Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

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第10話

琥珀色の惑星の台地に、幾つもの無機質な鉄の家が立ち並び、人類の新たな集落――『開拓都市』が最低限の生活サイクルを回し始めた頃。

 

元・英霊たちの手によって星の開拓は進み、物語はついに、藤丸やマシュ、カルデアスタッフを目覚めさせる局面を迎える。

 

地球での輝かしい日常の象徴だった彼らを迎え、安心して暮らせる都市を築くこと。それこそが、元・英霊たちがこの未知の惑星で生きていくための、切なる希望だった。

 

ダ・ヴィンチたちが文字通り不眠不休で完成させた、鉄壁のセキュリティを誇る保存機(セーフティ・コア)が、静かに、しかし力強い駆動音を響かせていた。

 

「――全ライン、結合完了。疑似霊子変換ルーチン、出力正常。……よし、これより、データ休眠最深部の大規模サルベージ(覚醒)を執行するよ」

 

コンソールに指を走らせるダ・ヴィンチのセリフとともに、何十基ものカプセルが一斉に駆動音を上げた。プシュー、と白い排気が溢れ出し、データからこの惑星の『未知のエネルギー』によって実体化された人々が、ゆっくりと目覚めていく。

 

「……ん、……はぁ」

 

真っ先にカプセルのハッチを押し開けて上体を起こしたのは、人類最後のマスター――藤丸立香であった。

 

続いて、隣のカプセルから、桃色の髪の少女マシュ・キリエライトが、戸惑うように自らの両手を見つめながら身体を起こす。

 

「……先輩? ここは、カルデアの管制室……でしょうか。なんだか、少し様子が……」

 

「マシュ……。ああ、うん。なんだか身体が、すごく軽いっていうか……」

 

藤丸はベッドから床へ足をつき、立ち上がった。

人工皮膚で完璧に覆われているため、彼らはまだ、自分の身体が「テスラたちの設計したサイボーグの義体」に置き換わっていることには気づいていない。

 

戦闘用の機能を一切持たない、人間の平均的な肉体を100%そのまま模しただけの、ただの脆き器。

 

しかし、彼らが纏うお馴染みのカルデアの衣装には、どこか近未来的なサイバー風のアレンジが施され、その繊維の隙間を、この惑星の超鉱物エネルギーを示す琥珀色の光条が静かに明滅していた。

 

「あ、藤丸君! マシュ! よかった、二人ともちゃんとバイタルが安定しているね!」

 

モニター越しに、少し煤まみれだが嬉しそうなダ・ヴィンチの顔が映る。

 

カプセルからは、次々とカルデアのオペレーターや技術スタッフたちも目を覚まし、互いの無事を確認し合って安堵の声を上げていた。

 

彼らにとって、この目覚めは「ソロモンを倒し、人理修復を成し遂げた直後」のほんの数分後の感覚なのだ。肉体の疲労は完全に消え去り、達成感と喜びだけが、その胸に満ち満ちていた。

 

「終わったんだね、マシュ。本当に、長かった旅が……」

 

「はい、先輩。人理は修復されました。」

 

マシュはホッとしたように微笑み、藤丸の手をグッと握りしめた。

周囲の職員たちもまた、「これで家に帰れる!」「家族の顔が見たい!」と、口々に希望に満ちた声を弾ませ、喜びを爆発させている。誰もが自分たちの掴み取った『未来』を疑っていなかった。

 

無理もない。彼らの脳内データ――その『記憶』は、惑星着陸時の凄絶な衝撃によるものか、あるいはシステムのエラーによるものか、過酷な現実をすべて忘却していた。 

 

異星人の艦隊によって地球が物理的に破壊されたことも。自分たちがデータとなって方舟で宇宙を放浪していたことも。

 

目覚めた藤丸たち人間の頭からは、そのすべての凄惨な記録が綺麗に消失していたのだ。 彼らにとって、この目覚めは冠位時間神殿ソロモンでゲーティアを倒し、大勝利を収めて帰還した、まさにその直後の連続した時間。

 

ただひたすらに「自分たちの家に、ようやく帰ることができる」という、希望に満ちた絶頂の段階のまま、彼らの時間は凍りついていた。 

 

現れたのは、腕を組み、冷徹な眼光を放つギルガメッシュ王。その隣には、どこか痛ましそうな表情を浮かべたノアと、胃を押さえて沈黙するエルメロイⅡ世の姿があった。

 

「お目覚めか、カルデアの遺児たちよ」

 

ギルガメッシュの、いつになく低く響く声。

喜びと希望に満ち溢れていた目覚めの空間に、冷たい、不穏な影がゆっくりと差し込んでいく。

 

藤丸は王のその瞳を見た瞬間、人理修復を成し遂げたはずの胸の奥が、何故か不吉な予感で冷たく凍りつくのを感じるのだった。

 

「……ギルガメッシュ王? それにエルメロイⅡ世も。どうしたんですか、そんなに険しい顔をして」

 

藤丸立香の戸惑うような問いかけに、室内の喧騒がふっと静まり返る。

 

人理修復の歓喜に沸いていたカルデア職員たちの視線が、中央の王座の前に立つ黄金の王へと集まった。誰もが「これで実家へ帰る手続きが始まるのだ」と信じて疑っていなかった。

 

だが、ギルガメッシュは一歩前へ踏み出すと、一切の加減を排し、その傲然たる声を冷酷に響かせた。

 

「腑抜けた顔をするな、貴様ら...。喜ぶのは勝手だが、現実を見誤るなよ。――お前たちが帰るべき『(地球)』は、もうどこにも存在せぬ」

 

「……え?」

 

藤丸の思考が一瞬、白く弾けた。

隣に立つマシュも、何を言われたのか理解できないように小首を傾げる。

 

「な、何を言っているんだい君は! 冗談はよし給え!」

 

「そうだ、人理は修復されたはずだ! 計器だって正常値を――」

 

「計器が映しているのはこの星のデータだッ!」

 

掴みかからんばかりに叫んだ職員の声を、エルメロイⅡ世の鋭い一喝が遮った。エルメロイⅡ世は苦渋に満ちた表情で、落とされた視線を藤丸たちへと向ける。

 

「事実だ、みんな。……人理修復が完了した直後、我々の観測を遥かに超えた外宇宙の超巨大艦隊が地球を強襲した。……地球は、物理的に粉砕された。粉々に砕け散り、質量そのものが消滅したんだ。我々はギルガメッシュ王の機転で、君たちのデータをノアの方舟にコピペし、間一髪で脱出した。……ここは地球ではない。名もなき未知の惑星だ」

 

その瞬間、管制室は、ほんの数秒前までの絶頂から『地獄の底』へと叩き落とされた。

 

「嘘だ……嘘だッ!!」

 

「何のために、ロマニは死んだんだ!?」

 

「私たちは何のために命を懸けて戦ってきたんだよぉぉぉっ!!」

 

狂ったように頭を抱えて叫ぶオペレーター。コンソールにすがりついて現実を拒絶し、声を上げて咽び泣く技術スタッフ。

 

戦う力を持たない、ただの「普通の人間」だからこその生々しい悲鳴と絶望が、完成したばかりの美しい居住区を凍りつかせていく。

 

藤丸は、ただ立ち尽くしていた。

耳の奥で、職員たちの泣き叫ぶ声が遠く、歪んで聞こえる。

 

ふと、自分の右腕に目を落とした。サイバー風の衣装の袖をめくると、そこには人工皮膚の隙間から、鈍く輝く金属の骨格と、琥珀色の鉱物エネルギーのラインが確かに明滅していた。

 

(身体が……機械になってる……?)

 

自分が人間ですらなくなってしまった事実。そして、守り抜いたはずの地球がもう存在しないという、あまりにも理不尽なタイムラグ。

 

魔術が使えない。令呪がない。守られるべき一般人でしかない自分に、この絶望を背負いきれるはずがなかった。マシュもまた、冷たくなった藤丸の機械の手を握りしめ、震えながら涙を流している。

 

「――騒ぐな、雑種ども。いつまで泣いて過ごすつもりだ。貴様らを起こしたのは、まだ使い道があるからだ。......藤丸、手の甲を見よ。」

 

その絶望の泣き声を切り裂いたのは、やはりギルガメッシュ王の傲然たる一言だった。

 

自分は無力だ。機械になっても何も変わらない、守られるべき普通の人間だ。

 

けれど――自分の右腕には、テスラたちが組み込んだ、この鋼の英雄たちのリミッターを解除する『擬似令呪(システムブースト)』が刻まれている。

 

「どうして...君たちはもう英霊召喚システムから解放されて自由の身だ。マスターはもう必要ないんじゃないか?」

 

「いいや。尖った個性を持ち、再び強大な力を持った我らを制御できるのは、人類の光の側面を集結させたような精神性を持つ人間、すなわち藤丸、お前しかいないのだ。」

 

「……ギルガメッシュ王。」

 

「これは皆で決めたことだ。」

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