「大きな作戦の前はね、出前の注文が増えるんだよ。
でね? あの頃の国防合同庁舎、それはもう沢山注文を寄越してさ。
それでも、出前に行くのはイヤでね。
あの頃の国防合同庁舎、とにかくピリピリしていて、まるで戦場のよう。」
――『群像:帝国暦一九世紀という時代』より。
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帝国暦一八一九年六月十四日、帝都バーレンハイム、国防合同庁舎。
この国防合同庁舎は、帝国暦一八〇〇年を記念して造営された、比較的近年の建造物である。
帝国軍においては、国防省、陸軍省、海軍省、帝国軍総司令部、陸軍参謀本部、海軍統帥本部、これら六つの軍政・軍令組織が並立している。
国防省と帝国軍総司令部は全体の統合運用を担い、陸軍省と陸軍参謀本部は陸軍の運用を、海軍省と海軍統帥本部は海軍の運用を担った。
かつてこれらの庁舎は、その歴史的経緯により帝都バーレンハイム各所の四つの建造物――国防警察合同庁舎(国防省および内務省の合同庁舎)、陸軍省庁舎(陸軍省単独の庁舎)、参謀合同庁舎(帝国軍総司令部および陸軍参謀本部の合同庁舎)、海軍合同庁舎(海軍省・海軍統帥本部)――にそれぞれ分立し、相互の連絡は悪く、したがって陸海空統合指揮は夢のまた夢と言われた。
国防警察合同庁舎は入居者双方にとって手狭である。元来内務省庁舎だった建物に強引に国防省を開設したことから、建物内の動線は破綻している。そして、国防省は警察を、内務省は帝国軍を、それぞれ潜在的な叛乱分子として内偵しており、同居人をそれぞれ監視し合うような居心地の悪さがあった。
陸軍省庁舎は広々としている。陸軍参謀本部が参謀合同庁舎へ転出してから、国防省は陸海平等の建前から陸軍省庁舎に入居することを拒否し、機密保持の観点から軍事・治安系でない官庁を入居させることも躊躇われた。したがって空室ばかりが目立ち、空間の無駄遣いと揶揄された。「陸軍省では、空室に戦死者の幽霊が出る」といった幽霊話の類が度々陸軍省の広報誌の紙面を飾った。
参謀合同庁舎と海軍合同庁舎は明らかに過密である。元来、陸海軍統合指揮と軍令部門の連携強化を目指して参謀合同庁舎を建設したものの、陸海軍の予算折衝の帰結として庁舎建造費は雀の涙となり、いざ部屋割をしてみると明らかな空間不足が露呈して、すでに引っ越し準備を始めていた陸軍参謀本部が優先して入居し、残りを帝国軍総司令部が占めることと協定が結ばれた。結果、行き場を失った海軍統帥本部は海軍省庁舎に居座る事となり、海軍省は庁舎の名前だけを〈海軍合同庁舎〉と改名し、中庭をつぶして若干の増築をすることで何とか対応したが、軍拡の波の中で庁舎の空間不足はむしろ悪化した。しばしば「参謀合同庁舎は子沢山の子供部屋、海軍合同庁舎は子沢山の犬小屋」と揶揄された。
このことに早くから危機感を抱き、巨大な新国防合同庁舎の建設を提唱したのが、軍政家として名高いエドゥート・ウリアス・ヴェル・ピアルムス准将、すなわち摂政副官であるペルペトゥ・エリカール・ヴェル・ピアルムス少佐の父であった。
これに同調したのが、砂海大陸で陸海軍統合指揮の必要性を痛感していたミルダネスであり、また防諜上の必要から四庁舎体制の問題点を指摘していたレヴェランティユー・ヴェル・マルクヴォーである。
これら三名の軍高官は、時に諸官庁の地道な調整を担い、時に宮中への陳情を行い、時に必要な〈説得〉――汚職や不倫などをネタとしたもの――を行って、何とか帝国暦一八〇〇年、国防合同庁舎一号棟の落成へと漕ぎ着けた。建造費には、帝国皇帝セラレス四世からの下賜金と、帝国貴族・資本家からの寄付金が充てられた。
この合同庁舎には、セラレス四世の好みが率直に反映された。外装は古帝国の神殿様式を踏襲する古典的なものを基調としつつ、近代の建築理論に基づいた視覚効果が大胆に多数取り入れられ、垂直性を強調した巨大な列柱が、近代的な鉄筋コンクリート建造物を装飾している。外国の記者は、この建造物を指して〈軍神の神殿〉と書いた。
内部は廊下を広く取り、有事には路傍で会合を開けるよう、端々に作り付けのテーブルとベンチが設置されている。警備計画を立てやすくするため、屋外へアクセス可能な扉と窓の配置は慎重に計画されていた。また、福利厚生のために中庭には温室が設けられ、砂海大陸をはじめとする植民地原産の植物が植えられている。
帝国軍を一本の剣だとするなら、国防合同庁舎はその鞘であった。
「中将宮殿下! 国防省ファロー少佐、意見具申を願います!」
皇子中将宮ヴァイネスが長耳族の首席副官、コンスタンサル・ヴェル・ダイスホルド中佐を伴って国防合同庁舎の廊下を歩いていると、目を爛々と輝かせた鍛冶族の青年将校、ステッファス・ファロー少佐に声をかけられた。
見れば、廊下のテーブルにたむろして何やら話し込んでいたらしく、直立して敬礼するファロー少佐の背後にも、同様に目を輝かせた年次や階級の近い青年将校たちが、控えて敬礼していた。
「己は執務で忙しい。用向きがあればダイスホルド中佐に言え。
中佐、後を任せる。己は摂政府へ向かうが、次席副官を連れていくから心配はするな。
終わったら、己の執務室の書類を整理しておいてくれ。また書類雪崩だと、悲鳴が上がっているそうだ。」
ヴァイネスは答礼するなりそう言い残すと、足早に執務室の方へと去っていった。
「ファロー少佐、そういうわけだから、詳しい話は私が聞こう。意見具申とは何か。」
「首席副官殿! どうしても、皇子中将宮殿下に直接、意見具申いたしたく!」
「くどい! その中将宮殿下が私を通せと仰せなのだ、この場は私が引き取る。
まずは、ファロー少佐の話を聞く。他の連中も良いな?」
ダイスホルド中佐がその優美な顔を歪めて一同を睨みつけると、ファロー少佐とその背後のベンチに控えていた青年将校らは、無言のまま一斉に敬礼する。
「よろしい、休め。
ファロー、貴官だけ私のところへ来い。後の者は持ち場へ戻れ!」
ダイスホルド中佐が答礼して足早に自分の執務室へ歩みを進めると、ファロー少佐もやや遅れて同じく足早に追従した。
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「それで、改めて聞く。意見具申とは何か。」
「はっ、軍務局にて小官らが起案いたしました、〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉についてであります!」
ダイスホルド中佐が着席しつつ切り出すと、ファロー少佐は執務机に詰め寄るように応じた。
「要綱なら、マルクヴォー閣下を通じてシルヴァニス伯とミルダネス閣下に上申済みだ。何も言うことはない。」
ダイスホルド中佐はあくまで冷静に、淡々と表向きの事実のみを説明する。
「そんなはずはありません! 新客殿の一件はどう説明するのです!」
しかし、ファロー少佐は食い下がった。
「新客殿? 共和国からの文化交流使節がどうかしたのか?」
ダイスホルド中佐は肩をすくめ、あくまで表向きの態度に終始する。
「あれは明らかに帝国に圧力を加えるための特使であり!
かの特使の来着は共和国による、ひいては連合国による最後通牒と同義です!」
ファロー少佐は熱意のこもった声で、まるで叫ぶようにまくし立てた。
「穿ちすぎだ。文化交流使節は共和国文化連盟の総裁だぞ。
文化連盟の総裁を送るのが、どうして最後通牒になる。」
「スタネリア・ノ・エテルスタンは共和国砂海植民地の元総督であり、共和国植民地支配の尖兵です!」
「そして、共和国きっての文化人であり、共和国有数の帝国通だ。
将校たるもの物事は多面的に見ろ、ファロー。」
ダイスホルド中佐がファロー少佐を諭すように応じると、ファロー少佐は目を強く瞑った。
まるで、頭痛にでも耐えているかのようである。
「そうであるとしても、我々の独自に掴んだ情報によれば、摂政府内に〈国際共同事業〉の名目で、〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉の空文化を策する者がおります!」
ファロー少佐がそう口にしつつ目を見開くと、その目はすでに充血していた。
「結構なことではないか。先に連合国軍総司令官ホス元帥が演説したごとく、〈私たちの共通の敵、それは妖魔〉だ。」
ダイスホルド中佐は、ホス元帥が帝国を訪問した際の演説を諳んじてみせる。
「それは、帝国軍を弱体化させ、ひいては帝国を属国化、いいえ隷属化せんとする彼奴らの陰謀です!」
ダイスホルド中佐の言葉は、かえってファロー少佐に火をつける。
「……少なくとも、まだ〈国際共同事業〉なるものに関して、公式な協定は影も形もない。
今はまだ、戦後の妖魔対策体制のあり方について、模索する段階だ。」
しかし、ダイスホルド中佐はあくまで動じなかった。
「それは、首席副官殿の個人的見解ですか?!」
ファロー少佐が食い下がる。
「いいや、本官の独断ではない。これに関しては……畏れ多くも、皇子中将宮殿下のご意向でもある。
いずれにせよ、帝国が自国の国防に自主性を持ちつつ、国際協調を図る。これは既定路線だ。」
ダイスホルド中佐は淡々と、ヴァイネスの意向を開示してみせた。
皇族の内意とあっては、ファロー少佐もこれ以上食い下がれない。
しばしの沈黙の後、ダイスホルド中佐は葉巻に火をつけつつ、ファロー少佐に問いかけた。
「ファロー、この意見具申とやらは、貴官の個人的見解か?」
「……いいえ、この意見具申に、小官の私心はありません! 国防省の青年将校有志、一同の意思です!」
ファロー少佐はわずかな時間逡巡した後、しかし熱意を失わずに応じる。
またしばしの沈黙の後、ダイスホルド中佐は口から紫煙を吐き出してから、口を開いた。
「――そうか。貴官らの憂慮と、熱意は分かった。」
「それでは!」
「早まるな!」
ダイスホルド中佐はファロー少佐を一喝し、吸いかけの葉巻を灰皿へと押し付ける。
「敗戦の折、心痛めるのは何も貴官らばかりではない。私も、そして中将宮殿下も、心は同じだ。
だがな、ファロー少佐。我々は戦争に敗れたのだ。それを忘れるな。
……いずれにしても、摂政府と臨時政府からの沙汰待ちだ。
だからそれまで、くれぐれも軽挙妄動を慎め。」
肩を落として部屋を辞そうとするファロー少佐に、ダイスホルド中佐は些か強引に、新しい葉巻を握らせて返した。
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「何、己を〈国防義勇軍〉の総監にだと?! 国防省の連中は正気か!?」
帝国暦一八一九年六月十四日、帝都バーレンハイム、摂政仮宮殿、会議室。
そこでは、皇子中将宮ヴァイネスの、悲鳴にも似た声が響いていた。
会議には、自席で立ち上がって叫んだ皇子中将宮ヴァイネスのほかに、帝国軍総司令官兼国防大臣代行レヴェランティユー・ヴェル・マルクヴォー、陸軍大臣、陸軍参謀総長、海軍大臣、海軍統帥本部長ら帝国軍首脳陣と、その次官・次長や副官らが列席していた。各戦線司令官や軍管区司令官も、連絡役を出席させている。
そして彼ら軍首脳が囲んだ円卓の奥に設置された壇上に、肘掛け椅子に座った元帥摂政公ミルダネスが座っていた。
この日の議題は、本来、〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉の取扱いについてであった。
国防省軍務局の青年将校らが起案し、マルクヴォー元帥がほとんど押し切られる形で摂政府と臨時政府に上程した〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉であったが、その内容は早々に連合国側に漏洩し、要綱が具体的な検討に入る以前に、事は外交問題に発展してしまった。
帝国軍上層部でも、本要綱への評価は一様ではない。本要綱でも軍備温存には生ぬるいとする声があれば、いやむしろ積極的に要綱を活用すべしという声もあり、あまりに危険だから連合国に譲歩しようという声、あるいはそもそも本要綱を破棄して国際協議を行うべきとの声もあった。
最小限度の軍備縮小でお茶を濁し、概ね戦前と大差ない規模の帝国軍を維持しようとする者。積極的に連合国に協力することで死中に活を見出し、かえって軍縮の主導権を握ろうとする者。大まかに分類すれば帝国軍内部の潮流としてこの二者が大勢を占めるが、ここに皇女派・皇子派・共和派・中立派そして革命派シンパ残党といった派閥対立、さらに植民地経験の長短に起因する海外派・大陸派の軍政・軍令思想の相違、士官学校での年次や席次に階級の先任順といった世代差、貴族・資本家出身者と無産市民出身者の経済感覚の相違に、個々人の好悪といった複雑な感情が介在して、事態は容易には収集できない情勢になりつつある。
要綱を起案した青年将校への態度もまた、一様ではない。
血気盛んな青年将校の後ろ盾となることで、あわよくば戦後の帝国軍で主導権を握ろうとする者もあれば、青年将校らの態度を帝国軍を壟断する言語道断の蛮行と非難し粛清人事を求める者もある。
上層部に最も多いのは、彼らの過剰な熱意と失業への不安に内心同情しつつ、実務上は危険分子として遠ざけようとする者である。
多くの場合、帝国軍高官は世界大戦の再演を望んではいなかった。
帝国暦一八一八年三月の帝国軍春季大攻勢の戦術的大成功と戦略的大失敗は、多かれ少なかれ、帝国軍上層部に経済観念なるものを取り戻させていた。
無理を重ねてたとえ次の戦いに勝利できたとしても、銃後で人が人を喰らうような地獄を作り出しては、元も子もない。この常識的な感覚を取り戻すために、帝国軍は世界大戦における四年の歳月と、多大な出血を必要とした。
しかし、頭が冷えても、手足の熱までもが冷えるわけではない。むしろ、青年将校らの熱気は増大していた。
青年将校らが待望するのは、帝国軍総司令官にして国防大臣、そして帝国宰相にして帝国皇帝を兼任する、〈青年皇帝〉ヴァイネス一世――無論、彼らの内輪での呼び名――である。
戦争初期、マルクヴォー元帥の情報網の助けを受けて、皇子中将宮ヴァイネスは破竹の快進撃を見せた。その戦争指導は、青年将校らにとっては帝国のあるべき未来を指し示しているようであり、自分たちがその幕下で帝国を高度な戦争機械に仕立て上げていく様に、彼らは一様に高揚を覚えていた。
戦争に勝利すれば、あるいは皇帝セラレス四世はヴァイネスへの廃太子を取り消すかもしれず、戦後彼ら青年将校らが帝国軍上層部を占める頃には、〈青年皇帝〉ヴァイネス一世による新国家が完成する。彼らはそのような夢を見ながら、戦争に熱狂していた。
それが急転直下、敗戦、そして内戦と帝国は転がり落ち、未来の帝国軍上層部、いや未来の超大国の国家指導層になっているはずだった青年将校たちは、今や求職戦線への出征を控える失業者予備軍である。
この落差が、青年将校たちから一層、冷静さを奪った。
「――この案を持ち込んだのは、誰か。」
「匿名です。本来取り合うものではありませんが……原本では表紙の裏に、多数の血判が。」
ミルダネスが重い口を開くと、マルクヴォー元帥が立ち上がって応じる。
そして、マルクヴォー元帥は副官に命じて、〈国防義勇軍整備要綱〉の原本、その表紙の裏を示させた。
表紙の裏には何らの署名もないが、おびただしい量の血判が押されている。
「いずれの指紋も、同一人物のものではありません。
照合する気にもなれませんが……間違いなく、国防省の若手らのものでしょう。」
「これは脅迫ではありませんか!」
ミルダネスの傍らに直立していた摂政副官、ペルペトゥ・エリカール・ヴェル・ピアルムス少佐が叫ぶ。
「然様、摂政副官。これは脅迫だ。それも、私個人に対するものではない。」
マルクヴォー元帥は深いため息をついた。暗い声に対して、マルクヴォー元帥の表情は怒りと恥辱に歪み、体重を預けた元帥杖がわずかに揺れている。
「脅迫相手はここにいる全員。そして、帝国それ自体というわけか。」
ヴァイネスが音を立てて椅子へ座り込む。
「今の帝国に、もう一度内戦を戦う余力はない。」
「物理的にも、精神的にも。」
「第一、連合国はどうするのだ。介入となれば……。」
誰からともなく、そのような言葉が交わされる。
「ともあれ、青年将校らに漏れた以上、共和国との〈国際共同事業〉案をそのまま進めるわけにはいかなくなった。」
マルクヴォー元帥の言葉を、否定する者はなかった。
本来、この会議は共和国との対妖魔〈国際共同事業〉と、青年将校らの提唱した〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉との調整のために開かれ、その方針においても大筋の合意を見つつあった。
それが、会議中にマルクヴォー元帥の執務室に投げ込まれた〈国防義勇軍整備要綱〉をマルクヴォー元帥の次席副官が急遽持ち込み、皇子中将宮ヴァイネスが呼び出されて、このような次第となったのである。
〈国防義勇軍整備要綱〉は、その大筋において〈対妖魔戦力整備拡充要綱〉と大差ない。軍縮で宙に浮く将兵を妖魔対策の名目で別の組織に移転させ、装備もまたここに隠匿するという点で、両者は同様である。
しかし、よりにもよってこの要綱は、その監察官たる総監、つまりは実質の指揮官として、皇子中将宮ヴァイネスを指名した上で、軍中央の統制を強化しようと目論んでいた。
「しかし、〈国防義勇軍〉など論外です。今度こそ、また戦争になる。」
ピアルムス少佐の言葉もまた、否定する者はない。この会議の出席者のうち最も過激な者でさえ、これほど性急な事態の進展を望んではいなかった。皇子派のうち過激な者も、その多くは、たとえ青年将校を扇動するにしてもそれは方便であると心得ていた。
民間防衛機構の建前があってさえ、連合国は難色を示している。これが、帝国軍から分離されたとはいえ〈軍〉を名乗ってしまえば、しかもその総監職に軍国主義者として名高い皇子中将宮ヴァイネスをあてがってしまえば、それは充分に開戦事由になる。
「――いずれにしても。」
ミルダネスが再び口を開く。
「何かを。空白に何かを注入してやる必要がある。仮構の偶像を。」
ミルダネスの言葉もまた、誰も否定しなかった。