Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

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第13話

異星人残党の旗艦が眩い爆炎となって琥珀色の荒野へ沈み、開拓都市を埋め尽くした鉄屑の煙がゆっくりと引いていく。

 

防壁の上では、傷つきながらも生き残ったサイボーグの英雄たちが、鋼の腕を突き上げて人類の勝利を讃える咆哮を上げていた。目覚めたばかりのカルデア職員たちも涙を拭い、互いの無事を喜び合っている。

 

だが、その歓喜のど真ん中、方舟の中央管制室へと戻ってきたエルメロイⅡ世とダ・ヴィンチの顔には、勝利の余韻など一片も存在しなかった。彼らが敵のメインサーバーを解析し、サルベージした外宇宙の広域データ。そこに映し出された『現実』は、あまりにも残酷で、あまりにもシビアなものだった。

 

「……信じられん。嘘、だろ……」

 

モニターを見つめる藤丸立香の唇から、乾いた声が漏れた。

そこに展開されていたのは、宇宙の闇を埋め尽くすほどの光の点の群れ。その一つ一つが、先ほど自分たちが死に物狂いで、命を削ってようやく撃破した敵戦艦の識別シグナルだったのだ。

 

「事実だ、藤丸」

 

エルメロイⅡ世は震える指先で眼鏡のブリッジを押し上げ、ひどく掠れた声で告げた。その瞳には、軍師としての冷酷な絶望が滲んでいる。

 

「我々が死闘の末に殲滅したこの武装軍団は……宇宙を支配する奴らの全戦力の、ほんの数%、いや、数万分の一に過ぎない。宇宙には、かつて我々の地球を壊したあのレベルの戦艦が、まだ何億と存在しているんだ。今の我々のリソースでは、逆立ちしたって到底敵わない……」

 

勝った。人理を修復し、この星での最初の戦争にも完全勝利した。

なのに、物語は終わらない。宇宙の圧倒的な物量、人類という種の小ささ。再び管制室を支配しようとする、底無しの虚無と静寂。

 

「――フハ、フハハハハハハハハ!!!」

 

ギルガメッシュは腹を抱えて笑い飛ばすと、傲然と胸を張り、眩い眼光でモニターの光点を一瞥した。

 

「結構なことではないか雑種どもッ! 滅ぼすべき害獣が宇宙に満ち満ちているというのなら、これほど滾る話もあるまい!」

 

「ギルガメッシュ王……? でも、この数よ? 攻め込まれたら、いくら私たちが機械の身体になっても――」

 

オルガマリーのホログラムが怯えたように明滅する。しかし、王の唇は獰猛に吊り上がったままであった 。

 

「忘れたか大統領、そして魔術師よ。この星を覆う『見えないバリア』は、奴らの通信を完全にジャックし、外からの侵入を100%シャットアウトしてくれるのだぞ! 奴らの本隊が何億いようが、この星の檻の中には1歩たりとも踏み込めぬわ!」

 

その一言に、エルメロイⅡ世がハッと息を呑んだ。

そうだ。この惑星は破壊者を拒絶する。地球(ガイア)が、人類の全データ(アラヤ)を載せた方舟をこの星へと強制転送した本当の理由が、ここで完全に繋がったのだ。

 

ここは、外宇宙のどんな脅威からも完全に隔離された『絶対の聖域』なのだと。

 

「フハハ! ならば話は簡単よ! この絶対に攻め込まれない完璧な要塞に籠もり、宇宙の害獣どもを一人残らず叩き潰せるだけの技術を、この手で一から築き上げてやろうではないか! 牙を捥がれたのなら、前のより100倍鋭い『鋼の牙』を、この星と共に研ぎ続ければ良いだけの話だ!」

 

絶望の物量を、一瞬で「最高の大工廠(ベース基地)」の材料へと反転させてみせた、王の絶対的な逆転のカリスマ。

 

その不敵な笑みに呼び応じるように、藤丸立香の右腕に刻まれた令呪が、再び静かに、しかし力強く光を宿し始めるのだった。

 

「……絶対に攻め込まれない、完璧な大工廠」

 

ギルガメッシュ王の放ったその言葉が、藤丸立香の胸に、冷めかけていた火をもう一度激しく灯した。

 

宇宙の敵が何億、何兆といる。今の自分たちでは敵わない。……なら、答えは一つだ。奴らを一人残らず殲滅できるだけの圧倒的な力(テクノロジー)を、この絶対に安全な檻の中で、ただひたすらに積み上げればいいだけの話なのだ。

 

「……そう、ですね。地球(ガイア)が、私たちをここに送り届けてくれた本当の理由は……きっと、そういうことなんだ」

 

藤丸は人工皮膚に覆われた機械の拳を強く、強く握りしめた。その右腕に刻まれた令呪が、彼らの未来を祝福するように琥珀色の光を脈打たせる。

 

隣に立つマシュもまた、力強く頷いた。エルメロイⅡ世は「やれやれ、これ以上のブラック職場(戦場)はないな」と零しながらも、その唇に不敵な笑みを浮かべ、ダ・ヴィンチは「天才の名に懸けて、最高の戦艦(おもちゃ)をたくさん造ってあげるさ!」と目を輝かせる。

 

失われた青き地球の復讐のため、そして人類という種の未来のため。

 

彼らはこの琥珀色の惑星のすべてを喰らい尽くし、人類最強の「大工廠」へと作り変えることを、その日、静かに誓い合ったのだった。

 

 

――そこから、静かに、永い時間が流れる。

 

数年、数十年。星の時間がゆっくりと経過していく。

かつて骨組みだらけだった不時着の地は、今や琥珀色の超鉱物エネルギーの光が網の目のように地表を走る、超科学の金属都市へと完全に変貌を遂げていた。

 

建築班とインフラ班が築き上げた巨大なドックからは、地球にいた頃の神秘を最新の技術で強引に再現した「サイボーグ」たちの製造ラインが、重厚な音を立てて24時間稼働し続けている。

 

そしてその頭上、惑星の空を見上げれば、見えないバリアの防衛フィールドのすぐ内側に、かつての方舟とは比較にならぬほどの超巨体を誇る「星間殲滅戦艦」の群れが、幾隻も、幾万隻も、出撃の時を待って静かに浮かんでいた。

 

都市の一角、冷たい宇宙の海が見える最上層のデッキ。

 

「――システム、オールグリーン。疑似宝具ドライブ、同調率100%。いつでもいけます、先輩」

 

少し大人びた、凛とした声が静寂に響いた。

 

振り返ったマシュの衣装は、かつてのカルデアの面影を残しながらも、サイバーアレンジが施されている。

 

その隣に立つマスター――藤丸立香もまた、かつてのあどけない少年の面影を歴戦の面構えへと成長させていたた。

 

彼は今も、人間の象徴のまま。英雄たちの精神の錨として、誰よりも守られ、誰よりも泥をすすりながら、この航海を支え続けてきたのだ。

 

「フハハ! 待たせたな雑種ども。ようやく我が宝物庫も、外宇宙の害獣どもを一人残らず焼き尽くせるだけの質量を蓄え終えたぞ!」

 

ギルガメッシュは、見えないバリアの向こうに広がる、かつて愛した「(地球)」を壊した外宇宙の闇を睨み据え、獰猛に、かつてないほど不敵に唇を吊り上げた。

 

「――面舵一杯。進路、害獣どもの巣窟へ!」

 

王の傲然たる号令とともに、地表から無数の戦艦が一斉にメインエンジンを点火し、バリアを開放して冷たい宇宙の海へと打って出る。

 

これは、二つの星の意志に愛された人類が、失われた地球の復讐を果たすため、ただひたすらに牙を研ぎ続ける『逆襲』の物語。

 

「待っていろよ、外宇宙の害獣ども。我が愛した庭を壊した代償――人類の全科学(神話)の鉄槌を以て、骨の髄まで支払わせてくれるわ!!」

 

不敵な王の高笑いと、マスター藤丸立香の解き放った琥珀色の令呪の輝きが宇宙の闇を切り裂く、終わらない反撃の夜明けがやってくる。

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