転生したら奈良シカマルの双子の兄でした   作:ZAZAI

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第四十七話 知っている未来

 

遠くで、もう一度何かが弾けた。

 

先ほどより小さい。それでも、静かな森の中では十分すぎるほど異質な音だった。

 

スズが立ったまま耳を澄ませている。

 

「さっきより遠い……ううん、場所が少し動いてる」

 

「戦いながら移動してるってことか?」

 

レンの問いに、スズはすぐには答えなかった。

 

「多分。でも、ここからじゃ人数までは分からない」

 

カゲマルは地図を開いた。

 

現在地は中央の塔から見て南東寄り。先ほど草隠れの三人を見た場所から、かなり移動している。

 

あの三人が向かった先と、今の音がした方角。

 

おおよそ重なる。

 

偶然かもしれない。

 

けれど、そう考えるには知っていることが多すぎた。

 

大蛇丸。

 

第七班。

 

サスケ。

 

呪印。

 

頭の中で名前が繋がっていく。

 

「カゲマル」

 

レンの声で顔を上げた。

 

「さっき言ってた奴らと関係あると思ってる?」

 

隠しても仕方がない。

 

「……多分」

 

「多分?」

 

「確証はない。でも、あの草隠れの一人は危ないと思う」

 

スズがこちらを見る。

 

「どのくらい?」

 

答えに迷った。

 

自分たち三人で戦える相手ではない。

 

それは間違いない。

 

だが、どう説明する。

 

「もし俺の予想が合ってるなら、絶対に戦っちゃ駄目な相手」

 

レンの表情が変わった。

 

「そこまで?」

 

「うん」

 

「じゃあ行かない方がいい」

 

スズが即答した。

 

カゲマルは彼女を見る。

 

「相手が誰かも、戦ってるのが誰かも分からない。私たちの目的は天の書を取って三人で塔に行くこと。今の情報だけなら近づく理由がない」

 

正しい。

 

何一つ間違っていない。

 

だからこそ、カゲマルはすぐに頷けなかった。

 

スズはそれを見逃さない。

 

「でも、カゲマルは行きたいんだね」

 

「……行きたい、というより」

 

言葉を探す。

 

「確認したい」

 

「何を?」

 

レンが聞く。

 

カゲマルは地図へ視線を落とした。

 

第七班が襲われているかもしれない。

 

そんなことを言えば、当然理由を聞かれる。

 

未来を知っているとは言えない。

 

なら、今ある情報だけで話すしかない。

 

「さっきの草隠れ、俺たちには気づいてなかった」

 

「多分ね」

 

「なのに、かなり速いペースで森の奥へ向かってた。巻物を探してる感じもしなかった」

 

スズが少し考える。

 

「誰かを探してた?」

 

「その可能性があると思う」

 

「それが今の戦闘?」

 

「分からない」

 

カゲマルはそこで言葉を切った。

 

「分からないから、見たい」

 

スズの眉が僅かに寄る。

 

レンは黙っていた。

 

しばらくして、レンが口を開く。

 

「じゃあ見に行こう」

 

「レン」

 

「戦いに行くんじゃない。見るだけだろ?」

 

「相手に見つかったら?」

 

スズが聞く。

 

「逃げる」

 

「逃げられなかったら?」

 

「……頑張って逃げる」

 

「何も考えてないじゃん」

 

「考えた結果だよ!」

 

思わずカゲマルが笑いそうになる。

 

こんな状況なのに、二人はいつも通りだった。

 

スズは小さく息を吐いた。

 

「私は反対」

 

レンが口を閉じる。

 

「でも」

 

スズは続けた。

 

「カゲマルが何か隠してるのは分かる」

 

心臓が一度強く鳴った。

 

スズは責めるような口調ではなかった。

 

「話せないことがあるなら、それはいい。でも判断に必要なことまで黙られるのは困る」

 

波の国へ行く前の自分なら、全部一人で決めていたかもしれない。

 

知っているのは自分だから。

 

危険を分かっているのも自分だから。

 

だから自分が考えればいい、と。

 

カゲマルは地図を畳んだ。

 

「……ごめん」

 

二人を見る。

 

「戦ってるのが第七班の可能性があると思ってる」

 

レンの目が見開かれた。

 

「ナルトたち?」

 

「可能性だけ。確証はない」

 

「なんで?」

 

「それは……今は説明できない」

 

レンは何か言いかけたが、スズが先に口を開いた。

 

「第七班だったら助けに行く?」

 

カゲマルは答えられなかった。

 

助けたい。

 

当然だ。

 

ナルトもサスケもサクラも友人だ。

 

けれど、大蛇丸が相手なら自分たちが加わったところで戦力にはならない。むしろ標的を増やすだけかもしれない。

 

それに、レンとスズを巻き込む権利はない。

 

「相手を見て決める」

 

ようやく出した答えだった。

 

「俺たちじゃ無理なら逃げる。第七班が危なくても、三人だけで突っ込まない」

 

レンがじっとカゲマルを見る。

 

「本当に?」

 

「……本当に」

 

「間があった」

 

「そこは見逃して」

 

スズが小さく息を吐いた。

 

「じゃあ条件を決めよう」

 

「条件?」

 

「確認するだけ。巻物探しは中断。近づきすぎない。相手に見つかったら逃げる。誰かが危険だと思ったら三人とも下がる」

 

レンが頷く。

 

「分かった」

 

カゲマルも頷いた。

 

「うん」

 

「あと」

 

スズがカゲマルを見る。

 

「勝手に一人で飛び出さない」

 

一番言われたくないところを突かれた。

 

「……分かった」

 

「今度は間が長い」

 

レンが笑う。

 

「うるさい」

 

三人は戦闘音のした方角へ動き始めた。

 

⸻

 

少し前。

 

第七班は、すでに異常の中にいた。

 

巨大な蛇。

 

突然現れた草隠れの忍。

 

そして、肌を刺すような殺気。

 

サクラは動けなかった。

 

身体が命令を聞かない。

 

目の前にいる相手と戦えば死ぬ。

 

理屈ではなく、身体がそう理解していた。

 

ナルトも、サスケも同じだった。

 

草隠れの忍が笑う。

 

その姿をした何かが。

 

サスケは震える手をクナイへ伸ばし、自分の脚へ突き立てた。

 

痛みで恐怖を押し流す。

 

呼吸を戻す。

 

「サクラ」

 

声はまだ硬い。

 

「動けるか」

 

「……う、うん」

 

完全には戻っていない。

 

それでもサクラは頷いた。

 

草隠れの忍が舌を這わせる。

 

「いい目ね」

 

サスケの表情が強張る。

 

敵の目的が巻物だけではない。

 

直感で分かった。

 

地の書を差し出せば終わる。

 

そんな相手ではない。

 

その時、横からナルトが飛び込んだ。

 

「何ビビってんだ、サスケ!」

 

「ナルト!?」

 

ナルトの拳を、草隠れの忍は容易くかわす。

 

それでもナルトは止まらない。

 

影分身が森へ広がった。

 

「俺たちのサスケはなぁ!」

 

分身が一斉に飛びかかる。

 

「こんな腰抜けじゃねぇってばよ!」

 

サスケの目が見開かれた。

 

次の瞬間、巨大な蛇の尾がナルトを弾き飛ばす。

 

木々が砕ける。

 

サクラの悲鳴。

 

「ナルト!」

 

それでもナルトは立ち上がる。

 

草隠れの忍の目が僅かに細くなった。

 

九尾。

 

腹部の封印。

 

そして、そこへ手を伸ばす。

 

「五行封印」

 

ナルトの身体から力が抜けた。

 

そのまま地面へ落ちていく。

 

「ナルト!」

 

サクラが駆ける。

 

サスケは敵から目を逸らさない。

 

怖い。

 

それでも、もう身体は動いた。

 

手裏剣。

 

ワイヤー。

 

火遁。

 

森の中を利用して距離を取り、攻撃を繋げる。

 

草隠れの忍が初めて少し楽しそうに笑った。

 

⸻

 

第十一班は速度を落としていた。

 

近づくにつれ、森の様子がおかしくなる。

 

折れた枝。

 

削れた幹。

 

地面に残る大きな跡。

 

レンがしゃがみ込む。

 

「これ……人間の戦いか?」

 

木の幹が大きく抉れている。

 

カゲマルは答えなかった。

 

スズが前方へ耳を向ける。

 

「止まって」

 

三人が止まる。

 

遠くから何かが聞こえる。

 

爆発。

 

続いて、木が倒れる音。

 

「近い」

 

スズの声が低くなる。

 

カゲマルの口の中が乾いた。

 

この先だ。

 

おそらく。

 

「上から行こう」

 

地上より見つかりにくいとは限らないが、周囲を確認しやすい。

 

三人は木へ上がった。

 

枝から枝へ。

 

音を立てないよう速度を落とす。

 

やがてスズが拳を上げた。

 

停止。

 

「……いる」

 

小声だった。

 

「何人?」

 

「三人……いや、四人?」

 

少し間を置く。

 

「分からない。動きが速い」

 

カゲマルは太い幹の陰から先を見る。

 

まだ姿は見えない。

 

だが、チャクラの気配まではっきり感じられる距離だった。

 

ぞくりとした。

 

波の国で再不斬と向き合った時とも違う。

 

もっと嫌なもの。

 

敵意だけではない。

 

何を考えているのか分からない生き物が近くにいるような感覚。

 

「カゲマル」

 

レンの声。

 

カゲマルは無意識に前へ出ていたらしい。

 

足を止める。

 

「ごめん」

 

三人で近くの枝へ移る。

 

そこから、ようやく見えた。

 

サクラ。

 

気を失ったナルトを守るようにしている。

 

少し離れた場所にはサスケ。

 

そして――草隠れ。

 

カゲマルの呼吸が止まりかけた。

 

さっき見た忍だ。

 

長い黒髪。

 

笠はもうない。

 

顔つきも、雰囲気も違って見える。

 

だが間違いない。

 

「第七班……」

 

レンが小さく呟く。

 

スズの顔も強張った。

 

「相手、さっきの人だよね」

 

「うん」

 

「助ける?」

 

レンが聞いた。

 

カゲマルは即答できなかった。

 

目の前ではサスケが戦っている。

 

動きは速い。

 

アカデミーを卒業したばかりの下忍とは思えないほど。

 

それでも届かない。

 

相手には余裕がある。

 

遊ばれている。

 

その差が、ここから見ても分かった。

 

「……無理だ」

 

カゲマルは言った。

 

口にすると苦しかった。

 

「俺たちが入っても勝てない」

 

レンが拳を握る。

 

「でもナルト倒れてるぞ」

 

「分かってる」

 

「サスケも――」

 

「分かってる!」

 

思ったより強い声が出た。

 

レンが黙る。

 

カゲマルはすぐに声を落とした。

 

「ごめん」

 

スズは戦場を見たままだった。

 

「あの人、サスケを殺そうとしてない」

 

カゲマルが見る。

 

「どうして?」

 

「分からない。でも、本当に殺すつもりなら、とっくに終わってると思う」

 

その通りだった。

 

大蛇丸の目的はサスケ。

 

殺すことではない。

 

分かっていた。

 

分かっているのに、胸の奥が冷える。

 

このあと何が起こるのかも。

 

サスケが火遁を放つ。

 

炎が森を照らす。

 

草隠れの忍の顔が崩れ、その下から別の顔が覗く。

 

レンが息を呑んだ。

 

「なんだ、あれ……」

 

スズも言葉を失っている。

 

大蛇丸。

 

カゲマルは名前を飲み込んだ。

 

まだ口に出せない。

 

そして大蛇丸の首が伸びた。

 

異様な速度。

 

サスケへ。

 

「っ!」

 

カゲマルの身体が動いた。

 

一歩。

 

その腕をレンが掴む。

 

「カゲマル!」

 

我に返る。

 

間に合わない。

 

そもそも届かない。

 

大蛇丸の牙がサスケの首筋へ食い込んだ。

 

サスケの叫びが森に響いた。

 

「サスケ!」

 

サクラが駆け寄る。

 

カゲマルは拳を握り締めた。

 

知っていた。

 

こうなることを。

 

知っていたのに。

 

何もできなかった。

 

大蛇丸は苦しむサスケを見下ろし、何かを告げている。

 

その声までは聞こえない。

 

やがて森の奥へ消えていった。

 

スズがすぐに耳を澄ませる。

 

「待って」

 

誰も動かない。

 

十秒。

 

二十秒。

 

「……離れていく」

 

「本当に?」

 

レンが聞く。

 

「多分」

 

「多分じゃ――」

 

「レン」

 

カゲマルが止めた。

 

今はスズを急かしても仕方ない。

 

さらに待つ。

 

スズが目を開ける。

 

「もうかなり遠い。少なくとも、こっちには来てない」

 

その言葉で、三人は同時に動いた。

 

⸻

 

「サクラ!」

 

木々の間から声がして、サクラがクナイを構えた。

 

「誰!?」

 

「俺!」

 

カゲマルが姿を見せる。

 

続いてレンとスズ。

 

サクラの表情が一瞬緩んだ。

 

「カゲマル……!」

 

すぐにサスケのもとへ駆ける。

 

サスケは意識を失っていた。

 

首筋。

 

そこに黒い痕がある。

 

三つの勾玉のような印。

 

知っている。

 

呪印。

 

実物を見た瞬間、腹の底が重くなった。

 

「サスケは!?」

 

レンがしゃがむ。

 

「分からない! あいつに噛まれて、それから急に……!」

 

サクラの声が震えている。

 

「ナルトも!」

 

スズがすでにナルトのそばへ行っていた。

 

呼吸を確認する。

 

「息はしてる」

 

「サスケも」

 

カゲマルは脈を取った。

 

ある。

 

速い。

 

熱も高い。

 

「生きてる」

 

サクラがその場へ座り込みそうになる。

 

だが、すぐに踏ん張った。

 

「あいつ……何なの?」

 

答えられない。

 

少なくとも、今は。

 

「分からない」

 

嘘をついた。

 

胸が痛んだ。

 

レンが周囲を見る。

 

「ここにいたら危ない。移動しよう」

 

「駄目」

 

サクラがすぐに返す。

 

「二人とも動かしていい状態か分からない」

 

スズも頷いた。

 

「ナルトも意識が戻らない。無理に運ぶ方が危ないかも」

 

カゲマルは周囲を見る。

 

戦闘の痕跡。

 

ここは目立つ。

 

しかし、意識のない二人を抱えて移動するのも危険だ。

 

「少し離れた場所に隠れられるところを探そう。遠くには行かない」

 

レンが頷く。

 

「俺が見る」

 

「一人で行かないで」

 

「分かってる」

 

スズとレンが周囲を確認しに行く。

 

カゲマルはサスケのそばに残った。

 

サクラがナルトの額の汗を拭いている。

 

その横顔は疲れていた。

 

「……ごめん」

 

気づけば言葉が出ていた。

 

サクラが振り返る。

 

「何が?」

 

カゲマルは答えられない。

 

知っていた。

 

大蛇丸が来ることも。

 

サスケが狙われることも。

 

それでも何もできなかった。

 

「もっと早く来られたらって」

 

結局、そう言った。

 

サクラは少しだけ目を伏せる。

 

「それ、カゲマルが謝ることじゃないでしょ」

 

「でも」

 

「私たちの試験なんだから」

 

思っていなかった言葉だった。

 

サクラはナルトを見る。

 

「怖かったけど……サスケ君もナルトも戦った。私も何もできなかったけど、二人を守らなきゃって思った」

 

何もできなかった。

 

そんなことはない。

 

サクラは今も二人のそばにいる。

 

逃げずに。

 

「サクラは残ったじゃん」

 

「え?」

 

「それもちゃんと戦ってると思う」

 

サクラは少し驚いた顔をしたあと、弱く笑った。

 

「……ありがと」

 

カゲマルはサスケへ視線を戻す。

 

自分にも同じことが言えるだろうか。

 

分からない。

 

ただ、あの場で飛び出していれば何かが変わった、とは思えなかった。

 

むしろレンとスズまで傷ついていた可能性の方が高い。

 

正しい判断だった。

 

頭では分かる。

 

それでも、納得できるかは別だった。

 

「カゲマル」

 

戻ってきたレンの声に顔を上げる。

 

「少し先にでかい木がある。根元に隠れられそうな空洞があるって」

 

後ろからスズも来る。

 

「周囲に人の音はない。今なら動けると思う」

 

「分かった」

 

カゲマルは立ち上がった。

 

「サスケは俺とレンで運ぼう。スズはナルトを――」

 

言いかけて止まる。

 

また自分だけで決めている。

 

「……どうする?」

 

レンが一瞬きょとんとした。

 

スズが先に答えた。

 

「私が先に行く。道と周囲を確認する」

 

「じゃあ俺がサスケ」

 

レンが言う。

 

「カゲマルはナルト頼む。こいつの方が重そうだし」

 

「なんで俺?」

 

「影で鍛えてそうだから」

 

「影で筋力はつかないよ」

 

「細かいな」

 

サクラが小さく笑った。

 

ほんの少しだけ、空気が軽くなる。

 

「じゃあ私が荷物持つ」

 

「お願い」

 

四人で動き始めた。

 

⸻

 

巨大な木の根元にできた空洞は、三人を寝かせてもまだ余裕があった。

 

ナルトとサスケを奥へ寝かせ、サクラが二人のそばにつく。

 

レンは入口近くで外を見張り、スズは少し離れた場所まで音を拾っている。

 

カゲマルは入口に座った。

 

外はすっかり暗くなっていた。

 

「なあ」

 

レンが小声で言う。

 

「俺たち、このままここにいるの?」

 

答えに詰まる。

 

第十一班には地の書しかない。

 

第二試験を突破するには天の書を探さなければならない。

 

ここで第七班を守り続ければ、自分たちの試験は進まない。

 

だが意識のないナルトとサスケを置いていくのも――。

 

「ずっとは無理」

 

答えたのはスズだった。

 

「私たちには私たちの試験がある」

 

レンが見る。

 

「でもこいつら、この状態だぞ」

 

「分かってる」

 

スズの声は静かだった。

 

「だから今すぐ置いていこうとは言ってない。でも、いつまでも一緒にはいられない」

 

正しい。

 

まただ。

 

スズは正しい。

 

カゲマルは膝を立て、その上に腕を置いた。

 

「朝まで」

 

二人がこちらを見る。

 

「今夜は残ろう。二人の状態を見る。朝になってナルトかサスケが動けるようになれば、第七班は第七班で続けられる」

 

「戻らなかったら?」

 

レンが聞く。

 

「その時また三人で決める」

 

レンは少し考え、頷いた。

 

スズも反対しなかった。

 

「分かった」

 

話は決まった。

 

その時。

 

スズの顔が変わった。

 

「待って」

 

全員が黙る。

 

スズは空洞の外へ顔を向ける。

 

「誰か来る」

 

レンが立つ。

 

「何人?」

 

「三人」

 

カゲマルの身体に力が入る。

 

大蛇丸ではない。

 

三人。

 

このタイミング。

 

嫌な記憶が蘇る。

 

音隠れ。

 

ドス。

 

ザク。

 

キン。

 

サクラがクナイを握った。

 

「敵?」

 

「分からない。でも真っ直ぐこっちに来てる」

 

スズが答える。

 

そして僅かに眉を寄せた。

 

「……この音」

 

「どうした?」

 

「前にも聞いた」

 

カゲマルが彼女を見る。

 

スズの表情は硬い。

 

「第一試験の前。薬師カブトが襲われた時」

 

空気が変わった。

 

スズは森の闇を見つめている。

 

「殴ってないのに、眼鏡が割れた時の――」

 

遠くで、金属が微かに震えるような音がした。

 

スズの目が細くなる。

 

「やっぱり」

 

レンがクナイを抜く。

 

「知ってる奴らか?」

 

「顔はまだ見えない。でも、多分」

 

カゲマルも立ち上がった。

 

来る。

 

この流れも知っている。

 

原作なら、ここからサクラが一人で二人を守り、リーが現れ、やがて第十班も戦いに加わる。

 

けれど今は違う。

 

ここには第十一班がいる。

 

自分たちがいることで、すでに状況は変わっている。

 

なら、もう記憶通りになるとは考えない方がいい。

 

「スズ」

 

「うん」

 

「位置をお願い」

 

「分かった」

 

「レン」

 

「前だろ?」

 

「そう」

 

レンが笑う。

 

「任せろ」

 

カゲマルは影を見た。

 

普通の影。

 

今はそれでいい。

 

制御できない力を当てにするつもりはない。

 

使うのは、自分が使えるものだけ。

 

空洞の奥では、ナルトとサスケがまだ眠っている。

 

サクラが二人を守るように前へ出た。

 

カゲマルは彼女の隣へ立つ。

 

「サクラ」

 

「何?」

 

「ここは一緒に守ろう」

 

サクラは一瞬だけ驚き、すぐに頷いた。

 

「うん」

 

森の暗がり。

 

木々の向こうから三つの気配が近づいてくる。

 

その中に混じる、微かな音。

 

スズだけが、それを誰より早く捉えていた。

 

第一試験では分からなかった。

 

何が起きたのか。

 

どうやって人を傷つけたのか。

 

今度は目の前で見ることになる。

 

音は、ただ聞くためだけのものではない。

 

その事実を水無瀬スズが知るまで、あと僅かだった。

 

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