TSして魔法少女になったんだが、固有魔法が自己犠牲だった 作:一般通過魔法少女
6/22日
曇らせの良さについて語るには、ここでは余白が少なすぎる。
よって、私が魔法少女となった経緯だけを書くこととする。
ある時、突っ込んでくるトラックが見えたかと思えば、何が起きたかよくわからないまま気を失った私は、こじんまりとした暗い部屋で目が覚めた。
直後聞こえ始めた等間隔で鳴る電子音に腰を上げると、白い髪が見える。
結論から書くと、どうやら私は、一命を取り留めたらしい。だが、女の子になっていた。長めの黒髪、それがよく映える色の白い肌。小さくて細い指。どこからどう見ても幼女だった。
しばらく茫然としていると、扉が開く。とたとたという音と共に、黒髪長髪長身の眼鏡をかけた気の強そうな女が見える。
彼女は入って来るなり、私にこう言った。
「今日から君は魔法少女よ」
と。
その後、意味が分からないまま「見学してきなさい」と戦場に放り出された私が見た物は、現実では考えられない阿鼻叫喚の地獄だった。
たくさんの女の子達が、気持ちの悪い見た目をした異形の怪物たちと戦っていたのだ。
彼女たちは必死に呪文のような物を叫びながら、懸命に怪物と戦っていた。
しかし、いくら魔法が使えるといっても肉体はただの少女だ。
怪物の一撃を喰らって上半身が消し飛んだ子。
頭を叩きつぶされて、頭蓋が砕けた上に脳髄がはじけ飛んだ子。
それから、彼女たちの知り合いだったのか、泣き叫び欠損死体を抱きながら必死に名前を呼んでいる女の子。
これだ! 私が見たかったものはこれだった!
私はまるで、アニメでも見ているかのような気分で、泣きじゃくる女の子を眺めていた。
その日の戦闘は、結局何もできないまま、魔法少女が二人殉職して終わった。
6月23日。
昨日の眼鏡の女が、私の部屋にやってきた。
普通、魔法少女は手術によって生まれる物で、体がまだ安定していない私は、魔法を使う事も出来なければ、病室から出てその辺で自分の部屋を借りることも出来ない。
私の部屋に来た彼女は、とても残念そうな口調で、殉職した魔法少女の話をしてくれた。
上半身がはじけ飛んだ子は、優秀な魔法少女で、この辺りでは一番強かったらしい。だが、正義感が強く優しい一方で、自己犠牲をいとわない精神の強さも持っていた。
その結果、仲間を庇ったことで上半身を吹き飛ばされた。
頭を叩きつぶされた子は、彼女の友達だったらしい。見るも無残に死んでいった友人を見て、生まれた一瞬の隙を突かれ、肉薄していた怪物に頭を叩きつぶされた。
そして、泣いていた女の子は二人の後輩らしい。
魔法少女になったばかりの頃から彼女たちと共に行動していて、仕事としてではなく、プライベートでも付き合いがあるほどに仲が良かったという。
結局、彼女は塞ぎ込んでしまい、今日も部屋から出てこない。
が、戦場ではよくある話らしく、女は「魔法少女は消耗品なんだから仕方ないけどねぇ」とぼやいていた。
見舞いにでもいってやれとは言われたものの、そんな初対面の女の子とまともに話せるものか、と断った。
6月24日
よく考えたら、友達が死んで塞ぎ込んでる女の子ってかわいくない?
という事で、お見舞いに行ってみることにした。
彼女が借りているというアパートに向かうと、思ったよりすんなりと部屋に上げてくれた。
彼女の名前は、リノというらしい。漢字はわからないのでカタカタで書くことにする。
リノは、初めて出来た後輩だ、と私をもてなしてくれた。が、その表情はどこか虚ろで覇気が無い。
私が、死んだ二人の魔法少女の話をすると、彼女はつらつらと二人の話をしてくれた。が、途中で泣き出してしまった。
かわいい。
私は彼女を慰めながら、「私も先輩の後輩としてがんばります」というと、「死んじゃだめだよ。無理だと思ったら逃げないと」とアドバイスしてくれた。
もし、私が彼女の前で死にかけたら、彼女はどんな反応をするんだろう。
と、内心でわくわくしていた。
6月27日
特に書くことが無かったので、しばらく日記を執っていなかった。
今日は、私の適性検査と退院の日らしく、私に発現した固有魔法がわかるらしい。
黒髪眼鏡の女が渡してくれた細いステッキを持って、体育館のような場所に向かうと、そこにはリノがいた。
どうやら、先輩として私の様子を見に来てくれたらしい。
「あの的に向かって放つのよ」
と女が言うので、彼女に言われた通りに長い呪文を朗読すると、杖の先端が光り始める。
そして、小さな火の玉が発射され、見事に的を撃ち抜いた。
「すごい!」とリノがはしゃいでいる。友達の事は切り替えられたのだろうか。
それから、一度詠唱すると、杖が魔法を覚えるらしく、慣れてくると、最終的には魔法の名前を詠唱するだけで使えるようになるらしい。
その後よくわからない実験室で眠った後、帰ってきて病室で待機していると、女がやってきて一枚の紙を渡してくれた。
それには、私の固有魔法と発動するための呪文が書かれているらしい。どういう原理かは教えてくれなかった。
彼女が帰った後、封筒を開けて私の固有魔法とやらを見てみた。
そこには、こう書かれていた。
『
使うとどんな攻撃も致命傷一歩手前で受け流し、自分に攻撃した相手に致命傷を与える、というカウンター魔法。なお、カウンターを入れるかどうかは私が決められる。
ゲームっぽくいうなら、HP1で耐える代わりに敵を倒すことも出来るよ! みたいな感じだろうか。
連発できるわけではないから、戦いでは役に立てなそうだ。
が、頭の中には、先日の戦いで友達が二人死んだリノの事が浮かんでいた。
リノの前でこれを使って私が死にかけたら、リノはどんな反応をするんだろう……。
決めた。リノの前でいつかこれを使おう。
6月30日
先日リノの友人を殺した怪物がまた現れた。女が私とリノと他何人かを連れて、現場に向かう。
怪物の名前はトロール。群れで行動する魔物で、異常に発達した筋肉であり得ない威力の打撃をするらしい。
中でも群れのボスであるシルバーバックと呼ばれる個体は、他のトロールに比べて老獪で賢く、これまでに多くの魔法少女を死に追いやってきた、いわば魔法少女の宿敵であり、リノの友人を殺したのも、このボスだという。
復讐に燃えるリノの隣で、いつどんなタイミングで自己犠牲を使うのがいいかなぁと内心わくわくしていた。
7月22日
目が覚めたら病室にいた。
しばらく病室で寝っ転がったり起きっぱになっていた漫画を読んで時間を潰していたら、白いセーラー服を着たリノが泣きながら部屋に入ってきた。学校を早退してきたらしい。
「一月くらい寝てたんだよ!」と言いながら、私のお腹辺りに顔を押し当ててぐすぐす言っている。かわいい。
あれからリノは、自分の固有魔法の弱点である発動までに時間がかかることをなんとかしようと、魔物が現れない日でも毎日魔法の練習をしているらしい。
近々大規模な魔物の襲撃が起こるかもしれない、と空気がぴりぴりしていて、ネット上でも魔法少女に対する嘘か本当かわからない噂話が盛んに投稿されている、と教えてくれた。
大変な職業なんだなぁと他人事のように思った。
それから、目覚めたら二階級特進していた。どうやら、ガチで死んだと思われていたらしい。
三級の魔法少女から、一級の魔法少女になっていた。本来なら何かしらの武勲を立てなければ上がらないそうだが、仲間を庇って殉職しかけたことで、上が栄誉をたたえてくれたそう。
自己犠牲しか能がないのに、あまりにも身の丈に合わな過ぎる。
7月26日。
ここしばらく魔物の襲撃が無いから、思い切って最近ずっと浮かない顔をしていたリノを遊びに誘ってみた。
リノは普段中学生をしているらしい。この前病室に来てくれた時は、学校をわざわざ早退して駆けつけたと言っていた。
よくわからないけれど、相当大事に思われているっぽい。後輩ってこんな感じなのかな。部活の経験がないせいで、先輩後輩の普通の関係がわからない。
7月27日
蝉の声が日に日に強くなっている。こんな状況でも、蝉は変わらず羽化するらしい。
といっても、今の日本で安全なのは魔法少女の本部がある東京近郊、つまり関東と、支部がある大阪を含む関西だけらしい。
地方の復興を進めようにも、魔物が多くて迂闊に近づけない、と眼鏡の女がぼやいていた。
今日は特に何もなかった。
7月30日
今日は特に何もなかった。
8月8日
今日も特に何もなかった。
9月22日
存在を忘れていて、しばらく筆を執っていなかったが、書けそうな出来事が起きたので再開。
魔法少女として何度か魔物退治に向かっていく中で、眼鏡の女があたらしい魔法少女を連れてきた。青髪の中学生っぽい女の子だ。
つん、とした態度をしているが、腹の中に底知れない何かを抱えていそうな、薄幸訳アリ美少女、って感じの見た目をしている。
決めた。次はこの子の前で自己犠牲を使おう。