Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

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第2話

「データの移行率、八十パーセントを突破……! 嘘、本当にカルデアが記録してきた歴史のすべてが、この『ノアの方舟』に吸い上げられていく……!」

 

ダ・ヴィンチの驚愕の声が響く中、トリスメギストスとシバを融合させた制御壇は、爆発的な演算熱を上げ続けていた。

 

藤丸立香とマシュは、突如現れたグランドライダー・ノアの存在と、ギルガメッシュが突きつけた「地球消滅」という現実の狭間で、未だに思考を追いつかせられずにいた。

 

だが、猶予の終わりは、彼らの心の整理など待ってはくれない。

 

――ピキリ、と。

 

頑強極まるカルデアの管制室、その「空間」そのものに、ガラスのような亀裂が走った。

 

「な、何!? 空間の歪み……カルデアの位相が、外側から無理やり抉じ開けられようとしている!?」

 

ダ・ヴィンチの悲鳴が上がるのと同時に、管制室の照明が一斉に消失し、不気味な紫色の極光が部屋を侵食し始めた。

 

バリィィィンッ!!

 

空間が物理的に破壊され、狂おしいほどの魔力奔流を伴って、その「脅威」は姿を現した。

 

白い。何もかもが圧倒的に白い、神々しき異星のドレス。

人類を遥かに凌駕する星クラスの神威を放ち、宙に浮遊しながら降臨したのは、かつて藤丸たちが知っていた「所長」の姿をした、けれど全く異なる圧倒的な超存在。

 

「フフ……フハハハハハ! 待たせたわね、哀れな地球の残留物ども! この私が直々に、あなたたちの無価値な歴史に終止符を打ってあげるわ!」

 

彼女こそは異星の神の器。世界を統べるべく現れた、絶対的な支配者。

U-オルガマリーは傲然と腕を広げ、自らの勝利を確信した笑みを浮かべて、大いなる宣言を口にしようとした。

 

「聴きなさい! 私こそは地球大統――」

 

「――遅い。秒単位で待ち侘びたぞ、この無警戒な雑種が」

 

「え?」

 

U-オルガマリーが、ぽかんとマぬけた声を漏らした。

名乗りの口上を完全に遮るように響いたのは、退屈そうに鼻を鳴らす、黄金の王の冷徹な声。

 

次の瞬間、彼女が反応するよりも早く、カルデアの管制室が「黄金の輝き」によって埋め尽くされた。いや、それは輝きではない。虚空に現れた、数百、数千に及ぶ『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の門――そこから射出されたのは、刃ではなかった。

 

ジャラァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

金属音が鼓膜を破らんばかりに轟き、虚空から走り出た無数の『天の鎖(エルキドゥ)』が、宙に浮くU-オルガマリーの四肢、身体、そしてその強大な魔力回路ごと、雁字搦めに縛り上げた。

 

「な、なによこれぇぇぇっ!? 身体が……私の魔力が、動かない……!? 嘘、なんで、私は神よ!? 地球大統領なのよ!?」

 

U-オルガマリーが驚愕し、必死に身体を悶えさせる。だが、暴れれば暴れるほど、彼女を縛る鎖はその肉体に深く、容赦なく食い込んでいった。

 

「無駄だ。それは我が不二の友の名を冠する、神を律する鎖。星の神格を名乗る貴様にとって、これ以上ない天敵よ」

 

ギルガメッシュは冷酷に言い放ち、組み替えた腕の指先を微かに動かした。

彼は千里眼を使い、彼女がこの時、この瞬間に、完全な無警戒で空間を割って現れることを「秒単位」で完全に先読みしていたのだ。

 

防壁も張らず、名乗りの口上を述べるためだけに現れた侵略者など、ウルクの賢王からすれば「格好の獲物」でしかなかった。

 

「オルガマリー所長!?」

 

マシュが目を見張る。

 

「さて、データの移行は九十五パーセントというところか。時間ぴったりだな」

 

縛り上げられ、宙で芋虫のように転がるU-オルガマリーを見下ろしながら、ギルガメッシュは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「地球の王を気取る侵略者め。貴様のような身の程知らずのお飾りには、我が方舟の炉心がよく似合う!藤丸立香、トリスメギストスの最終コアを開放しろ! この極上の熱源を、動力炉へ叩き込むぞ!」

 

「な、なによそれ! 炉心って何のことよーっ! 離しなさい、この不敬者ぁぁぁっ!!」

 

カルデア中を揺るがす大統領の絶叫が響く中、ギルガメッシュは容赦なく鎖を引き絞り、彼女を船の心臓部へと引きずり回し始めるのだった。

 

「トリスメギストス、最終コア開放ッ! 全記憶データ、コピペ完了したよ!」

 

ダ・ヴィンチの叫びと同時に、管制室の床が大きく割れ、霊子演算器の最深部に据えられた巨大な疑似霊子変換炉――『極超の炉心』が姿を現した。

 

「な、なによこれ! 嫌よ、私は地球大統領よ!? こんな怪しい機械に入れようっていうの!?」

 

「くどいッ! 我が方舟の(動力)となる栄誉だ、甘んじて受け入れるが良い!」

 

ギルガメッシュが腕を突き出すと、『天の鎖(エルキドゥ)』がU-オルガマリーを縛り付けたまま、容赦なくその変換炉の光の中へと叩き落とした。

 

直後、炉心のハッチが重々しく閉鎖され、カルデア全土、いや、すでに「方舟」へと変貌を遂げた戦艦の全回路に、かつてないほどの莫大なエネルギーが駆け抜けた。

 

[i:――警告、神格クラスの極超熱源を検知。疑似環境シミュレーター、起動します。世界のテクスチャ(地球環境)の完全再現、成功。英霊の維持および召喚ルーチン、無制限へと移行します――]

 

「……やった、のか?」

 

藤丸立香が唖然とする中、管制室の中央、かつてロマニのホログラムが浮かんでいた場所に、眩い光の粒子が収束していく。

 

そこに現れたのは――先ほど炉心に叩き落とされたはずの、U-オルガマリーの姿だった。ただし、その身体は僅かに透き通っており、ノイズの走る「ホログラム」として再現されていた。

 

「ちょっとぉぉぉっ!! なによこれ! なんなのよこれぇぇぇっ!!」

 

ホログラムの大統領は、自身の透ける手を交互に見つめながら、髪を振り乱して怒り狂った。

 

「私は地球を支配しにきたのよ!? なんでこんな宇宙船のナビゲーターAIみたいな真似をされなきゃいけないのよ! しかも身体が炉心と直結してて、ここから出られないじゃない!」

 

「フハハハハ! 見事なものだな。貴様が『地球大統領』などという不遜な概念を内包しているおかげで、この船の中だけは完璧な『地球』のルールが保たれる。貴様という永久機関がある限り、冷たい宇宙空間であっても、我が魔力は枯渇せぬし、英霊の無制限現界すらも可能というわけだ」

 

ギルガメッシュは満足そうに腕を組み、ふてくされる大統領を眺めて鼻で笑った。

彼女の本質が「地球の管理、保護」である以上、方舟に人類のデータ(アラヤ)が乗っている限り、彼女の出力は自動的にその環境を維持するために機能してしまう。いわば、彼女の意思に関係なく、生存の理として組み込まれたのだ。

 

「フン、ひどい扱いをするね、賢王。女の子をそんな風に閉じ込めるなんて、ボクの時代の紳士なら絞首刑ものだよ?」

 

銀髪の青年――艦長ノアが、困ったように苦笑しながらホログラムの彼女に歩み寄る。

 

「はじめまして、大統領。ボクはグランドライダー、ノア。この船の舵取りだ。君がエネルギーを供給してくれるおかげで、この船は宇宙のどんな嵐にも耐えられる。人類の未来のために、どうか力を貸してほしいな」

 

「だ、誰が貸すもんですか! 私は地球大統領よ!?」

 

ノアは優しく、そして大いなる父のような包容力を持って微笑んだ。

 

「ボクたちは君に、人類のすべてを託したんだ。頼むよ、頼りになるボクたちの案内人(ナビゲーター)

 

「うっ……」

 

ノアのあまりにも真っ直ぐで優しい視線、そしてギルガメッシュの「お飾り」という言葉とは真逆の「お前が必要だ」というシステム上の事実に、U-オルガマリーは顔を真っ赤にして口を噤んだ。

 

「……フ、フン! そこまで言うなら、地球大統領としての慈悲で、この頼りない宇宙船の管理くらいはしてあげるわよ! 勘違いしないでよね、あなたたちのためじゃなくて、私の船(地球環境)を守るためなんだから!」

 

ぷいっと横を向くホログラムの大統領。そのポンコツ可愛さに、張り詰めていた管制室の空気が、ほんの僅かに和らいだ。

 

「よし、挨拶はここまでだ、キャプテン・ノア」

 

ギルガメッシュの黄金の瞳が、再び鋭さを増す。

 

「データのコピペも、動力の確保も終わった。……害獣どもが、庭の門を叩く時間だ。この地球を蹴り出し、方舟を発進させろッ!」

 

「了解だ。――方舟、面舵一杯。進路、冷たき虚空へ!」

 

ノアの号令とともに、カルデアという名の「方舟」は、轟音を立てて死にゆく地球の大気圏を突き破り、宇宙へとその一歩を踏み出すのだった。

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