Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

7 / 13
第7話

エルメロイⅡ世の鋭い言葉とともに、管制室のメインモニターに、大破を免れた数少ない機能で簡易的な組織図が展開された。

 

地球消滅の絶望と、命一つ限りの人間になった恐怖。それらに震えていた元・英霊たちの視線が、一斉にその図へと集まる。

 

「いいかお前たち。魔術基盤は消滅し、我々の不滅性も失われた。だが、この星には魔力に代わる『未知のエネルギー』が存在し、皮肉にもそのおかげで我々の霊基の稼働と召喚システムだけは維持されている。ならば、泣き言を言っている暇はない。リソースが有限である以上、現代的な役割分担(セクション制)によって最大の効率化を図る!」

 

エルメロイⅡ世は手元でコンソールを叩き、6つのセクションを画面に打ち出した。

 

「組織を6つの班に分ける。

 第一に、バリアの内部、この未知の惑星の環境や資源を調べる【星の探検班】。

 第二に、拠点の周囲の安全を確保し、現地の原生生物を排除する【討伐班】。

 第三に、二度と復元できない我々の命と健康を守る衛生の要、【治療班】。

 第四に、方舟の残骸や現地の資材を使い、我々の家となる居住区を作る【建築班】。

 第五に、この星の謎のエネルギーをライン化し、船の機能を蘇らせる【インフラ班】。

 そして第六に、精神的ストレスによる暴動やパニックを防ぎ、全体の秩序を保つ【治安維持班】だ」

 

あまりにも合理的で、現代的なマネジメント論。魔術師のトップでありながら、凡人として泥臭いやりくりを続けてきた彼だからこそ弾き出せる、極限下の生存戦略だった。

 

「魔術師よ。ここに集った雑種どもはどいつもこいつも個性が強すぎる。本質を見抜いて割り振るなど、赤子の手をひねるより容易いわ! おい征服王、貴様はその無駄な体力を遊ばせておく気か?」

 

「ぬ? うむ、不滅でなくなったのは少々驚いたが、新天地の開拓とあれば余の心も躍るというものよ!」

 

大柄な体躯を揺らすイスカンダルへ、ギルガメッシュは迷いなく指を突きつける。

 

「ならばその巨躯を泥に染めよ!建築班の頭はお前だ、スパルタクスらの怪力組を引き連れ、さっさと資源を集めろ!そして治安維持班は……おい騎士王、お前と円卓の生真面目どもに任せる。有限の命に怯え、秩序を乱す愚か者が出れば、容赦なくその剣で叩き直せ!」

 

「――拝命いたしました、ウルクの賢王。一度限りの命であろうとも、我らが騎士の誓いは揺らぎません。この集落の秩序、必ずや守り抜いてみせましょう」

 

アルトリア・ペンドラゴンが、凛とした声で応じる。

 

「討伐班には歴戦の戦士たちを配し、探検班には隠密の効くアサシンどもを放り込む! 治療班はメディアやナイチンゲールらに任せ、インフラはダ・ヴィンチ、貴様がバベッジやテスラらを率いろ!」

 

ジャラジャラと、まるで存在しない天の鎖の音が聞こえるかのような、圧倒的なテンポの高速采配。

 

生前の逸話、カルデアでの戦闘データ、それらを一瞬で見抜き、寸分の狂いもなく適材適所へ放り込んでいくギルガメッシュのカリスマ。

 

全能を失ったはずの王が、その人間の知恵(内政力)だけでパニックを完全に統制していくその姿に、さっきまで絶望に咽び泣いていた元・英霊たちも、一人、また一人と背筋を伸ばし、その瞳に「やるしかない」という開拓者の闘志を宿し始めていくのだった。

 

王の号令が下ってからの行動は、驚くほどに早かった。

魔術を失い、一度死んだら終わりの「人間」になった現実。だからこそ、いがみ合っている場合ではない、全力を尽くさねば全滅するのだと、彼らは本能で理解していた。

 

「おい、そこをもっと頑強に支えんか! これでは我がウルクの泥の家よりも脆いぞ!」

 

「ハハハ! 手厳しいな賢王! だが、この星の異妙な樹木はなかなかに頑丈でね。余の筋肉とスパルタクスらの膂力があれば、日暮れまでには立派な兵舎が建つぞ!」

 

建築班の頭となった征服王イスカンダルが、大笑いしながら巨木を担ぎ上げる。

 

すぐ傍では、治安維持班のアルトリア・ペンドラゴンが鋭い眼光で周囲を見守り、不安で精神のバランスを崩しかけたスタッフがいれば、優しく、しかし毅然とした態度でその心を繋ぎ止めていた。

 

治療班では、ナイチンゲールやメディアらが、原生生物との戦いで怪我を負った者たちの手当てに追われている。「命が一つしかない」という絶対的な条件が、医療従事の英霊たちに地球にいた頃以上の凄烈な執念を与えていた。

 

そしてインフラ班。

 

「……なるほど、面白いわね。地球のマナとは完全に異なる波形だけど、この星に満ちている『未知のエネルギー』は、トリスメギストスの疑似霊子回路と驚くほど親和性が高いわ。これなら数日中に、方舟の限定的な機能は再起動できる!」

 

ダ・ヴィンチがバベッジやテスラらと額を突き合わせ、コンソールを叩き続けている。

 

かつてカルデアで藤丸立香と共に歩み、戦ってきた「絆」。それだけを唯一の命綱にして、神話の壁を越えた英雄たちは見事なまでの団結を見せ、琥珀色の荒野に「開拓都市」としての確かな産声を上げさせていた。

 

「フン……。雑種は雑種なりに生きる術を知っている。やはり人間とは、こうでなくてはな」

 

まだ骨組みだけの見張り台の上に立ち、開拓の様子を見下ろしながら、ギルガメッシュが満足そうに鼻を鳴らした。千里眼も宝物庫もない。けれど、その不敵な佇まいは、確かにこの未開の集落の精神的支柱であった。

 

「……確かに、奇跡的な速度でコミュニティが回り始めた。君の圧倒的な内政采配には脱帽するよ、王よ」

 

すっかり汚れたコートの襟を正しながら、エルメロイⅡ世が隣に並び立つ。その手には、ようやくこの星の資源で火を灯すことに成功した、紫煙を燻らせる葉巻があった。

 

「だが、王よ。……ここからが、本当の地獄だ」

 

エルメロイⅡ世は深く煙を吸い込み、冷たい琥珀色の空を見上げた。その瞳に、軍師としての極冷の緊迫感が戻る。

 

「本当の問題……? バリアの向こうにいる、あの異星人残党の艦隊のこと?」

 

中央から通信を繋いだ、ホログラムのオルガマリーが尋ねる。

 

「そうだ、大統領。上空で我々を撃った異星人の超巨大戦艦。奴らの神話級のビームは、この惑星を覆う『見えないバリア』に遮られて消滅した。」

 

エルメロイⅡ世の言葉に、オルガマリーが息を呑んだ。ギルガメッシュもまた、深紅の瞳を僅かに細める。

 

「奴らの戦艦は、バリアの外側から一方的に攻撃を仕掛けていた。だが、あの完璧な防衛フィールドがある以上、外側からではこの惑星を絶対に破壊できない。」

 

エルメロイⅡ世は葉巻を指先で弄り、凍てつくようなサスペンスに満ちた結論を口にした。

 

「だが、方舟の墜落に巻き込まれてバリアを超えた敵戦艦が、この惑星に不時着して、自分たちを襲撃する準備を整えているのを星の探検班が発見した。……奴らは生身の兵力を以て、このバリアの『内側』で我々を確実に息の根を止めにくるはずだ」

 

見えないバリアに守られた、琥珀色の美しい新天地。

だが、その安全な檻の中には、自分たちを滅ぼそうとした「最悪の敵の一部」もまた、同時に閉じ込められているのだ。お互いに能力を制限された、命一つ限りの極限の檻。

 

「クク……、ハハハハハ!」

 

エルメロイⅡ世の不穏な報告を聴き、ギルガメッシュは獰猛に笑った。

 

「よかろう。檻の中に害獣が潜んでいるというわけか。牙を失った我らと、同じく牙を捥がれた侵略者。どちらが真にこの星の主となるか、泥の中で血を流して白黒つけようではないか!」

 

開拓都市の夜明け。それは同時に、外宇宙の侵略者残党との、生き残りを懸けた命がけの「ゲリラサバイバル」の幕開けを意味していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告