オレ、死柄木虚はタルタロスからの釈放と引き換えにヒーロー公安委員会と「契約」を結んだ。
契約の詳細はこうだ。
基本的に公安からオレに下される命令は絶対遵守。
釈放から3ヶ月ほど経つが、今の所、下された命令は4つだけ。
3回はザコ
引き換えに、ヤツらはオレに戸籍の作成や生活資金の提供などを行っている。
公安は社会生活を送る上で必要となる多くのサポートをしてくれており、オレ自身、待遇に対する不満は湧かなかった。
しかし、下された命令の内の一つが厄介だった。
この命令だけは他と異なり、長期的な期間に渡るものだ。
「雄英高校ヒーロー科目に入学しなさい。」
会長から呼び出され、最初に下された命令だ。
雄英高校ヒーロー科。
日本最高峰のヒーロー養成校らしい。
父を打ち倒した男というあのオールマイトも雄英校を卒業しているとのことで、興味が湧かないわけではなかった。
例年の試験内容を見る限り、“個性”を用いた実技試験に限って言えば、オレにも合格可能性はあるだろう。
しかし肝心なのは筆記試験の方だ。
「いやいや、無理に決まってるだろ。オレは幼稚園すら卒業してないんだぞ。」
学習装置で日本語や社会生活を送る上での最低限の知識こそ学んだが、オレの頭で高校受験、それも日本屈指の学力を誇る高校へ入学するのは不可能に近いだろう。
「それに関しては心配しないで。」
「どういうことだ?」
「雄英の方に話はつけてあるから。」
聞けば公安から校長の方に話はつけてあるそうで、オレだけは特例で筆記試験が免除されるとのことだ。
オレのせいで誰かが試験に落ちる。
そう考えると、一瞬後ろめたい気持ちが頭をよぎったが、すぐに頭を切り替えた。
見ず知らずの受験生がオレのせいで試験に落ちようとも知ったことではない。
オレの自由を守るためなら、安い犠牲だ。
それからの三ヶ月間は公安による受験対策の教育プログラムをひたすら受講する生活を送ることになった。
——
2月26日
季節は春先。
本日、オレは雄英一般入試実技試験に挑む。
最寄り駅から小高い丘を登ってくると、ガラス張りのキレイな校舎が見えてきた。
ここが雄英高か。
大通りの前方を見ると、緑髪が特徴的な受験生が転びそうになっていたが、女子の受験生に助けられているのが見える。
アイツはあんな調子で大丈夫だろうか?
多分、周りの人間を心配させるタイプだな。
その後案内に従っていると、階段上に配置された座席が備えられた大きな教室に案内された。
しばらく待っていると、この学校の教員、プレゼント・マイクが試験内容について説明し始めた。
「今日は俺のライブにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」
シーンと場が静まり返る。
「こいつあシヴィーーーー!!! 受験生のリスナー!」
「実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!!?」
説明を要約すると、これから行う「模擬市街地演習」は演習場に配置された三種・多数の仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐことが目的である。
仮想敵は攻略難易度に応じて、1、2、3のポイントが割り振られている。
メガネの受験生がした質問により明らかにされた4種類目の仮想敵の存在。
他の仮想敵と違いポイントが割り振られていない上に、演習場に一体しかいないとのこと。
この0ポイントは倒しても意味がない。
教員が言うように、
そういえば、あの緑髪。
今度はメガネに注意されてたな、間の悪いやつだ。
教員は説明を一通り終えると、結びを述べはじめた。
「かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」
と!!!」
「”Plus Ultra” !! それでは皆良い受難を!!」
ヒーローには微塵も興味はないが、やるしかない。
オレも覚悟を固めた。
——
オレが割り当てられた会場は演習会場G。
会場へ向かうと入り口付近は受験生たちで溢れている。
談笑する者。
試験に備え、独り気を落ち着ける者。
持ち込んだ道具を手入れする者。
オレは離れたところから、受験生たちの様子を観察していた。
「ハイスタートー!」
そうしていると、突然試験の開始が告げられた。
「そんじゃ、お手並み拝見と行こうか!!!」
“個性”を発動する。
オレの個性は『悪魔』。
肉体が異形化しパワーアップするシンプル”個性”だ。
まだ試験は始まったばかり、部分変身で様子を見るか。
バチバチと音を立て、稲妻のようなエネルギーが背中あたりを駆け巡る。
直後、オレの背から黒い翼が生成される。
翼をはためかせ、上空へ飛び立つと、受験生たちでごった返す入り口付近を一番乗りで突破することができた。
オレは飛ぶのが好きだ。
重力から解放され、冷たい風が体を打ちつけるこの感覚が心地いいんだ。
空では誰もオレを縛ることはできないから。
「いかんいかん。感慨に耽っている場合じゃなかったぜ。」
上空から会場を見渡し、仮想敵が集中しやすい箇所、あるいは既に集中している箇所を見つけんと思案する。
そしていいスポットを見つけたので…
「そんじゃ。やりますか!!」
上空から重力に身を任せ、仮想敵の群れ、その一体に突貫する。
重力の乗ったオレの蹴りは容易に1ポイント敵を打ち砕いた。
脆いな。こんなもんか。
「標的捕捉!!ブッ殺ス!!」
「標的捕捉!!ブッ殺ス!!」
「標的捕捉!!ブッ殺ス!!」
1ポイント、2ポイントの入り混じった仮想敵の群れはオレを認識すると、ほぼ同時に襲いかかってくる。
「さっきのは不意打ちだったからなぁ!どれだけやれるか見してくれよ!!?」
両手の指先あたりに稲妻を駆け巡らせ、変異を引き起こす。
直後、禍々しい様相をした鋭利で頑強な鉤爪が指先から発現していた。
接近する仮想敵に対し、力任せに鉤爪を振るう。
鉤爪は仮想敵の装甲をものともせず、一振りで3体の仮想敵を両断する。
残る仮想
何も考えない。思うがままに力を振るう。
大事なのは躊躇しないことだ。
顔を貫く。
関節の急所を切り裂く。
中には遊び心を込めて、四肢を切り落としながらも、機能停止させずに無力化させた個体もある。
自分で言うのもなんだが野蛮な戦い方だ。
「これで14ポイント。」
これでここらの敵は狩り尽くしたか?
そんなふうに考えていると、こっちが赴くまでもなく、仮想敵3体が向かってきた。
ちょっとギアを上げるか。
翼と爪に留まっていた変身を右腕にまで広げる。
そうして体に対し不釣り合いなほどに肥大化した黒腕を下から上に振り上げる。
腕を振るった際に生じた衝撃波は3体の仮想敵をまとめて吹き飛ばす。
技術もへったくれもない、力任せの攻撃だったが、3体をまとめて破壊するには有り余る威力だった。
破壊の余波が周囲に衝撃波として響き渡る。
ただ腕を振るうだけで衝撃波を発生させるオレ様の圧倒的な力を前に他の受験生たちもここでのポイント獲得を諦めたようだ。
「おい!!アイツの周りじゃポイントは稼げないぞ!散れ!!」
「畜生ッッッ!!」
「チート野郎がッ!!」
オレがロボットを独占して倒すほど、他の奴らの合格可能性は低下するのか。
しょうがないな、ここは引き上げてやるか。
それからというもの、オレはひたすらに試験場を飛び回り、ロボットを見つけては切り裂き、殴りを繰り返した。
稼げたポイントは64ポイント。
この会場ではおそらく一番だろう。
合格は約束されたも同然だ。
試験終了が近づく中、オレは先ほど罵声を浴びせてきた受験生のことを思い返していた。
これは試験、競争し選別される場だ。
自分だけは勝ち残ろうと他人を蹴落とすのが競争の本質。
こうした場では人の醜い部分が剥き出しになる。
競争相手に対する嫉妬や敵意。
そういう生々しい感情はここの受験生たちからも読み取れた。
結局、お前らもオレと同じ。
我が身が可愛いいだけなんだよ。
雄英というから期待してみれば、質の低い受験生ばかりじゃないか。
嘲笑する気持ちで残り時間を足掻く受験生たちを見下ろしていると、1人の受験生に目が吸い寄せられた。
あの女、まさか?
上空から適当なビルに降り立ち、悪魔化を眼球と脳にまで行き届かせる。
その結果、強化された視覚は女の姿を鮮明に捉えることを可能にした。
オレンジ色の髪をサイドテールに束ねた女。
翡翠色の大きな瞳。長いまつ毛。透明感のある肌。適度に潤んだ形のいい唇。
そのどれもが美しかった。
しかし、女に着目したのは何もその容姿が整っていたかったからではない。
断じて違うからな….
あの女だけは他の受験生と違ったんだ。
試験終了が近い中、周りの受験生をサポートしながら戦っている姿にオレは…..
オレや周りの受験生たちにはないものを女は持ち合わせているのだと確信した。
もう少しあの女を見ていたい。
そんなふうに考えていると突如、大砲のような爆発音が会場中に鳴り響いた。
あぁ、あれが0ポイント
高層ビルよりも大きな体を持った0ポイントの巨大敵は受験生たちを妨害せんと、市街地を駆け出しはじめた。
その巨体と圧倒的な力を前に受験生たちは恥も外聞も捨てて逃亡し始めた。
「逃げろー!!!」
「ここから撤退しろ!」
あの女を見てみれば、混乱の最中に負傷し、動くことのできないでいる受験生を救助していた。
救助を終えた女は負傷者を背負いながら0ポイントから逃亡している。
遅いな、完全に逃げ遅れてるじゃないか。
しかし相当鍛えてるんだろうな。
人一人を背負ってる分には結構なスピードで走れてるが、あれから逃げ切るには遅いぞ。
周囲の受験生たちも自分のことで精一杯、女の窮地に気付きつつも何もできないでいる。
オレは……
いつもと同じ選択じゃ、人生面白くないよな。
自分らしくない選択も、偶には悪くないだろう。
そう決めると、ビルから落下した勢いに乗り、全速力で翼をはためかせる。
風を切るようなスピードで空中を駆け、二人の下へ降り立つ。
近くで見ると、負傷した受験生は気を失っているようだった。
「ア、アンタは?」
女がオレに尋ねてくる。
「助けてやるから、オレに掴まれ」
「わかった、ありがとな!」
女はオレの提案に疑うことなく乗ってきた。
こちらを疑わない、人を信じる目だ。
「でもアンタこそ、私たち二人を抱えたままで大丈夫?」
「問題ない。それくらいなら余裕だ。」
サイドテールの女と気を失った女。
二人を両脇に抱き抱えてオレは飛び立った。
多少飛行スピードは落ちたが、変身した肉体なら人二人運ぶ程度、苦ではなかった。
「す、すごっっ!飛ぶってこんな感じなの!?」
女が飛んでいることに感嘆している様子を見て、オレは何故だか誇らしい気持ちになった。
「飛ぶのは初めてか?」
「うん、楽しいもんだな。飛んでみるのも」
「そろそろ下ろすぞ」
0ポイントから一定の距離が取れた地点で二人を下ろすと、オレは改めて0ポイントを見据える。
「改めて、ありがとな」
「ってあんた何しようとしてるの!?」
女はこちらを心配するような様子で尋ねてきた。
「当然、あれをぶっ倒すのさ。」
退屈な試験だったが、あれなら全力を振るえるだろう。
バチバチと音を立てて、今日一番の稲妻が全身を駆け巡りはじめる。
試験のほとんどは力をセーブすることに徹してたが、もう試験も終わりだ。
最後くらいぶっ放して終わりにしよう。
「試験終了っおおおう!」
プレゼント・マイクによる試験終了のアナウンスが会場中に響き渡る。
って終わんのかよっっ!!?
せっかくオレ様の本気で0ポイントを華麗に討伐してやろうとしてたのに!!!
カッコつけた矢先のこんな結末。
羞恥心を覚え場を離れようとすると、女が腕を掴んできた。
「なんだよ?」
「いや、改めて例を言いたくてさ。私は
「折角助けてくれたんだしさ、名前くらい教えてくれよ。」
そう言ってこちらの腕を引いてきた。
個性を解き常人に戻ったせいで、女のこちらを掴む力を振り解くことができなかった。
拳藤という少女は見かけによらず怪力みたいだ。
「おっおぃ」
近いっ!距離感が近い!
抵抗しようと振り解こうとするが、拳藤は離してくれない。
そうした弾みに拳藤の胸とか色々腕にぶつかってきて、面食らってしまった。
コイツ無自覚だよな?
指摘した方がいいのか?
初めて同年代の女と接触したせいだ、柄にもなく狼狽えてしまったぜ。
不思議と不快には感じなかったが、コイツといると自分のペースが乱される。
「わかった!!答えるから一旦腕を離してくれ」
今回は根負けして答えることにした。
「オレの名は…しがっ、いやオレは
タルタロスから釈放され、仮初の自由を得た際に与えられたオレの新たな名だ。
「そっか逢魔か。お互いに合格してるといいな。」
そう言って顔をほころばせた彼女の表情に見入ってしまう。
いや腑抜けるな、オレ。
一度気持ちを切り替えよう。
「オレはもう帰るけど、拳藤はどうするんだ?」
「私はこの子の目が覚めるまでここに残るよ。」
「そうか。それじゃあな。」
多少名残惜しい気持ちはあったが、気を失った受験生のことは拳藤に任せ、オレはその場を立ち去る。
拳藤一佳か。
アイツとなら、友達ってやつになれるのかもしれないな。
名前:
誕生日:12/24
身長:182cm
血液型:AB型
出身地:東京都
好きなもの:特になし
個性:『悪魔』
「悪魔」に変身する。悪魔の肉体は身体機能が著しく発達しており、筋力・五感・耐久力などに優れている。
変身時には爪、翼、尻尾が発現し、武器として用いることも可能。
数多の”個性”を掛け合わせることで造られた”個性”であり、真自身もその全容を把握しきれていない。