赤城達が敵からの攻撃を受けている頃、吹雪と紀伊達は現場海域に向けて急行していた。既に赤城達との距離は縮まり、水平線の奥に目視で捉えている。
「もう直ぐだ!急げ!この水平線の先だ!」
しかし現場へと近づく毎に晴れていた上空の天候は悪化していき、不吉な予感をより際立たせていた。
「全艦対空監視を厳に!」
隊は輪形陣を取り航空機と潜水艦への警戒体制を敷いた。紀伊と尾張のOPS-24レーダーが最大出力で周囲の上空を索敵し、敵機を警戒する。
「不味いぞ!」
距離が縮まるに連れて、赤城達は敵機と艦隊に取り囲まれているのが分かり、爆撃と砲撃による水柱が上がるのが見える。
「赤城さん!!」
「吹雪、落ち着け!」
彼女らの危機に吹雪は思わず飛び出そうとしたが、尾張が腕を掴んで押さえた。
「放してください!赤城さん達が!」
「慌てるな!今、兄貴が良い策を考え付いたみたいだ」
動揺する吹雪を対して紀伊は落ち着いた表情で、尾張は吹雪を落ち着かせると主砲を展開する。
「尾張、18式の用意は?」
「いつでも。衛星とのリンクも完了した」
「よし。先ずは邪魔者を排除する」
直後、2人の51センチ砲から18発の18式誘導砲弾が放たれた。
「久々の実戦使用だ、上手くいけば良いが」
衛星からの目標情報は紀伊と尾張から常に砲弾に送られており、一定の高度に達した18発は同時に目標に向け向けて落下、弾頭部のセンサーが赤城達を包囲していた敵の雷巡チ級、重巡リ級、その他の軽巡級と駆逐艦級を捉え、ロケット推進に切り替わり目標へ向けて降下する。
「弾着…今っ!」
直後、18発の18式全弾は目標に降り注ぎ一撃で大破、撃沈に至らせた。
「全艦対空戦闘用意!!」
「行け!吹雪!」
「はいっ!!」
間髪入れず紀伊は吹雪に突撃を指示、吹雪はリードが切れた闘犬の如く加速し戦線に突入、茫然となっていた赤城と上空から迫ってきていた敵艦爆に向けて主砲を放ちこれを撃墜した。
「赤城さん、大丈夫ですか?」
「吹雪さんっ……どうして?」
「説明は後です!早く艦載機を!」
「しかし……」
赤城の手には弦が切れた弓しか無い。しかしそこへ別の弓が飛んで来た。
「これは!?」
弓には加賀と掘られており、後ろを振り向くと加賀が笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます」
赤城はそう言うと弓に矢を掛けて射出する態勢を取る。
「稼働機、全機発艦!」
矢を放ち艦載機が展開される。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「えぇ」
「何とか…」
「平気です!これくらいで逃げ帰ってはお姉様に叱られます!」
「よくぞ言ったネ!比叡!」
比叡の言葉に応えるように、金剛が飛び込んできた。
「お姉様、来てくれたんですね!」
「私達だけじゃありまセン!皆、follow me!」
そこへ紀伊、尾張、大井、利根、筑摩が続々とやって来た。
「皆、どうして?」
「吹雪の類い希な勘が当たったのさ」
「勘……ですか?」
「そうだ。どうやら吹雪の勘はよく当たるらしい」
紀伊の説明に赤城は一瞬呆気にとられる。
「来たのは紀伊さん達だけではありません」
そこへ聞き覚えのある声が響く。その声がした方を見ると遅れていた筈の大和が居た。
「大和さん!?」
「遅かったな」
「申し訳ありません。でも来たのは私だけじゃないんですよ」
大和が後ろを振り替えると、いつの間にか後方には国防海軍のUS-2A飛行艇2機が着水しており、サイドドアからこの作戦には参加していない筈の翔鶴、瑞鶴、榛名、霧島が降りてきた。
「大和は兎も角、翔鶴と瑞鶴はどうして?」
紀伊の疑問に瑞鶴が応えた。
「なんか高速修復剤が手配されて、急に現場へ向かえって命令受けて飛行艇が急に手配されたから急いで来ちゃった。大和さんは此処に来る途中で拾ったの」
「少々無茶をしましたが……5航戦も微力ながら参戦させていただきます」
思わず戦力が増えた事に多少戸惑いを感じつつ目の前の凄地MIに居座る飛行場姫、回りを取り囲むヲ級やその他の深海棲艦の艦隊を見据え、その場に居た全員が動き始める。
「行きましょう!」
「はい!」
「5航戦、全稼働機発艦!」
5航戦の2人が上空援護のため戦闘機を発艦させ、赤城の機体と共に上空の敵機の迎撃に入る。
「ようやくこの時が来ました。ずっとずっと悠久の昔から私はこの時を待ち望んでいた気がします。皆さんと、そして紀伊と尾張さんと言う異界の友と共に手を取り合い戦うこの時を………」
大和は主砲を展開、飛行場姫に向けて照準を合わせる。
「左砲戦、3式弾装填!第1、第2主砲射撃用意!」
主砲に対地用の榴弾ではなく対空用の3式弾が装填される。大和は相手に向けて確実にダメージが与えられる様に敢えて3式弾を装填したのである。
「やる気だな大和」
「当然です。私は戦艦ですから」
「なら俺も、久し振りの対地攻撃をやってみるか」
「俺も付き合わせてくれ」
紀伊と尾張も主砲に3式改を装填する。3式改には対地目標でも作動する近接信管が装備されているため対艦のみならず対地攻撃にも絶大な火力を持っている。
「主砲斉射!」
大和が斉射をするのと同時に紀伊と尾張も斉射で3式改を飛行場姫へ向けて見舞った。
9発の3式弾と18発の3式改は弧を描くように飛翔し飛行場姫の頭上で3式の時限信管、3式改の近接信管が同時作動、飛行場姫に大量の酸化マグネシウムで着火されたゴム片とボールベアリングが降り注ぎ飛行場姫は両腕で防御態勢を取った。
「やった!」
吹雪は歓喜の声をあげるが、大和と紀伊は……
「まだです」
「しぶといな」
煙が晴れると飛行場姫はほぼ無傷の姿で立っていた。
(ナンドデモ…ナンドデモ……沈ンデ行キナサイ)
「喋った!?」
「深海棲艦は喋るのか?」
「上位個体には喋る事があると聞いた事があります。私も深海棲艦の声を聞いたのは初めてです」
その声は見た目に反して低く、まるで魔女を思わせる。
しかし、その声を合図にしたかのように控えていた深海棲艦の艦隊が動き出した。
「本気にさせたっぽい?」
「上空の敵機は私達が対処します。第1機動部隊はその隙を突いて敵機動部隊を。大和さん達主力部隊は紀伊さんと尾張さんと共に飛行場姫の撃破に向かってください!」
「了解」
「任せろ」
「そっちは任せたぜ!」
「吹雪さんも向かってください!」
「はい!」
機動部隊の金剛型4人と北上に大井は露払いのため砲撃戦と雷撃戦を展開する。艦隊戦で無類の強さを発揮する機動部隊は次々と敵艦仕留めていき、飛行場姫の護衛艦隊を追い詰めていく。
「貰った!」
利根と筑摩がヲ級に止めを刺し護衛部隊を撃滅。
「よし!」
しかし飛行場姫は両手を広げ、自身の持つ航空戦力を展開させた。
「なんて数だ!?」
「見た目が一緒でも個体によって違うって事だな」
深海棲艦の上位個体と交戦経験がある紀伊でも、以前の鎮守府正面海域で戦った飛行場姫と目の前の飛行場姫とは明らかに一線を画す力を前に冷や汗をかいた。
「だが、グラ・バルカスやラヴァーナル帝国に比べれば訳もない」
「あぁ。全くだ……」
しかし、前世界でグラ・バルカス帝国や魔法帝国との戦いを経験した2人にとっては飛行場姫は恐れる程の敵ではなかった。むしろ魔法帝国はそれ以上の敵だった故に、飛行場姫の力は魔法帝国の古代兵器と比べるまでもなかった。
「たがこの状態じゃ決め手に欠けるな」
「そうでもありませんよ」
大和の言葉に2人は真上に気配を感じて上を見上げる。
「あれは…」
なんと、1航戦の艦爆隊が頭上を通り過ぎていくのが見えた。艦爆隊が飛行場姫に向けて爆撃態勢に入ると一気に爆弾を投下、爆撃による衝撃波と爆風により飛行場姫の滑走路に損傷を与えた。
「飛行場姫の滑走路を破壊を確認!」
「制空権確保しました!」
「後は私達がやります」
大和は主砲を再度飛行場姫に向け、紀伊と尾張も続けて主砲を向ける。今度は飛行場行姫に向けて直接照準による水平射に切り換えた。3人とも砲には徹甲榴弾を装填し、飛行場姫をまっすぐ見据えた。
「主砲、全門斉射!撃てぇ!」
大和の合図と共に46センチ砲9門が火を吹く。
「続けて、斉射!撃ち方はじめ!」
紀伊の合図で尾張と共に51センチ砲18門が火を吹いた。3人が同時に放った主砲の衝撃波は周囲の海面を叩き飛沫を上げ、轟音が後ろに居た吹雪達の耳の奥にまで届き、皆思わず耳を塞ぐ。
「うぅっ!」
「ひえ~~耳がっ!」
「な、何と凄まじい……」
27門もの主砲の同時斉射の衝撃は一瞬にて飛行場姫にも届き、その細身の身体を後退りさせた。そして、その直後には27発の46センチ砲弾と51センチ砲弾が降り注ぎ、その身を完全に粉砕、声を上げる間も無く炎の中に倒れた。
「やったの…?」
「はい。これで………」
赤城は安堵し息を吐こうとした時……
「新たな敵機動部隊!」
息つく間も無く、新たな敵機動部隊が姿を表した。
「どう言う事だ!?飛行場姫は倒した筈だろ!」
「なんて数だ!何処から沸いて出てきたんだコイツら!」
新たに出現した敵機動部隊には空母や戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦が多数展開しており、比叡もその数を数えようとしたがその多さに数えるのを止めて狼狽する。
「飛行場姫は倒したから1度撤退して態勢を建て直しますか?」
「ダメです!」
その提案に対して大和が即座に否定した。
「大和さん?」
「何か感じませんか?まだ敵には強大な力が働いている事に」
「強大な力?」
「はい。私が皆さんと合流が遅れてしまったのも敵が新たに現れたのも、まるでかつてあった事をあった通りにしておこうとする力が。撤退すればその力はより強くなりそうな気がするんです」
この大和の発言に紀伊は長門から聞いた自身と尾張が歩んだものとは違う歴史上での記憶なのではと思った。
「ここで打ち破らなければならない。私達を縛り付けている何かを」
その直後、戦場全体に聞き覚えのある声が響いた。
「飛行場姫が……動いてる」
倒したとおもった飛行場姫が呻き声と共に立ち上がり、より禍々しい姿となって甦っていた。
「また振り出しかよ」
それに呼応するかのように、更に多くの敵艦が姿を表した。
「どうやっても抗えないと言うのですか………」
無敵とも言える敵の威容に赤城達は運命には抗えないのかと心を押し潰され力が抜けていく中、たった3人だけは抗おうとする心を持っていた。
「駄目です!そんなものに負けてちゃ駄目なんです!」
最初に声をあげた吹雪は皆に向かって言い放った。
「皆が私達の勝利を信じて待っていてくれているんです!私も今までの戦いを経験して分かったんです。全てを変えるには一歩を踏み出す事、運命に抗う事を怖がっちゃ駄目なんだって!何にも囚われず始めなきゃ駄目なんです!それが全てを変えるんです!」
吹雪のその言葉に紀伊と尾張は両腕を組んでうなずく。
「その通りだ。まだ終わってもないうちから諦めるのは格好悪いじゃないか」
「全くだ。俺も兄貴も戦いで諦めるなんて事は1度もやった事は無いから諦めるって事がよく分からねぇからよ」
「それにだ、まだ作戦は終わっちゃいない。そうだろ、長門?」
その直後………
「その通りだ」
皆が後ろを振り替えると、そこには長門と陸奥の2人が立っていた。
「長門さん!?」
「遅れてすまない。今到着した」
「久し振りの実戦だから張り切っちゃってね。US-2のパイロットを急かしてやっと来たって訳」
「私達だけじゃない」
すると、後方から多数のUS-2が飛来し次々と海上に着水する。
「凄い……海軍のUS-2が全機居るじゃない」
「あっ!神通さんぽい!」
「あれ?あそこに居るのってALに行った人達じゃない?」
US-2からは鎮守府で待機していた者と陽動で凄地ALに向かっていた筈の艦娘達が次々と海上に降り立ち、合流してきた。
「これで役者は揃った訳だ。提督も中々やるものだ」
「提督?まさか、これを見越してのMI攻略だったのか?」
「そうだ。まさか提督もこの事態を予期していたのには驚いたがな」
「だろうな」
そう言うと長門らは目の前の敵を見据えた。
「さて、本当の戦いはこれからだ!行くぞ!」
続く
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