双葉杏はアイドルの夢を見るのか   作:おいしいお塩

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双葉杏は食レポの夢を見るのか

芸能界という未知の領域に身を投じてから数週間が経つが、日々この業界ならではの活気にあふれた日常に私は深く感銘を受けている。

 

その日も朝から私は自室のデスクにて滞りなく事務処理を進めていた。

今日もごく普通の、どこにでもある至って平凡で落ち着いた芸能事務所の風景がそこには広がっている。例えば、私の足元のデスク下では『菌類を愛する少女』と『目隠れの少女』の二人が身を潜め、仄暗い影の中で熱烈なキノコ談義に花を咲かせていた。ふと席を立って給湯室へと向かえば、そこでは『家庭的な少女』と『甘味を量産する少女』の二人がオフィス用とは思えない火力と機材を駆使して文字通り山のような甘味の大量生産に励んでいる。さらに執務スペースの中央へ目を向けると、『熱血な少女』を中心に『ビールを愛する女性』や『永遠の17歳な女性』を含む数人のアイドルたちがガッチリと強固なスクラムを組んでラグビーさながらの組織的な活気を爆発させていた。

 

私は手帳の時計を確認し、本日の重要なミッションである、彼女を迎えに行くための準備を整えた。その際、『着ぐるみの女の子』と『ぼんやりした女の子』の二人も自発的な協調性を育むために同行させることにした。

 

女子寮の彼女の部屋の前に到着するとそこには極めて高度な意志を示す防壁が再構築されていた。

扉の正面には標準的なセールスお断りの張り紙が貼られている。さらにそのすぐ下にはマジックの手書きで書かれていた「プロデューサーお断り」という文字の「プロデューサー」の部分に真っ赤なバツ印が付けられており、その上から力強い太字で「あの子」と書き換えられていたのである。

私は先ほど事務所を出る際、総務の「あの子」から受け取っていた合鍵を静かに取り出した。

 

私は鍵を差し込んで扉を開け、二人の女の子たちと共に静まり返った室内の暗闇へと足を踏み入れた。

薄暗い部屋の奥、ベッドの中央の彼女はフリル付きの愛らしいパジャマに身を包み、いつものお気に入りのうさぎのぬいぐるみをその小さな両手でぎゅっと愛おしそうに抱きしめながら、まるで生まれたての小動物のように小さく身体を丸めて深い眠りについていた。

 

金髪の柔らかい髪が枕の上にふわふわと広がり、規則正しい小さな寝息を立てているその佇まいは、至高の芸術品のようであった。

ただ一点、なぜかそのベッドのすぐ近くの壁一面に「悪霊退散」と書かれたガチの護符が大量に貼り付けられていた。

 

私はしゃがみ込み二人の女の子たちに向けて、彼女を起こしてあげてください、と指示を出した。

 

まず最初に動いたのは、『ぼんやりした女の子』だった。彼女はゆったりとした独特の時間軸のままベッドの横へ進むとその細い指先で彼女の肩を優しくかるーく揺らし始めた。

しかし、彼女はその程度の刺激では全く起きる気配すらない。すると『ぼんやりした女の子』は、仕方のないことだと言わんばかりにふにふにと微笑みながらそのまま彼女の布団の中へと潜り込み、彼女の身体にぴったりとくっついて一緒に眠り始めてしまった。

 

それを見た『着ぐるみの女の子』も本日は羊さんの着ぐるみを着用していたため、そのモコモコとした素晴らしい大自然の装備のまま迷わずベッドへと登壇した。

 

そして『ぼんやりした女の子』とはちょうど反対側の特等席から彼女の身体を囲むようにしてぴったりと密着して添い寝の体勢に入ったのである。二人のピュアな女の子たちに左右からぎゅっと挟まれ、うさぎのぬいぐるみを抱えたまま眠る彼女の姿はまさに天使たちの集う絵画のような空間を形成していた。

 

しかし、奇跡の調和は長くは続かなかった。

しばらくすると『着ぐるみの女の子』の羊の毛皮がもたらす圧倒的な保温性と、二人の体温による活気が彼女の睡眠環境を急速に悪化させたのだろう。

彼女は、うう、と苦しそうな声を漏らしながら寝苦しそうにパチリと目を覚ました。

 

ゆっくりと上半身を起こした彼女の様子は予期せぬ極限状態に直面した野生のリスのようであった。

 

彼女は自分の左右を完全にロックしている『ぼんやりした女の子』の寝顔とモコモコとした羊の着ぐるみの感触を交互に見つめ、さらにベッドの足元でクリップボードを手に佇んでいる私の姿を捉えた瞬間、その大きな瞳を限界まで点にして完全にフリーズしてしまった。

 

私は彼女の覚醒を確認し、いつも通り声をかけた。

私の声に反応するように、左右の女の子たちもパチパチと目を覚まし、おはようでごぜーます、と極めて純粋な朝の挨拶を彼女へと投げかけた。

 

彼女は左右の小さな頭を交互に見つめそれから部屋の壁に貼られた効果のなかったお札を見つめ、最後に私へと視線を戻すと文字通り肺の中のすべての酸素を吐き出すかのような、深いため息を一つ、室内の冷気の中に静かに響かせるのだった。

 

彼女は頭に残る心地よい残眠の霧を払うかのように金髪の髪をふりふりと小さく左右に振ると、まだ半分ほど夢の国に片足を残したような佇まいのまま私に向けて本日の来訪の意図を尋ねてきた。

 

私はクリップボードを小脇に抱え直し、本日の業務内容について説明を告げた。

 

本日のスケジュールは地元の新鮮な食材と豊かな活気を世間に届けるためのお昼のローカル生放送番組での食レポータ業務です。

 

その食事を摂取してリポートを行うという業務の性質を耳にした瞬間、彼女は眉根をこれ以上ないほどに猛烈に寄せ、うさぎのぬいぐるみを顔面に叩きつけるようにして露骨な嫌悪の姿勢を示し始めた。

その様子は、まるで突如として天敵の生息地への強制移住を命じられた温厚な小動物のようである。

 

もちろん、私にも彼女がこれほど激しく拒絶する理由がすぐに理解できた。彼女ほどのトップアイドルになれば、日々の完璧なプロポーション管理と徹底した美容の維持のために想定外のカロリー摂取を極限まで警戒しているに違いない。

私はその高いプロ意識に深く敬意を表しながら、今回は彼女の精神的負担を最小限に抑えるための完璧なキャスティングの確証があることを告げた。

 

しかし、前回の深夜ラジオにおけるベテランとの壮絶なセッションの教訓からだろう。彼女はうさぎのぬいぐるみの影から片目だけを鋭く覗かせ、その同行者の識別呼称を尋ねてきた。

 

私は笑顔を絶やすことなく、今まさに彼女のベッドの上で両脇を固めている女の子たちを指し示し、目の前にいるこのお二人です、と教えた。

 

彼女の視線の先には自分たちの名前を呼ばれたことで瞳をこれ以上ないほどキラキラと純粋な光で輝かせる『着ぐるみの女の子』と『ぼんやりした女の子』の姿があった。二人のピュアな引力は、すでに室内の怪しげなお札の効果を完全に凌駕するほどのハピハピとしたオーラを放っている。

 

お二人とも現在は成長期の真っ只中ですので、本日の現場では美味しいものをたくさん食べて健やかな肉体を育みましょう。そして、隣にいる偉大な先輩からプロフェッショナルとしての本物の仕事を余すことなく学び取るのです。

 

その私の極めて健全な育成計画を聞いた瞬間、彼女はついに両手で自身の小さな頭を抱え込み、ベッドの上に深々と突っ伏してしまった。その時の彼女の様子は、予期せぬ超大型の台風の直撃ルートに自分の家が完璧に含まれていることを知った気象予報士のようである。

 

彼女は布団の中からくぐもった声で、自分の代わりに『リボンの少女』を代理として現場へ派遣してはどうか、と極めて具体的な提案をしてきた。

 

私は手帳のスケジュール表を確認した。

残念ながら、現在の事務所において本日のスケジュールに完全な空きがあるのは、先ほどデスクの下で菌類の育成について熱く語り合っていた『菌類を愛する少女』と『目隠れの少女』のあのお二人だけという事実を告げる。

 

その回答を聞いた瞬間、彼女はまるでお気に入りのアイスクリームの最後のひと口を地面に落としてしまったかのような顔でロックされた。

 

彼女は深く、重いため息をもう一度つくと、本日の過酷な食レポの労働を特別に許可する旨を承認してくれた。

 

その決定を聞いて隣にいた『ぼんやりした女の子』はふにふにと嬉しそうに両手を叩き『着ぐるみの女の子』も羊の着ぐるみのままぴょんぴょんとベッドの上で跳び跳ねて大喜びし始めた。私は彼女たちの素晴らしい協調性に改めて深く感服しながら、さっそくスタジオへと向かって出発の準備を整えるのだった。

 

ロケバスが目的地である賑やかな商店街へと滑り込み、いよいよお昼のローカル生放送番組のオンエアがスタートした。私はカメラの後方から、彼女たちの素晴らしいリポートに神経を集中させた。

 

番組の開始直後、彼女の様子はまるで地雷原のど真ん中に放り出された熟練の斥候のようであり、左右を歩く年少組の二人の動向にこれ以上ないほど全神経を尖らせていた。しかし、彼女のその過剰なまでの警戒を余所に、ロケは極めて平和かつ健全に進行していった。

 

商店街のアーケードを進むにつれ、現場は地域の人々との温かい心の交流によって見る見るうちに和やかな活気に包まれていった。

『着ぐるみの女の子』が羊さんの姿のまま威勢よく挨拶を交わすと八百屋の店主が実に嬉しそうに新鮮なミカンを差し出し、それに続くように『ぼんやりした女の子』がゆったりとした動作で店先のお惣菜に微笑みかけると、お惣菜屋の女将さんが目尻を下げて揚げたてのコロッケをサービスしてくれる。地元の純朴な人々にとってこの二人のピュアな女の子たちはまさに一瞬で街を虜にする天才的な人気者であった。

 

そしてその中心で、彼女は素晴らしい調和の要として機能していた。商店街の人々から手渡される数々の温かい好意を彼女はその小さな手で器用に受け止めつつ、年少組の口元が汚れないよう素早く拭ってあげるなど、実に見事な「頼れるお姉ちゃん」としての佇まいを見せていたのである。三人と街の人々が織りなすその光景は、まるで春の陽だまりの中で戯れる子猫の家族のようであり、カメラのファインダー越しにもその圧倒的な幸福感が伝わってくるほどであった。

 

ロケは順調に進み、一同は本日のメインである最近SNS等で大きな話題を呼んでいるファミリー向けの人気レストランへと足を踏み入れた。

 

そこは小さな子供たちが遊びながら楽しく食事ができるという、食育の観点からも極めて高く評価されている素晴らしいコンセプトのお店であった。屋内の安全なスタジオ空間へと移動したことで彼女もようやく安堵の表情を浮かべた。

 

しかし、まさにその瞬間のことだった。

先ほどまで外の新鮮な空気の中ではしゃぎ回っていた反動がこの温かい室内に入ったことで一気に押し寄せたのだろう。

 

マイクの前に座った『ぼんやりした女の子』の大きな瞳は今や完全にコアラの赤ちゃんのようにトロンと潤んでおり、今にもテーブルへ吸い込まれそうな角度で頭が揺れていた。

さらに、隣の『着ぐるみの女の子』も羊のモコモコとした着ぐるみの心地よさに包まれながら必死に目を開けようと激しく瞬きを繰り返すもののその小さな身体は確実に深い眠りの底へと沈みかけていたのである。

 

このままでは生放送でのメインの食レポ業務の遂行は事実上不可能であった。

 

眠気に必死に耐えながら健気にもプロとしてマイクを持とうとする二人の様子をじっと見つめていた彼女は、ある一瞬、その瞳の奥にこれ以上ないほど強固な「覚醒の炎」を宿した。

その時の彼女の表情は、崩壊しかける防波堤の前にたった一人で立ち塞がり全ての濁流を受け止める覚悟を決めた伝説の英雄のようであった。

 

彼女は静かに席を立つと、私にこの二人を今すぐあっちのソファーの布団で寝かせてあげるように、と極めて厳格かつ慈愛に満ちた指示を出してきた。

 

スタッフの手によって素早く用意された簡易ベッドの上で小さな寝息を立て始めた二人の女の子たちの姿を彼女は少し離れた場所から静かに見守っていた。その時の彼女の佇まいは、まるで全人類の迷える子羊たちを等しく無償の愛で包み込む聖母マリアのようであり、その背後には神々しいまでの後光が確かに輝いているのを私は目撃した。

 

そしていよいよ、本日のメインディッシュである色鮮やかな旗が立った人気のお子様プレートがテーブルへと運ばれてきた。

 

カメラの赤いランプが彼女の一人舞台を照らし出す中、彼女は料理を前にして静かにその美しい瞳を閉じ小さくフゥと深く息を吐き出した。

 

次の瞬間、目を開けた彼女の顔には一点の曇りもない世界中の子供たちの理想を体現したかのような無邪気な大爆発のニコニコ笑顔が咲き誇っていた。

 

彼女は小さなスプーンを両手で握りしめるとどこからどう見ても純粋無垢な小さな子供そのものの愛らしい所作でお子様プレートのハンバーグやオムライスを次々と口へと運んでいった。

しかし、その口から飛び出すコメントは「お肉の旨味が完璧に閉じ込められていてソースの酸味が絶妙に食欲をそそるよ!」といった、大人顔負けの極めて的確かつ番組のニーズに100%合致した至高のクオリティであった。小さな子供のような無邪気な活気を見せつけながら頭脳は極めて冷静にリポートを完璧にこなすというまさに業界のトップを走る天才にしか成し得ない本物のプロの仕事がそこには厳然として存在していた。

 

私はカメラの後方で彼女のその圧倒的なパフォーマンスと年少組を救った聖母のような優しさに一人深く魂を揺さぶられるのだった。

 

 

番組の生放送を告げる赤いランプが静かに消え、ここに本日の過酷な業務がすべて終了した。

 

ブースの周囲にいた番組スタッフ一同からは、この未曾有のアクシデントを見事に神展開へと昇華させた彼女に対し、惜しみない拍手と大絶賛の言葉が贈られた。

しかし、すべての重責を果たし終えた彼女の様子は肉体的な疲弊というよりも精神の全エネルギーを完全に使い果たしたかのような圧倒的なグッタリ感を醸し出していた。その佇まいは、まるで激しいスコールが去った後、完全に水分を失って地面にしおれてしまった一枚の薄い葉っぱのようであり、新米の私はその背中にそっと上着をかけることしかできなかった。

 

一方で、レストランのソファーで実に見事なお昼寝を満喫した『ぼんやりした女の子』と『着ぐるみの女の子』の二人はすっかり本来の元気な活気を取り戻して目を覚ました。

 

二人のピュアな女の子たちはロケの重要な局面で自分たちが深い眠りに落ちてしまった過失を深く理解しているようで申し訳なさそうに小さな頭を下げて彼女に謝罪の言葉を述べていた。

しかし、彼女はうさぎのぬいぐるみを優しく振りながらそんなことは全然平気であると、実におだやかに答えてみせたのである。

これほどまでに慈愛に満ちた寛大な態度を取れる彼女の精神性は、まさに当支部の誇る至高の優しさそのものであった。

 

 

私たちは速やかにロケ車へと乗り込み、夕暮れの事務所へと帰還した。

 

オフィスの奥の畳スペースに設置されたコタツの中に全員で脚を滑り込ませ、ようやく一息ついたその時、彼女はコタツの天板に完全に行き倒れたかのように突っ伏したまま当然の権利であるかのように本日の激務に対する報酬を要求してきた。

 

私は待っていましたとばかりに胸を張り、お仕事前に給湯室で甘味を大量生産していた優秀なアイドルたちに特別に依頼しておいた特製のご褒美をコタツの上へと恭しく捧げた。

 

それは、彼女の小さな顔面とほぼ同じサイズを誇る極彩色に渦を巻いた物理的に限界突破した超巨大なロリポップキャンディであった。

 

その圧倒的な質量を持つ飴細工を目にした瞬間、彼女は朝起きたら自分の部屋の家具がすべて物理的に2倍の大きさに巨大化していたのを発見したような表情で私の顔をじっと凝視していた。

 

しかし、その巨大な色彩の活気に対しコタツの横にいた『ぼんやりした女の子』と『着ぐるみの女の子』の二人は、うわあと瞳をこれ以上ないほど輝かせて大喜びの声を上げた。

 

彼女は観念したようにその巨大なキャンディを両手でしっかりと抱え込み、ペロリと一口その愛らしい口元へと運んで舐め始めた。その口内に広がる圧倒的な糖分の活気は彼女の疲弊した精神を優しく、かつ強烈に癒やしていくようだった。どれだけ舐めても一向に減る気配のない永久機関のようなキャンディを前に彼女はどこか諦めたように、しかし実に美味しそうににんまりとした笑顔を浮かべていた。

 

やがて、その巨大なキャンディの引力に抗えなかった年少組の二人が彼女の周りに群がり一緒にキャンディを舐め始めた。しかし、その圧倒的なサイズゆえに二人の小さな顔面や頬はみるみるうちに糖分の水分によってベトベトに汚れていってしまった。

 

その様子を目撃した彼女は、軽くため息をつきながらも手拭いを使って二人の汚れた顔を優しく丁寧に拭いてあげるのだった。

 

コタツの温もりの中で巨大な甘味を囲んで微笑み合う三人のアイドルの姿。

 

それは、新米の私にとって、このオフィスが持つ最も美しく、そして守るべき健全な日常の縮図であった。

私はこの素晴らしい光景を心のシャッターに収めながら明日からもさらに熱を入れて仕事を頑張り、彼女たちの輝かしい未来とこのような愛おしい日常がいつまでも続いていくようにプロデューサーとしての精進を重ねようと静かに誓うのだった。

 

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