「現実と夢の境界線が曖昧になった今、幻は現実となる」
「コード:ソムニアからやっと解放されたんだ!ようやく僕たちの悪夢を叶えられるよ!」
「さぁ、オブリビアン。私たちで悪夢を叶えましょう。とびっきりのね」
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「いたたた……」
「大丈夫?獏さん」
「あまり無理しないほうがいいですね、万津さん」
カタストロフに殴られた脇腹が痛み、まだ包帯が巻かれている場所をさする。松葉杖を近くにあったベンチの横に置き、ゆっくり座り込む。そして、俺の両隣を千束ちゃんとたきなちゃんが挟み込むように座った。
「あれから2週間経ったけど、まだ治らないなぁ」
「現実世界に顕現したナイトメアは現実を改変する程の影響をもたらすんでしたっけ?その改変能力が傷の回復を邪魔しているんでしょうか?」
「さすがたきな!私も獏さんから一通りナイトメアの話は聞いたけど正直サッパリだったから助かる〜」
カタストロフゴアとの死闘の後、気を失った俺は病院に入院することになった。崩壊の力によって受けた傷はリカバリーの回復を妨げ、なかなか退院することができずにいた。
「カタストロフゴアの奴、厄介なものを残していきましたね」
「私の心臓はもう治ったのに獏さんだけ治らないなんて……」
「まぁまぁ、徐々に体内に残留した崩壊の力も消えていってるしそのうち治るさ」
「でもぉー!」
「ちょ、千束!?」
「うごぉっ?!」
俺の腹に千束ちゃんの頭が突っ込んできた。あまりの衝撃に肺の空気が飛び出る。なんだか最近彼女のスキンシップが激しい気がする。唸りながら腹にぐりぐりと頭を擦り付けてくる千束ちゃんを撫でて宥めていると今度は横から鋭い視線を感じ振り返る。
「じー」
「た、たきなちゃん?」
「……千束だけずるい」
「え?今なんて?」
俺の耳がおかしくなったのだろうか。さっき、たきなちゃんの口からとんでもないことが聞こえた気がする。気のせいなのか?
「万津さんの馬鹿!」
「ぐはっ?!」
たきなちゃんがまだ痛む脇腹をつねってくる。俺は痛みのあまりベンチから浮き上がる。
「うごー!」
「万津さんの鈍感!馬鹿!おたんこなす!」
「うごっ!ぐあっ?!そ、そこまで言わなくても?!」
いまだに頭をぐりぐりする千束ちゃんとつねるたきなちゃんのタッグ技を受けてボロボロになった俺は天を仰ぎ見る。
「獏さん、もっと撫でてー!」
「ちょっと万津さん、聞いてるんですか?!」
「誰か助けてー!」
俺が助けを請うていると地面を何かが転がる音が近づいてくる。その音の発生源に目を向けるとそこには車椅子に乗った少女とそれを押す母親らしき女性がいた。
「君は確か……隣の病棟のねむちゃん?」
「あ、獏だ!またいちゃついてるー!こう言うのってふじゅんいせいこうゆうって言うんでしょ、お母さん?!」
「こら、ねむ。どこでそんな言葉を覚えたの?」
「べ、別にイチャついてません!」
「私はそうでもないんだけどなぁー」
微笑ましい親子のやり取りに思わず笑顔になる。彼女たちは柊親子。娘である柊ねむちゃんはナイトメア症候群という医学的には「悪夢障害」と呼ばれ、不快な悪夢を繰り返し見て睡眠が妨げられ、日常生活に支障をきたす睡眠障害の病気で入院している。
「獏ー、また私の夢においでよ。今度は遊園地行きたいな!」
「夢?遊園地?何を言ってるの、ねむ?」
「ね、ねむちゃん!」
「わぁっ!」
ねむちゃんの発言に怪訝な顔をする柊母。俺は千束ちゃんとたきなちゃんを引き剥がし、ねむちゃんを抱っこして移動させる。
「君の夢に潜入していることはお母さんに内緒だよ」
「どうして、獏ー?」
「俺がエージェントである事はシークレット……秘密なんだ。それにお母さんも心配しちゃうからね」
「わかった!でも、今日は絶対来てね!」
「うん、約束だ」
俺はねむちゃんと指切りをする。ナイトメア症候群を発症している彼女を治せるのは夢に潜入できる俺だけだ。子どもの笑顔のためなら喜んで力になろう。
「ねむ、そろそろ病室に戻るわよ」
「はーい。じゃあまたね獏ー」
「またね、ねむちゃん」
俺は帰る柊親子に手を振り送り出す。そんな俺の元に千束ちゃんたちが慌てて駆け寄ってきて一緒にねむちゃんたちに手を振った。
「ねむちゃん、今度はお姉さんとも遊ぼうねー!」
「千束はただ遊びたいだけでしょ?またねー、ねむちゃん」
その後、お見舞いのフルーツをたらふく食べさせられた俺は腹がパンパンになり千束ちゃんたちと別れた。病院はすっかり外も暗くなり、消灯時間を迎えた。もう少しで約束の時間だ。
「さぁ、ミッションスタートだ……ぐぅー」
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「遅いよ獏。ほら、早くあそぼ!」
「遅れてごめんね、ねむちゃん。さぁ、お楽しみの時間だ!」
【フルライズ!】
俺はねむちゃんの夢に潜入し、明晰夢の力を使って彼女の夢を書き換える。殺伐とした世界に虹がかかり、夜の世界に星が煌めく。
「わぁ、メリーゴーランドだ!」
「観覧車もジェットコースターもなんでもござれ。エスコート致しますよ、お嬢さま」
「私、メリーゴーランドに乗りたい!」
「よし、行こう!」
俺はねむちゃんを肩車して夢の世界に作り出した遊園地を歩く。なかなかの完成度だ。この間、病院を抜け出してディ○ニーランドに行ってきた甲斐がある。
「獏、あれなぁに?」
「「「「「「「「「「キャッキャッキャ!」」」」」」」」」」
「あれはナイトメアの幼体!」
俺たちの目の前に大量のナイトメアの幼体が続々と出現する。また始まったのか。俺はねむちゃんを物陰に隠れさせてナイトメアの前に立ちはだかる。
「I'm on It(さぁ、やろうか)変身!」
【アブソリュート! ライダー!ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ! ゼーッツ!エクスドリーム!】
「「「「「「「キャッキャッキャ!」」」」」」」
「行くぞ!」
俺はブレイカムゼッツァーとイナズマブラスターを二刀流にしてナイトメアの幼体に突っ込む。一体撃破するたびにその倍の幼体が出現する。
「獏!助けて!」
「くっ!?今行く!」
【プラズマ!】
隠れていたねむちゃんの方にナイトメアの幼体が歩み寄る。俺は体をプラズマ化させて高速でナイトメアを切り裂き、ねむちゃんを背に立ち向かう。
「悪夢の終わりだ!」
【ライズ! グレートバニッシュ!ゼェッツ! ゼッツ!! ゼェーッツ!!!】
「「「「「「「「「「「「「ギャアアアアア!!!」」」」」」」」」」」」」
全身から虹色の輝きを放出し、稲妻のように放電させナイトメアの幼体を消し飛ばす。百体以上はいた群れを全て倒し尽くし、ようやく夢の世界に平和を取り戻した。
ねむちゃんはナイトメア症候群により、悪夢を繰り返し見てしまうためナイトメアを誘き寄せやすい特異体質だ。彼女の夢を守るために俺はこうやって定期的に彼女の夢に潜入している。
「ねむちゃん、もう大丈夫だよ」
「ありがとう、獏!」
そんな俺たちを影から見つめている者に俺たちは気づく事はなかった。
「ふふふ、さぁ。ねむのために悪夢を叶えましょう」