まだ人がまばらにのこっている2年生の教室を抜け、部室まで戻った。
芽衣はA4用紙に印刷されたポスターとチラシ大事に胸の前で抱えながら、扉を開いた。
仁志はブレザーを脱いで、ワイシャツやズボンの膝に埃をつけながら、雑巾がけをしていた。
「お、おかえり。
印刷できたか?」
仁志は顔を上げ、優しく微笑む。
「はい……」
芽衣は空返事すると机の上にポスターとチラシを置いた。
そして、目線だけ動かして部室内を見渡す。
思った以上に綺麗になっていた。
雑巾がけが行き渡っており、その前に箒で掃いたのか埃やゴミも少ない。
(部屋汚いくせに掃除はできるんだ)
芽衣はそう心の中で思ったが、褒める気持ちが出なかったため、口には出さなかった。
「どれどれ?
へー、意外といいな……後藤こういうの才能あるんじゃないか?」
仁志はポスターを見ると感心していた。
大きく目立つNEW部の文字と、視線誘導が効いた活動場所や“新しい遊びと学びを”というキャッチフレーズ。
小さくNEXT ENTERTAINMENT WISDOMと表示されており、しっかり意味も通せている。
芽衣は少し恥ずかしそうに下を向くが
「…………じゃあ。」
と、すぐに真顔になりチラシの山を仁志に押し付けた。
「じゃあ……ってなんだ?」
仁志は受け取らずにその意味を訊く。
「なにって……?
チラシ、はい」
芽衣は“なんで察せないのか”という呆れた顔をして仁志の手元にグイグイとチラシを押し付ける。
「俺がチラシもらってどうすんだよ……」
「配るんですよ。
…………はじめからそう言ってるじゃないですか」
「言ってねえよ……」
「ん……
さっさと行ってきてください。
先輩なんにもしてないんですから」
芽衣はチラシの山を仁志の腕に軽く何回も叩き付けて早く受け取るように催促する。
「なんにもって。
掃除してただろ」
「掃除なんて誰でもできるじゃないですか。
それに、ほら埃まだ残ってますよ」
「お前は姑か。
あれはまだ掃除し終わってないエリアなの」
「なんで終わらせられてないんですか……?
時間ありましたよね。
お家でもどうせ、汚いんですしママにやってもらってるんですよね。
ほら、先輩。
はやく」
芽衣はチラシの叩き付けの速度が速くなる。
仁志は芽衣からチラシを引き抜くように受け取ると、バンッ! と机に叩き付けた。
「…………あぶな……乱暴に扱わないでくだ
「後藤。
わるい…………退部していいか?」
「………………え……」
芽衣の頭が一瞬で真っ白になる。
この人は今なんて言ったのだろう。
退部──
たしかにそう聞こえた。
そんなはずは
聞き間違いではないだろうか。
「せ……せんぱ」
「お前とは付き合い切れない。
人に向かって何言ってもいいわけじゃないんだぞ」
仁志は芽衣に背中を向け、雑巾や箒、ちりとりを丁寧に片付け始める。
「せ……せんぱい…………?
何言ってるんですか…………?
はやく、このチラシ配ってきてくださいよ。
あはは」
芽衣は苦笑いしながら思わず乾いた笑いが出てしまう。
「自分で配れよ」
仁志はそう言いながら、掃除ロッカーを勢いよく閉めた。
大きな音が部室中に響き渡る。
「配ることなんか誰でもできるだろ?」
仁志は今にも殴りかかってくるのではないかと言う勢いで、芽衣に迫り
「それともお前には無理なのか?
なあ、後藤。お前に無理なんだろ?」
と顔を近付け言い放った。
「な……何言ってるんですか!!」
芽衣はまだうまく状況が飲み込めない。
仁志が自分に怒ってるという事実が受け入れられない。
ただの威圧だ。
こんな自分より小さい男子が反抗してくるはずがない。
「やれますよ!!
わたしにもやれますよ!!
見ててください!! こんなの1時間で全部捌き切りますよ!!」
見栄を張ってしまう。
そんなことできるはずがない。
「…………言ったな。
1時間で全部……4,50枚くらいあるけど。
全部ね」
仁志は口角を怪しく上げると
「いいよ。
今から1時間。行ってきなよ。
全部配りきったら謝る。退部も取り消す。
二言はない」
と言いながら椅子にドカンと座り、スマホをいじり出した。
芽衣は仁志の突然の横柄な態度に、不機嫌そうに顔を歪めると
「なにそれ……キモいんだけど」
と言い捨てると、乱暴にチラシを取り部室から出ていった。
それから50分くらい経った。
部室のドアが開いた。
仁志は雑巾を放り投げると、急いで座りスマホをいじり始めた。
教室の外には芽衣が立っている。
手には何も持っていない。
でもその顔に笑みはなかった。
体は震えている。
目も真っ赤だ。
(だめだったか……)
仁志はそう思いなにかかける言葉を探した。
「やりましたよ……
やりましたよ……! 先輩……!
わたし……配り終わりました……!!」
芽衣は震える声と、張り付いた笑みでそう言った。
「どうですか……?
やったんです……わたし……ほんとうに……ほんとうにほんとうに……わたし……やったんです!
さあ……先輩……あやまっ……て……謝ってくだ……さいっ!!」
芽衣は言っている間に目から涙が溢れた。
胸の奥が痛い。
喉が締め付けられる。
とてもとても苦しかった。
「後藤」
仁志は立ち上がると、芽衣のもとへ歩み寄り、肩に手を置いた。
「がんばったな。
えらい。1人で何でもできるんだな」
仁志は芽衣に微笑みかける。
芽衣は無意識に首を横に振ってしまう。
「どう謝ってほしい?
土下座でもするか?
それともダシにして一生俺をこき使うか?
“なんでもお申し付けください。後藤芽衣様”って」
「…………わけ……ない」
「……?
どうしましたー?
芽衣お嬢様ー?」
「……る……わけ……ない……」
「おーい、芽衣お嬢様ー?」
「できるわけないよ!!」
芽衣は大声で叫ぶと、俯いてしまい涙が止まらなくなった。
「ほんと……は…………1枚も……
1枚も……配れて……ない……………
ううん……配ろう……と……しても…………
しても…………しても………………」
芽衣は更に顔を下に向け、手で覆い隠してしまった。
仁志はその様子を見ると、ニッと口角を上げた。
「へー。
そう。配れなかったんだ。
嘘付いたんだな。
じゃ、条件未達…………。
タイマーは…………あと5分残ってるけどもう無理か」
仁志は戯けた様子でそう言い、リュックを背負うと、泣いている芽衣を横目にドアの方まで歩いた。
「いやあ……清々した。
これでもとの静かな毎日に逆戻りだ」
芽衣は啜り泣いてなにも言えない。
仁志はドアを開け、一歩外に足を出すと
「はあ……」
とため息をついた。
「どうせ最後なんだから、これ使っとくか。
使われ損だからな」
仁志は背中を向けたまま言う。
「“一生のお願い”
本音を聞かせろ」
芽衣は嗚咽を漏らしながら顔を上げた。
まだ仁志は背中を向けている。
一歩部室から外に出たままの状態で止まってる。
「ほ……んね……?」
芽衣は目を丸くし、仁志に顔を向けた。
本音ってなに。
何を言えば。
この人は何を言われたいの?
そういえばあれ言っとかないと。
「先輩……
前から…………思ってましたが……いくら濡れてたからってやっぱり服全部脱がすのおかしいですよね!!」
「……は?」
芽衣の言葉に仁志は思わず振り返ってしまった。
「あ……あのときは宇宙人だと思ってましたから……スルーしちゃいましたけど……
今思えばあのときから先輩変態じゃないですか!!」
「おま……」
仁志は体ごと振り返り
「ああもう……そういう意味じゃ……」
と頭をかきむしる。
「いつもいつもやり方が強引なんですよ!!
その癖してカッコつきませんし、昨日だってなんですか? あのへっぽこシュート!」
「お前……黙って聞いてりゃ調子のいいことを……!!」
仁志はリュックを下ろして、部室の隅に放り投げると芽衣に迫った。
「肝心な時には遅いですし……
っうわ!」
芽衣が話している間に、仁志は芽衣の胸ぐらをつかみ、引っ張った。
芽衣もムキになり、仁志のブレザーの背面を引っ張るとそのまま横に引っ張る。
「ちょっ……!
つよ……まてまてまて!!」
仁志は体が持ち上がりそうになりバランスを崩すと、足がもつれ床に倒れそうになるが
「きゃっ!」
反射的に仁志は芽衣の胸ぐらを引っ張り。
芽衣と仁志は重なるように倒れた。
「いってえ……何すんだよ……」
仁志は芽衣の肩を押して体をどかす。
「それはこっちのセリフです。
突然胸掴むとか意味不明」
芽衣は仁志を覆うように腕で体を支えながら、見下ろしている。
「……早くどけよ」
仁志は女子に襲われかけているような見た目が恥ずかしく、そう言うが
「嫌です」
と芽衣は真顔で言った。
「いいから……早く…………」
仁志は説得するように語りかけるように言うが
「ダメです」
と芽衣は頑な。
「…………はあ。
どかねえとマジで退部するぞ」
仁志は脅そうとしたが
「…………」
芽衣は仁志を睨むと
手の力を脱いて仁志に覆い被さった。
「うっ!!
重! 離れろ!!
潰れる!! 死ぬ!!」
仁志は芽衣の背中をバシバシ叩いて離れるように促すが
「ごめんなさい……」
と芽衣はしおらしい声を出した。
「…………後藤?」
仁志は手を止め、芽衣の息遣いに耳を傾ける。
「ごめんなさい……このままで……ちょっと。
いいですか?」
「………………(ダメに決まってるだろ)
ちょっとだけな」
芽衣は仁志の答えを聞くと、顔を仁志の胸の中に埋めた。
「わたし…………人の目が怖いんです」
ゆっくりと震えた。
それでいて、確固たる意志のある声だった。
仁志は芽衣の背中から手をどける。
「小4のとき……発表会で…………
その…………みんなの……前で。
おもらししちゃいまして…………
恥ずかしかったけど………………でも……そのときはみんな……気にしないでって…………
大丈夫だよ……って…………励ましてくれて」
芽衣の背中が大きく動いた。
仁志は胸元が濡れていくのを感じた。
「でも…………そのときの…………先生……が…………
次の日……に…………みんなに……………迷惑かけたからって………………朝の会……で…………
前に……立たされて…………あやま……されて…………
そのとき……の…………みんな……の…………目……が」
芽衣はそこまで言うと、号泣して何も言えなくなってしまった。
仁志は恐る恐るの様子で芽衣の背中に手を回し、ゆっくり優しくさすってあげた。
芽衣は体を起こし、手で涙を拭くと、涙でしわくちゃになった赤い顔を仁志に向けた。
「先輩…………たすけて」
掠れた小さな声だった。
「たすけて…………
わたし……がんばりたいのに……がんばりたいのに…………人が怖くてがんばれない……
トイレも……行きたくなくても行っちゃって……出なくてもまた漏らしたらって思ってずっとトイレから出れなくて……
でも……それが迷惑って……もうわたしわからなくて…………
ともだちとも仲直りできない…………
こわくて……こわくて…………こわくてこわくて!!」
芽衣は何度も何度も、手のひらを床に叩き付ける。
仁志は顔の横の音と衝撃に一切怯まずに、芽衣の言葉に耳を傾き続ける。
「わたし……なにもできない…………
先輩がいないとわたし何にもできない!!
部活動の申請書だって先輩がいないと提示できない……NEW部の名前だって通せない……チラシだって配れない……。
たすけてください……。
先輩…………お願いです。
退部……しないでください」
仁志はゆっくり優しく微笑む
「その言葉。
ずっと待ってた」
そして、芽衣の間から体を脱出させ、芽衣の正面に片膝立ちで座った。
「はじめからそう言え。
これからは八つ当たりするんじゃなくて、しっかりお願いしろ。
わかったな」
芽衣は真正面から言われると、気まずくなり顔をそらしてしまう。
「…………先輩に言われると……なんか、ムカつく」
「今のは聞かなかったことにする。
……なんて言った?」
芽衣は唇を尖らせながら、仁志に視線を戻しきちんと体も正面に向けると
ゆっくりと頭を下げた。
「ごめんなさい。
ありがとうございます……先輩」
仁志は満足したように頷くと
「よし……じゃ、チラシ取りに行くか」
と立ち上がった。
「……え?」
「チラシ。
どっかに隠してるんだろ?
今の時間じゃもう遅いけど、明日の朝、俺が早く来て配ってやるから。
どこにある?」
「………………教室。
机の中」
芽衣は顔を伏せて恥ずかしそうに言う。
仁志はリュックを背負ってドアの前で芽衣を待った。
「それ取ったら今日はもう帰るぞ」
「…………うん」
芽衣もカバンを肩にかけて、仁志を追い掛けた。
廊下はもう人の気配がない。
もう一週間経って少し見慣れたはずの教室前だが、いつもの喧騒がなくどこか違って見える。
「そういえば…………後藤。
なんで俺は平気なんだ?
髪で目が隠れてるからか?」
仁志は昨日、聖に聞いてから実際はどうなのか気になり、思わず訊いた。
芽衣は小首をかしげて
「さあ……」
とだけ言う。
「なんか……先輩は平気でした。
………………あ、じゃ先輩前髪ちょっと上げてみてください!
その時わたしがこわ……
………………いや……やめておきます」
芽衣は昨日下から覗いたときに、緊張したのを思い出し、自分からトラウマを発動させるのは嫌なため途中でやめた。
「なんだよ……。
ま……目が怖いなら試すこともないか」
「…………逆に先輩はどうして目を前髪で隠してるんですか?
あのときは宇宙の秘密を湛えるとかで」
「……いうな。
俺は……まあ、別に深い意味はないんだけど」
仁志は立ち止まり、照れくさそうに前髪を触った。
「なんですか……? 急に」
芽衣も立ち止まって不思議そうに仁志を見る。
「隠してると気になるもんだろ。
だから、たまに下から覗くやつがいるわけ。
そのときなんていうか……
見下してる気分になれて晴れ晴れする」
仁志の清々しい答えに、芽衣は顔を顰めて少し距離を取った。
「いいだろ!
普段見下されてるんだから!!」
「……先輩、さっきもでしたけど性格悪いですね」
「俺だって色々苦労してんの。
性格の1つや2つ悪いくらいが人間味あるだろ」
「たしかにわたしに負けるくらい非力でしたもんねー」
「…………後藤もいい性格してるよ」
話しているうちに、1-2まで来ていた。
芽衣はドアを開けると、すぐに席に向かいチラシを取った。
そして、恥ずかしそうにチラシで顔の下半分を隠しながら、仁志が待つ教室の外へ向かう。
「全部……いいんですか?」
「どうする?
やってみるか?」
「……いえ。
お願い……します……」
芽衣は今度は素直に少し恥ずかしがりながらも、きちんとチラシを手渡した。
「了解。
なんか、ターゲットとかあるのか?
こういう人がいいとか。
1年に絞るとか。
ある程度リサーチ利くから2年でも帰宅部に渡してみたりとかするか?」
「え……あ………………ええ……と」
芽衣は目が泳いでしまう。
来てくれれば誰でもいいと思っていたため、具体的に誰に渡したほうがいいとかを考えていなかった。
芽衣は下を向いて恥ずかしがりながら
「…………おまかせ……してもいいですか?」
と頼んだ。
「もちろん」
仁志は即答してくれた。
「…………じゃ、帰るか。
たくさん泣いて疲れただろ」
「…………赤ちゃんじゃないんですから。
大丈夫です!」
芽衣は言い返し教室から出ようとしたとき
無意識に後ろを振り返っていた。
視線の先は、聖の席だった。
「……後藤?
どうした? 忘れ物か?」
心配する仁志をよそに、芽衣はスマホを取り出した。
SMSの返信できていない聖からのメッセージ。
「先輩…………」
芽衣は不安そうな顔をし、仁志を呼び止めた。
「どうした?
まだ何かあるのか?」
芽衣はスマホを操作し、電話のアイコンをタップした。
「少し……あの…………。
いや…………なんといいますか…………
その。
そこに……いてください」
「……え?」
「そこに……いて。
お願いします……」
芽衣はそれだけ言うと、画面をタップしスマホを耳に当てた。
「え……
ごと…………」
仁志はもう少し説明が欲しかったが、電話する様子だったため、そのまま待つしかなかった。
芽衣の耳にコール音が鳴り響く。
心臓の鼓動も早まる。
長い長い3コールの途中で
「……もし………もし」
と甘い吐息と緊張した声が聞こえた。
「あ…………も……っ」
芽衣は思わず胸のあたりを抑える。
言葉がうまくでない。
喉が詰まる。
目を見てないのに。
「あ…………あ……あ……」
芽衣は声を出そうとすればするほど、息が苦しくなってしまった。
また嫌われる。
いたずら電話だと思われる。
もうこれ以上は……これ以上は。
「後藤……だいじょ
『芽衣ちゃん。
しっかり。
アタシの真似して』
仁志が声をかけたのとほとんど同じタイミングで、電話の相手──聖も芽衣に声をかけた。
芽衣がスマホを耳に押し当てるのをみて、仁志は一歩引いて見守ることにした。
『深呼吸……
すーーーー……はーーーーーーーー』
「す……すーー……す…………す……」
『大丈夫……大丈夫……。
あたしが付いてる。あたしがいるからね』
「は……は………はーーー……
す……すーーー……は………はっはーーーー」
『そう……上手。
もう少し……もう少しゆっくりね』
「すーーー…………はーーーーー
すーーー…………はーーーーー」
芽衣の呼吸が落ち着いた。
『ばっちり。
さすが芽衣ちゃん』
「…………ありがとう」
芽衣は呼吸が安定し緊張が解れ、やっと普通の声で聖と話せた。
『………………
こちらこそ…………!
ありがとう……! 芽衣ちゃん。
朝は……ごめんね』
「ううん。
わたしこそ…………ごめんなさい。
…………聖ちゃん。
ごめんなさい。わたし……まだ…………こわいのは変わらないと……思う。
教室行っても……まだ……話しかけたりできないと……思う。
目が合ったら……まだ……パニックになっちゃうと…………思う。
でも…………聖ちゃん…………また…………まだ……わたし…………
聖ちゃん…………と友達に戻れる?」
『…………もちろん……だよ
あたりまえ…………なんで……なんでそんなあたりまえのこと……2年間も言えなかったの!!』
「…………ごめん」
『ごめんじゃないよ……
ほんとに……ごめんじゃない』
「……ありが……とう」
『芽衣ちゃん。
なにがあっても友達だよ』
「……うん。
…………それ……じゃ…………バイ……バイ」
芽衣は急いで電話を切った。
そしてその場で蹲ってしまう。
「後藤……?
後藤! 大丈夫か?」
「先輩……」
芽衣は小さく声をかけると、真っ赤に上気し前髪を汗で張り付かせた顔を見上げて見せた。
「つかれた……。
つかれて……動けない……よ…………」
芽衣はそう言っているが顔は笑っていた。
「人と話すのって……疲れる……
もう動けないーー!
あーー……つかれたーーーー」
「……楽しそうだな。
保健室の先生呼ぶか?」
「どうしましょうか……あはは。
先輩どうしたほうがいいと思います?」
「俺に訊くなよ。
プロフェッショナルじゃないんだぞ」
「たしかにー。
…………先輩。ありがとうございます。
先輩が見てくれたから……わたし。
友達と仲直りできた…………気がします」
「そう。
よかったな」
「よかったですよかったです……
あーー、立てないーぜんっぜん立てないー!!」
芽衣は立ち上がろうとしたが、一日の緊張によってためていた疲労が一気に襲いかかっていたため体に力が入らなかった。
それでも芽衣は楽しそうに笑っていた。