ラスボス女王、とんでもスキルに胃袋を掴まれる 作:騎士誠一郎
原作:とんでもスキルで異世界放浪メシ
タグ:R-15 残酷な描写 クロスオーバー AI本文利用 悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民のために尽くします 飯テロ
フリージア王国の街道は、土埃と血の匂い、そして魔物たちの咆哮に包まれていた。
「第一騎士団、陣形を崩すな! 殿下と荷馬車を絶対に死守しろ!」
騎士団長アーサーの声が響き渡る。その視線の先には、武装した凶悪な盗賊団と、彼らが使役しているのか、あるいは血の匂いに引き寄せられたのか、無数の魔物の群れがいた。
今日はフリージア王国にとって極めて重要な日々の前触れだった。建国200年を祝う記念式典、そして諸外国の王族や貴族を招いて行われる大晩餐会。そのために、王国の威信をかけて集められた最高級の食材を輸送する任務を、第一王位継承者であるプライド・ロイヤル・アイビー自らが護衛として同行していたのだ。
(あの激闘から2週間。ようやく国に平穏が訪れたと思っていたのに……!)
プライドは剣を握りしめ、前衛で戦うアーサーや、後方で空間魔法の準備をする義弟のステイルを一瞥した。戦況は決して悪くない。しかし、敵の数が異常だった。何より問題なのは、敵の狙いが「命」だけでなく「荷馬車」に向いていることだった。
「ステイル、アーサー! 荷馬車から敵を引き離して!」
「姉君、しかしそれでは姉君の護衛が薄く……!」
「私は大丈夫よ! それよりも式典の食材を!」
プライドが叫んだその時だった。
突如として、戦場全体を押し潰すような、規格外の『威圧感』が空から降ってきた。
『……チッ。なんだ、この雑魚の群れは。我の歩みを阻むとはいい度胸だ』
地響きを立てて街道に降り立ったのは、白銀の毛並みを持つ巨大な狼――いや、神話に名を残す伝説の魔獣、フェンリルだった。
「な、なんだあの魔獣は!?」
「ひぃぃっ!? 息が、できない……!」
先程まで凶悪な笑みを浮かべていた盗賊団が、フェンリル(フェル)が放つ圧倒的な威圧の前に次々と膝を突き、武器を取り落とす。魔物たちに至っては、本能的な恐怖から白目を剥いて泡を吹いている始末だ。
「お、おいフェル! やりすぎだって! 人がいるじゃないか!」
その恐ろしい魔獣の背中から、情けない声が響いた。ごく普通の、少し疲れたような顔をした青年、ムコーダである。彼の足元にはプルプルと震えるスライムのスイが、そして空には小さなピクシードラゴンのドラちゃんが飛んでいる。
『ふん。我が道を開くだけだ。消え失せろ』
フェルが軽く前足を振るった。
その瞬間、目にも留まらぬ風の刃(ウィンドカッター)が放たれ、盗賊団と魔物の群れを文字通り一掃した。
「「「ギャアアアアアアッ!!」」」
断末魔の悲鳴と共に、数百はいたはずの脅威が、たった一撃で塵と化す。
戦場にいたフリージア王国の騎士たち、そしてプライドやステイルでさえも、その光景に言葉を失い、冷や汗を流して固まっていた。
「あーあ……またやっちゃったよ、この駄犬は……」
ムコーダは頭を抱えながらフェルの背から降りた。そして、呆然としているプライドたちの方へと恐る恐る近づいてくる。
「あ、あの! すみません、うちの従魔が少し乱暴な真似を……お怪我はありませんか?」
プライドはハッと我に返り、王族としての威厳を保ちながら歩み出た。
「……いえ、助太刀に感謝いたします。私はフリージア王国第一王位継承者、プライド・ロイヤル・アイビーと申します。しかし、あのフェンリルを従魔にしているとは……貴方はいったい?」
「あ、俺はムコーダといいます。しがない冒険者というか、料理人というか……」
ムコーダは周囲の惨状(主にフェルが更地に変えた街道)を見て、非常に気まずい思いに駆られていた。しかも相手は一国の王女だ。ここで不敬罪にでも問われたら、平穏な異世界ライフが終了してしまう。
「そ、そうだ! これ、お詫びと言ってはなんですが、もしよかったら食べてください! 疲れた時には甘いものが一番ですから!」
ムコーダは誤魔化すように、密かに『ネットスーパー』のスキルを起動し、アイテムボックスから一つの箱を取り出した。
それは、彼が元の世界(日本)から取り寄せていたお気に入りのお菓子。
――ウィッシュボンの『横濱赤レンガ通り』だった。
「これは……?」
プライドは差し出された小包装のお菓子を受け取る。
(……えっ!? これ、日本語!? ウィッシュボン……横濱赤レンガ通り!?)
プライドの内側にある「前世の日本人」としての記憶が激しく揺さぶられた。アーモンドが香ばしく焼き上げられ、自家製キャラメルが絡められたあの絶品焼き菓子。まさか異世界で、日本の、しかも横浜の銘菓に出会うなんて!
「あ、毒とかは入ってないですから! ほら、俺も食べますし!」
ムコーダが自分で一つ食べてみせると、プライドも震える手で封を開け、一口かじった。
サクッ……。
口の中に広がる、濃厚なキャラメルの甘みとアーモンドの香ばしさ。ウェハースの絶妙な食感。
「…………っ!」
プライドの瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
懐かしい。あまりにも懐かしい味だった。前世で、疲れた時に紅茶と一緒に食べたあの味が、寸分違わずここにある。
「ええええ!? お、王女様!? す、すみません、口に合いませんでしたか!?」
「姉君!? 貴様、姉君に何を食わせた!」
ステイルやアーサーが血相を変えて武器を構えようとするが、プライドはそれを手で制した。
「違うの……! あまりにも、あまりにも美味しくて……感動してしまったの。ムコーダ様、これは素晴らしいお菓子です。……ステイル、アーサー、皆も食べてみてちょうだい」
プライドの勧めで、ステイルやアーサー、護衛の騎士たちも『横濱赤レンガ通り』を口にする。
「な、なんだこの焼き菓子は……! キャラメルというのですか? この深い甘みとナッツの調和……王宮の専属パティシエでも作れないぞ!」
「姉君がお涙を流されるのも頷けます。信じられないほど美味しい……」
殺伐としていた街道が、横濱赤レンガ通りのおかげで一気に和やかなお茶会のような空気になった。
だが、その平穏も長くは続かなかった。
「……殿下。大変申し上げにくいのですが」
後方の荷馬車を確認していた騎士が、青ざめた顔で報告に走ってきた。
「先程の魔物の襲撃、そして……あの、そちらのフェンリル殿の魔法の余波で、式典用の食材を積んだ馬車が横転し、中身がほぼ全て台無しになっております……」
「……え?」
プライドの顔から血の気が引いた。
建国200年記念式典の晩餐会は明日に迫っている。今から各領地に最高級の食材を手配し直しても、絶対に間に合わない。
「ど、どうしよう……各国の要人をおもてなしする料理が……」
プライドが絶望的な表情を浮かべるのを見て、ムコーダはチクッと胸が痛んだ。
(うっ……半分はフェルの風魔法のせいだよな、これ……)
『おい、主よ。我は腹が減った。早くメシを作れ』
「主ー! スイもお腹すいたー!」
『俺もだ! 肉食わせろ、肉!』
空気の読めない従魔たちがムコーダに催促する。
ムコーダは深呼吸をし、意を決してプライドに向き直った。
「あの……プライド様。もしよろしければ、俺にその晩餐会の料理を任せてもらえませんか?」
「えっ……? ムコーダ様が、ですか?」
「はい。こう見えても料理には自信があるんです。食材なら、うちのフェルたちが狩ってきた最高級の魔物の肉がたくさんありますから」
プライドは少し迷ったが、あの『横濱赤レンガ通り』を提供した彼の腕(というか謎の調達能力)を信じることにした。
「……分かりました。ムコーダ様、どうか私たちを助けてください!」
舞台は変わり、フリージア王国の王宮・大厨房。
ムコーダは目の前に並ぶ面々を見て、あまりのプレッシャーに胃薬を飲みたくなっていた。
王宮に到着するなり、プライドの報告を受けた王族や主要メンバーが勢揃いしたのだ。
女王である母ローザ、王配のアルバート。
義弟のステイル、妹のティアラ。
騎士団のアーサー、クラーク、カラム、アラン、エリック。
宰相のジルベール、副宰相のロデリック。
さらには同盟国のレオンとセドリック。
そして、かつての因縁から今は頼もしい味方となっている配達人のヴァル、セフェク、ケメトまで。
総勢18名の名だたる面々が、厨房の片隅でムコーダの一挙手一投足を見守っている。
「彼が、プライドを救い、晩餐会の危機を救うと申し出た料理人ですか……」
ローザ女王が鋭くも期待に満ちた視線を送る。
「おいあんちゃん、本当に大丈夫なのかよ? 明日は各国の王族が来るんだぜ?」
ヴァルがニヤニヤしながら言うと、セフェクとケメトも興味津々に覗き込んでくる。
(ヒィィ……見られすぎだろ……! ていうか王族多すぎ!)
ムコーダは心の中で泣き言を言いながらも、やるしかないと腹を括った。
今回の晩餐会のテーマは「建国200年を祝うにふさわしい、最高の驚きと美味」。
異世界の王侯貴族が普段食べているような、ただの高級フレンチのような料理では面白くない。
ムコーダは、日本の調味料と調理法、そして異世界のトンデモ食材を掛け合わせた「最強のフルコース」で勝負する賭けに出た。
「フェル、スイ、ドラちゃん! お前たちの手伝いが必要だ! 今日は気合入れるぞ!」
『ふん、美味いものが食えるなら手伝ってやろう』
「わーい! 主のお手伝いするー!」
『おう! 肉を叩けばいいんだな!』
ムコーダはまず、アイテムボックスから巨大な『オークジェネラルの肉』と『ワイバーンの肉』、そして『ゴールデンバックの肉』を取り出した。ドスゥゥゥン!という地響きと共に現れた巨大な極上肉の塊に、見学していた騎士たちからどよめきが起こる。
「な、なんだあの肉は!? ワイバーンだと!?」
「それにあの魔力……レッドボアの変異種か!?」
アーサーやカラムが目を丸くする。
ムコーダはネットスーパーで大量の日本の調味料――高級な醤油、みりん、料理酒、和風だし、ごま油、ニンニク、生姜、そして大量のコンソメやデミグラスソース缶を購入し、並べていく。
「まずは前菜の準備だ。スイ、この野菜を均等にカットしてくれ! ドラちゃんはかまどの火加減を頼む! フェルは……邪魔にならないところで寝ててくれ!」
『なんだと!? 我にも何かさせろ!』
「じゃあ結界張って、匂いが外に漏れすぎないようにしてくれ! 暴動が起きるから!」
ムコーダの指示のもと、異世界最強の魔獣たちが嬉々として厨房で動き回る。
その光景に、ステイルやレオンたちはポカンと口を開けていた。
「……あのフェンリルやドラゴンの変異種が、まるで犬のように従っている……ムコーダ殿は一体何者なのだ……?」
「ふふっ、なんだか見ていて楽しいわね」
ティアラが微笑みながら言う。
ムコーダが包丁を握り、調理を開始する。
まずは『ワイバーン肉の和風ローストビーフ』。
表面を強火で一気に焼き上げ、肉汁を閉じ込める。そこに醤油、みりん、おろしニンニクと玉ねぎをたっぷり使った特製の和風シャリアピンソースを仕込む。
ジュワアアアアッ!という音と共に、醤油とニンニクが焦げる暴力的なまでに食欲をそそる香りが厨房に広がる。
「な、なんだこの香りは……!」
「胃袋を直接鷲掴みにされているようだ……!」
騎士のアランとエリックがたまらずお腹を鳴らす。ジルベールでさえも、冷静な顔を保ちながらゴクリと喉を鳴らしていた。
続いて、『オークジェネラルの特製角煮』。
圧力鍋(ネットスーパーで購入)を複数使い、コーラと生姜、ネギの青い部分でホロホロになるまで煮込む。日本の家庭の裏技だが、異世界の豚肉(オーク)には異常なほど合うのだ。甘辛い醤油の香りが、さらに王族たちの理性を削っていく。
そしてメインディッシュの準備に入る。
『ゴールデンバックの特大ビーフシチュー(赤ワイン煮込み)』と『オークジェネラルの極厚カツレツ』。
ムコーダはネットスーパーで最高のパン粉と揚げ油を用意。スイが超振動で柔らかくした分厚い肉に衣をつけ、黄金色の油へ投入する。
パチパチパチ……という心地よい音。
「……ダメだ、姉君。私、明日まで待てないかもしれない」
ステイルが真顔でプライドに囁く。
「奇遇ねステイル。私も、今すぐあのカツレツというものを味見したくてたまらないわ……」
前世の記憶を持つプライドにとって、目の前で作られているトンカツや角煮、ローストビーフの暴力的な魅力は耐え難いものだった。
「主ー! できたよー!」
スイが器用に野菜の飾り切りを完成させ、ドラちゃんが完璧な火加減でシチューを煮込んでいる。
「よし、味見してみよう」
ムコーダが小皿にローストビーフを取り分け、和風ソースをかけてフェルたちに差し出す。
『うむ、美味い! このタレが肉の旨味を極限まで引き出しておる!』
「んまーい! お肉とろけるー!」
『最高だぜ! おいムコーダ、もっと食わせろ!』
味見という名のつまみ食いをする一人と三匹を、18人の王族・騎士たちが血走った目で凝視していた。
「あ、あの……皆様も、少し味見されますか?」
ムコーダが恐る恐る提案すると、全員が音速で頷いた。
ムコーダは急いで小皿に『ワイバーン肉の和風ローストビーフ』と『オークジェネラルの特製角煮』を切り分け、全員に配った。
プライドはフォークで角煮を持ち上げる。その肉は、力を入れずとも崩れそうなほど柔らかい。
口に入れた瞬間。
「……っ!!」
(美味しい……! 前世で食べたどのお店の角煮よりも、甘みと旨みが深くて……お肉が口の中で溶けていく……!)
プライドはあまりの美味しさに、両手で頬を押さえた。
「これは……魔法か? 肉が舌の上で消えたぞ!?」
「それにこの『しょーゆ』という調味料……なんという深みだ。フリージア王国にはない味わい……」
レオンとセドリックも驚愕に目を見開いている。
「あんちゃん、アンタすげぇな! こんな美味いもん、俺ァ生まれて初めて食ったぜ!」
ヴァルが感極まったように叫び、セフェクとケメトも夢中で肉を頬張っている。
「素晴らしい……。これならば、明日の晩餐会は建国200年の歴史上、最も語り継がれるものになるでしょう」
ローザ女王が確信に満ちた笑みを浮かべた。
ムコーダの賭けは、見事に成功しつつあった。
しかし、これはまだ「準備段階」に過ぎない。
明日の本番、フリージア王国の歴史に美味しい激震(デリシャス・アースクエイク)を刻むため、ムコーダと従魔たちの徹夜の調理はまだまだ続くのであった。
前夜の「試食会」という名の晩ごはんで、フリージア王国の王族・騎士団トップたちの胃袋を完全に掌握したムコーダ。しかし、彼にとっての本当の戦いは、建国200年記念式典の晩餐会が行われる「当日」にあった。
朝、厨房で仕込みを始めようとしたムコーダは、自身の固有スキル『ネットスーパー』を開いて目を疑った。
「……え? テナントに、**コストコ**が追加されてる……!?」
ネットスーパーの画面には、見慣れた赤いロゴが燦然と輝いていた。年会費を要求されたが、異世界の金銭感覚(というかムコーダの圧倒的財力)からすれば、金貨1枚で10年分の会費が賄えてしまうという破格の安さだった。即座に金貨を支払い、コストコの全商品へのアクセス権を手に入れたムコーダは、歓喜に震えた。
「これで……アメリカンサイズの巨大食材も、大容量の調味料も買い放題だ! 王族や諸外国の要人数百人分のフルコース、どうやって捌こうかと思ってたけど、これならいける!!」
こうして、異世界の最強魔獣肉と、日本の繊細な調味料、そしてコストコの豪快な大容量食材が融合した、かつてない**「和洋折衷・宮廷アメリカンバーベキューフルコース」**の幕が上がったのである。
## 晩餐会の幕開け
フリージア王宮の広大な大広間には、豪華絢爛なシャンデリアが輝き、国内外から招かれた王侯貴族たちが一堂に会していた。
上座にはローザ女王、アルバート王配。そしてプライド、ステイル、ティアラたち。同盟国のレオンやセドリックの姿もある。
皆一様に、これから供される料理への期待で目を輝かせていた。特に昨晩の「試食」を経験した者たちは、今か今かと喉を鳴らしている。
「皆様、長らくお待たせいたしました。建国200年を祝う、特別な晩餐の始まりです」
宰相ジルベールの合図と共に、給仕のメイドたちが一斉に銀のドーム型の蓋(クロッシュ)が被せられた皿を運んでくる。
### 【前菜】ノルウェー産アトランティックサーモンのスモーク香る夏野菜のカルパッチョ〜燻製醤油ドレッシングと共に〜
「まずは前菜でございます」
メイドたちが一斉に蓋を開けると、ふわりと白い煙が広がり、えも言われぬ芳醇な燻製の香りが大広間を包み込んだ。
「おおっ……!」「これは、魔法か!?」
煙が晴れた皿の上には、コストコで仕入れた巨大で脂の乗り切った『ノルウェー産アトランティックサーモン』が、色鮮やかな夏野菜と共に花びらのように美しく盛り付けられていた。
プライドがフォークでサーモンを口に運ぶ。
「……っ! 美味しい……!」
口の中でとろけるようなサーモンの濃厚な脂。そこに、ムコーダ特製の『燻製醤油ドレッシング』が絶妙な和のアクセントを加えている。オリーブオイルの華やかさと、日本の醤油が持つ深い旨味、そしてスモークの香りが完璧に調和していた。
「魚特有の臭みが全くない! この『しょーゆ』という調味料、やはり恐ろしいほどのポテンシャルだわ……」
ステイルも驚愕し、次々とサーモンを口に運んでいく。
### 【スープ】オーク肉の田舎風豚汁・八丁味噌仕立て
続いて運ばれてきたのは、漆黒に近い深い赤茶色をした熱々のスープだった。
「こちらは、オーク肉を使用した『豚汁』というスープにございます」
「ほう……見たことのない色のスープだな」
アーサーがスプーンですすり、直後に目を見開いた。
「な、なんだこの深く、力強い味わいは……!」
日本のネットスーパーで厳選した『八丁味噌』のコクと渋み。そこに、コストコの大容量ごま油で炒められた『オークジェネラルの肉』の強烈な旨味と、大根や人参、ごぼうといった根菜の甘みが溶け出している。
異世界の宮廷料理といえば澄んだコンソメやポタージュが主流だが、この「田舎風」の野趣あふれる、しかし洗練された旨味の塊は、貴族たちの常識を軽々と打ち砕いた。
「ほっこりするわ……。前世で寒い冬に飲んだ豚汁の、最上級の味……」
プライドは懐かしさに目を細めながら、最後の一滴まで飲み干した。
## 異国情緒と和の心、怒涛の連続攻撃
### 【魚】シカゴ風スズキの洗い〜大リーグのホームラン仕立て〜
「次は魚料理です。冷たいうちにお召し上がりください」
テーブルに置かれたのは、砕いた氷が山のように盛られたガラスの器。その氷山に、薄く引かれた白身魚(スズキ)が、まるで花火のように、あるいは大空へ放たれたホームランの軌道のように高く、ダイナミックに盛り付けられていた。
「シカゴ風……大リーグ……? 不思議な名前ですが、見事な盛り付けですね」
ティアラが感嘆の声を上げる。
コストコの巨大な氷塊をスイの超振動で砕き、氷水でキュッと締めた『スズキの洗い』。そこに合わせるのは、シカゴのステーキハウスを思わせるような、レモンとハラペーニョ、そして和風だしを効かせたパンチのある特製柑橘ソースだ。
「……! 冷たくて歯ごたえが素晴らしい! なのに、このソースの爽やかな酸味と、後から来るピリッとした刺激がたまらない!」
アランやエリックといった騎士たちが、その刺激的な味わいに夢中になる。濃厚な豚汁の後に、口の中を完璧にリセットする計算し尽くされた一皿だった。
### 【サラダ】割烹仕立てのおばんざいサラダ
メインの前に供されたのは、小鉢に美しく盛られた数種類のサラダだった。
ひじきの煮物、れんこんのきんぴら、そしてコストコの巨大なポテトを使った、いぶりがっこ入りの和風ポテトサラダ。
「これらは『おばんざい』と呼ばれる、家庭的な野菜料理を洗練させたものです」
「なるほど、どれもこれも味が違う。この黒い海草(ひじき)の煮物は、甘辛くて信じられないほど美味しいな」
レオンが興味深く箸(ムコーダが特別に用意した)を使って器用に食べている。
これから来る巨大なメインディッシュに向けて、胃袋を優しく整える和の心がそこにあった。
## 【メイン】ブラッディーホーンブルのアメリカンバーベキュー・フェンリルお墨付きの山賊ソース添え
大広間の空気が変わった。
厨房の方から、信じられないほど凶悪で、暴力的なまでに食欲を刺激する肉の焼ける匂いが漂ってきたのだ。
ドォォォォン!!という音と共に、銀のワゴンに乗せられて運ばれてきたのは、巨大な骨付き肉の塊だった。
「メ、メインディッシュは……『ブラッディーホーンブルのアメリカンバーベキュー』でございます!」
給仕の声が微かに震えている。それもそのはず、コストコサイズの特大バーベキューグリルで、ドラちゃんの完璧な火魔法によって数時間かけてスモーク&ローストされた、A5ランク和牛を凌駕する魔物肉の塊なのだから。
「こ、これはすごい迫力だ……!」
アルバート王配も思わず立ち上がりそうになる。
ムコーダが自らワゴンに立ち、巨大な肉切り包丁で肉を切り分けていく。外側は黒く香ばしく焼き上がり、内側は美しいルビー色のレア。
そこに、たっぷりとかけられたのは――フェルが泣いて喜ぶ、ニンニク、醤油、玉ねぎ、黒胡椒がガツンと効いた『特製山賊ソース』。
「さあ、冷めないうちにどうぞ!」
プライドが肉を切り、口に入れる。
「――――ッ!!」
言葉にならなかった。
ブラッディーホーンブルの野性味あふれる圧倒的な肉の旨味。それを完璧に包み込む、スモーキーな香りと、ニンニク醤油(山賊ソース)の爆発的なパンチ力。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し、脳の奥底まで痺れるような美味さが襲いかかってくる。
「美味い!! なんだこのソースは! 肉の旨味を何十倍にも引き上げているぞ!」
「赤ワインだ! 早く赤ワインを持ってこい!!」
優雅な晩餐会だったはずの大広間が、瞬く間に「最強のバーベキュー会場」へと変貌した。王侯貴族たちが体裁を忘れ、無我夢中で肉を頬張り、ワインを呷る。
厨房の奥では、フェルが『我が一番好きなタレだからな! 当然だ!』とドヤ顔で肉を喰らっていた。
## 夢の終わり、そして伝説へ
### 【締めの一皿】あご出汁香る鯛茶漬け
狂騒のバーベキューが終わった後、貴族たちの胃袋は限界に近いほど満たされていた。
「もう、何も入らないわ……」
ローザ女王が幸せなため息をつく中、運ばれてきたのは、小さな陶器のお椀だった。
「メインの後の『締め』でございます」
ご飯の上には、特製の胡麻ダレで和えた新鮮な鯛の切り身。そこに、メイドが熱々の『あご出汁(トビウオの出汁)』をゆっくりと注ぎかける。
サラサラ……という音と共に、鯛の表面がほんのりと白く霜降り状になり、胡麻と出汁の香りがふわりと立ち昇る。
「……出汁の良い香り。これなら、不思議と食べられそう」
プライドが匙ですくい、口に運ぶ。
「ああ……」
熱々の出汁の深い旨味。胡麻のコク。鯛の甘み。それらがご飯と共に喉の奥へと滑り込んでいく。アメリカンバーベキューで酷使された胃袋に、和の優しさが染み渡っていく。
「こんなに満腹だったのに、サラサラと入ってしまう……。まさに魔法の『締め』だわ」
### 【デザート兼ドリンク】ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜
そして、いよいよ最後のフィナーレ。
大広間にどよめきが起こった。
「これは……果物をそのまま器にしているのか!?」
運ばれてきたのは、コストコで大量購入した大玉のマスクメロンを半分にカットし、種をくり抜いたもの。そこに溢れんばかりの冷たいメロンソーダが注がれ、中央にはバニラアイスクリームと真っ赤なチェリーが乗せられていた。
「ハーフカットメロンクリームソーダです。アイスとソーダを楽しんだ後は、器のメロンの果肉も削ってお召し上がりください」
「可愛い……! そしてなんて贅沢なの!」
ティアラが目を輝かせる。
シュワシュワと弾ける緑色のソーダ。冷たくて甘いバニラアイス。そして、スプーンで削りながら食べる、完熟メロンのジューシーな果肉。
異世界の子供たち(ステイルやティアラ)はもちろん、大人たちでさえも、童心に帰ったように夢中でメロンを削っていた。
前世で純喫茶のメロンクリームソーダが大好きだったプライドは、涙腺が緩むのを止められなかった。
(横濱赤レンガ通りに続いて、こんな素敵なクリームソーダまで……。ムコーダ様、本当にありがとう)
晩餐会は大・大・大成功のうちに幕を閉じた。
建国200年を祝うこの夜の料理は、「フリージア王国の美味しい激震(デリシャス・アースクエイク)」として、後世の歴史書に熱狂的に語り継がれることになる。
「ムコーダ様。この国を、そして私の窮地を救っていただき、本当にありがとうございました」
式典後、プライドは深く頭を下げた。
「いやいや! 俺はただ、ネットスーパー……じゃなくて、故郷の料理を作っただけですから! フェルたちも腹一杯肉が食えて満足みたいですし」
ムコーダの足元では、スイがプルプルと跳ね、ドラちゃんが満腹で飛び回り、フェルは堂々と寝そべっていた。
日本の調味料とアメリカンなコストコの豪快さ、そして最強の従魔たちが織りなす「とんでもスキル」のフルコースは、悲劇の元凶たる王女の運命さえも、最高に美味しく、幸せな方向へと書き換えてしまったのである。