たのしいひあそび 作:わたしは非ばなー
習慣化すると、複利で伸びるという自己啓発本は数多くあるけれど。
俺の配信は全く複利効果が感じられない。
「最初こそ人が来たし、アーカイブも再生されたのにな」
ひと月経って、チャンネル登録者数は30人。もちろん30人もの人間が俺のチャンネルを登録してくれたことはありがたい。
それでも、もてはやされる配信者は数十万人から数百万人の登録者がいて。
俺の好きな火花は、まだ数万人だけれど。一年後……それこそ幻月遊戯のころには超人気配信者になっているはずだ。
つまり、何が言いたいのかというと……
「全く人気が出る気がしねぇ」
仮面の愚者への招待として届いた仮面を、ロケットで吹っ飛ばしたのがピークだ。
あれは反応が良かった。主に仮面の愚者から。
数日後にまた仮面が送られてきた。招待に交じり「俺のも派手に使ってくれよ」と自分の仮面を送りつけてきたやつもいた。仮面ないと困るんじゃないの? 知らんけど。
しかし前からなぜか招待を受けていたけれど、俺は愉悦にふさわしいとは思えないんだよな。どちらかというと禁欲的で……あ、これだと弔伶人みたいだ。
まあ、どっちかに入らなきゃならなくなった場合は弔伶人だ。
俺は芸術にうるさい方だし、弔伶人のほうが芸術家っぽい。
この間も大好きなもふもふ号の二次創作小説を橋げたに書いてきたばかりだ。
もはや俺は新進気鋭の芸術家ともいえる。
ストリートアートはもはや古い。時代はストリートノベルだ。
そんな天才的な俺なので、きっと配信もバズりまくって銀河中の人々に夢と希望を分けられると思っていたのに。
最近の配信での同時接続数は5だ。
まあ、登録者数から考えたら悪くないのか。
「花火さんが言っていた名場面集の準備もやってみるか」
そんな花火さんだが、先週転校してしまった。
火花=花火を確信していた俺としては、寂しいというか残念というか。
仲良くなりたいというよこしまな思いも正直あった。五回くらい結婚式の妄想までいった。二回くらいは同じ墓に入った。
「まあ、過ぎたことはいいか。ひとまず面白い場面はぁ……」
「あのさぁ、バイト中だってわかってる?」
チャンネルのアナリティクス(再生数とか見られるやつ)を眺めながら動画内容を考えていると、横から鋭い声。厳しい声色にもかかわらず甘い可愛らしさが残っているきれいな声だ。
確かに、バイト中にやることではなかったことは事実だが。
「でも、ここ客なんて来ないよ」
「労働時間に対して給与をもらってるんだから。向き合い方ってのがあるんじゃない?」
見た目に反してまじめなことを言うバイト仲間の、スパークルさん。
見た目というのは、金髪に赤のインナーカラーという鮮やかな髪。私服も地雷系で、派手なものが多い。今は制服だけれど。
非常に小柄な女性だけれど、それでも顔立ちと口調、雰囲気から俺よりもいくらか年上だとわかる。
それはそれとして俺はため口だ。どうにも敬語を使う相手という感じがしないのだ。
先輩ぶりたいわけではないけれど、俺より後に来たバイトだというのもある。
「適当でいいんだよここは。だってここの店長は、バイトの女子高生にてんちょー……このままだと潰れちゃいますよぉーって言われたいから始めたんだし」
「本当に潰れちゃうんじゃない?」
「それは困るなぁ」
俺のバイト先の喫茶店は、先ほども言った通り数年前に店長が「女子高生にこのままじゃ潰れちゃいますよと言われるような、人が来なくてこだわりがある喫茶店をやりたい」と考えて作った店だ。
あたおか。
人が来なくてもいいからこだわりたい。ではないのだ。
人が来なくて、ついでにこだわりたい。なのだ。
どうかしてる。
しかし、人気配信者になってこの店を紹介して、信じられないほど忙しくするという嫌がらせを考えていたのに。
実現はしばらく先になりそうだ。
「潰れたら困るって、なんで?」
スパークルさんはからかうように、上目遣いで尋ねてきた。
彼女のことが気になってしまっているのが、ばれているらしい。
俺としてもつい最近花火さんがいなくなったばかりで、すぐに目移りするなんて最低なので自重したいのだが。
まあ、まだなんとなく気になるくらいだしセーフセーフ。
しかし俺はギャルには詳しい。ここで「スパークルさんに会えなくなるからです」って言ったら「は? きっしょ」と言われてジエンドオブ未来だ。
二次元ホース先生の同人誌で見たから間違いない。
ここは二番目の理由を言っておこう。
「いや、こんな楽な仕事ないからだけど」
「ひどーい。頑張っている店長さんに対して都合のいいATMだなんて!!」
「いやそこまでのこと言ってないし。そもそも引き出せるタイミングが決まっている時点で店長はATM以下だろ」
「ちょっと……煙火ちゃんのほうがひどくなってない?」
珍しく素で引いた様子のスパークルさんの背後。店長はしくしくと泣きまねをしていた。
ちなみに俺の言葉にショックを受けてのことではない。
「せめて煙火くんが女の子だったらなぁ」と嘆いてのことだ。
グレイの髪を撫でつけて、皴が深くも整った顔立ちと鋭い双眸からは知性を感じる。それが、どうしてこんな有様なのだろう。
マスターはどうでもいいや。
それより、今名前を呼ばれて、前から気になっていたことを聞いてみることにした。
「スパークルさん。俺にはあだ名をつけないの?」
「あだ名……? うーん、望まれてつけるのも違うかなぁ」
「あ、そう……」
スパークルさんが人を呼ぶときは、基本的にあだ名にちゃん付けなのだが、俺に対しては名前にちゃん付けだ。
とはいえ特別扱いされているわけではない。
例えば以前SNSでロビンさんを見ていた時は「ロビンちゃん」呼びをして、お忍びで俺に会いに来たジェイドさんには「ジェイド様」呼びだった。
偉い人や有名人に対しては名前予備なのかと思ったが、アベンチュリンさんのことは「孔雀ちゃん」呼びしていた。
俺に会いに来てくれたアベンチュリンさんと、仲良くけんかしていたのが気に入らない。
和気あいあいとギスギスしていたので、知り合いなのかアベンチュリンさんに聞いてみたのだが、知らない人だよという返事だった。
喫茶店のバイトがカンパニーの高級幹部と知り合いとは思えないので、本当に知り合いではないのだろうけれど。
「ちょっとー。それって煙火ちゃんもそうじゃない?」
「え? 今ナチュラルに思考読まれた?」
「アルミホイル巻いてないからだよ」
「じゃあ巻かなきゃ」
俺の場合は、普通にパッパとマッマがカンパニーでそこそこ偉いだけなのだが。
本当はおとなしくカンパニーに入って、P48くらいまで頑張って。
どうにかこうにかクリフォトと謁見して大笑いさせて、琥珀歴をめちゃくちゃにしてやろうと思っていたのに。
クリフォトはアホだって二次元ホース先生が言ってたし、笑えばバンバン鎚を振るうでしょ。
まあ、そんな陰謀はなぜかスターピースカンパニーにばれて、直接入社拒否申請が来た。
視点を変えれば、ワンチャンこいつはやれるかもと褒められたということだ。
本当はもう少しうっかり殺されそうなハプニングがあったのだが、高級幹部と仲良くなれたこともあってなんだかんだ有耶無耶になった。
もしもカンパニーに入ることがあった場合、アベンチュリンさんに絶対服従しますと誓約書を書いたのもある。あの人は悪いようにしないだろう。
いや、もう入んないけど。思考犯を裁くのはディストピアすぎるだろ。
そんな話をスパークルさんに話してみたら、爆笑してた。
これを配信で話せたらなぁ。インパクトあるのに。
「あ、そうだ。店長。明日休んでいいですか?」
「えぇ? 困るよぉ。明日は日曜日だし、前日に言われたんじゃあ」
「誰も来ないだろ」
「ひぃん」
店長とじゃれあっていると、くいっと袖を引かれて。
「明日何かあるの? デート?」
顔をぐっと近づけて、スパークルさんが言った。
心なしか警戒しているような気がする。いったい何をだろう。
「あ、いえ。えっと……明日は二次元ホース先生のサイン会に行くんです」
バージョン4が終わって、かつ書けそうなら続きます。