本当に遅くなり申し訳ありません。次話はなるべく急ぎますので…
「さて、じゃあ俺はあいつらとツクヨミ回ってくるから、ヤチヨもライブの最終準備しとけよ」
「うん…ありがとね拓望。改めて言うけど嬉しかったよ」
「…そうかい、そりゃ頑張った甲斐があったよ」
そう言って背中を向けて手を振り鳥居の向こうへと消えていく拓望。その姿が消えてからもしばらくの間鳥居を眺め、今度は自分の両手へと視線を落とし握ったり開いたりを繰り返す
「…ヤチヨ?」
そんな私の姿を不思議に思ったFUSHIに声を賭けられてようやく顔を上げる
「ん〜なぁにFUSHI〜あっ、FUSHIふわふわで気持ちい〜」
「ちょ!…へへっ、いきなりなんだよ〜」
誤魔化すようにFUSHIを撫で回し、その感覚を確かめる。
これまで何度も触れてきて慣れ親しんだものであるはずのFUSHIの体、かつては己も使っていた筈のそれが今はまるで別物に思える
「………ねぇFUSHI、拓望ってほんとズルいよね〜」
「ヤチヨは拓望の事となるとそればっかりだな…」
そうだね、でもだってそうでしょ?
「今までの献身に加えてこんなものまで作っちゃってさ。絶対大変だったくせになんてこと無いみたいな態度してくれちゃって…いったい何度私の心をかき乱せば気が済むんだろうね?」
「…確かに、ヤチヨの言う通りかもな…」
「でしょ?…あっ、FUSHI用の触覚データもあるみたい。後でアップデートしてあげるね」
「ほ、ホントか!?ヤッタヤッタ、ヤッタ〜!」
「ふふっ、良かったね〜FUSHI」
…本当に感謝してもしきれない。いったいこれまで、何度彼に慰められ、励まされ、救われてきたのだろう。私が今こうして普通に笑うことが出来ているのは間違いなく彼のおかげだ
「…だから、ね…」
この気持ちがいつからあったのかはハッキリとは分からない。けれどこの8000年の時の中で育ったあなたへのこの気持ちはもう私の中には収まりきらない
「…ありがとう拓望――大好きだよ」
「わ〜、すごい…いろんなお店がいっぱい…」
「ここはツクヨミに初ログインしたら最初に辿り着く大街道だからな。毎日沢山のユーザーが店出してて大盛り上がりだ」
ヤチヨと別れた後、ゲートから出てきた俺に突撃して来て文句と質問攻めにしてくる彩葉、いや、【イロ】をいなしながら最初の観光スポットの大街道へと到着した
(ふぅ…機嫌が戻ったようで何より)
ここに来るまで不貞腐れていた【イロ】もすっかり目を輝かせて周りをみて回っている
(他の連中は…っと)
辺りを見渡し、雑多な風景の中から他のメンバーを探す
(…【ミキ】と【ROKA】は布やアクセサリーをショッピング、【TUNA】はその付き添い。…【まみまみ】は食品モチーフのアイテムを爆買い。…【リョウ】はミニゲームのスコア荒らし…全員問題なく楽しんでるみたいだな)
「鳴さん鳴さん!見てコレヤチヨのお面!めっちゃクオリティーたっかい!」
「おー良かったな。それ食品カテゴリーだから食えるぞ」
「えっ!?…ホントだ…え~、ど、どんな商品なの?…」
「はっはっはっ!やられたなイロ!けっこう引っかかる奴多いんだよそれ!」
「む〜〜〜、…てかさ、本当にそれぐらいの変装で周りの人にバレないんだね。鳴さんが、その…鳴神ってこと」
周囲を伺いながらこっそり聴いてくる【イロ】、その目映る俺の姿は普段の【鳴神】とはかなり違う
髪は伸びて1つに括り、着ている着物も配信では使った事ない地味めなもの、ツクヨミユーザーが皆つけている動物の部分である鹿の角も小さくしてある。ちなみに【鳴】というのは今の姿の時は身バレ対策としてそう呼んでほしいと事前にお願いした呼び方だ
「ん?ああ、さっき言った通りだ。このツクヨミ内には沢山の衣装があるし、一定のユーザーにはアバターの一部を弄ったり出来る機能がある。それを使えば上手い奴はホント別人みたいにる奴もいるぐらいだ」
答えながら【イロ】の狐耳に手を伸ばして触ってみる。ログインゲートの所で見た時からずっと触ってみたかったんだよな
「ちょ!んぅ…もう……確かそのアバター弄れる機能は【百華】や人気ライバーが使えるんだっけ?」
本来存在しないはずの器官を触られるのは落ち着かないらしく、そわそわしているが嫌と言う訳では無いようでそのまま話の続きを促してくる
「そ、偶には配信せずにプライベートで楽しみたいって時にファンに囲まれたり配信者だって知らない友達にバレたりしない様にな」
「それは散々騙された俺達の事か、鳴」
「ひどいよね〜、俺ら何回も遊んでたのに教えてくれないなんて」
【イロ】の質問に答えている内に他のメンバー達が合流してくる。どうやら各々充分に満喫したようだ
「悪かったよ。けど薄々気付いてたんじゃないのか?」
合流早々に【TUNA】と【リョウ】は俺が2人に正体を今まで明かしていなかったのが少々気に食わないらしく文句を言ってきた。確かに2人とはこの格好で一緒にツクヨミで遊んだり[
「いやいや、確かにめっちゃ強いし【百華】の上位勢の誰かだろうなとは思ってたけど…流石にねぇ〜」
「ああ、予想を遥かに超えていた」
とのことだ。高校生なのにグループ企業の次期社長でツクヨミのランキング1位は流石に盛りすぎだと彩葉にも言われたしな…
「ま、丁度いい機会が合ったって事で許してくれ。もうみんなよければ次のエリアに行っていいか?」
数時間でツクヨミの全エリアをみて回る事はもちろん不可能だが、ある程度よく使うエリアやオススメのスポットは紹介しておきたい
「私は大丈夫」
「俺もいいぜ」
「俺もだ、ミキさんは?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
「私達も」
「OKで〜す」
「よし、じゃあ俺に付いてきてくれ。ここからはツクヨミ弾丸ツアーだ」
全員大丈夫らしいので早速案内させてもらおう。彩葉はもちろん、他のメンバーが知らない事だって教えてやろうじゃないか――
仮想空間ツクヨミ:アミューズメントエリア
まず、仮想空間ツクヨミは円形の大地の上に都市を築いており、十字に区切る大街道を中心として用途や施設を分けた4つのエリアで主に構成されている
最初にやって来たのはアミューズメントエリア。ここはとにかく色んな施設が設置されており。集団スポーツ用のコートにアスレチックゾーン、映画にカラオケ、レースに麻雀まで、現実と同じ娯楽をツクヨミバージョンで遊べるエリアだ
「そりゃ!」
「おー!イロすごーい!180キロを一発でホームランだ〜」
「流石だね〜」
今回はバッティングセンターで少し遊んでみた。内容はほぼ現実と同じだが、昔あった蜂蜜グマのPCゲーのように摩訶不思議な変化球や球速300キロの球を投げたりしてくるVRならではのモードもある
「実際初ログインであれだけ動けるのはいいセンスをしているな」
「ね〜、結構コツいるはずなんだけど」
(まぁ、あの朝日の妹だしな。…なんならセンス自体は朝日より上かもしれんが…)
仮想空間ツクヨミ:ストリートエリア
次に訪れたのはストリートエリアと呼ばれる区域。ここでは昼夜問わず沢山のユーザー達が好き好きに路上ライブをおこない、『音楽が絶えることが無い』とまで言われているエリアだ
「び、琵琶法師がいる…」
「凄い上手だね…」
古風な楽器を演奏する者
「あら、トランペットとエレキギターのデュエットしてます」
「絶妙にかみ合っているのかはいないのか分かりませんね」
異色のコンビ達
「あっちでハモリ我慢大会してるってさ!」
「うぇー!私も参加したーい!」
番組の企画を再現する者
「…あそこで永遠とシンバル叩いてる奴はなんなんだ…」
それらの中でも一等理解から遠い者…本当に様々な人と音楽に溢れる場所である
仮想空間ツクヨミ:工房エリア
続いて訪れた工房エリア。ここはモノ作りがしたいというユーザー達が集まるエリアであり、それぞれ専用の工房を建てて日々様々な物を作成している
武器はもちろん、服やアクセサリーの衣装系。家具や小物のインテリア系。絵画に彫刻等の美術系。中には1から部品を作成して車やバイクなどの機械を作る者までいる
「「「お〜!」」」
「はえ〜、すっご…」
「あらあら、そうまじまじと見られると少し恥ずかしいですね…」
無論、将来ファッションデザイナーを目指す【ミキ】ももちろん自身の工房を所持しているようで今回せっかくならと招待頂いた
転移して踏み込んだその瞬間、視界に広がる彼女の世界
壁一面の棚に収められた巻き布や糸、大きな作業台、その上に置かれた山のような設計図、機織り機や立て掛けられた作品達。普段目にすることのない"それら”が醸し出す独特な雰囲気が彼女だけの世界を構築している
「確かに、見事な工房だな。仮想空間だから現実とまったく同じ様にとはいかないが、これまで俺が現実で見てきた仕立て屋達の工房にも見劣りしない」
「フッ、そうだろう」
「なんでお前が得意げなんだ…」
その出来栄えは、これまで様々な一流のファッションデザイナーや職人達と出会い、彼ら彼女らの仕事場を見せてもらった拓望からしても関心する程のものだ
「鳴君にそう言って貰えるのは嬉しいですが、なんとも恐れ多いですね…私1人でここまで揃えた訳でもありませんし…」
「?、ああなるほど…TUNA、お前の仕業か…」
「その通りだが言い方があるだろう。俺はミキさんが少しでも服作りに集中出来る様に少々物を揃えさせてもらっただけだ。無償では受け取って貰えなかったのでスポンサーという形でだが」
「やれやれ、豪快なやつだ…」
「あはは…(拓望君がそれを言いますか…)」
「ミキさ〜ん、コレってなにに使うんですか〜?」
「ああ、それはですね、生地の保管の際に―
仮想空間ツクヨミ:触れ合いエリア
最後に訪れたのは触れ合いエリア。その名のとおり様々な動物達が街中にポップして自由に生活している
「あっ、見て見てイロ〜ネコちゃん〜、あっちに狸もいるよ〜」
「お〜、すっごいかわいい…ほんとに色んな子がいるんだね。あっ、ハシビロコウもいる………ハシビロコウ!?」
「ふふっ、あっちの方には海洋生物もいるんですよ」
無論、ただ多種多様な動物が見られるだけではない。このエリアの1番の魅力は―
「ん〜!相変わらずフッカフカだな〜お前ら〜!」
「何度体験しても驚きだな、現実と変わらない手触りだ」
そう、このエリアの1番の魅力は動物との触れ合いが現実と非常に酷似している事である
数年前までのこのエリアは、どれだけ動物の見た目や生態がリアルでもVRであるため触れたとしても何も感じることができず、どうしても一部の動物好きのユーザー達にそこそこ人気程度の評価となってしまっていた
しかし、拡張デバイスの[霹靂]が発売された事で評価は一転。発売当日、[霹靂]があればもっとリアルな触れ合いが出来るのではないかと考えたユーザー達が一縷の希望を持ってツクヨミにログインし、そして歓喜に打ち震えた。触れた箇所から伝わる体温や毛並み、肉質。舐められれば冷たさと水気を感じ、持ち上げれば体格に見合った重みがある。正に現実と変わらない動物達との触れ合いにネット上ではその日の内に大騒ぎとなり一気に人気スポットとなった
今では動物カフェを営む者やセーフハウスを購入する者が多数存在し、ツクヨミの4つのエリアの中で1番人気な場所となった
「今は落ち着きましたけど、凄かったですよね〜あの頃の触れ合いエリア。ここまでリアルなのはVRでも初みたいでしたし、現実で動物アレルギーだけど動物は好きって人達が毎日お祭りみたいに溢れましたし」
「ああ、[霹靂]を発売してからユーザーの数が激増したんだが、その半数以上がここ目当てだった。おかげでしばらくの間このエリアの管理が地獄でな…そもそもこの動物達のプログラミングからしてもデスマーチのレベルを超えてたんだが…」
「え〜そうなんですか?ネットでもよくリアル過ぎておかしいとは言われてますけど…」
「…1種類の動物を再現するだけでも毎日生態を調べて纏めてコードを何度も手直しして、クオリティを上げるために動物の専門家に話を聞きに行った人達がことごとくその動物の沼にハマって帰って来たり…あ〜、プログラマーが何人かノイローゼにもなったな…」
「わ、わ〜聞いてるだけで大変さが伝わってきますね…言い方的に鳴さんも製作に関わってたんですか?」
「ああ、専門的な技術は当時の俺には殆ど無かったから雑用が多かったけどな」
「それでも充分凄いですよ、その頃って鳴さん中学生、なんなら小学生ぐらいですよね?」
「そうだな…確か小6ぐらいだったかな…」
ヤチヨと出会って2年程経った頃だったはず、あの頃はツクヨミの規模がまだ小さくどんどん新要素をアップデートしていたのでいつも忙しかった思い出がある
「ま、その甲斐あって今こんだけ盛り上がってる訳だし、必要経費だったって事で」
「あはは…それでいんだ…」
まぁなんだかんだ楽しくもあったし、あぁ、これからはヤチヨもこっそり遊びに来る頻度上がりそうだし、尚更作って良かったな
触れ合いエリアに来てから少々時間が経ち―
「さて、そろそろ時間だな。お~い全員集〜合!」
皆が動物達と戯れ癒されている中、時計を確認した鳴が皆に集まるよう声を掛ける
「どうしたの〜鳴さん?まだどっか行くの?」
「正解、なんなら次が今日のメインだ」
「メインだと?ああいや、もうそんな時間か…」
「あ〜あれか、確かにメインイベントだね」
「あら、もしかして…」
「まぁ皆気付くわな。という訳でイロ、心の準備は出来てるか?」
「えっ!あたし!?なに、何がなの!?」
「決まってんだろ。現在時刻は20時20分、まだツクヨミの夜は始まってないぜ」
「!…そ、それってもしかして!」
「さぁ、移動するぞ」
そう告げると同時に手を叩いた鳴、次の瞬間そこに居たはずの7人は姿を消し動物達と静寂だけが残された―
次回:幾千の時を超えて