【転スラ】『理解者』の末路   作:浪漫遊

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口調迷子です......


9:嘆願

それから更に、二週間。合計すると、私がこの学園に来てから三ヶ月が経った。

 

司書さんに聞きながら勉強して。私はようやく、この世界の基礎知識をあらかた頭に叩き込んだ。

 

そしてやっぱり、壁にぶち当たっている。

 

「うーん。調べてはみたけど、これといって専門家はいないみたい。専門書なら、研究機関にはあると思うけれど。」

 

この図書室にない専門書を、どうやって読むか、だ。

 

読んで解決できるかはわからない。けれど、でも、読まなきゃ始まらないから。

 

司書さんはとても協力的で、専門家の所在や専門機関についてを調べたりしてくれた。本当にありがたい。本人曰く「暇だったから」らしいけど。

 

「......多分、自分が協力できるのはここまで。その後は、総帥___理事長に相談するのが一番手っ取り早いかな。」

 

カウンターで頬杖をつきながら、司書さんは柔らかく微笑んだ。

 

____

 

そして、翌日。私は自由組合本部の、総帥の部屋の目の前に居た。

 

いつも教室で会っているのとは違う、場所。それだけでひどく緊張する。

 

優樹さんは優しい人だけど、多分、自分の意見はハッキリ言う人だ。

 

専門書を用意できない。研究機関の本を借りることは認められない。って言われたら。

 

 

______深呼吸して、ノックする。

 

 

「どうぞ。」

 

ノブを回して、そっと中に入った。

 

少し広めの部屋。ドアの向かい側には、校長室の机みたいな、立派な机。その奥で、優樹さんは朗らかな笑みを浮かべて、書類を捌いていた。

 

机の前にはソファが二つ。ローテーブルを挟むように置かれてあって。その脇を通るようにして、優樹さんのいる机の前まで、一歩ずつ歩いた。

 

「今日は、どうしたの?」

 

「......相談__いいえ。お願いがあって、来ました。」

 

書類をぽん、と卓上において、優樹さんは私を見る。柔らかな雰囲気を纏っているはずなのに、その目はどこか、冷静で。

 

その目で見られると、狩猟の獲物になったような気分になる。

 

私はカバンから、一枚の紙を取り出す。

 

私の“わからないことリスト・改”だ。この世界の言語じゃなくて、日本語版の。

 

「これは?」

 

「...この一ヶ月、この世界について、勉強しました。でも、わからないことが多すぎて。それを、まとめたリストです。」

 

大事な部分だけ。簡潔に、A4サイズの紙一枚にまとめたもの。

 

専門機関じゃないと分からないようなことしか、書いてない。逆に言えば、それだけが”わからない“。

 

優樹さんは紙を手に取り、じっと内容を読んでいる。その時間が、永遠にも感じられて。ちょっと服を握った。

 

......異端児って、思われるかな。

 

優樹さんは数秒ののちに顔をあげて、ひと呼吸置く。それから。

 

「......よく勉強したんだね。分からないのは、これだけ?」

 

「はい。今のところは、ですけれど。」

 

声が震えてないかな。大丈夫かな。

 

「それで...お願いっていうのは?」

 

「今、見てもらった”わからないことリスト“が、解決できるような。専門機関...専門書のあるところに、見学に行かせてもらえませんか。」

 

私の体感では、世界の時間が止まったように感じた。優樹さんは微笑んだままなのに、私を褒めてくれたのに、どこか少し圧を感じる。

 

これが、自由組合総帥のオーラなのだろうか。

 

「......そのお願いは、この最後の”私たちの延命方法“も含めて?」

 

「はい。」

 

そこだけは。迷いなく、言い切った。

 

優樹さんは、私の”わからないことリスト“の紙をそっと卓上に置いてから、少し考えている。

 

「僕もね、これについてはずっと、方法を探してる。自由組合の総帥になったその日から、ずっと。」

 

「けれど、方法はまだ見つかってない。」

 

「その意味が、わかるかい?」

 

ぐっと言葉を呑む。

 

...あの優樹さんでも見つけられないのに、私が見つけられるのか。

 

「...はい。」

 

「分かった上で、お願いしに来ました。」

 

 

長い、沈黙が流れる。世界に置いていかれるみたいに、『思考加速』が余計に働く。

 

優樹さんは一息吸ってから、私を見据える。

 

 

「......いいよ。自由組合が支援してる研究機関に、話を通しておく。」

 

その言葉が落ちた瞬間、私の頭の中が歓喜で埋まる。

 

が、それも束の間。

 

「ただ、一つ。教えて欲しい事がある。」

 

「......灯ちゃんは、どうしてそんなに“勉強ができるの”かな?」

 

 

世界中の時間が、一気に死んだような気がした。

 

 

なんて、答えればいい?

 

嘘をつく?正直に言う?

 

本音に、嘘を混ぜる?

 

最適解は、なに?

 

 

思考がぐるぐる回って、解答を出力できない。

 

 

「......答えたくなかったら、無理にとは言わないよ。それに、努力をひけらかさない人には、誰だって好感を持つからね。」

 

「けれど、いつか。話せる時が来たら、話して欲しい。」

 

しんと静かな部屋に、その言葉だけが降ってきた。

 

雪みたいに、ゆっくり降りてきて。じわっと、私の中に溶け込む。

 

 

「......はい。」

 

 

それだけしか、言えなかった。

 

 

 

 

______

 

 

 

 

 

「......逃したったようで、実際は全く逃げ道なかったやないの。」

 

「おや、心外だな。なんのことだい?」

 

「とぼけすぎや、っちゅうねん。あの嬢ちゃんに、さっさと吐けぇって脅したようなもんやんか。」

 

「まあ、解析はしたから、スキルの名前は分かってるんだけどね。全貌は掴めないよ。流石に。」

 

「ほな、あの嬢ちゃんはほんまにスキルもっとったんかいな?」

 

「持ってないわけがないだろ。あの子はまだ異世界に来てたった三か月しか経ってないのに、読み書き・言語の翻訳・情報整理と理解までこなしてみせた。」

 

「......で?そのスキルっちゅうんはどんな名前しとるんや?」

 

「ああ、確か。」

 

「『理解者』って言ったかな。」

 

 

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