もし、ムコーダがライザたちとかいこうしたら……?

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あの冒険から時は過ぎて……

### 第一章:湖畔の村と、異界の旅人たち

「おい、主よ。この村はひどく平和だな。だが、我は腹が減ったぞ。あの赤身の肉を出せ」

「フェル、お前さっきもオークの肉をたらふく食ったばっかりだろ!? ちょっとは我慢しろよ……って、そもそもここはどこなんだ?」

クーケン島、ラーゼンボーデン村。

かつて「万象の大典」を巡る壮大な冒険から帰還し、世界を救った錬金術士ライザリン・シュタウトとその仲間たちが、日常へと戻ってからわずか3日後のことである。

まだ冒険の余韻が冷めやらぬこの長閑な村の外れに、突如として奇妙な一行が姿を現した。

一人は、ごく普通の青年のように見えるが、どこか疲労感を漂わせた男、向田剛志(ムコーダ)。

その横には、巨体から圧倒的な神気を放つ伝説の魔獣フェンリルの「フェル」。

肩には、小柄ながらも凶暴なまでの素早さと魔法力を秘めたピクシードラゴンの「ドラちゃん」。

そして足元には、ぷるぷると震えながら愛らしい声を発するスライムの「スイ」。

「あるじー、スイもおなかすいたー」

『オレもだ! なんか甘いもんか、ガッツリした肉食いてぇ!』

「お前らなぁ……知らない土地に迷い込んだっていうのに、緊張感なさすぎじゃないか?」

ムコーダが頭を抱えていたその時である。

村の巡回と、今後の復興計画の視察を兼ねて歩いていたブルネン家の長男、ボオス・ブルネンと出くわしたのだ。

「……ん? 見慣れない顔だな。それに、その後ろの巨大な魔物は……ッ!?」

ボオスは瞬時に腰の剣に手をかけた。歴戦の冒険者であるボオスの目から見ても、フェルから放たれる威圧感は尋常ではなかったからだ。

「あ、あ、あ、待ってください! 違うんです! こいつらは俺の従魔でして、絶対に危害は加えませんから!」

ムコーダは慌てて両手を振り、敵意がないことをアピールした。

ボオスは剣の柄から手を離さないまでも、ムコーダのあまりにも平凡で小市民的な態度を見て、少しだけ警戒を緩めた。

「従魔……? こんな恐ろしい魔獣を従えているというのか、あんたが?」

「ええと、成り行きというか何というか……。申し訳ありません、俺たち、気がついたらこの島に迷い込んでしまっていたようで。怪しい者ではありません」

ムコーダは平和的解決を図るべく、必死に取り繕った。そして、こういう時に役立つのが「食べ物」であることを、彼はこれまでの異世界放浪で身に染みて理解していた。

「あ、あの! これ、もしよかったら受け取ってください。挨拶代わりというか、お近づきの印に!」

ムコーダが『アイテムボックス』から取り出したのは、ネットスーパーで購入しておいた『鮭とば』だった。

「なんだ、これは? 干した魚のようだが……」

「鮭とば、というものです。軽く炙るとさらに美味しいんですが、そのままでもいけますよ」

ボオスは半信半疑でそれを受け取り、一口かじった。

その瞬間、彼の目が大きく見開かれた。

「……美味い」

噛めば噛むほど染み出してくる、鮭の濃厚な旨味。そして、絶妙な塩加減。冒険の中で様々な野戦食を食べてきたボオスだが、これほどまでに洗練された保存食は食べたことがなかった。

「この独特の塩気……そして噛みごたえ。信じられないほど深い味わいだ。これなら、親父のコレクションにある年代物の赤ワインにも、すっきりと冷やした白ワインにも完璧に合うはずだ……!」

ボオスの頭の中で、最高のマリアージュが成立した。

「いや、素晴らしい! あんた、ただ者じゃないな。料理人か?」

「え、あ、はい。まあ、料理は得意な方でして……(ただのネットスーパーの品なんだけどな)」

「ぜひ、俺の友人たちにもあんたを紹介したい。彼らもちょうど、大きな冒険を終えて退屈していたところなんだ」

ボオスの態度は一変し、鮭とばの魅力にすっかり取り憑かれた彼は、ムコーダ一行を村の中心部へと案内することになった。

### 第二章:隠れ家での出会い

「ボオス? なんだか珍しいお客さんを連れてるじゃない……って、えええええええ!?」

ライザのアトリエ(かつての隠れ家を改築した場所)の扉を開けた瞬間、ライザは目を丸くした。

彼女の視線の先には、気まずそうに笑うムコーダと、アトリエの入り口を塞ぐほどの巨体を持つフェルがいたからだ。

「ちょっとボオス! なによそのすっごい魔物!? 島にこんなのいなかったわよ!」

「落ち着けライザ。彼らはムコーダ殿と、その従魔たちだ。決して危険な存在じゃない……はずだ。それより、これを見ろ」

ボオスは自慢げに鮭とばをライザに差し出した。

「なんだか干し肉みたいだけど……ん、お魚? いただきまーす。……んんんっ!?」

ライザの顔がパッと明るくなった。

「美味しい! なにこれ、すっごくクセになる塩味! 噛めば噛むほど味がじわーって出てくる! これ、錬金術で作ったの!?」

「い、いや、これはただの保存食というか……俺の故郷の食べ物でして」

「へええ! ムコーダさんって言うんだ。私はライザリン・シュタウト。ライザって呼んで!」

太陽のように明るいライザの笑顔に、ムコーダは少しホッとした。

しかし、その平和な空気は、アトリエの奥から出てきた一人の青年によって打ち破られた。

「ライザ、外が騒がしいけど何か……ヒッ!?」

大量の古文書を抱えて出てきたタオは、フェルとバッチリ目が合ってしまった。

フェルはただ退屈そうにあくびをしただけだったが、その際に覗いた鋭い牙と、周囲の空気を震わせるような魔力に、タオは腰を抜かした。

「あ、あ、あああ……っ! 巨大な狼型の魔獣!? しかも、文献でしか見たことがないような、とてつもない上位種のオーラ……ッ! だ、誰かレントを呼んで! 食べられちゃう!」

タオは持っていた本を放り出し、机の下にガタガタと震えながら隠れ込んでしまった。

「おい、主よ。あのひょろ長い人間はなぜ震えているのだ? 我は何もしておらんぞ」

「お前がいるだけで怖いんだよ! 頼むから威圧感を引っ込めてくれ……」

「タオ、情けないぞ。客人に対して失礼じゃないか」

タオの悲鳴を聞きつけて、大剣を背負った戦士レントがアトリエに入ってきた。

レントもフェルの姿を見て一瞬身構えたが、すぐに相手が戦意を持っていないことを見抜き、感心したように口笛を吹いた。

「すげえな、こりゃ。俺もいろんな魔物と戦ってきたが、こいつの強さは底が知れねえ。あんた、ムコーダって言ったか? これほどの魔獣を手懐けるなんて、相当な腕前のテイマー(魔物使い)なんだな」

「いやいやいや! 違うんです、ただご飯を作ってたら勝手についてきただけで……!」

「ご飯で!? これほどの魔獣が!?」

レントは信じられないという顔で目を丸くした。

そこに、奥の部屋から静かに現れたのは、片腕が義手となっている錬金術士アンペルだった。

彼は興味深そうに目を細め、フェル、ドラちゃん、そしてスイを観察し始めた。

「……ほう。これは驚いたな」

「アンペルさん、何か分かるの?」

ライザが尋ねると、アンペルは顎に手を当てながら分析を始めた。

「あの巨大な狼……ただの魔物ではない。神格すら帯びた、精霊や幻獣の頂点に立つような存在だ。そして、肩にいる小さなドラゴン。あれは妖精種と竜種のハイブリッドか? 尋常ではない魔力密度だ。さらに極めつけは、あのスライムだ」

「あるじー? このおじさん、スイのことジロジロ見てるー」

アンペルは感嘆の溜息をついた。

「ただの低位魔物であるはずのスライムが、信じられないほどの進化を遂げている。……ムコーダとやら。君はいったい、どんな『術』を使って彼らを従魔にしている? 魔力による強制的な支配の糸が見えない。むしろ、互いの信頼関係……いや、強固な『食の契約』のようなもので結ばれているように見えるが」

「しょ、食の契約って……アンペルさん、鋭すぎませんか……」

ムコーダは冷や汗を流した。さすがは錬金術の達人、一目で核心を見抜いてしまった。

### 第三章:驚愕のスキル『ネットスーパー』

「ところでムコーダさん、さっきの『鮭とば』、もうないの? もっと食べたいんだけど!」

ライザが期待に満ちた目で迫ってくる。

ボオスも「ふむ、できればもう少しまとまった量が欲しいところだな」と頷いた。

「あ、ええと……それじゃあ、ちょっと待っててくださいね。今、取り寄せますから」

ムコーダは腹をくくり、皆の前でスキルを使用することにした。彼らのような善人たちになら、秘密を見せても悪用されないだろうという直感があった。

「『ネットスーパー』」

ムコーダがそう唱えると、空中に半透明の巨大なウィンドウが出現した。

そこには、日本の見慣れたスーパーマーケットの商品の数々が、写真付きでズラリと並んでいた。

「な、なんだこれは!?」

「空中に文字と絵が浮かび上がったぞ!?」

レントとタオ(まだ机の下から顔だけ出している)が驚愕の声を上げる。

ライザは目をキラキラさせてウィンドウに近づいた。

「すっごい! これってどういう錬金術!? イオンのバランスを操作して光の屈折で幻影を作ってるの? それとも異界の扉を局所的に開いてるの!?」

「えっと、錬金術じゃなくて、俺の固有スキルなんです。お金を払うと、別の世界にある『スーパーマーケット』っていう市場から、食材や品物を一瞬で取り寄せられるっていう能力で……」

ムコーダは金貨をウィンドウに吸い込ませ、鮭とば、ポテトチップス、コーラ、そしてフェルたち用の高級和牛をカートに入れて決済した。

すると、光とともに段ボール箱が出現した。

「ほ、本当に何もない空間から物体が現れた……!」

アンペルもこれには目を見張った。

「質量保存の法則すら無視している……いや、空間を跳躍して物体を転送しているのか? 信じられん、こんなデタラメな理屈がまかり通るなんて……世界はまだまだ未知に溢れているな」

「ぷはーっ! なによこれ、シュワシュワしてすっごく美味しい! 甘くて、なんか元気が湧いてくる!」

ライザはコーラをラッパ飲みして大興奮。

「この『ポテトチップス』ってのも、芋を薄く切って揚げてるのか? 塩加減が絶妙で手が止まらねえ!」

レントもポテトチップスを貪り食っている。

『主よ! 我々の肉はまだか!』

『オレも腹減ったぞ!』

「わーい、お肉ー!」

従魔たちも騒ぎ出し、ムコーダは急いでアトリエの庭を借りて、魔道コンロを展開し、和牛のステーキを焼き始めた。

醤油とニンニクの和風ステーキソースの香りが周囲に漂うと、ライザたちはもちろん、村の人々まで匂いにつられて集まってきそうになった。

「う、美味すぎる……。俺たちが普段食べている肉とは次元が違う……」

ステーキのお裾分けをもらったボオスは、あまりの美味しさに打ち震えていた。

### 第四章:ボオスの悩みと、新たな依頼

お腹も満たされ、一行がすっかり打ち解けた頃。

ボオスがふと、深いため息をついた。

「どうしたの、ボオス? らしくないわね」

ライザが尋ねると、ボオスは深刻な顔で口を開いた。

「実はな……2日後に、俺の実家であるブルネン家で、錬金術協会の要人たちを招いた重要な会合が行われるんだ」

「錬金術協会? ああ、王都での一件や、今回のカーク群島での一件で繋がりができた人たちね」

「ああ。彼らは今後のラーゼンボーデン村の発展と、クーケン島の技術交流において極めて重要なパートナーとなる。だからこそ、親父も俺も、最高のおもてなしをしなければならないと頭を悩ませていたんだ」

ボオスはムコーダを真っ直ぐに見つめた。

「腕利きの料理人は手配したが、どうにもメニューにパンチが足りない。協会の上層部は王都の美食に慣れきっているからな。普通の田舎料理では納得しないだろう……。そこでだ、ムコーダ殿」

「……嫌な予感がするんですが」

「2日後の晩餐会、貴殿にメニューのプロデュースと、調理の指揮をお願いできないだろうか!」

ボオスは深々と頭を下げた。

「ええっ!? いやいやいや、俺はただの素人料理人ですよ!? そんな公式な晩餐会なんて無理です!」

「ですが、先ほどのあの見事な肉料理! そして『ネットスーパー』という規格外の食材調達能力! 貴殿の力があれば、必ずや王都の貴族たちをも唸らせる晩餐会になるはずだ。報酬は弾む。もちろん、その間はフェル殿たちの食費も我がブルネン家が全額持とう!」

その言葉に反応したのは、ムコーダではなく従魔たちだった。

『ほう。主よ、この人間の提案、悪くないぞ。つまり、美味いものを好きなだけ食えるということだろう?』

『いいじゃん! パーティーってやつだろ? いろんな美味いもんがたくさん出てくるんだろ!』

「あるじー、スイもいっぱい食べたーい!」

「お前らなぁ……俺の苦労も少しは考えろよ……」

しかし、フェルたちの「食わせろ」という無言の(そして有言の)プレッシャーに逆らえるわけもなく、ムコーダは泣く泣く依頼を引き受けることになった。

「わかりました……やらせていただきます」

「おお! 感謝する、ムコーダ殿!」

ボオスの顔がパッと明るくなり、ライザも嬉しそうに手を叩いた。

「面白そうじゃない! 私たちも手伝うよ、ムコーダさん! 錬金術で火力を上げたり、食材を下ごしらえしたりするくらいなら手伝えるし!」

「ライザが手伝うと、食材が爆発しそうなんだけど……」とタオが小声でツッコミを入れたが、ライザには聞こえなかったようだ。

### 第五章:閃きと『コストコ』の魔法

晩餐会まであと2日。

ムコーダはブルネン家の厨房を借り、ライザ、レント、ボオスたちと共にメニューの構想を練っていた。

「協会の人たちは20人。ブルネン家の人間や俺たちを含めると、総勢40人以上の大規模な宴会になる……」

ムコーダは頭を抱えた。

普段、フェルたちの大食らいのために大量の料理を作っているとはいえ、それはあくまで「野戦食・男飯」の延長だ。

貴族や文化人を相手にするような、華やかで見栄えのする、なおかつ大量の料理をどうやって用意すればいいのか。

「村の特産品はなんだ? 新鮮な魚介類や、畑の野菜は豊富にあるって言ってたよな」

「ああ。クーケンフルーツという特産の果物もあるし、湖で獲れる白身魚や、質の良い小麦もあるぞ」とボオス。

「なら、村の新鮮な食材をメインに据えつつ、俺のネットスーパーの力で『華やかさ』と『ボリューム』を補うしかない」

ムコーダは空中にネットスーパーのウィンドウを展開した。

普通のスーパーの画面を見つめながらスクロールしていくうちに、ふと、あるタブが目に入った。

「……そうだ。忘れてた。俺のスキル、最近レベルが上がって『あれ』が使えるようになってたんだった」

ムコーダがタップしたタブ。それは――『業務用スーパー・大型卸売店コーナー』。

地球における、通称「コストコ」と呼ばれる超大型店舗のラインナップだった。

「これだ……! これならいけるぞ!」

ムコーダの顔に希望の光が差した。

「どうしたの、ムコーダさん? いいアイデアでも浮かんだ?」

ライザが覗き込んでくる。

「ライザ、ボオス。見てくれこの画面を」

ムコーダが指差したのは、巨大なブロック肉、バケツのようなサイズのアイスクリーム、色とりどりの巨大なパーティー用デコレーションケーキ、そして大容量のシーフードミックスや、焼くだけで完成する豪華なピザの数々だった。

「なんだこの規格外の量は!? しかも、見たこともないほど色鮮やかで、食欲をそそる料理の数々……!」

ボオスが驚愕に声を震わせた。

「これです。村の新鮮な魚介類を使って、この『巨大パエリア』を作ります。そして、ブルネン家のオーブンをフル稼働させて、この『大型ピザ』を何枚も焼く。メインディッシュは、村の特産野菜と、俺のストックにあるオーク肉……いや、フェルが狩ってきた『ブラッディホーンブル(高級牛の魔物)』の肉を使った、超巨大なローストビーフのタワーだ!」

「ローストビーフのタワー!? なにそれ、聞いただけでヨダレが出てきそうなんだけど!」

ライザが目を輝かせる。

「さらに、デザートにはこの『コストコサイズ』の巨大なティラミスと、クーケンフルーツをたっぷり乗せた特注のフルーツタルトだ。これなら、王都の貴族たちも見た目のインパクトと、味の新しさに度肝を抜かれるはずだ!」

「完璧だ……! ムコーダ殿、貴殿はまさに料理の天才、いや、食の錬金術士だ!」

ボオスは感動のあまり、ムコーダの手をガシッと握りしめた。

「よし、方向性は決まった! なら、私は錬金術で、料理を一瞬で冷やしたり、最高の温度で保温したりする魔道具を作るよ!」

「俺は村中の美味い食材を集めてくるぜ!」

ライザとレントもやる気に満ち溢れている。

その様子を遠くから見ていたフェル、ドラちゃん、スイも、自分たちの食べる分が確約されていることを悟り、満足げに尻尾を振ったり跳ねたりしていた。

『ふふん、主よ。存分に腕を振るうがいい。余ったものは全て我らが平らげてやろう』

『おーっ! 巨大ピザってやつ、早く食いてぇ!』

「あるじーのりょうり、たのしみー!」

ラーゼンボーデン村、ブルネン家での前代未聞の晩餐会。

異世界の「とんでもスキル」と、規格外の「コストコ」の力、そしてクーケン島の豊かな食材と錬金術士たちのサポートが融合しようとしていた。

果たして、錬金術協会の要人たちはどんな顔をするのか。

そして、フェルたちの胃袋は無事に満たされるのか。

かつて世界を救った秘密の隠れ家の仲間たちと、異世界から迷い込んだ放浪の料理人一行の、ドタバタで最高に美味しい宴の幕が、今まさに上がろうとしていた。

### 第六章:晩餐会の幕開けと、絶望の神獣

ブルネン家、大広間。

ラーゼンボーデン村の歴史においても類を見ないほどに豪奢に飾り付けられたその空間には、異様なまでの緊張感が張り詰めていた。

王都から長旅を経てやってきた錬金術協会の要人たちは、総勢十数名。いずれも分厚いローブを身に纏い、知識と権力を誇示するような厳しい顔つきをした者たちばかりだ。彼らは今後のクーケン島周辺の資源開発と、錬金術の技術交流における特権を巡って、ブルネン家を値踏みしようと意気込んでいた。

「ふむ……辺境の島と聞いていたが、屋敷の造りは悪くない。だが、我々をもてなす料理となると、どうだかな。王都の三ツ星レストランの味を知る我々の舌を満足させられるかな?」

恰幅の良い協会の筆頭理事が、鼻を鳴らしながら上座に腰を下ろした。

ボオスは冷や汗を流しながらも、当主の息子として毅然とした態度で出迎える。

「遠路はるばるようこそおいでくださいました、皆様。本日の晩餐会は、我がブルネン家が総力を挙げて準備した特別な趣向をご用意しております。どうか、ご期待ください」

その時だった。

『……おい。まだか。我はもう限界だぞ』

大広間の奥、王都の貴族たちからすれば「装飾品」や「剥製」でも置かれているのかと思っていた薄暗いスペースから、地を這うような重低音が響いた。

要人たちが一斉にそちらへ視線を向ける。

そこには、大広間の天井に届きそうなほどの巨体を横たえる、美しい銀狼の姿があった。

伝説の神獣、フェンリル。

フェルはただ退屈そうにあくびをし、前足に顎を乗せているだけだった。しかし、その一挙手一投足から漏れ出す「絶対強者」のオーラは、魔力や錬金術に精通する要人たちであればあるほど、ダイレクトにその恐ろしさを感じ取ってしまった。

「ひっ……!?」

「な、ななな、なんだあの魔獣は!? あり得ない、あんな規格外のバケモノがなぜ屋敷の中に!」

「ま、魔力が……空間そのものが軋んでいる!? あ、あんなもの、王都の騎士団が総出でも勝てんぞ!」

先ほどまでのふんぞり返っていた態度はどこへやら、要人たちは顔面を蒼白にし、ガタガタと椅子を鳴らして震え上がった。中にはあまりの恐怖に白目を剥きかけている者もいる。

錬金術士である彼らの目は誤魔化せない。目の前にいるのは、島を一つ二つ簡単に沈められるレベルの『災害』そのものなのだから。

「あ、あ、あああっ……ブルネン殿! こ、これは一体何の罠だ!? 我々を消すつもりか!」

「違います、違います! 誤解です!」

そこに、エプロン姿のムコーダが、大皿を載せたワゴンを押して慌てて飛び出してきた。

「フェル! だからお前は庭で待ってろって言っただろ! お客さんが怖がってるじゃないか!」

『ふん。庭は狭い。それに、ここで待っていた方が料理が早く出てくるからな』

「お前なぁ……! すみません、皆様! こいつは俺の従魔でして、絶対に危害は加えませんから! ほら、スイとドラちゃんも挨拶して!」

ムコーダの足元から、ぷるんっとスライムのスイが飛び出し、空からはピクシードラゴンのドラちゃんが舞い降りた。

「こんにちはー! スイだよー!」

『オレはドラちゃんだ! よろしくな!』

「す、スライムが喋ったぁぁぁ!?」

「それにあの小型の竜……見た目は小さいが、内包する魔力は古竜クラスだぞ!?」

王都のエリート錬金術士たちの常識は、開宴わずか数分で完全に崩壊していた。

ボオスは頭を抱え、裏方で手伝っていたライザとタオは「あっちゃー……」という顔で顔を見合わせている。

しかし、この絶望的とも言える空気を一変させたのは、やはり『圧倒的な食の暴力』だった。

### 第七章:圧倒的ボリューム! コストコの魔法と村の恵み

「ま、まあ皆様、落ち着いて! まずは前菜からお持ちしましたので!」

ムコーダがワゴンの上の銀色のカバーを開けた瞬間。

ぶわりと、食欲を直撃する強烈な香りが大広間に解き放たれた。

「こ、これは……ッ!?」

要人たちの鼻腔をくすぐったのは、新鮮な魚介の磯の香りと、ニンニク、サフラン、そして熱せられたオリーブオイルの複雑で芳醇な匂いだった。

「ラーゼンボーデン村近海で獲れた新鮮な白身魚と、特大のシーフードミックスを使用した『超特大パエリア』です!」

ワゴンに乗っていたのは、大広間のテーブルの幅ほどもある巨大な鉄鍋(ライザが錬金術で即席で錬成した特注品)だった。

黄金色に輝くサフランライスの海の上には、ネットスーパーの業務用コーナー(コストコ)で調達した巨大なエビ、肉厚なホタテ、ムール貝がこれでもかと敷き詰められている。さらに村で獲れた新鮮な魚の切り身が香ばしく焼き上げられ、トマトやパプリカの鮮やかな赤や黄色が宝石のように輝いていた。

「な、なんだこの量は……! そしてこの色鮮やかさは!」

恐怖で震えていた要人たちの口内に、一瞬にして大量の唾液が分泌された。

「ささ、冷めないうちにどうぞ!」

ボオスが取り分けを指示し、要人たちの前に熱々のパエリアが配られる。

筆頭理事が、恐る恐るスプーンを口に運んだ。

「――っ!!? な、なんだこれはぁぁぁっ!?」

筆頭理事が立ち上がって叫んだ。

「米の一粒一粒に、海鮮の濃厚な旨味が限界まで染み込んでいる! エビはぷりぷりとして信じられないほど甘く、この未知の香辛料(サフラン)が魚介の生臭さを完全に消し去り、高貴な香りへと昇華させている!」

「う、美味い! 美味すぎる! 王都の宮廷料理ですら、これほど力強く、かつ繊細な味の構成は不可能だ!」

「おかわり! おかわりをくれ!」

先ほどまでの怯えはどこへやら、要人たちは一心不乱にパエリアを掻き込み始めた。

「よし、次はピザだ! ライザ、オーブンの温度は!?」

「バッチリだよ、ムコーダさん! 私の錬金術で作った『フラム熱源式・超高温石窯』、最高の仕上がりだからね!」

キッチンから、ライザとレントが次々と巨大な丸い盆を運んでくる。

「続いては、特製『メガ・ミックスピザ』と『クワトロフォルマッジ(4種のチーズピザ)』です!」

これもコストコサイズの直径45センチを超える超巨大ピザだ。ムコーダがネットスーパーで大量購入し、ライザの錬金術窯で完璧な焼き加減に仕上げた一品である。

とろける大量のチーズ、カリカリに焼けたペパロニ、そしてフレッシュなトマトソースの酸味。さらにクワトロフォルマッジには、ムコーダが『ちょっとした贅沢』としてハチミツを添えた。

「この丸いパンのようなものはなんだ? チーズが滝のように溢れているぞ!」

「ああっ、この塩気とハチミツの甘さが口の中で絶妙に絡み合う……! 悪魔的だ、こんな悪魔的な食べ物があっていいのか!」

『おい主! 我々の分も早くしろ!』

「分かってるよ! ほら、フェルたちにはパエリアとピザをホールごと持ってきたぞ!」

『うむ、美味い! このチーズというやつ、なかなか癖になるな!』

「あるじー! ピザおいしいー! もちもちー!」

『エビが最高だぜ!』

大広間は、王都の要人も伝説の魔獣も入り乱れての、狂乱の食事会と化していた。

### 第八章:肉の塔、そして陥落する要人たち

「いよいよメインディッシュだ。ボオス、準備はいいか?」

「ああ、頼むぞムコーダ殿。ここで完全に彼らの胃袋と心を掴む!」

ムコーダがワゴンで運び込んできたのは、布がかけられた巨大な物体だった。

「皆様、本日のメインディッシュでございます。ラーゼンボーデン村の特産野菜を添えた……『ブラッディホーンブルの極上ローストビーフ・タワー』です!」

布が取り払われた瞬間、大広間にどよめきが起きた。

そこにあったのは、薄くスライスされた赤身とサシのバランスが絶妙なローストビーフが、山のように高く積み上げられた『肉の塔』だった。

肉の表面は美しいロゼ色に輝き、その上からは、ムコーダ特製のタマネギと醤油、赤ワインをベースにした特製シャリアピンソースが滝のようにかけられている。

「ま、まさか……この肉から発せられる微かな魔力残滓。これは、超高ランクの魔物である『ブラッディホーンブル』の肉か!?」

筆頭理事が目を見開いた。

「いかにも。我がブルネン家が、特別なルート(フェルの狩り)で仕入れた極上の肉です」

ボオスが胸を張って答える。

要人たちがフォークで肉を口に運ぶ。

その瞬間、彼らの脳内に雷が落ちた。

「と、溶ける……!? 肉が、口の中で溶けてなくなったぞ!?」

「噛む必要がない! なんだこの圧倒的な肉の旨味は! そしてこの茶色いソース(シャリアピンソース)! 野菜の甘みと未知の調味料(醤油)のコクが、肉の味を極限まで引き出している!」

「ああっ、美味い、美味すぎる……。我々は今まで、こんな美味いものを知らずに生きてきたというのか……」

中には感動のあまり涙を流す者まで現れた。

錬金術の理(ことわり)を探求する彼らにとって、ムコーダの料理はまさに『味覚の錬金術』そのものだったのだ。

「す、素晴らしい……。ブルネン殿、いや、ボオス殿! クーケン島にこれほどの食文化と、未知の素材を活かす技術があろうとは!」

筆頭理事がボオスの手を取って熱く語りかける。

「我々錬金術協会は、今後全面的にこのラーゼンボーデン村の支援をお約束しよう! ぜひ、この料理のレシピと、あの素晴らしいオーブン(ライザ作)の技術供与をお願いしたい!」

「ええ、喜んで。我々も、王都との良好な関係を望んでおります」

ボオスは完璧な笑みで応じた。交渉は、完全なるブルネン家(とムコーダ)の勝利で決着した。

### 第九章:究極のデザート! ハーフカットメロンクリームソーダ

「ふう……なんとかメインまでは無事に終わったな」

厨房で汗を拭うムコーダに、ライザが満面の笑みで飛び込んできた。

「ムコーダさん、お疲れ様! お客さんたち、すっごく喜んでたよ! ボオスもガッツポーズしてた!」

「ライザも手伝ってくれて助かったよ。あのオーブンがなかったら、あんな量のピザは焼けなかったからな」

「へへっ、錬金術士の面目躍如ってやつだよ! ……で、ムコーダさん。そろそろ『あれ』の出番じゃない?」

ライザが期待に満ちた目でムコーダを見上げる。

実は事前にメニューを打ち合わせした際、ムコーダは「とびきりのデザート」を約束していたのだ。

「ああ、分かってるよ。ネットスーパーの特売で、最高のフルーツを手に入れておいたんだ。フェルたちもデザートは別腹だろうしな」

ムコーダが取り出したのは、高級桐箱に入った地球の最高級品『静岡産クラウンメロン』だった。網目が美しく、芳醇な香りが周囲に漂う。

それを贅沢にも真っ二つにカットし、種を丁寧に取り除く。

「うわあ……すっごく甘い匂い! クーケンフルーツとも違う、すごく上品な香り!」

「これを器にするんだ。メロンの果肉をスプーンで丸くくり抜いて、少し隙間を作る。そこに、この『メロンシロップ』と『強炭酸水』を注ぎ込む」

シュワワワッ! と弾ける音と共に、エメラルドグリーンの液体がメロンの器の中に満たされていく。

「そして仕上げだ。ネットスーパーで買ったコストコサイズの『超特大バニラアイス』。これを……」

ムコーダは巨大なディッシャーを使い、ソフトボールほどもある巨大なバニラアイスを二つ、メロンの器の上にドカン! と乗せた。さらに、真っ赤なチェリーをトッピングする。

「完成! 『ハーフカットメロンクリームソーダ・超特大サイズ』だ!」

「きゃあああああっ!! なにこれ、なにこれ!! 可愛くて、綺麗で、すっごく美味しそう!!」

ライザのテンションは最高潮に達した。

早速、大広間の要人たち、そしてフェルたちの前にも同じものが運ばれる。

「な、なんだこの美しい宝石のようなデザートは……!」

「冷たい! 甘い! そしてこのシュワシュワ弾ける感覚! アイスクリームの濃厚なコクと、果実の爽やかな甘みが、炭酸の刺激と共に流れ込んでくる!」

要人たちは、先ほどまで肉を貪り食っていたのも忘れ、子供のような笑顔でメロンクリームソーダに夢中になった。

『おおっ! この冷たくて甘い白いやつ(アイス)、最高だな! しかも器ごと食えるとは!』

『シュワシュワしてて美味ぇぇ! オレ、これ気に入ったぜ!』

「あるじー! スイ、これだーいすき!!」

フェルたちは顔をアイスまみれにしながら、メロンの皮ギリギリまでガリガリと削って食べている。

そして、厨房の隅では、ライザが自分の分のハーフカットメロンクリームソーダを抱え込み、至福の表情を浮かべていた。

「ん〜〜〜〜っ! 美味しいっ!!」

スプーンでバニラアイスとメロンの果肉を一緒にすくい、口に入れる。濃厚なミルクの甘さと、メロンの果汁が一体となって口いっぱいに広がる。

ストローで底の方のソーダを吸い込めば、炭酸の爽快感が鼻を抜け、先ほどまでの食事の脂をスッキリと洗い流してくれた。

「アイスがちょっと溶けて、ソーダと混ざったところがまたクリーミーで最高……! ムコーダさん、これ反則だよ! 毎日食べたい!」

「毎日こんなの食べてたら、さすがに太るぞ、ライザ」

「うっ……それは錬金術でなんとかするから平気だもん!」

ライザは幸せそうに目を閉じ、最後の一滴までメロンクリームソーダを味わい尽くした。

### 第十章:大満足の夜と、新たなる絆

晩餐会は、大盛況のうちに幕を閉じた。

錬金術協会の要人たちは、フェルに対する恐怖を完全に忘れ(むしろ最後の方は「あの神獣もこの美味さを知る同好の士」と謎の親近感すら抱いていた)、満面の笑みで帰路の途についた。

彼らは王都に戻り次第、ブルネン家への全面的な支援と、ラーゼンボーデン村の特産品の独占契約をまとめ上げるだろう。

「ムコーダ殿……いや、ムコーダ先生! 本当に、本当にありがとう! 貴殿のおかげで、我がブルネン家はかつてないほどの大きな成果を上げることができた!」

ボオスは感極まった様子で、ムコーダの手を両手で固く握りしめた。

「いやいや、俺はただ料理を作っただけですから。ライザたちの協力がなきゃ、絶対に間に合いませんでしたよ」

ムコーダは苦笑しながら答えた。

「本当に面白かった! まさか、料理作りでこんなにワクワクできるなんて思わなかったよ。ムコーダさん、フェル、ドラちゃん、スイちゃん! またいつでもこの村に来てよ!」

ライザが元気に手を振る。

レントやタオ、アンペルたちも、それぞれに笑顔で頷いている。

『ふん、まあ悪くない村だったな。特にあの『ピザ』というやつは気に入った。また焼かせてやろう』

『おう! 今度は肉たっぷりのやつ頼むぜ!』

「スイ、またみんなとあそびたーい!」

従魔たちもすっかりこの村と仲間たちが気に入ったようだ。

「ははは……じゃあ、もしまたどこかの世界に迷い込むことがあったら、その時はまた美味しいものを一緒に食べましょう」

ムコーダは、この平和で明るい錬金術士たちとの出会いに心から感謝し、温かい気持ちで微笑んだ。

夜空には、クーケン島の美しい星々が輝いている。

とんでもないスキルを持つ異世界の放浪者たちと、世界を救った錬金術士たちの、奇跡のような美味しい一夜。

次に彼らが交わる時、それはまた、とびきりの美味と笑顔に溢れた宴になることは間違いない。

(終)

 


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