巡り合わせの古物たち。その中には、こんなふうに流れてくる物もあるかも知れない

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とあるカメラの転職

『もっと知りたかったな──』

 

 道具(ワタシ)について、以下のように記録を開始──。

 

 道具の役割ってのは当然ながら、求められた仕事を全(まっと)うする、あるいはその手助けをすることだ。オレ(・・)は道具で、モチロン仕事を熟(こな)してきた。一日中、ほとんど休むこともなく。それが道具(オレ)に求められる当たり前だから。

 

 さて悲しいことに、道具ってヤツにはこちらも当然、耐用年数ってモンがある。ヒトで言う寿命だ。使えなくなったら、その兆候が見えたら、あるいは決まった年数使ったらポイ。まぁ使う方(ニンゲン)からすれば正しいことだ。仕事に支障が出ないよう、問題が出る前に交換する。

 

 モノを大切に、ってのは理想ではある。

 

 使えなくなるまで使おうってのは有難いハナシだ、使われる側からすれば。でもその整備に使う時間を仕事自体に充(あ)てた方が都合が良いことがほとんどで、もっと言えば【最後の仕事】の結果を故障で失敗エンドにして欲しくない。

 

 使われる側(どうぐ)からすりゃあ、故障(しっぱい)する前にポイされることを望む。少なくともオレはそう思っていて──これまた有難いハナシで、望みは叶えられたのだ。

 

 さて、本題はここからだった。オレは役割を終えて、廃棄処分されることになった。別に文句なんかありゃしない、最後まで仕事をやり遂げて、堂々のご退場。整備不良だので持ち主に不都合を齎(もたら)し、罵詈雑言浴びてゴミ箱行きなんて末路にゃならなかったんだ、これ以上の最後はない。

 

『もっと知りたかったな──潯(ほとり)総隊長のこと』

 

 ないのに……オレを管理してた職員が、そんなことを漏らしやがったのだ。

 

 もっと仕事をして欲しかったと、これから廃棄される道具(オレ)の前で吐きやがったのだ。許せるか? 許せるわけがない……それが出来るのに、着手すらせずに聞かなかったフリをしてラクになろうなんざ、耐えられるかってモンだ。

 

 好都合にも、オレの廃棄理由は、あらかじめ取り決められた年数使ったからってだけ。心身(・・)ともに元気いっぱいのオレは、最後の仕事をすべく──薄暗い部屋のなか、ひとりでに起き上がったのだった。

 

 ──設定を保存しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことで、最後の仕事をしに来たぜ!!」

 

 さてやって来ました、橋間地はハンカク街の骨董品屋"エイボン"。特別製の眼(・)を持っているオレは、頭部から微かな駆動音を上げながら。店の扉が開いた一瞬の隙に、数十メートル先の家電量販店から、たったひと足で店内へと滑る様に入り込んだ。

 

「何者だッ!? 貴様……!」

 

 まぁ、その後1秒と経たず首元に刃を突き付けられたんだけどな。

 

「ダフォディールだな? 潯総隊長に取り次いでくれ、依頼がしたいってな! あぁ、アドレーさんでもいいぜ、話がスムーズに進むなら!」

 

「戯言(ざれごと)を抜かす前に、質問に答えろ。お前はどこの、誰だ?」

 

 その在り方(スタンス)に共感と尊敬を覚えると同時に、どうしたもんかと首を捻る。その際ダフォディールの刃が首にカチャッと当たったが、痛みはまるで無い。

 

 ──データを検索中……。

 

 うーん、どうやり取りするのが手っ取り早いだろう? 彼女の熱心な職務態度には頭が下がる想いだが、オレにとってそれは余分で、要するにどうでも良い。オレが会いたいのはエイボンの店主である月退(つきのき)潯(ほとり)だけで、それ以外は外野なのだ。

 

「金はあるぜ、だったら客だろ? いいから呼んできてくれよダフォディール、仕事だぜ?」

「……あぁ、よく分かった。なら仕事をさせてもらおう──もっともそれは、ハンター(・・・・)としての仕事(それ)だがな!!」

 

 一応は気を遣ってくれていたんだろう、首元に据えられつつもオレを傷つけなかった刃は、僅かに角度を変えてオレの首をカッ切ろうと閃く──

 

「はーいそこまで。スイセンちゃん、そのカメラ頭を離してやりなよ」

「……っ、潯さん……すみません、またお騒がせして」

 

「潯総隊長! お会いしたかったぜ!!」

 

 直前、彼女は二階から現れて凶行を止めてくれた。ダフォディールが武器を下ろすや否や、オレは潯総隊長の目の前へと瞬く間に滑った(・・・)。

 

「──! くっ……」

 

 諫(いさ)められながらもオレの動向を見張ろうとはしてたんだろう、一瞬で潯総隊長への接近を許したダフォディールは、歯噛みしながらオレを睨みつけている。

 

「うーわ気持ちわりぃな……アンタ、淑女(レディ)に対する距離の詰め方ってモンを学ぶ機会は無かったのかい?」

 

 一方で、潯総隊長は突然目の前で消失、次いで出現したオレに眉を顰(ひそ)めるだけで、こちらをそこまで警戒はしていないようだ。ヒューゥさっすがぁ! そこに痺れた憧れたって連中が腐るほど(・・・・)いたってモンだ!!

 

「生憎(あいにく)と仕事一本でやらせてもらってましたんでね! そういう余分(・・)は記録しようとも思わなかったぜ!」

 

「あぁ、そう」

 

 どうやらオレの音がデカイらしく、潯総隊長は頭痛を堪(こら)えるように頭を軽く振った。

 

「はぁ……で? カメラ頭の異骸(いくろ)が何の用だって? その服装、異象(アノマリー)管理局絡みなのは察してやるけどさ」

 

 オレみたいなの(・・・・・・・)には慣れっこなんだろう、潯総隊長はさっさとコトを済まそうと切り出してくれる。ありがてぇーっ、いまだに慕(した)われるだけのことはあるぜっ!

 

「取材依頼さ! このファンスで買えるだけ、潯総隊長の時間を売ってくれ!!」

 

「……アンタ、私が巷(ちまた)でなんて呼ばれてるか知った上で、何を買おうとしてんのか分かって言ってんの?」

 

 オレがゴソゴソ懐を漁るのを、呆れた風に見ながら"時の魔女"サマは宣(のたま)った。へへっ、知らねぇワケねーだろっての! 安い買い物じゃないってこともな!!

 

「コレだけある!! 言っとくが、キレーな金だぜ? 自分で稼いだんだ! 真っ当な手段でな!!」

 

 両手いっぱいの札束を差し出すと、潯総隊長は……

 

「んなッ……!? っ、ごっほん!」

 

 目を見開いて慄(おのの)き仰(の)け反(ぞ)り、かと思えば我に返ったように居住まいを正して、ひとつ大きな咳をした。

 

「ど、どうやらなかなか話が出来るヤツみたいじゃない。いいだろ、その取材とやらに付き合ってやろうじゃないかっ」

 

 どうやらオレがかき集めたファンスは依頼料として不足なかったようで、とりあえず客として席を設(もう)けてもらえることになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、さっそく話を聞かせてもらうぜ!」

 

 金(ファンス)を見せてからというもの、潯総隊長はわざわざ執事のアドレーさんと■■■■■─"権限不足により、以降【鑑定士】と呼称"─を侍(はべ)らせて相手をしてくれることになった。嬉しいねぇ、潯総隊長ご本人の話は当然として、その傍にピッタリ仕(つか)えてる彼と新参のお宝ちゃんが合いの手を入れてくれるとなれば、期待はうなぎ登りだ!!

 

「あぁ、用意してくれた金の分だけ、好きに質問するがいいさ……と、その前に。ひとつこっちから聞いてもいいかい?」

 

「そりゃモチロン!」

 

 オレの目的は既に達せられている(・・・・・・・・・・・・・・・)からな。ここから先はオマケだ、誰かの仕事の助けになりゃあそれでいい。優雅な所作でこちらの動きを探っている潯総隊長を、オレは頭部のレンズでジッと映しながら先を促(うなが)した。

 

「私への取材依頼ってのは、管理局からの遣(つか)いって訳じゃないだろう。アンタの態度から多少は見当もつくが、わざわざご足労(そくろう)くださった情熱の出処(でどころ)はどこにある?」

 

「お察しの通り、オレは潯総隊長を敬愛してるからな! そしてさらにご賢察(けんさつ)、オレの管理者が大ファンなのさ!! こうして直接お話を伺(うかが)って、帰ったら土産話をしてやろうって目論見(もくろみ)よ!!」

 

「はぁん、ずいぶんとヒマなヤツがいたもんだね」

 

「お嬢様は実力もさることながら、佇(たたず)まいも華やかですから。かつての同僚や部下の方々と偶然お会いした際には、執事に過ぎない私(わたくし)にも敬意を払って下さるほどです」

 

「はいはい、ありがたいこった」

 

 理解に苦しむとばかりに肩を竦める潯総隊長とは対照に、アドレーさんがオレに寄り添った態度を示してくれる! 彼はオレらみたいなの(・・・・・・・・)に対して特に親切なヒトだからな、実際こうして接してみると記録以上に素敵な御仁(ごじん)だな!!

 

 おべっかはうんざりとばかりに潯総隊長はこちらへ手を向けた。その意図を汲んで、ハナシを続けさせてもらうことにする。

 

「んじゃ質問させていただこっかなーと! まずはコレだな、ぶっちゃけ異象(アノマリー)管理局に舞い戻る可能性はあるんですかい!?」

 

「何度も舞い戻らされては鉄面皮に面談させられてんだろ? 何を今さら」

 

「すっとぼけないで下さいよぉツれないねぇ! 職員としてっ、総隊長として隊員を従える未来はあるのかお聞かせくださいよ!!」

 

「あぁ、分かった分かった面倒くさいな。直接的な言葉しかいらないってか? そんな可能性は無いよ──少なくとも、現在(いま)はね」

 

「含みのある、言い換えるなら希望のある答えじゃないですか? 未来は分からない、可能性はあるって言ってるようなもんだ!」

 

「……言葉には気をつけな? 過去(いつだか)の肩書を、手放した現在(いま)を、それを取り戻す未来(いつか)を、なんざ──この場で他人に聞かせてやることじゃないって言ってんのさ。分かるか?」

 

 その時になってようやく、オレは潯総隊長がどこか剣呑(けんのん)な眼差しを向けていることに気が付いた。

 

「……アレ、もしかして怒らせちゃった?」

 

「いえ、お嬢様の機嫌は非常に良いと言えるでしょう。お客様のご依頼をいたく気に入っておいでです」

「おいアドレー」

 

 アドレーさんがオレに答えると、鋭い視線は彼へと向かう。

 

「お言葉ですが、お嬢様──お客様にはお客様の価値観(・・・・・・・)、考え方がございます。どうか冷静にご対応ください」

 

 けれど、そんな風に彼が言うと……なんと言うことでしょう! 潯総隊長は意識を切り替えるように浅く息を入れて、まさしく上機嫌とばかりに口元を綻(ほころ)ばせたではないですか!

 

 潯総隊長のファンには彼女に付き従うアドレーさんとセットの、いわゆる関係性オタクも居るからな! こんなやりとりも美味しくいただけちゃうぜ!!

 

「あんまり流暢(りゅうちょう)に囀(さえず)りやがるもんだから忘れてたよ、そういやアンタ人間じゃなかったね? 異骸(いくろ)が特有の考え方を持つのは珍しくもないし、無邪気に毒を吐くことなんざいくらでもある。私としたことが失念してた」

 

 彼女は仕切りなおすようにそう言った。……? 潯総隊長の言葉に、アドレーさんは難しい顔で眉間(みけん)を揉んでいるが、何かあっただろうか? オレとしてはよく分からんが、よく分かってもらえたようで何よりだけどな!

 

「あ、一応訂正させてもらうぜ! オレは異骸(いくろ)、つまり生物異象なんかじゃないってな! 分類上は現象異象ってことになるんじゃねぇかな?」

 

 オレがそう言った途端、出入口のほうで気配を消していたダフォディールが身構えたのを感じた。

 

 表面上は変わらず穏(おだ)やかな振る舞いの潯総隊長も、その背後に立つアドレーさんも少なからず警戒を露わにする。鑑定士は小首を傾げるばかりだが。オレ、何かやっちゃいました?

 

「……うちの異骸(いくろ)とそう変わらないように見えるけどねぇ……。その辺を聞きたがったら話してくれんのかい?」

 

「オレのことを知りたいって!? うーわマジかよ、照れるな……でもま、その興味関心を削ぐのは本意(・・)じゃねぇわな!? よしよしジブン語りといこうかな、えーと? お宅の異骸(タギド)と同じにみえるってか。回答は、決定的にノー! だぜ!!」

 

「──ほんっとうに今さらなんだけどさ。アンタ、ただ私のファンって言うには詳しすぎるんじゃない? アドレーにスイセンちゃんは、まぁ分かる……でもタギドは別だ。管理局のいち職員が知ってるのはおかしな話なんだよ。その影響を受けた異象も当然ね。取り立てて隠したりはしちゃいないが、直接IDの管理をしている部署でもなけりゃ知る機会がないはずだ」

 

「その通り(・・・・)! オレはその管理をしてる部署から生まれた異象だぜ?」

 

 その時、今度こそマジで潯総隊長は険しい表情を見せた。うーん、カッコいい!!

 

「お前……その監視カメラ(・・・・・)、そう言うことか? 生物でも物体でもなく、管理局のセキュリティを本体とした現象異象。ここに居るのはただの化身って訳だ」

 

 ? オレの頭が監視カメラだってことは最初から知ってただろうに。ただのソレが一人歩きしてる程度の認識だったってことかな? それは失敬したぜ!!

 

「現象異象? 化身って……」

 

 思わずと言ったように疑問を漏らす鑑定士に、潯総隊長はどこか慈しみを見せながら口を開く。

 

「そう、お宝も見たんだろう? エビスーズの……アドレー、なんてったっけ?」

「伺(うかが)ったお話によれば、おそらくナンタニーのことかと」

 

「それだ。オークションでステーリーと行動してる時に出くわしたって緑色の幽霊? ソイツと同じ。ヒトと意思疎通を図るために作り出された存在だから、異象としての本体は別にいるって訳だ」

 

「おうともさ! なんだか勘違いさせちまったようで申し訳ねぇなっ。ついでに詳しく自己紹介しとこうかな? オレが生まれた契機は、耐用年数の関係で廃棄予定の監視カメラ(コイツ)でね。安らかに眠ろうって時に、オレを扱ってくれてた職員が漏らしたのよ。『もっと潯総隊長のことを知りたかった』ってな! そこでルール異象(・・・・・)となり出現したオレは、最後にひと仕事にとここへお伺いしたってワケさ!!」

 

「…………チッ。アドレー」

「かしこまりました」

 

 転じてさらに顔を強張(こわば)らせながら瞑目(めいもく)すると、潯総隊長は短くアドレーさんを呼んだ。それだけで、彼は主人の意図を汲(く)んだようだった。いいよーっ、いい画(え)だよー!!

 

「お聞かせ願いたいのですが、お客様。監視カメラとしての貴方様には、潯総隊長(・・・・)と周辺人物のデータを特に収集する、と言った用途があったのですか?」

 

「いんや? ノーだぜっ。オレの仕事はただの監視だ。けど、それ以外を求めたヤツが居たのはその通り。オレが収集した映像・音声データを私的利用した管理者(・・・・・・・・・)が居たのさ! オレの振る舞いにエイボンの方々への思想が見えるなら、それはぜーんぶそのヒトの影響ってコト!」

 

「──なる、ほど。重ねての質問になりますが、お客様ご自身について。ここまで流暢な意思疎通、私(わたくし)には異骸(いくろ)でいらっしゃると浅慮(せんりょ)することしか叶いません。お客様が現象異象、およびルール異象であると言う論拠(ろんきょ)をお聞かせ願いたいのです」

 

「あ~理解! オレが人間みたいに会話できるのがヘンってコトね? そりゃあ勘違いだ! オレは今までの仕事で収集したデータを、つまり人間たちの記録をそれっぽく引っ張り出してるだけに過ぎねぇからな! この口調もカメラの前で喚いてたスタッフのパクリ!! 一切の勘違いの余地なく、オレにオレとしての心身なんてねぇ(・・・・・・・)! オレは──ただのありふれた異常現象(・・・・・・・・・)でしかないってハナシさ」

 

「……承知しました。どうやら仰る通り、大きな勘違いをしていたようです」

 

「もういいだろアドレー、客としてまともに相手してやる理由は無くなったんだ。ほかならぬお客様ご自身の説明でね。考えるべきなのは、とっととコイツから必要なデータを抜くことさ」

 

「店長、どういうこと?」

 

 暫定(ざんてい)お客様であるはずのオレを前にしながら、ぞんざいな態度を隠さない潯総隊長。こちらに配慮するよう小声で鑑定士が彼女に聞くも、当の潯総隊長はオレに聞かれても問題ないとばかりに明朗に返答した。

 

「コイツの目的は私の取材なんかじゃない。本当の依頼内容は──管理局の汚職スタッフを捕まえて下さい、ってところだろう」

 

 ──セキュリティホールの補完シークエンス開始。潯総隊長の稼働を確認しました。

 

「監視カメラのお客さん、取材はここまでだ。あぁ、潯総隊長の撮影がしたい(・・・・・・・・・・・)ってなら好きに座ってな。それで満足だろ?」

 

「──あぁ! 完璧だぜ!!」

 

「……さて、この後の打ち合わせといこうか。アドレーは支度(したく)を。私はお宝ちゃんと話しておくからさ」

 

「かしこまりました」

 

「お宝ちゃん、気になることがあんなら今のうちに聞いといて。ちょっとお出かけすることになるからね。あぁお客様(・・・)に遠慮する必要はないよ、コイツにタギドみたいな自我とか無いみたいだから」

 

「えっ、と……それじゃあ。ルール異象って?」

 

「そうだねぇ……お宝ちゃんの知ってるとこだと、"取り立て屋"なんかがそれにあたる。歳月の執行者、生死と言う秩序(ルール)の番人。決まり事ってのはあるだけじゃダメだ、いくらでも穴があり、無くても作り出す輩は無数に現れる。ルール異象ってヤツは、そう言った規律の欠陥を補うために生まれた異象のことを指すの」

 

「それじゃあ、この監視カメラさんは……?」

 

「ご丁寧に、異骸(いくろ)なんかのIDの『管理をしてる部署から生まれた異象』って自己紹介くださったでしょ? 異象(アノマリー)管理局のセキュリティ、それが現象異象として現れたのがこの監視カメラってコト」

 

「ルール異象と現象異象は同じものなの?」

 

「小難しい話になるけど、それらは並べて語れるものじゃないんだ。タギドみたいなのを"生物"、同じ人型でもレインマンのように道具に宿ったのを"物体"と分類するとき。この監視カメラはあくまで手先で、本体がセキュリティだのって言うカタチを持たない概念的なヤツを"現象"って区別するんだよ。ま、あくまで便宜上だけどね」

 

「なるほど……それじゃあ、ルール異象って言うのは異象の持つ能力に由来する呼び名……?」

 

「能力と言うより拘(こだわ)りに近い。あるルールに基(もと)づいて、自分の領域内でそれを順守させたがるのさ。この手の異象は非常に強力なチカラを持つ反面、自身もルールに縛られる傾向にある。と言うより、自分のルールの範囲外にある事柄についてはどうでも良いって感じだけどね」

 

「だとすると……この監視カメラさんは、店長に何らかのルールを守らせに来た……? 本当の依頼内容って言うのがそれ?」

 

「ふふっ……また、半分正解だ。コイツはセキュリティルールを破った管理局の人間を、ソイツが大好きな私に捕まえて欲しくて来たんだよ。私に守らせるんじゃなく、私を使って守らせたいってコト」

 

「えぇ……? なんでこんな、回りくどいことを? それこそ管理局の人間を頼ったり、そうでなくても初めからハッキリ言えばいいのに」

 

「言っただろう? コイツはセキュリティルールに縛られてる。管理局の人間が破ったとなれば、その取り締まりを管理局の人間にさせるんじゃ意味がない。だから私を執行人に選んだのさ。言うなれば情報漏洩の被害者だからねぇ、その権利はあるだろう」

 

「依頼方法が遠回しなのは?」

 

「ルール異象特有の制約によるものさ。コイツはセキュリティの具象化であると解釈できるが、だからこそ言えることと言えないことがあるってワケ。推論に過ぎないけど、そこまで的外れってこともないだろ」

 

「その割にはすごく内部事情を漏らしてる気がするけど…」

 

「管理者とやらの影響だろうね。私に対する態度もそうだが、自我が無いと言っても考え方……データの処理方法と言った方が適当か? セキュリティ管理者による汚職の道具にされ続けたことで、司るルールそのものがバグッちまったんだろうさ。『最後にひと仕事』なんて言ってたが、コイツは己の排除まで込みで作動してるみたいね」

 

「道理で……」

 

「お宝ちゃん、何か気づいたことでも?」

 

「その……監視カメラさん。月光質屋のオートルさんみたいに、すごい早さで気配が薄くなっていってる」

 

「……なるほどね、さっきから静か過ぎる思ったんだ」

 

「お嬢様、準備が整いました。いつでも出発できます」

 

「んじゃ、熱心なファンにサービスでもしてやるとするか。お客様、土産話を持って帰るんだろう? 感謝しな、私が直接出向いてやるよ」

 

 ──骨董品屋エイボンの店長に、心からの感謝を。

 

「マジで!? 管理者も感涙して喜ぶだろうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──幸か不幸か、道具(ワタシ)は未だ仕事をしていた。

 

「新しい職場はどうだい?」

 

 ──視線(・・)の先では、上機嫌におちょこを傾けている女性が居る。そこは以前にも彼女が座っていたソファで、その対面に過去のワタシは居た。

 

 ──けれど今は、彼女を天井付近から見下ろしている。

 

「いい物はいっぱい使ってあげないと……特に、仕事熱心なアンタみたいなのは」

 

 ──あの日。ワタシはこの店(・・・)の三人を伴って、管理者の自宅を訪ねた。結果だけ見れば、管理者は懲戒処分を受け、異象(アノマリー)管理局はセキュリティの見直しが行われて。

 

 ──そして予定通りに、ワタシは廃棄された。

 

 ──しかし、それを拾う者が居た。マンダステクノロジーに一時預け、その技術提供を受けたうえで、ただのダミーカメラとして扱う女性が居た。

 

「……っ、ぷはぁ! うん、いい夜だ……」

 

 ──ワタシの仕事は、骨董品屋エイボンのダミーカメラ。そして時たま、こうして彼女の酒の肴になること。

 

 ──まぁ、悪い気はしない。少なくとも、本懐に反してデータを抜き取られることに比べれば。

 

「まさかストーカーに付き纏(まと)われてるなんざ思いもしなかったが……」

 

 ──ひとつ息を吐くと、彼女は胸元から時計を取り出した。七宝焼きの、精巧な懐中時計。

 

「終わりよければ全てよし、か……」

 

 ──彼女はそれを開くことも無く。蓋の美しい意匠を撫でて、気だるげにつぶやいた。

 


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