NEW部設立録!   作:ココリンク

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2話

翌朝。

 

学校に着いた芽衣はすぐに職員室へ向かった。

 

コンコンコンとノックし、扉をびくびくしながら開ける。

 

「……ぁ…………ぇ……ぇぃ」

 

担任の先生──近江先生の席だと扉に背を向けてしまっている。

 

蚊の鳴くような声しか出せなかった。

 

小さく身ぶり手ぶりをしても気付かれない。

 

「どうしたの?

誰かに用事?」

 

優しそうな女性の先生に声をかけてもらえたが

 

「…………っ!?

あ……あ……お……おお……」

 

と下を向き口籠ってしまう。

 

「……? 大丈夫?

新しい学校だと緊張しちゃうよね。

誰先生か指させる?」

 

と女性の先生は身を屈め目線を合わせてくれた。

 

芽衣は下を向いたまま近江先生のことを指さす。

 

「……近江先生?」

 

女性の先生の言葉に芽衣はゆっくり頷いた。

 

「ありがとう。

次からは自分の口で頑張ってみてね」

 

女性の先生はそう言うと、近江先生のところへ呼びに行ってくれた。

 

 

「悪いな……後藤。

気付けなくて」

 

近江先生はプリントを1枚持って、急いで芽衣のもとへ来てくれた。

 

芽衣は相変わらず下を向いている。

 

「…………これ、昨日言ってた申請書だ。

いいか。ここに部活動の名前……それとここに活動内容。

一応、部費も申請できるしもっともらしい事……そうだな……教育的な建前があれば通りやすいだろ。

それと、部員を最低でも後藤含めて2人。

期限はないからいつでもいい。

提出してくれたら、職員会議で掛け合ってみるよ」

 

芽衣は近江先生の説明は緊張してほとんど頭に入ってなかった。

 

ただ言われたことにうんうんと首を動かすだけのマシーンになっている。

 

「……部員集めとか……なにか困った事があったら気軽に相談していいからな。

口じゃ難しかったら、この前みたいに……いや……ちょっとノートの切れ端じゃ困るから、メモ帳とか付箋とかそういうのにな。

……それじゃ、後藤の部活動期待してるからな」

 

近江先生は芽衣の肩を軽く叩くと、自分の席に戻っていった。

 

「……あ……あり……ありりや……

……した」

 

芽衣は“ありがとうございました”と言おうとしたができず、そのまま教室へと向かった。

 

 

 

昼休み。

 

芽衣はすぐにお弁当を食べ終わりトイレを済ませると、筆箱と申請書だけ持って、すぐに昇降口へ向かった。

 

場所は昨日、仁志と会った隅っこ。

 

待ち合わせの場所として選ばれたが、まだいないみたいだ。

 

(先輩……なにやってんだろ。

早く来てよ……!!)

 

芽衣はスマホを見て少しイライラしてしまう。

 

というのも昨日、車の中で母親に川に落ちたことをこっ酷く叱られたのだ。

 

溺れたらどうするのだとか、草むらの中には不法投棄されたガラスや瓶の破片があるかもだとか。

 

芽衣は口を尖らせて黙ってたが、仁志が告げ口したから怒られていると逆恨みしている。

 

 

 

「いたいた!

後藤!! 待たせた!!」

 

到着してから5分くらいしたら、仁志も着いた。

 

「先輩遅いです!!

余計なこと言うくせに行動だけは遅…………い……………」

 

芽衣は八つ当たりをし、強い口調で当たっていたが、仁志の後ろを見るとどんどんその勢いが弱くなる。

 

「……?

ああ、昨日のこと話したらどんな面白い後輩かって見に来た。

気にしないで」

 

仁志は10mくらい後ろにいる4人くらいワラワラ着いてきた男女を指さす。

 

芽衣は品定めするようなその視線が恐くて下を向き、なにもできなくなってしまう。

 

「……後藤? どうした?

もしかして邪魔か」

 

芽衣は小さく頷く。

 

「俺のときはあんなにガツガツしてたのに……。

人足りないんだろ? 勧誘もできていいんじゃないか?」

 

仁志は困惑した様子で訊くが

 

芽衣は頭を勢いよく横に振るだけ。

 

「おーい! チビだからって後輩いじめるなよ!!」

 

「いじめてねえ!!」

 

クラスメートの野次に仁志は青筋を立てる。

 

「おお……こわこわ」

 

仁志の叫びにクラスメートは、教室の方へと戻っていった。

 

仁志はその背中を睨みながら見送ると、芽衣の手に持つ申請書に目を向けた。

 

「とりあえず、これ書きに行くか?」

 

芽衣はただただ頷くだけだった。

 

 

野次馬は解散し、芽衣は仁志に連れられ図書室へ。

 

人も少なく穏やかな雰囲気。

 

優しそうな司書さんくらいしかいない。

 

芽衣は辺りを見渡し、人がいないと確信すると

 

「なんで連れてきたんですかバカ!!」

 

と怒鳴った。

 

「……え」

 

仁志は急な大声に驚き、司書さんに目を向け、すみませんと頭を下げると

 

「後藤……一応図書室だからな……声のボリューム…………。

連れてきたのは……ごめん。

大勢が苦手なタイプって知らなくて」

 

「大勢って言いますか……その…………

……………………とにかく書きましょう」

 

芽衣は仁志をこれでもかと睨みつけながら、申請書を机に置いた。

 

部活動名に活動内容はすでに芽衣が朝、記入しておりすでに書かれていた。

 

活動内容は

様々な遊びを通じて創造性や協調性、理解力を育み また、内容を動画化することによるエンタメ性や動画制作のスキルを学ぶ。

 

と記されている。

 

「へー……意外としっかりしてるじゃん。

………………?」

 

仁志は部活動名を見て目を疑った。

 

書かれていたのは“NEW部”という、何の部活動だかわからない名前。

 

「これ……NEWって……仮置きだよな?」

 

仁志は訝しげに芽衣に訊くが

 

「いえ。これがわたしたちの部です!」

 

と自信満々に言う。

 

「はじめは、レクリエーション部とか……動画投稿部とか迷ったんですけど……

そんなものでは型にハマらないほど、たのしいことがしたくてですね……それで思い付いたんです!

NEW部!!」

 

「……はあ…………」

 

あまりの突拍子のない考えに仁志は口をポカンと開け、呆れた声を出した。

 

芽衣はまたムッと拗ねると、申請書を表が見えないように両手で胸の前に抱いた。

 

「いいですよ。

別に先輩にはこれから新しいことの! “NEW”の素晴らしさ!! が分かりますから」

 

「……なんだよ…………そのNEWの素晴らしさって…………」

 

仁志は呆れながらそう言うと、ブレザーの胸ポケットからハンコとボールペンを取り出した。

 

「ほら、そこ。

署名欄あっただろ?」

 

「え?」

 

芽衣は申請書の下の方に目を向けた。

 

確かに名前を書くところ。

 

そしてその横に、保護者印と書かれた丸いスペースがあった。

 

「いや……だめですよ。

ここ、マ…………お母さんかお父さんに書いてもらうところじゃないですか」

 

芽衣は親に書いてもらうところを自分で書こうとズルしようとする仁志に注意した。

 

「あー。

俺の両親、そこんとこ甘いから。

昨日も変な後輩に、無理やり部

 

「変な後輩で悪かったですね。

宇宙人先輩」

 

「…………部活動入るって言ったら必要でしょ? って親がこれくれたわけ。

不正じゃねえよ」

 

仁志は芽衣の皮肉を無視し、申請書を渡すように手を出した。

 

芽衣は一瞬揺らぎそうになるが

 

「それでもだめです!

今日、わたしがわたしの家に持って帰って、ママに名前書いてもらってハンコ押してもらって、明日に先輩のをもらいます!!」

 

と毅然と言う。

 

「親に言えるのか?

お前、親と仲悪そうじゃん。」

 

仁志は心配そうに言う。

 

芽衣は不機嫌そうな顔をする。

 

「客観的な意見として、NEW部なんて名前を作りたいからサインしてって言われて“はいはい分かった”って親は少ないと思うぞ。

さっきだってNEWの素晴らしさとかわけわかんないこと言って

 

「うるさいです!!」

 

芽衣は否定されたような気持ちになり、思わず叫んだ。

 

仁志は思わず立ち上がり、反射的に芽衣を制止しようと手が行き場をなくしている。

 

「後藤。だからここ図書室……」

 

芽衣は申請書を机に叩き付けた。

 

「これはわたしが……わたしが……一歩踏み出す………………」

 

芽衣の目から涙が溢れ出る。

 

仁志はどうしたらいいか分からず、ひとまず  司書さんに軽く頭を下げると、芽衣を見上げた。

 

「もういいです……結構です。

700円ももういりません…………。

どうせ……どうせわたしなんかはじめから無理だったんですよ!!」

 

芽衣は申請書を机から薙ぎ払うと、走って図書室から出ていってしまった。

 

「おい! 後藤!!」

 

仁志は手を伸ばすが、すでに芽衣の背中は遠くにあった。

 

「あの子新入生?

どうしちゃったの?」

 

司書さんは目を丸くしながら、仁志に訊くが

 

「俺だってわっかんねえよ」

 

仁志は申請書を拾いあげると、片手で頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

芽衣は女子トイレの個室に駆け込んだ。

 

乱暴に扉を開閉し、鍵を強く押し込んだ。

 

涙が溢れて止まらない。

 

素直になれない自分が

 

頑張ろうとしても頑張れない自分が

 

結局変われない自分が嫌い。

 

 

芽衣はスマホを取り出す。

 

涙が画面を濡らしながら、メッセージアプリを開いて、仁志に送信した。

 

“お見苦しいところを申し訳ありません。

申請書は破り捨てて下さい。

昨日はごめんなさい。”

 

 

送った直後。

 

既読が付いた。

 

なにか返事が来る前にブロックをした。

 

 

 

芽衣はブロック完了のテキストを見ると、涙が更に溢れ、スマホをおでこに当てて声を殺して泣いた。

 

 

 

 

チャイムが鳴った。

 

昼休みが終わり、5時間目の授業の時間だ。

 

芽衣はヨロヨロと立ち上がった。

 

チャイムが鳴り止むギリギリで席に座れた。

 

たまたま机の中にシャーペンと消しゴムがあったから授業は問題なく受けられた。

 

問題なくいつも通り、緊張ですべてが右から左に流れる授業を。

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

芽衣はカバンの中に教科書とノートを詰めて、ゆっくりと教室から出た。

 

いつもと同じ。

 

変わらない。

 

誰とも話さず。

 

何もない。

 

そんな毎日。

 

たまたま、天がいたずらして期待を持たせただけだ。

 

芽衣は見えてるのか見えてないのか分からない視界の中で昇降口まで降りて靴を取った。

 

 

 

そのとき

 

「なんて顔してんだ」

 

幼い声がしたと思うと胸元に何かが当たった。

 

筆箱だ。

 

図書室に忘れていった、小学生の時に友達とお揃いで買ったお気に入りの筆箱。

 

その端には小さい手が見える。

 

「真面目だな。

消しゴムにもシャーペンにも一つ一つ年組番号書くなんて」

 

仁志だった。

 

芽衣は一瞬その顔を見るが、すぐに顔を逸らす。

 

「あれだけ昨日俺にしつこく勧誘してきたくせに、病み文章と即ブロックはないだろ」

 

仁志は呆れたように言うが、芽衣は筆箱を払い除け歩き始めた。

 

「名前も悪く言って悪かったって」

 

謝罪も聞かずに芽衣は歩みを止めない。

 

「………………後藤

 

「もう関わらないでください…………」

 

言葉が出ない仁志に芽衣はか細い声を出した。

 

「その筆箱も……捨ててください。

お願いです。

もう……わたし……………」

 

芽衣は言葉が詰まり喉が苦しくなる。

 

また涙が溢れそうになり、人が多い昇降口には居ていられず、走り去って行った。

 

 

仁志は芽衣の筆箱と申請書を持ったまま立ち尽くすだけだった。

 

 

「芽衣ちゃんに用事?」

 

後ろから女子の声がした。

 

仁志は振り返ると、3人組の女子が立っていた。

 

靴に履き替える前のようであり、上履きを履いている。

 

芽衣と同じ緑色。

 

中1だ。

 

「……ああ」

 

仁志は芽衣の後を目線で追いながら答えた。

 

「芽衣ちゃん。

けっこう人見知りでね。

昔は元気だったんだけど、4年生のころだっけか……?

ちょっと恥ずかしいことしちゃってから、元気なくして俯いてばかりで……。

励ましたんだけど……ずっと引き摺ってて何も話してくれなくなっちゃっててさ…………。

中学入ってイメチェンして元気になったかなって声掛けたけど、やっぱ俯いてばかりで…………

友達に戻りたいけど……あの子もあの子で頑張ってるからさ。

無茶はさせないであげて」

 

真ん中の子が、屈んで教えてくれた。

 

仁志は完全に同い年だと思われてると思い、少し引っ掛かったが、それ以上にその子の言葉が不思議だった。

 

「いや……昨日新しい部活作るから入れ入れってしつこく誘われたんだけど……」

 

仁志は1つの事実として、昨日の芽衣の様子を話した。

 

明らかに昨日の芽衣から仁志への関わり方は、元気をなくして俯いている暗い子ではなかったのだ。

 

女の子は唖然としたが、少し納得した顔をして、仁志の顔を指さした。

 

「もしかして……それじゃない?」

 

「人に向けて指差すなよ。

俺はこう見えても

 

「ごめんごめん。

芽衣ちゃん……たまに首振って答えてくれるときあるけど、そのときってだいたい目線外してるときなんだよね。

ほら、きみ。目が前髪で隠れてるでしょ?」

 

「え……?

これ……?」

 

仁志は訝しげに自分の前髪を触る。

 

「せいー。そろそろいくよー」

 

「ほーい! あ、ごめんね。

そろそろいかなきゃ……。

まあ……さっきのはあたしの推察だけとまね。

それじゃ」

 

女の子は友達に呼ばれて、仁志に手を振って駆けていった。

 

仁志はスチール製の下駄箱にぼんやりと映る自分の顔を見た。

 

たしかに、前髪で目は完全に隠れてる。

 

でもそれだけでと疑ったが

 

昼休みの自分の友達を連れてきたときの異様な萎縮や、時折芽衣の口から発せられた自己否定。

 

そして、NEW部という名前。

 

「部活動名を私的利用するなし」

 

仁志は苦笑いしつつも決意した。

 

 

 

 

 

 

公園。

 

小学生たちが元気にサッカーボールを追い掛けて走り回っている。

 

その隅のベンチで芽衣は1人ぼーっとその様子を眺めていた。

 

帰る気にもなれない。

 

かと言って行く宛もない。

 

このままずっとベンチに座り植物のように何もしないまま過ごしていたかった。

 

そのときに、転がってきたサッカーボールがちょんと芽衣の靴のつま先を突っついた。

 

「すみませーん」

 

手前の男の子が手を振っている。

 

蹴り返してほしそう。

 

後ろにはたくさんの友達が待ってる。

 

たくさんの眩しくて楽しそうな視線。

 

芽衣は思わず俯き、立ち上がり、サッカーボールに背を向けて逃げるように去ろうとした。

 

そのとき

 

背後から鋭い音がし、子どもたちのお礼の声が響いた。

 

芽衣はチラッと横目で後ろを振り返る。

 

仁志だった。

 

手に筆箱とポメラニアンの写真柄のクリアファイルを持ちながら、満足そうに小学生たちを見ている。

 

芽衣は迷惑そうな顔をすると、その場から立ち去ろうとするが

 

仁志は芽衣の手を強く掴んだ。

 

芽衣は必死の形相でもう片方の手で激しく抵抗した。

 

「キモい!! 離して!! もう関わらないで!! ストーカー!!」

 

仁志は芽衣のもう片方の手も優しく包み込み、顔を見上げた。

 

芽衣は涙でくしゃくしゃになった顔すらもう隠せず、仁志を見つめることしかできない。

 

芽衣の手の力が緩むと、仁志はクリアファイルから申請書を取り出し、芽衣に無理やり手渡した。

 

「破り捨てるなら後藤……自分自身で破れ」

 

芽衣は衝動的に申請書の上辺の真ん中あたりを両手で持ち、力一杯破ろうとした。

 

だが。

 

破ろうとしても破れない。

 

力が途中で抜けて、紙がへにゃって撓るだけ。

 

芽衣はしゃがみ込んでしまい、申請書を持ったまま顔を腕のなかに埋め、咽び泣いた。

 

「…………何があったか俺には知らない。

ただちょっとお前の友達から人見知りって聞いた」

 

芽衣は仁志の言葉に顔を上げた。

 

「せい……って、周りの女子から呼ばれてたかな?」

 

「……聖」

 

芽衣は仁志から出てきた名前を噛みしめるかのように復唱した。

 

「後藤が人見知りだってこと俺には信じられないけど……。

でも。ずっと頑張ってたって褒めてた」

 

「…………そんなわけ……」

 

芽衣はデタラメ言ってるのではないかと疑ってしまい、顔をそらした。

 

そこに

 

「ごめんなさーい。

ボール!!」

 

またサッカーボールが転がってきた。

 

仁志は芽衣の体に当たり前に足で受け止めてあげる。

 

「言いたくないことは言わなくてもいいし。

隠したいことあるんだったら隠し続けてもいい。

……でも」

 

仁志は思い切り脚を振り上げ

 

「少し顔上げて見ろ」

 

踏み込み思い切り

 

「1人じゃないっておも………」

 

蹴ろうとしたが、派手に空振りし勢いそのまま後ろに倒れた。

 

「ぶっ!!」

 

芽衣は良いこと言ってるふうな様子だったのにかっこつかない様子を見て思わず吹き出した。

 

そして、膝に手を当て立ち上がると

 

「えい!!」

 

と芽衣はサッカーボールを男の子の元へと蹴り返した。

 

ありがとうございます!! と言う明るい声を芽衣は背中で浴びながら、微笑む。

 

そして、申請書を脇に挟み

 

「先輩なにやってんですかー?

もう……ちゃんとやってくださいよ!」

 

と手を差し伸べた。

 

仁志はふっと笑うと

 

「悪い悪い」

 

と手を握り立ち上がった。

 

「あーあー、ズボン砂だらけですよ。

親に怒られちゃいますって」

 

と芽衣は甲斐甲斐しく、ズボンについた砂を手で払う。

 

「……あ、先輩そこ!

踵から血が出てます!

えっと……あそこ!

水で流しましょ!」

 

芽衣はカバンを肩にかけると、仁志の腕を掴み、連れて行く。

 

「いや……大袈裟。

唾つけとけば治

 

「ダメです!!

まったく!! 先輩はいい加減なんですから!!」

 

(川にダイブしてヘラヘラ笑ってた人に言われても)

 

仁志は内心そう思ったが、口に出すのは抑えた。

 

 

 

流し場に辿り着き、芽衣は仁志の靴と靴下をむりやり脱がせ、蛇口を捻り、強引に脚を持っていって傷口から砂を落とす。

 

「ほんと……真面目だな。

お前」

 

仁志は少し呆れた風に言うと、芽衣はムッとした顔になった。

 

「……さっきから気になってましたが…………

わたしは後藤芽衣なので。

“お前”じゃありません」

 

「…………あ。

そう。悪い」

 

「以後気を付けてください」

 

芽衣はそう言うと、ハンカチで水を拭き取り、カバンからポーチを取り出して、そこから絆創膏を引っ張り出した。

 

「女子力高いな」

 

「女子ですから」

 

芽衣は包装紙を破りながら言う。

 

そして、セパレーターを外すときにふと、仁志の顔を見上げた。

 

「………ッ!?」

 

芽衣は驚いた顔をすると、顔を伏せてしまう。

 

「? なん…………あ」

 

仁志も気付いた様子で、顔をそらした。

 

いつも前髪で隠れている目だが、下から覗いたため見えてしまったのだ。

 

(先輩なら大丈夫って思ったけど……これかあ……

てか、先輩の目すごいキュルキュル……!!

隠すのもったいない!!)

 

芽衣は自分でも初めてなんで仁志と話すのが大丈夫なのか気付いたと同時に、仁志の目が想像以上に丸っこくて可愛かったため、度肝を抜かれていた。

 

それでも、トラウマのことはまだ知られたくなかったため

 

「そ……そういえば……先輩。

なんでここわかったんですか?

先輩の家とは反対側ですよね」

 

と仁志の脚だけに目線を向けて話題を変えた。

 

「……ああ。

プロフィール写真、ここの写真だろ?

それで」

 

仁志はメッセージアプリで、芽衣が設定していた小2くらいのときに友達と撮ったこの公園での写真をヒントにして、探し回ったのだ。

 

「……は?

キモ。やっぱストーカーじゃないですか」

 

芽衣はドン引きした顔をして思わず口に出した。

 

「黙って着いてきて川に落ちた奴だけには言われたくねえよ」

 

仁志は少し怒った様子で言う。

 

「宇宙人って嘘ついた人には言われたくありません。

っていうか……秘密基地見せる言ってましたけど。

あれ、どうするつもりだったんですか?」

 

「あ……

ああ……あれ……」

 

仁志は言い淀みながら、ゆっくり口を開け

 

「あのまま、約束すっぽかしたらなんか有耶無耶にできるかなって」

 

芽衣はちょうど絆創膏を貼り終え、左手で脛を抑えると、右手で絆創膏の上から思い切り殴った。

 

「いて!! なにすんだよ!!」

 

「べつにー。

剥がれないようにしただけですけどー。

別に怒ってなんかいませんけどー」

 

「…………悪かったって」

 

「…………………………いえ」

 

芽衣は手をはたいて砂を落とすと、ゆっくり立ちあがり、真剣な顔で仁志を見た。

 

「あの…………ありがとうございます。

……………………これからも……NEW部部員として一緒に頑張っていただけますか?」

 

「まだ始まってないけどな」

 

「……一々うるさい」

 

せっかく勇気を出して言ったのに、細かいことを言われた芽衣はまた拗ねた。

 

「ほら! ここ書いてください!!

ペンとハンコあるんですよね!!」

 

そして申請書を仁志に押し付ける。

 

「ちょ……おま……いきなり……

だめなんじゃないのかよ……」

 

「わたしだって!! 名前変だって少し思ってましたよ!! ですけどこれでやりたいんです!! なので!! ほら!!

昨日ママを説得してくれた先輩の名前があればママに説明しやすいんですから!!

ほら!! 書いて!! はやく!! 書け!!」

 

「わかった……!!

わかったから!! 逃げないから落ち着け!!」

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