『仮面ライダー555 IF 王と方舟の木』   作:木崎真帆

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『仮面ライダー555』本編終盤のIFを描いた二次創作です。

物語は、第47話で鈴木照夫がアークオルフェノクの器となる結末を軸に、「もし、その少年を最後まで忘れなかった人がいたなら」という一つの可能性を描いています。

オリジナルキャラクターである木崎真帆と、オリジナルオルフェノク「ゴフェルオルフェノク」が登場しますが、本編の出来事や設定を尊重しながら、「本編のどこかで起こっていたかもしれない物語」を目指しました。

これは王を救う物語ではありません。

王になる前、一人の泣き虫な少年だった鈴木照夫に、「おかえり」と言い続ける人たちの物語です。

最後までお付き合いいただけましたら幸いです。


第一幕「炎の日」

第一幕「炎の日」

 

 夜。

 

 爆発音。

 

 黒煙が夜空を覆っていた。

 

 倒壊しかけた雑居ビル。

 

 消防隊の怒号。

 

 救急車のサイレン。

 

「まだ子どもが一人残ってる!」

 

「危険です!」

 

「崩れるぞ!」

 

 その時だった。

 

「啓太郎!」

 

「ああ!」

 

 海堂直也と菊池啓太郎が駆け出す。

 

「おい海堂!」

 

「うるせぇ!」

 

 二人は燃え盛る建物へ飛び込んだ。

 

 三階。

 

 煙。

 

 炎。

 

 泣き声。

 

「お、お母さん……。」

 

 小さな男の子。

 

 鈴木照夫。

 

 まだ八歳。

 

 足がすくみ、その場から動けない。

 

 その時。

 

「坊主!」

 

 海堂が叫んだ。

 

 照夫は顔を上げる。

 

「……!」

 

「立て!」

 

 照夫は泣きながら首を振る。

 

「無理……。」

 

「無理じゃねぇ!」

 

 海堂は照夫を抱き上げる。

 

「啓太郎!」

 

「こっち!」

 

 崩れる天井。

 

 火柱。

 

 二人は走る。

 

 背後で床が崩れた。

 

 外。

 

「救助成功!」

 

 歓声。

 

 消防隊が駆け寄る。

 

 海堂は照夫を降ろした。

 

「終わったぞ。」

 

 照夫は震えていた。

 

 涙が止まらない。

 

「お母さん……。」

 

 誰も答えられない。

 

 啓太郎は照夫の頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫。」

 

「もう大丈夫だから。」

 

 避難所。

 

 毛布。

 

 温かいお茶。

 

 それでも照夫は泣き止まなかった。

 

 膝を抱え、

 

 ただ泣いている。

 

 そこへ、一人の女性が近付く。

 

 二十四歳。

 

 保育士。

 

 木崎真帆。

 

「隣、いい?」

 

 照夫は答えない。

 

 真帆はゆっくり腰を下ろした。

 

 しばらく何も言わない。

 

 泣き声だけが聞こえる。

 

 やがて真帆はそっと照夫を抱き寄せた。

 

「怖かったね。」

 

 照夫は小さく震える。

 

「もう大丈夫。」

 

 その言葉に。

 

 照夫は堪えていた涙を一気に流した。

 

「うわああああぁぁん!」

 

 真帆は何も言わない。

 

 ただ背中をさすり続けた。

 

 十分ほど経った頃。

 

 照夫はようやく泣き止む。

 

 真帆が微笑む。

 

「お名前は?」

 

「……てるお。」

 

「照夫君か。」

 

 照夫は小さく頷く。

 

「私は真帆。」

 

「真帆おねえちゃん。」

 

 初めて照夫が笑った。

 

 ほんの少しだけ。

 

 その時だった。

 

「先生!」

 

 消防隊員が駆け込んでくる。

 

「まだ取り残されている人がいます!」

 

 真帆は立ち上がった。

 

「保育士さん!」

 

「危険です!」

 

 だが真帆は足を止めない。

 

 ふと照夫を見る。

 

「どうしたの?」

 

 照夫は建物を見つめていた。

 

「……。」

 

「くまさん。」

 

「え?」

 

「ぼくの。」

 

「くまさん。」

 

 小さな手が震える。

 

「お母さんがくれた。」

 

 胸ポケットには何もない。

 

 避難の途中で落としたのだろう。

 

 真帆は優しく笑う。

 

「任せて。」

 

「え?」

 

「探してくる。」

 

「だめ!」

 

 照夫は真帆の腕を掴んだ。

 

「危ない!」

 

 真帆はしゃがみ込み、

 

 照夫と目線を合わせた。

 

「照夫君。」

 

「……。」

 

「他にもね。」

 

「まだ帰れてない人がいるんだ。」

 

「だから。」

 

「迎えに行ってくる。」

 

 照夫は首を振る。

 

「行っちゃだめ。」

 

 真帆は少しだけ困ったように笑った。

 

「すぐ戻るから。」

 

 照夫の頭を優しく撫でる。

 

「約束。」

 

 照夫は何も言えない。

 

 ただ手を伸ばす。

 

 真帆はその手をそっと握り返し、

 

 炎の中へ駆け出した。

 

 数分後。

 

 建物が大きく揺れる。

 

「危ない!」

 

 轟音。

 

 崩落。

 

 炎が夜空へ舞い上がった。

 

「真帆さん!」

 

 誰かが叫ぶ。

 

 照夫は呆然と炎を見つめる。

 

「……真帆。」

 

「おねえちゃん。」

 

 返事はなかった。

 

 その瞬間、瓦礫の奥で。

 

 誰にも見えない場所で。

 

 「助けたい。」

 

 その想いだけが、静かに灰の中に残っていた。

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