これは、ある一人の少年が生徒たちに救われる物語。
そして、成長した少年がキヴォトスを救うまでの物語。

序盤の主人公がかなり暗いため、ご注意ください。

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第1話

【現実世界:通学路】

(死にたい死にたい死にたい...死にたい!)

(楽になりたい!学校怖い!消えてしまいたい!)

 

 

鉛のように重い足を引きずり、学校に向かう。

(もう何もかもがいやだ!でも、死ぬのは怖い。でも、楽になりたい。)

中学に入学後、すぐに始まった苛烈ないじめにより、少年の心は壊されていた。

 

『死にたい』という欲求。それに相反する『死ぬのが怖い』という怯え。その2つが、少年の心の中に同時に存在していた。

『死ぬのが怖い』、この考えがあったからこそ、最後の一歩を踏み出してはいなかった。

だが、その一歩を踏み出してしまうのは、時間の問題であった。

 

いつもの通学路を歩いていた少年。

突然、目の前に見知らぬ女性。いや女子高生と思しき少女が立っていた。

「こんにちは。〇〇くん。」

「どうして僕の名前を...」

「ふふふ。お気になさらないでください。」

アニメでしか見たことがない、青い髪。そしてピンクのインナーカラー。

白いコートのような服と、白い編み上げブーツ。

そして、彼女の頭上には謎の幾何学模様が浮かんでいた。

 

「辛かったですよね...〇〇くん。でも、もう大丈夫ですよ。」

「あなたは...一体...いや、騙されないぞ!そう言ってあなたも僕をバカにする気なんだ!!」

しかし、彼女は慈愛に満ちた目で、少年を見ていた。

そして、こう話しかける。

「とても素晴らしいところにお連れします。」

「ですから----行きましょう、〇〇くん。すべての『愛』がある場所へ。」

直後、少年の視界は白い光で覆い尽くされた。

 

 

 

【シャーレビル:執務室】

「ついにこの日が来てしまったか...」

カレンダーに書かれた印を見て、そうこぼす先生。

(私が彼と対面した時。私は今まで通り平静を保てるのだろうか...)

スマホを取り出しながら、そう考えた。

「ちょっといいかい。頼みがあ-----」

 

 

 

 

【とある学園自治区:裏路地】

僕はゴミ箱の裏にうずくまっていた。

スケバン達を振り切ったものの、いつ見つかってしまうかわからない。

僕は、声が出ないようにと、必死になってこらえていた。

不運なことに、逃げる際に足を捻挫し、強い痛みを感じていた。

もう、逃げることはできなくなっていた。

 

(なんだよこの世界!なにが『すべての愛がある場所』だよ!まるで戦場じゃないか!)

叫びたくなる衝動をこらえ、起きた出来事を思い出す。

 

 

 

 

~~~~

白い光が消えた時、目の前には信じられない光景が広がっていた。

ぱっと見は、日本によくありがちな町並みだった。

しかし、明らかにおかしいところがあった。

ロボット人間、大きな鳥や犬のような獣人。

さっきの女性と同じように、頭の上に幾何図形が浮かんでいる少女達。

 

「ここはどこ?それにいったい...君は何者なの?」

さっきの少女に疑問を投げかける。

しかし、返事はなかった。

彼女の姿は、忽然と消えていたのだ。

 

 

「見ない顔だな。お前何者だ?」

「なにジロジロ見てるんだ?ヤんのか?」

視線の先には彼女ではなく、スケバン達がいた。

今までの経験から、反射的に逃げ出す僕。

しかし、それは最悪の選択であった。

 

「おい!どこに行く気だ!」

「とっちめてやる!」

「ぼくちゃん~、一緒にあそびましょうね~」

スケバン達が、銃を手に追いかけてくる。

 

(エアガンを持ってる。痛いのは嫌だ!)

バンバンバンバンバンバン

銃撃音が鳴り響く。

 

その音は、明らかに玩具の音ではなかった。

「え?」

状況の理解が追いつかない中、目の前の車に無数の穴が開く。

ガソリンに引火したのか、撃たれた車が燃え出す。

(エアガンじゃない...もしかして、実銃!?)

それを見て、本能的な恐怖を感じる。

 

(やばいやばいやばい!逃げなきゃ殺される!)

「死にたい」と考えていたはずなのに、『生きていたい』と強く願った少年。

生まれて初めて、『生きていたい』と本気で思った瞬間だった。

 

 

 

 

~~~~

「見つけたか?」

「手分けして探せ!」

辛うじて、隠れることには成功した少年。

だが、捻挫した足では逃げられない。

どんどん大きくなる足音。

見つかるのは、時間の問題だろう。

(もうおしまいだ...)

 

「あっ、み~つけた!」

遂に、スケバンの一人に見つかってしまう。

続々と集まってくる、スケバン達。

死の恐怖におののく少年。

その時だった。

 

 

「救護!」

叫び声とともに、スケバンの一人が吹き飛ぶ。

(?????)

何が起きているのか、理解不能になった。

「セリナ!ハナエ!その子を保護してください!」

「私はこの方達に...強度の高い救護を施します!」

直後、残りのスケバン達も次々と吹き飛ばされる。

 

「了解です。団長!」

「もう怖くないですよ。少し痛むかもしれないですが、我慢してください。」

三人の少女、いや三人の天使がそこにはいた。

 

すべてに見捨てられた少年は、この時初めて救われた。

だが、この時はただ一人を除いて、誰も知らなかった。

救われたのは...少年だけでなかったことを。

彼女たち...いや、キヴォトスすらも救われることになることを。

 

 

 

 

【トリニティ総合学園:保健室】

「んっしょ、終わりましたよ。治るまで、安静にしていてください。」

怪我の処置を終え、少女が少年に話しかける。

それに対し、怯えた様子で答える少年。

「どうしました?」

少年の視線の先には、可愛らしく装飾された銃があった。

「もしかして、『キヴォトス』の外から来られたのですか?」

「きゔぉとす?」

「やっぱり!安心してください、あなたを傷つけるつもりはありません。」

「学園都市キヴォトスです!それが、この世界の名前です!」

「ここでは、銃を持ち歩いているのが常識なんです。裸で出歩いている人よりも、銃を持たずに歩いている人のほうが少ないくらいですし。」

「水着で徘徊される、変わった趣味の方もいらっしゃいますが。」

 

「そう言えば、お名前を伺っていませんでしたね。私は鷲見セリナといいます。」

桃色の髪をした少女が、自己紹介をする。

「〇〇といいます。」

「〇〇くんですか。ん、〇〇?」

「どうしましたか?」

「いえ、何でもありません。ただ、ある方と同じ名前だなと思っただけです。」

「〇〇くんは、どういった経緯でキヴォトスに来られたのですか?」

セリナの質問に対し、少年は、謎の少女に出会ってからのことを説明した。

 

 

 

 

~~~~

「見知らぬ方に、いきなり送られてきた...ですか。」

「ということは、行く当てがない状態なのですね?」

「そうです。」

途方にくれる少年。

 

その少年に質問するセリナ。

「少し話は変わるのですが...。何発くらいまでなら、銃で撃たれても大丈夫ですか?」

「はい?」

「ですから、『どのくらいなら気絶しないか』をお聞きしているのです。」

「?????一発でも撃たれたら、死にますよ。」

 

「耐久力も、先生と同じくらいですか...」

思案しているセリナに、少年は問いかける。

「セリナさん...でしたっけ。そういうあなたは、撃たれても大丈夫なんですか?」

「何十発も撃たれたら気絶しますね。でも数発なら全く問題ありません。」

「セリナさん、どれだけ体が頑丈なんですか...」

「?別に頑丈ではないですよ。他の方たちと同じくらいですし。」

「中には何百発も撃たれても平気だったり。テルミット爆弾で燃やされても、大砲で撃たれても、傷一つつかない方もいますよ。」

「あなた達は、不死身なんですか?」

「不死身ではないですが...通常兵器で死ぬことは、まず無いですね。」

「……」

セリナの口から放たれる、言葉の数々に圧倒される少年。

 

「ひとまず、暫くの間はここに滞在していてください。団長には、私から伝えておきます。」

「落ち着いたら、先生にこれからのことを相談しに行きましょう。」

そう言い、セリナは退室する。

こうして、長かったキヴォトスでの最初の日は、終わっていった。

 

 

 

 

 

~~~~

次の日

 

「楽になりたい...消えたい...」

状況が落ち着いたことで、少し考える余裕ができた。

だが、それは少年に悪い影響を及ぼしていた。

余裕ができたことで、一時的に頭から消えていた『死にたい、消えたい』という考えが、復活してしてしまったのだ。

 

「朝ごはんをもっt、どうしたんですか!〇〇くん!」

闇夜よりも暗い顔をした少年に、セリナは驚く。

「もう楽になりたいんです。僕なんか、いなくなった方がいいんです!」

ただならぬ様子、そして、尋常ではない発言を放つ少年を、セリナは抱きしめる。

 

「大丈夫です。大丈夫なんです!この部屋には〇〇くんを傷つける人はいません。」

「〇〇くんが怖がると思って、銃も置いてきました。安心して、セリナお姉ちゃんに身を委ねてください。」

『愛』や『優しさ』を失っていた少年には、彼女の献身的な心が、とても暖かいものに感じられた。

 

「ゆっくり、ゆっくりでいいですから...何があったのか、教えてください。」

「言いたくないことは、言わなくていいです。話せることだけで大丈夫です。」

「全部受け止めてあげます...怖いものは、ここには無いんですよ。」

少年は促されるまま、すべてを打ち明けた。

中学に入って、すぐにいじめを受けたこと。

最初は庇ってくれた友達も、段々といじめる側になっていったこと。

内容もどんどんエスカレートしていき、すべてが嫌になったこと。

 

 

そして、その所為で『自殺』することばかり、考えるようになったこと。

 

 

すべてを打ち明けた少年にセリナは語りかける。

「辛かったですね。そんな状態じゃ、死にたくなるのも当然ですよ。」

「でも、もう大丈夫なんです。キヴォトスには、いじめてきた相手はいません。」

「少しずつ、少しずつでいいですから...人生を取り戻していきましょう。

 

 

この時の彼女の温もりを、私は一生忘れないだろう。

そして、この日を境に、私は人生を取り戻していくのであった。

 

 

 

 

【トリニティ総合学園:広場】

キヴォトスに来てから、二週間が経過した。

 

「キヴォトスが、どういうところなのかわかった?」

説明を終えたハナエが、少年に問いかける。

「元居た世界とかなり違いますが、大体分かりました。」

「それにしても、〇〇くん、ずいぶん元気になったね!みんな心配してたけど、なんとか立ち直れてくれたみたいで嬉しい!」

救護騎士団による献身的な治療により、少年はかつての明るさを取り戻しつつあった。

 

 

雑談に花を咲かせる二人。

その時、三人の少女が少年に話しかける。

 

「はじめまして、〇〇さん。桐藤ナギサと申します。」

「君が〇〇くんだね。私は百合園セイアという。以後お見知りおきを。」

「聖園ミカだよ。よろしく☆」

自己紹介をしつつ、少年に近づく三人。

 

「少々お話したいのですが、お時間よろしいでしょうか?」

ナギサが少年に話しかける。

 

 

 

 

~~~~

「となると、今まで通り救護騎士団の元に置いておくべきだね。」

セイアがつぶやく。

 

『少年の保護をどの組織で行うか』それを決めるために、ティーパーティーの三人は少年の元を訪れた。

しかし、ハナエから詳しい事情を聞いた三人は、他の組織では対応しきれないことを悟る。

そのため、これまで通りにすることを決めた。

「それでは失礼いたします。」

ナギサがそう告げ、話を終えた、ナギサとセイアは去っていった。

 

「〇〇くん、私とちょっとお話しよ☆」

「実はね、私も似たような境遇なんだ。」

一人残ったミカは少年に話しかける。

その目は少し昏かった。

 

「私もね、実はいじめられているんだ。」

「大事にしてたアクセサリーを燃やされたり、水泳の授業の前に、水着を切り刻まれたり...」

「他の子達に『魔女』って言われて、バカにされたり...」

「でもね。〇〇くんみたいに、死にたいとは思わなかった。なんでだと思う?」

問いかけるミカ。

 

「僕が受けたものほど、酷くなかったからですか?」

「それもあるかもね。でも、それだけじゃないんだよ。」

「私には、心の支えになる人がいるんだ。」

「何があっても助けてくれた、ナギちゃんとセイアちゃん。」

「それに、命がけで助けてくれた先生。」

「みんなのおかげで、今の私が生きていけてるんだ。」

 

「〇〇くんは、元いた世界には助けてくれる人がいなかったみたいだけど...」

「でも『キヴォトス』にはいるでしょ!」

「ここでなら、全部やり直せるんじゃないかな!」

 

ミカは続ける。

「ねえ、一度『先生』に会ってみない?」

「みんな『先生』に助けられてるし。〇〇くんのことだって、きっと助けてくれるよ!」

少年は静かに首を縦に振った。

 

頷く少年を見ながら、ミカは一人考える。

(私に非があることは、敢えて伝えなかったけどね。)

(だって、伝えたりしたら、〇〇くんが『自分のせいだ』なんて考えちゃうだろうし。)

(これで良かったんだよね、先生?)

 

 

 

 

【シャーレビル:執務室】

「やっはろー、先生☆」

「やあ、ミカ。それに君が、〇〇くんだね?」

ミカとともに、シャーレを訪れた少年。

二人を出迎えたのは、サングラスをかけた先生であった。

 

「ミカ、少し席を外してくれないか?」

「いいよ。先生。また後でね☆」

ミカが退出するのを見届け、先生は話し始める。

 

「実はね。私も中学時代いじめられていたんだ。」

「君みたいに、『死にたい』と思ったことも何度もある。」

「でも、そこから立ち直れた。なんでだと思う?」

「ミカさんみたいに、誰かが助けてくれたからですか?」

少年は、問いに対して答える。

 

「半分正解。」

「確かに助けてはもらった。でも、それだけじゃない。」

「『強い信念』を持ってたから、耐えることができた。そして、すべてを解決させられたのさ。」

「『何を成し遂げたいのか?』その信念こそが重要なんだよ。」

「〇〇くん、『信念』ができるまで、私と一緒にキヴォトスを巡らないかい?」

 

 

 

 

~~~~

その日から、少年は先生の仕事について行くことになった。

ある時は、生徒間のいざこざを解決した。

またある時は、学園内での問題に対処した。

ときには、先生の作戦指揮を近くで見守り、効果的に生徒を動かす方法を学んだ。

 

そんな生活が半年ほど続いた。

その頃には、すべての学園を巡り終え、大半の生徒の顔と名前が一致するようになっていた。

少年は、おもむろに先生へ話しかける。

 

「先生。僕は先生みたいな大人になりたいです!」

とても満足した表情で先生は答える。

「そう言ってくれるのを期待していたよ。」

「そんな〇〇くんに、大事なことを教えるよ。」

「それはね。『何があっても生徒たちを信じる』ことだよ。」

「生徒たちはまだ『子ども』なんだ。だから、とにかく信じ切る。」

「そして、生徒だけでどうすることもできなくなったら、その時は『大人』の出番さ。」

「私たちが『大人』として責任を取って、『子ども』を守るのさ。」

 

そう言った先生は、寂しそうな目で少年を見つめる。

「そろそろ時間だね...〇〇くん、さようなら。」

「先生!一体何を言って?」

「そのままの意味さ。大丈夫、すぐにまたここに来れるよ。」

「少し、過去になr」

 

話が終わる前に、少年の視界は、白い光で覆われた。

 

 

 

 

【現実世界:通学路】

「夢...だったのかな?」

目が覚めた時、キヴォトスに行く直前の光景が広がっていた。

いつもと変わらない通学路、来たときと同じ時間帯。

それまで通りの日常が、そこにはあった。

 

だが、一つだけ決定的に違うことがある。

キヴォトスで過ごした経験により、いじめという困難に立ち向かう力を得ていたのだ。

楽な道ではないだろう。

だが、今の彼であれば、乗り越えることができるだろう。

 

「僕、いや私も、先生のような大人になろう!」

少年は、新たな一歩を踏み出す。

 

 

 

 

【サンクトゥムタワー:連邦生徒会本部】

「ちょっと待って!代行!見つけた、まってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

「首席行政官。お待ちしておりました。」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得の行く回答を要求されています。」

 

首席行政官と呼ばれた少女に詰め寄る、四人の少女。

その少女の傍には、一人の大人が立っていた。

 

その大人を見て、一人の少女が問いかける。

「ちょっと待って。そういえばあなたは誰?」

問いかけに答える大人。

 

「こちらの〇〇先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」

『先生』の紹介を行う、リン首席行政官。

「これからよろしく。また会ったね、みんな!」

 

「『また会った』とはどういう意味ですか?」

「ごめん、気にしないで。」

半信半疑ながらも、先生の指示に従う少女達。

 

(私は、キヴォトスの生徒たちに救われた。)

(生きる意味、そして困難に立ち向かう力をもらった。)

(これからは私が、彼女たちを。いや、キヴォトスそのものを救ってやる!)

決意を胸に、かつての少年は『先生』として歩み始める。

 

 

(『先生』いや『未来の私』、これこそが私の使命だったんですね。)

 

 

 

 

 

この話は『終わり』ではない。

ここが『始まり』なのだ。

 

メインストーリーに続く。




後書き


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「先生」が、全生徒の名前を把握していたり、来てすぐに戦闘指揮をできたこと、それらへの違和感からこのSSを書きました。
本編の前に、「こういったやり取りがあったのかなー」と妄想してみました。
繰り返しになりますが、駄文を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

SSの長さはどう感じましたか?

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