Fate/Grand Order -Cosmos Ark-   作:みそそ

8 / 13
第8話

開拓都市の骨組みが形を成し、インフラが順調に回り始めた頃。

 

方舟の残骸を力技で改造したインフラ班の『仮設研究所』では、幾つもの不気味な火花が散り、鋼鉄の歯車が噛み合う重々しい駆動音が響き渡っていた。

 

「……計算はすべて合致する。出力の指向性、および変換効率も問題ない。だが、これほど莫大で、これほど純粋なエネルギーを、一体『何』に叩き込めばいいというのだ!」

 

煤まみれの白衣の袖をまくり、狂おしげに髪を掻きむしったのは、ニコラ・テスラであった。

 

地球の魔術基盤(マナ)が完全にないこの琥珀色の惑星。だが、その代わりにこの星の地殻には、地球の魔力と非常によく似た、けれど全く異なる外宇宙の「超鉱物エネルギー」が満ち満ちていた。

 

神秘のルールが通用しないこの新天地は、テスラ、チャールズ・バベッジ、エレナ・ブラヴァツキーといった近代科学と技術を司る学者系サーヴァントたちにとって、まさに制限なしの完全な独壇場であった。

 

「我らがインフラ班の解析により、星のエネルギーラインを繋ぐことには成功した。だが、肝心のサーヴァントたちの力が機能せねば、いつ襲ってくるかも分からぬ高度な文明を持った異星人の残党に対抗できん……。神秘というオカルトが消えた世界で、どうやって我々が勝てるというのだ!」

 

テスラがコンソールを殴りつける。蒸気機関の巨躯を震わせ、バベッジが重々しく排気音を鳴らした。

 

「……原典たる神話データの大破。それが最大の壁。我らに残されたのは、カルデアのストレージに残るサーヴァントたちの『戦闘ログ』のみ。彼らは今や有限の命を持つ人間。生身のまま戦わせれば、一度の死で二度と復元できん。リソースの使い捨てなど、このバベッジ、断じて認めんぞ」

 

膠着する議論。魔術が使えないという現実は、あまりにも重く戦士たちを縛り付けていた。

だがその時、端末に映し出されたカルデアの過去ログ――思い出の映像を眺めていたエレナが、ポツリと、何かを思い出すように呟いた。

 

「ねえ……みんな。私たちは、少し頭が固くなっていたんじゃないかしら。」

 

「……何だと? エレナ、どういう意味だ」

 

テスラが振り返る。エレナは画面に映る、カルデアで人類最後のマスターを守り、不敵に盾を構え続けた、一人の桃色の髪の少女の姿を指し示した。

 

「思い出して。かつてカルデアには、英霊の肉体を持たず、生身の『人間』でありながら英霊の力をその身に宿し、擬似的に宝具を展開して戦った女の子がいたわ。――そう、マシュ・キリエライトよ」

 

マシュ。デミ・サーヴァント。

その名前が管制室の虚空に響いた瞬間、ニコラ・テスラの脳内で、何千、何万ボルトもの青い電流が激しく爆ぜた。

 

「――っ! それだッ!! その通りだ、ブラヴァツキー夫人!!」

 

テスラは叫び、狂喜乱舞しながらコンソールへと飛びついた。

 

「なぜ気づかなかった! 神話の原典(オカルト)が消え去り、彼らが一度死んだら終わりの人間になったのなら! その人間の脳内・身体データ...二次元コードを一度情報として抽出し、我々が覚えている限りの神話のスペックを科学的に落とし込んだ『機械の肉体(義体)』に埋め込めばいい!さらにこの星の超鉱物をエネルギー炉とすれば、魔術がなくとも、あらゆる宝具を再現できる――!」

 

「……【擬似英霊召喚システム】、か」

 

バベッジの単眼が、凄まじい熱量で赤く発光する。

 

「脳のデータは二次元コードとして安全に保存し、超鉱物のパーツで組み上げたサイボーグのボディへダウンロードして出撃させる。これならば神秘を必要とせず、義体が大破してもデータさえ無事なら、一度限りの死のルールすら攻略できる……!」

 

「ついに……ついに、ガチで俺たちの能力が100%生かされる時がきたのだ、お前たち!!」

 

テスラは吼えた。地球では常に神秘(魔術)の後塵を拝してきた科学の開拓者たちが、今や新世界の主導権を握ったのだ。

 

「素晴らしい! バベッジ、エレナ、さっさとこの理論を書類にまとめろ! 分厚いプレゼン資料を作り上げ、あの全能を失った王の度肝を抜いてやるぞ!」

 

天才たちのギラギラとした、しかし希望に満ち溢れた笑い声が、骨組みだらけの研究所を熱く揺らす。

 

失われた神話を、最新の科学(鋼鉄)で上書きする大逆転の計画が、徹夜の熱気の中で急速に形を成していくのだった。

 

仮設研究所を飛び出したニコラ・テスラとチャールズ・バベッジは、束にまとめた分厚い設計図面を抱え、開拓都市の中央に据えられた即席の王座の間へと足早に向かった。

 

出迎えたのは、背筋を真っ直ぐに伸ばし、琥珀色の荒野を睨み据える黄金の王――ギルガメッシュであった。

 

「……全能を失った王よ! 我が科学の開拓者たちが、この閉ざされた檻(惑星)を打ち破る最高の大発明を持ってきてやったぞ!」

 

テスラが叩きつけるように差し出した擬似英霊召喚システム。すなわち【元・英霊機械化計画】の書類。

 

ギルガメッシュはそれを無言で受け取ると、千里眼を失ったただの「人間の瞳」で、紙面に躍る難解な数式と、肉体を鋼の義体へと置き換える狂気的な図面を一瞥した。

 

(――老い、か)

 

書類をめくる王の指先が、微かに震える。

実のところ、ギルガメッシュは密かに、しかし強烈に焦っていた。

 

魔術基盤が消失し、宝物庫も閉じられた今の彼は、ただの生身の人間だ。かつて生前のウルクで、あまりの激務に「過労死」した時の記憶が、冷たい現実味を帯びて脳裏をよぎる。肉体の老い。衰え。そして、人間としての明確な限界。

 

もし今、異星人の残党がこの集落に攻め込んできた時、この脆き生身の肉体で、王としての責務を果たし、愛しき人間どもを守り抜くことができるのか――。その生々しい焦燥を、王は誰にも見せずに胸の奥底へ隠していたのだ。

 

だからこそ、テスラたちの持ってきた計画書は、王にとって「これ以上ない至高の財宝」に他ならなかった。

 

「……フン。ガラクタ学者どもが、ようやく使い物になる知恵を持ってきたか」

 

ギルガメッシュは書類をバサリと机に置くと、顔を上げ、かつての唯我独尊の王そのものの、獰猛で不敵な笑みをその唇に呼び戻した。

 

肉体を機械に変える不敬などと、くだらぬプライドで突っぱねる王ではない。生き残るために、種を繋ぐために、何が必要かを彼は誰よりも冷徹に見抜いている。

 

「我らの命は一つ。ならば、その一つを最強の鋼で包むのが道理よ。……面白い、直ちにやれ!王の太鼓判をくれてやる。」

 

「ハハハ! よかろう! 雷霆の如き速度で、新たな神話を組み上げてみせよう!」

 

王の即座の承認を受け、テスラが雷を帯びるような大笑い声を上げる。

その報告を受け、開発の最終総責任者として仮設研究所に呼び出されたレオナルド・ダ・ヴィンチは、図面を見つめながら、呆れたように、けれど限りなく愛おしそうにフッと苦笑した。

 

「……はぁ。本当に、人間ってやつは、どこまでも懲りないねえ」

 

ダ・ヴィンチは眼鏡の位置を直しながら、ため息交じりに呟く。

 

「不時着の衝撃で全人類のデータを大半ロストして、あんなに手痛い目をみたばかりじゃない。みんなの心に、あの時の悲しみと痛みがまだ生々しく残っているっていうのに。今度は脳の構造や身体データを二次元コードにして機械の体に詰め込むだなんて。……本当に、執念深いというか、往生際が悪いというか」

 

だが――そう語る彼女の瞳には、かつてカルデアで人理修復を支え続けた「万能の天才」としての、絶対的な誇りと職人魂が、眩いほどの熱量で燃え上がっていた。

 

「――だが、気に入った! 失敗したなら、次は前のより100倍頑強なものを作ればいいだけの話さ! このダ・ヴィンチちゃんの名に懸けて、二度と誰もロストさせない、鉄壁のセキュリティと強度を誇るデータ保存機(セーフティ・コア)を仕立ててあげるよ。さあ学者先生たち、世界で一番格好良い『鋼の英雄』たちの器を、今すぐ鋳造(ちゅうぞう)し始めるよ!」

 

万能の天才の二度目の誓い。

それは、失った悲しみに暮れていたすべての技術者やスタッフの心を、一瞬でポジティブな戦意へと変えていく。

 

魔術の消えた琥珀色の惑星に、人類の執念と科学の結晶である「最強の鋼の神話」を打ち立てるための巨大なプロジェクトが、ついに本格的な産声を上げるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告