツレツと共に食べるのがオススメだ」
隣で、グレイがさらに小さな声で言った。
「師匠…拙、カツカレーが食べたいです」
Ⅱ世は、もう何も言えなかった。
後になって、煙草を片手にⅡ世は机に向かい、彼女の記録を改めて開いた。
登録名はマリア・アストラル。 通称、マリア。 所属は封印指定執行者であり、エルメロイ教室の特別講師。
出自は不詳。
年齢も不詳。 実戦能力は極めて高く、単独任務の達成率も良好だ。 魔術回路については不明。 死徒に近い再生力が確認されているが、死徒特有の吸血衝動はない。 加速と呼ぶべき機動を常用し、戦闘では崩した相手の内臓を狙う傾向がある、との注釈も付いている。
人物評の欄には、短い一文があった。
『有能だが、扱いづらい。自己完結した行動原理を持つ』
Ⅱ世は、報告書の端に視線を落としたまま、短く息を吐いた。
講師として接してきた範囲でも、印象は大きく変わらない。
彼女の実戦における知見は本物だ。
教室に呼んだ判断自体は、今のところ間違っていない。 口数は少なく、出世にも派閥にも興味を示さない。
他の学科と比べて不遇な現代魔術科としては、その点は都合が良い。
だが彼女の行動原理が読めない。
今日の廊下で、彼女は美少女絵の紙袋を両手に提げ、恥ずかしい中身をぶちまけた。
同人誌とレトルトカレー。 その他サブカル的なものを持っていることまでは、確認できた。
それでも——なぜそれを、時計塔の廊下で堂々と提げるのかは、分からない。
「……記録にある以上のことは、何も書いていないな」
Ⅱ世はファイルを閉じた。
紙袋を提げて帰ってきた女の姿が、まだ目に残っている。 優雅にしゃがみ、同人誌を拾っていた手つきも。
「相変わらず素性が分からん。講師として呼んで、本当に良かったのか…急に嫌な予感がしてきたぞ」
じりじりと音を立てて、燃焼が煙草を侵食する。
そしてその予感は残念ながら、ほとんど確信に近かった。
時計塔には、マリアがいる。