春の熱気が少しずつ放課後の校舎を包み込み始めていた。
夕陽が朱色に染める長い廊下を、俺——兵藤一誠(22歳)は、首から下げたホイッスルをジャージのポケットに押し込みながら歩いていた。
「ふぅ……。今日もなんとか体育の授業を乗り切ったぞ……」
教え子であるリアスや朱乃たちの露骨なアピールをかわし、1年生の小猫やギャスパーを教官室で指導したばかりの俺の胃はキリキリと痛んでいた。
大人の男、そして体育教師として理性を保たねばならないのだが、赤龍帝の生命力とフェロモンが溢れ出し、周囲を狂わせているのが現状だった。
「ん……? 誰だ、あんなところでコソコソしてる奴は」
旧校舎へ続く連絡通路の陰で、怪しい黒フードの男が彷徨いているのを発見した。
「おい!ここは 立ち立ち入り禁止区域だぞ、何をしている!」
俺が声をかけると、不審者はギクッと肩を跳ね上げ、懐から一冊の重厚な黒革のクリアファイルを取り落しながら、脱兎のごとく窓から逃走した。
「あっ、待ち上がれ! ——チッ、魔法で転移しやがったか……」
逃げられた俺は、奴が落としていったファイルを拾い上げた。
何気なくページをめくった瞬間、俺の全身の血が引いた。
「な、なんだこれはーーーーーーっっっ!??!?」
そこに記載されていたのは、生徒会の書類などではなく、冥界の名門貴族・シトリー家現当主である蒼那の父親が直接指示を出していたとされる、「冥界の極秘事業における大規模な監査逃れと政治的隠蔽工作」の決定的な証拠データだったのだ。
『シトリー家現当主の直印による公金流用および裏取引の記録』
『冥界上層部への不都合な事実の揉み消し指示書』
「ッッッ!??! や、やばい……! さっきの奴、反シトリー派のスパイだな!? シトリー家現当主の特大スキャンダルで蒼那たちを脅すつもりだったのか!!」
もしこんな代物が公になれば、シトリー家は取り潰しになり、蒼那やセラフォルー様の立場も木端微塵になる。そればかりか、当事者である蒼那自身がこのスパイから直接脅迫される危険だってあったのだ。
(危ねぇ……! 俺がスパイを追い払って回収できて本当に良かった……。こんなもの誰かに渡ったら蒼那たちが終わる。とにかく蒼那に渡して、判断を任せよう……!)
俺は胸ポケットにファイルをしっかりと押し込み、生徒会室のドアを叩いた。
◇
コンコン。
「支取、兵藤だ。ちょっと大事な話がある。入ってもいいか?」
ドアを開けると、夕陽が差し込む生徒会室の中は、静寂に包まれていた。
蒼那は整然としたデスクの前に背筋を伸ばして座り、静かにお茶を口に運んでいた。傍らに立つ椿姫もまた、凛とした佇まいで控えている。
「兵藤先生? こんな放課後にどうされたのですか?」
蒼那の声音には一切の乱れがなく、その表情は完璧なポーカーフェイスだった。
しかし、彼女の内心では冷や汗が流れていた。
実は彼女たちも、「父親である現当主が裏で行っている不正」の噂を察知し、腐敗した実家を正して当主に退位を迫るための「決定的な証拠」として、またスパイの手から守るために、表には出さず裏で極秘捜査網を張り巡らせていた最中だったのだ。
スパイを取り逃がし、証拠の行方が分からなくなった焦りを、彼女は持ち前の知性と自制心で完璧に隠し切っていた。
(よし、ヘタに余計なことを言って不安にさせちゃダメだな。シンプルに渡そう)
俺は胸ポケットから黒革のファイルを取り出し、デスクの上に置いた。
「あー、実はな。廊下で怪しい男を追い払った時に、こんな物を拾ったんだ。お前たちに見せておこうと思ってな」
俺としては「お前たちにとって危ないファイルを回収したぞ」という報告のつもりだった。
しかし——。
そのファイルを見た瞬間、蒼那のグラスを持つ手がほんのわずかに止まり、椿姫の息が詰まった。
(……っ!?? このファイルは……私たちが裏で探していた、父親の不正の決定的な証拠……!!)
蒼那の完璧なポーカーフェイスの裏側で、凄まじい思考の火花が散った。
自分たちがどれほど裏で手を尽くしても見つからなかった、現当主を失脚・退位させられる唯一無二の切札。
それを、自分たちより先に「教師の権力と圧倒的な武力を誇る赤龍帝・兵藤一誠」が手に入れた。
そして彼が無表情に吐き捨てた「こんな物を拾った」という言葉——。
(……なるほどね。彼はこの証拠の価値を完全に理解している。表向きはただ拾ったフリをして……タダで譲る気はない。『条件を提示してみせろ』と言っているのね……!)
蒼那にとって、その証拠は何としても手に入れなければならないものだった。
父親の不正が公になればシトリー家は崩壊する。だが、この証拠を自分たちの手で突きつければ、父親を穏便に「退位」させ、蒼那自身が新たな当主としてシトリー家をクリーンに建て直すことができるのだ。
(シトリー家の未来のため……そして父親に退位を迫るためなら……どんな代償でも払う……!)
蒼那は静かにティーカップを置くと、メガネの奥の瞳にどこか狂気すら孕んだ覚悟の光を宿した。
「……椿姫、お願い」
「は、はいっ……! 会長……っ!」
カチャリ、と重々しい音を立てて生徒会室の鍵が施錠された。
「お、おい椿姫!? なんで鍵を閉めるんだ!?」
慌てる俺をよそに、蒼那はデスク越しに立ち上がると、ゆっくりと自分の制服のリボンに手をかけた。
滑らかな手つきでブラウスのボタンが一つずつ解かれていく。
「し、支取……!? な、何を脱ぎ始めてんだお前……!?」
「交渉よ、兵藤先生。……いいえ、お願いと言った方がいいかしら。その証拠を……私に渡しなさい」
「え? いや、渡すために持ってきたんだが——」
「言葉で飾る必要はないわ! あなたがそれを手放す条件……分かっているわ。シトリー家の未来と、父を退位させるためのその切札……私たちの『身体』で買い取らせていただくわ!」
「はぁぁぁぁぁっ!? 買い……!? 違う! 待て! 大きな誤解だ!!」
「問答無用です、兵藤先生……っ!」
突如、背後から柔らかく温かい感触が俺の背中に押し当てられた。
椿姫が顔を朱に染め、涙目のまま俺の胴体に抱きついてきたのだ。
「椿姫!? お前まで何を——」
「会長がシトリー家を継ぎ、当主様を退位させて家を守るためなら、私も覚悟を決めます……っ! ……それに……っ!」
椿姫は俺の背中に顔をうずめ、甘く震える吐息を漏らした。
「先生の『大人のフェロモン』……! 毎日生徒会室まで届いていて……本当は、私だってずっと耐えられなかったんです……っ! この交渉に乗じて……先生の『女の子』になれるなら……っ!」
「椿姫!? お前何言ってんだ!?」
「引き下がるつもりはないわ、先生! 証拠の対価として、生徒会長と副会長の全てを差し出すわ……受け取りなさい……!」
凛とした生徒会長の面影を脱ぎ捨て、シトリー家の未来を背負った蒼那が、しなやかな体つきで俺の膝の上に乗り上げてきた。
はだけたブラウスからは、白く美しい肌と可憐な下着が覗いている。
「支取……! やめろ、俺は先生で、お前たちは——」
「黙りなさい……! 先生の癖に、そんなに胸元から甘い匂いを漂わせておいて……私を受け入れなさい……!」
大人の男としての生命力、密室の背徳感、そして覚悟を決めた美少女二人が自ら服を脱いで迫ってくるという異常なシチュエーション。
「くっ……! 二人とも……俺の理性を試すなーーーっ!!」
俺の体育教師としての理性の糸は、音を立てて完全にブチ切れ飛んだのだった。
◇
「……う……うぐぅ……っ。先生……あんまりです……っ❤️」
夕闇が完全に生徒会室を包み込んでいた。
応急的に並べられたソファーの上で、はだけた制服のボタンを小さく震える手で留めながら、蒼那が涙目でぐったりと倒れ込んでいた。
メガネは少しズレ、知的だった生徒会長の面影はどこにもない。汗ばんだ肌を朱に染め、完全に「男」に暴かれ、極上の快感に蕩けきった甘い吐息を漏らしている。
「……ハァ……ハァ……っ。兵藤先生……絶倫すぎます……。……まさか、会長と私の二人掛かりでも……❤️」
その隣では、椿姫が乱れた髪をそのままに、俺のジャージの裾をキュッと掴んで余韻に浸っていた。完全に一誠という「オス」に降伏した顔になっている。
「あ、いや……二人とも、本当にすまん……! だから俺は最初から、ただこれを『渡す』ために持ってきたんだよ!」
俺は頭を抱えて悶絶しながら、デスクの上の黒革のファイルを蒼那の手元に押しやった。
「ほら! これはお前たちのものだ! 脅すつもりも、対価を求めるつもりも最初から一切なかったんだよ!」
手元にぽんと置かれたファイルを見て、蒼那と椿姫はぽかんと目を丸くした。
「……え? ほんとに……ただで渡してくれるだけだったの……?」
「当たり前だろ! スパイが落としたのを拾ったから、お前たちに渡して判断を任せようと思っただけだ!」
「「〜〜〜〜〜っっっ!!///」」
自分たちの完全な早合点と勘違いで、勝手に「示談交渉」を持ちかけて服を脱ぎ、絶頂まで暴かれてしまったことに気づいた二人の顔が、リンゴのように真っ赤に爆発した。
「じゃ、じゃあ私と椿姫は……勘違いで……自分から『対価』として身体を差し出して……っ!?」
「う、嘘でしょう……っ!? 私たち、自ら先生にお願いして……あんなに夢中になって甘えて……っ!」
ソファーの上でクッションに顔をうずめ、恥ずかしさのあまりジタバタと悶絶する蒼那と椿姫。
だが、蒼那はその証拠ファイルを胸に強く抱きしめると、顔を真っ赤にしたまま、そっとクッションから顔を出した。
その瞳には、照れくささと、そして確固たる「新しい当主」としての光が宿っていた。
「……ふふ。でも……これで十分よ。……兵藤先生が手に入れてくれたこの証拠で、私は父に引導を渡し、退位を迫ることができる……。シトリー家は、私が変えてみせるわ」
蒼那は潤んだ瞳で俺のジャージの袖をぎゅっと引っ張ってきた。
「……それと……あなたに身体を差し出したこと……後悔はしていないわ。……これからは、私と椿姫も……あなたの『特別』にしなさい……❤️」
「はい……っ。私も……もう兵藤先生から離れられません……っ❤️」
上目遣いで甘えてくる生徒会コンビを抱きしめながら、俺はまたしても教え子をハーレムに引き入れてしまった罪悪感と、男としての最高の満足感に包まれるのだった——。
◇
後日談
数日後、冥界にて。
一誠から手渡された決定的な証拠を突きつけられたシトリー家現当主は、ぐうの音も出ず、静かに当主の座を退位することを表明。
蒼那が若くしてシトリー家の全権を握り、クリーンで新しいシトリー家の改革へと乗り出すこととなった。
生徒会室で書類に目を通す蒼那は、傍らに立つ椿姫と視線の端で交わし、ふっと優しく微笑む。
「……あの人の無自覚さに助けられたのか、それとも私たちの早合点のおかげなのか……分からないわね」
「ふふ、どちらにせよ……一誠先生のおかげで、今の私たちが存在するのは間違いありませんね❤️」
二人の首元には、新任体育教師・兵藤一誠につけられた甘い「