後悔しないよう素直に生きる 作:まりっじからぁ
「うわぁ地獄絵図」
時は
現代において重要なのは量ではない。それよりも質。研ぎ澄まされた少数精鋭は怪物の大群を凌駕する。そして精鋭の極みが英雄と呼ばれる方々なわけだが、その男は英雄の器ではなかった。
「大樹の迷宮の入口からゴライアス……いやいや君たちの家はそっちじゃないでしょ。しかも二匹も。なに? もしかして片方はゴライメスだったりする? ツガイなの君たち?」
傷んだ黄金色の髪を後ろで結んだ、特徴がないのが特徴と言われる顔立ちの男。
先月でめでたく十七歳になったばかり、名前はハイル・エール。神々は彼を英雄扱いしないし、彼自身も英雄の器でないことを自覚している。
それなのに、この理不尽はちと厳しい。ちょっと英雄を呼んでこいと彼は実際に叫んだ。
「モンスターはどんどん湧いてくるし、そのうえゴライアスカップルはダメだろ。しかもなんか色違いだし。赤いのと黒いの。なんなの君たち」
オラリオ地下深くに広がるダンジョンの18階層。
比較的安全なことから『リヴィラの街』が築かれ、セーフティポイントと呼ばれる同階層。その中央付近、大森林の中にある下へと続く連絡通路は、地獄絵図であった。
まず、巨大蜂と燃え盛る鳥の大行進。デッドリー・ホーネットとファイアーバードが次々と通路から飛び出してきて、冒険者達と激戦を繰り広げている。まあ、それだけならまだ良かった。連携して対処すればなんとかなる程度だったが、問題は階層主ゴライアスの連続出現。それも通常の出現地点である上──17階層からではなく、下から。さらに色違いのやつが同時に二匹だ。
『オオオオオオオオオオオッ──────!』
『ウオオオオオオオオオオオッ──────!』
「ちょっと待とうか。おかしいだろやめろこっち来んな」
ハイルはLv.5。オラリオ有数にして数少ない第一級冒険者ではあるが、これはきつい。
何がきついって、純粋な攻撃力では倒しきれないほど硬いことだ。通常の法則から外れて産まれ落ちたモンスターは、能力が高いことが多い。いわゆる強化種である。
『オオッ!』
『──────────────!』
「ちょっとちょっとちょっと」
魔法で焼いても再生するし凄くきっつい。背中の後ろでは主にリヴィラの冒険者たちが熱戦を繰り広げている。だから一時退避もできない。ゆえに盾にならざるを得ないわけだが、ものの五分やそこらで
爆発四散。完全粉砕である。
巨人達の同時パンチだった。合体技とかやめろほんと。
「すみません誰か治療師の方はいませんかー!? 治療魔法くださいお願いです! このさい誰でもいいんでヒールしてヒール! フゲッ」
ゴライアス(赤)の手刀が背骨を砕いた! さらに片割れの平手打ちが正面からビタン! 実際にはドグシャッというムゴい音が鳴った。
ぼかんぼかんとあっちこっちにバウンドする人間の体。後方で戦っていた何人かが「死んだ」「死んだ……」と声を漏らした。
しかし、死んではいない。彼が第一級冒険者になることができたのは、というか今日まで生き残ることができたのは常識外れの硬さにある。
かつてチビだった頃、英雄の一撃(音で顔を破裂させるやつ)を受けて生きていた硬さは伊達じゃない。
いわく最強の盾。いわく超使える壁。そんな風に呼ばれている彼の二つ名は【壁】である。その二つ名に決定した日、主神のハトホルは泣いた。
「──ゴライアスが二匹。ふむ、尋常ではない事態のようだ」
「最強キタアアアアアアアッ!? おい早くなんとかしてやれ! このままだとあいつ、また達磨になるぞ!」
弱者を背負いながらの戦闘は過酷だ。
ボッコボコのボッキョボキョ。そんな擬音が聞こえてきそうなほど傷ついていると、悠然と大男が現れた。オラリオ最強の男、オッタルである。
人類で二人しかいないとされるLv.7の登場に、冒険者達は沸きに沸いた。ハイルは何も見えなかった。原因は眼球破裂である。しかし感覚──主に触覚を頼りに動ける──聴覚も死んでる──ので、ひたすら壁になり続けることはできた。
最後の方はもうヤケクソ。攻撃に向かって自ら飛び込む自爆マシーンと化し、なんかよくわからない呻き声をあげながら叩き潰されにいく。
「あのゴライアス……Lv.6相当か。なるほど、急所を避けているのは流石だな」
「分析したり感心してる場合か! 早く行ってやれって!」
「誰だお前は」
「……」
その後、ほどなくして地獄絵図は終了した。
神々で言うところの『えむぶいぴー』はオッタル。
壁として役目を果たした男は、リヴィラの冒険者達から拝み奉られた。搬送途中で。本人は何も見えていないし聞こえておらず、さっさと運んでくれと泣いていた。
▼
「戦闘恐怖症になりそうなので、しばらく演劇を見て心を休めてきます」
「ぶっ殺すぞテメー」
ゴライアス・カップルの大進撃があった日の半月後。最もズタボロというかグチャグチャになった男、ハイル・エールは遊びに行くことを決めた。
たまには息抜きも必要である。
なお、うっかり主神が誰だったか忘れてしまい、ガチギレされた。そのため主神は塩対応。出ていく際、無言で揚げ物を投げつけられた。
▼
ハイル・エール
Lv.5
力:C691耐久:SSS1599 器用:A877敏捷:SS1111 魔力:S999
狩人:H 変転:H 逃走:I 逆境改:I
『魔法』
【フレンドリー・ボルト】
・目に映る全てを焼き払う魔法。ポーション推奨。
・詠唱式は『共に溶けよ』。
・コメント『少しイタいけど許す』。
『スキル』
【
・人間をやめた硬さを得る。
・コメント『基本アビリティの数値を自由にいじいじできる。敏捷以外を耐久に突っ込むことを推奨。君の戦い方だとそうしないと死ぬから』。
【
・治療時の回復力を破壊力に変換。
・コメント『どちゃクソ強いけど使用は非推奨。頭がバカになる。そのうち完全なパッパラパーになる。その時は嘘を教えよう』
▼
「
少年ベル・クラネルは衝撃に頭を撃ち抜かれた。
最愛の祖父が死んでしまったのを契機に、夢だった英雄を目指すことにした数日後。迷宮都市オラリオに向かう馬車の中。凄いことを言っているのは、ベルと同じ白髪の男だった。
年齢は三つ年上の十七歳。
くすんだ黄金色の髪を後ろで束ねており、簡素な旅装に身を包んでいる。
「でも、嫉妬とかあるんじゃ……刺されたりしそうじゃないですか?」
「強い冒険者はそれくらいじゃ死なない。でも思い悩んで自殺とかされたら困るから、そこはちゃんとしないとダメだな」
何をどのように『ちゃんと』すると言うのだろうか。ベルはよくわからなかった。
「だからまあ、ハーレム目指すなら止められる人は誰もいないよ。堂々と目指せばいいんじゃない?」
「う、うーん……」
彼は「いけるいける」と適当なエールを送ってくる。
名前はハイル・エール。
オラリオの冒険者で、故郷への里帰りを終えて都市に戻る途中とのこと。強い冒険者だ。少なくともベルから見ればめちゃくちゃ強い。
数時間前、馬車が盗賊に襲われたのだが……数秒で八人分の
「まあ、そうは言っても強くならなきゃ始まらない。いくら優しくていい人でも守られてるうちは難しいよね。そういう対象にはなりにくいし」
「それは……そうですよね」
「とりあえずゴライアスくらいは焼き殺せるようになれば、キャーキャー言われるようにはなるよ。だからまずはそれを目標に頑張ろう」
「か、階層主を焼き殺す……できるかなぁ?」
無理だろと思いつつも、女子からキャーキャー言われるのは魅力的だ。頑張る理由には十分。
「後は、モンスター百匹くらいを虐殺できるレベルの化け物を……倒せなくても拮抗できるといいな。そうすればエルフのお姉さんがおっぱいを揉ませてくれるかも」
「エルフ……!」
絶対無理だと思ったが、ベルはエルフが好きだった。世間にはそういうご褒美がある。自分には無理だとわかっていても、その事実はモチベーションであった。
「それから、無我夢中で戦ってたらそれだけで好感度が上がってた、ってこともあるよ。たとえば三週間連続で体のどこかしらが欠損したり」
「ゴクッ……そ、そんな過酷なこともあるんですね」
「そりゃまあ冒険者だからなぁ。特に僕みたいな壁性能に特化してる人は、必然的にあっちこっち持ってかれるよ」
ベルは息を飲んだが、彼にとっては大怪我は日常茶飯事らしい。
Lv.5、ハイル・エール。
彼はとにかく『硬い』らしく、最大の特徴はアホみたいな耐久性能。同じLv.帯の誰よりも硬いのが自慢とのことで、それは体も精神もどちらもだ。
身体中の血管を焼かれても根性で動き続けることができる……らしい。できたことが自慢のひとつということだが、ベルには理解不能である。
二つ名は【壁】。あんまり格好よくない二つ名だが、失礼なので口に出すのはやめておいた。
「この前はウダイオスっていうモンスターに串刺しにされてね……ああ、【ロキ・ファミリア】の子が血迷って単独で突撃したんだ。その子を庇った訳じゃないよ。周りにいた冒険者が巻き添えくらいかけたから、そっちを助けようとしたら左腕丸ごと。あと肺もブシャッて」
「ウワッ……」
「でも大丈夫。死ななきゃ聖女様が治してくれるし、魔法だけで無理なら作ってくれるからね。心臓が動いてる状態で地上に戻ればアミッドさんがいるから。ほんと今はいい時代だよ。命以外は治してくれるってわかってればガンガンいけるし」
話に聞いただけでも聖女様はしゅごいが、だからって活き活きと滅茶苦茶するのはどうなのか。
「あと、これは最近わかったことなんだけど、ガードの硬い人は曇らせるのが有効」
「ど、どういうことですか……」
「あー、でもベル君にはおすすめはできないかな。君は王道をいきなさい。とりあえずガンバ。死ぬ気でやれば金髪美人と金髪エルフくらいは両思いになれるかもよ? ほら、オラリオにはなんでもあるから」
「……ゴクッ」
いつの間にかオラリオが近付いてきたが、ベルはもう少し話を聞いてみたいと思った。
英雄になれば金髪美人と金髪エルフ。どちらとも両思いになってあんなことやこんなこと……なんて贅沢な話なんだろうか。純粋な少年はぶっ飛んでいる先達の話を真面目に聞いて、ハーレムっていいなと思った。