Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

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第11話

「……よし。王の言葉の通り、泣き喚く時間はここまでだ、お前たち」

 

ギルガメッシュ王の圧倒的な号令によって、管制室の喧騒が引き締められたその瞬間、エルメロイⅡ世が咥えた葉巻の紫煙を深く吐き出しながら前へと進み出た。

 

彼の合図とともに、ダ・ヴィンチがまだ骨組みだらけのコンソールを叩き、中央モニターに琥珀色の惑星の「内部構造」を示す複雑なホログラムを展開する。

 

「藤丸、マシュ、そしてスタッフ諸君。君たちが休眠データの中で眠っていた間、我々インフラ班はこの星を満たす『超鉱物エネルギー』の深層ラインへの解析を続けていた。……そして、ついに掴んだよ。我々が今、足をつけているこの未知の天体の『記憶』と、その正体をね」

 

エルメロイⅡ世の鋭い眼光が、目覚めたばかりのカルデア職員たちを順に見据える。その理知的な声音は、どこか神話の深淵を暴くような重々しさを孕んでいた。

 

「ダ・ヴィンチたち技術者の解析によれば、この惑星にはかつて、我々地球人と非常によく似た『高度な知的生命体』が存在していた。だが……彼らはすでに遠い過去、環境の激変か、あるいは何らかの災厄によって完全に滅び去っている。つまり、この星には長らく、生命の営みが一切途絶えていたんだ」

 

「知的生命体が……誰もいない星……?」

 

マシュが不思議そうに呟く。藤丸もまた、エルメロイⅡ世の言葉の先を促すようにモニターを見つめた。

 

「地球の魔術世界を知る者なら、これがどれほど異常な事態か分かるはずだ。知的生命体――すなわち『星の観測者』を完全に失った惑星は、宇宙的な意味での『死の星』、すなわちルールを持たない虚無の天体へと変貌していく。この星の意志……天体の魂は、ただ静かに朽ち果てていく己の運命に、絶望していた」

 

エルメロイⅡ世はそこで言葉を区切り、床に落とされた葉巻の灰を微かにつま先で払った。

 

「だからこそ、この星の意志は、最後の力を振り絞って外宇宙の闇へと向けてシグナルを放ち続けたのだ。……そう、ノアの方舟が宇宙での放浪の末に受信した『SOSシグナル』だ。」

 

「……待って。SOSって、そういう意味だったの?」

 

中央でホログラムを揺らすU-オルガマリーが息を呑む。

 

「その通りだ、大統領。この星が孤独な暗闇から叫んでいたSOSの真意は、『誰かここへ来て、私をもう一度愛し、観測して(生かして)くれ』という、天体そのものの切実な悲鳴だったんだ。自分という庭を愛し、耕してくれる、新しい『家族』を、この星は求め続けていたんだよ」

 

スピーカーから静かに流れる、あの物悲しい高周波のノイズ。

それが単なる救援要請ではなく、誰もいない無人の世界で、孤独に耐えかねて震えていた天体そのものの声であったことを知り、管制室の職員たちは静かに息を呑んだ。

 

自分たちが地球を失って泣いていたのと同じように、この星もまた、孤独の中で泣いていたのだ。

 

「そして――その悲鳴は、遥か数万光年の彼方で滅びを迎えようとしていた、もう一つの『星の耳』へと届くことになる」

 

エルメロイⅡ世の言葉とともに、モニターのホログラムが、あの眩い光となって消え去った青き故郷――『地球』の映像へと切り替わっていくのだった。

 

地球の意思(ガイア)はね、最初からすべてを理解していたんだよ」

 

モニターに映し出された、かつての青き母星の姿。それを見つめながら、エルメロイⅡ世は凍てつくような理知の中に、どこか優しい響きを混ぜて言葉を続けた。

 

「あの外宇宙の超巨大艦隊が襲来した時、地球は自らがもう助からないことを悟った。だが、自分を破壊しにきた冷酷な侵略者どもに、我が子である『人類』がただ虐殺されて終わることだけは、ガイアのプライドが、その親心が絶対に許さなかった。だからこそ星は死の間際、外宇宙から届いていたこの琥珀色の惑星のSOSをキャッチしたんだ」

 

エルメロイⅡ世はコンソールを叩き、因果律のシミュレーションを展開する。

 

「『人類の全データを方舟に載せて強制転送し、自らは敵を道連れに爆発する』――。ギルガメッシュ王の千里眼が捉えた『確定した未来の空白』とは、外宇宙の敵がもたらす絶望ではない。地球自身が我が子を逃がすために命を懸けて仕組んだ、最後の一世一代の緊急離脱システムだったわけさ」

 

「地球が……私たちを逃がすために、自爆を……」

 

藤丸の胸の奥に、言葉にならない熱い塊が込み上げる。マシュもまた、胸元を強く握りしめ、消え去った母星の深い愛に涙を流した。

 

「そして大統領、君の疑問に対する答えもここにある」

 

エルメロイⅡ世はホログラムのオルガマリーを見上げた。

 

「この星のバリアが敵のビームを完全に弾いたのは、奴らが天体をただの資源として消費し、破壊し尽くす害獣だからだ。星の意志が『破壊者は中に入れない』と激怒してバリアを張っている。……だが、我々だけはバリアを通り抜け、魔術を失ってもこうして現界していられる。なぜか?」

 

エルメロイⅡ世はフッと微笑み、断言した。

 

「地球のガイアから正式に『未来の種』として託された我々を、この惑星が『あの子たちは、私の新しい家族だ』と認識してくれたからだ。この星は、魔力に代わる己の超鉱物エネルギーを注ぎ込んで、我々を『新しい我が子(観測者)』として生かそうとしてくれているんだよ」

 

その真実が明かされた瞬間、管制室の職員たちの涙は、絶望のそれから「感謝と救い」の涙へと変わっていった。

 

自分たちは見捨てられてなどいない。失われた母星の愛によって送り出され、この新しい星の愛によって迎え入れられたのだ、と。

 

「フン……。相変わらず、散り際に粋な真似を強いる世界(ガイア)よな」

 

静寂を破り、見張り台の上でギルガメッシュ王が獰猛に喉を鳴らした。千里眼も宝物庫もない。だが、王の深紅の瞳には、新世界の主としての圧倒的な支配者の眼光が完全に蘇っていた。

 

「聴け、雑種ども! 敵の戦艦は、我が方舟の突入によるバリアの拒絶反応のバーストに巻き込まれ、無理やりこの地表へと墜落させられた。奴らのSOSは星のジャミングによって外宇宙の本隊には1ミリも届かん。それ故追加の増援がこの中に踏み込んでくることもない!」

 

王は不敵に唇を吊り上げ、藤丸立香を見据えた。

 

「お前たちが帰る家を奪った薄汚い害獣どもだ。そして今や、奴らは本隊と分断され、この星の意志から徹底的に拒絶されて干からびかけている! 同じ檻の中に閉じ込められたあの一味を一人残らず狩り尽くし、敵の技術、正体、そして弱点をすべて剥ぎ取るぞ! 藤丸、マシュ、そして鋼の英雄どもよ。この星の真の主がどちらか教えてやれッ!!」

 

「――はい、ギルガメッシュ王!」

 

藤丸は涙を拭い、機械の右腕をグッと握りしめた。

檻の中に閉じ込められた敵の武装軍団に対する、人類の、そして二つの星に愛された者たちの、命がけの「ハンティング」の号令が、琥珀色の新世界へと轟き渡るのだった。

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