『もっと知りたかったな──』
道具の役割ってのは当然ながら、求められた仕事を
さて悲しいことに、道具ってヤツにはこちらも当然、耐用年数ってモンがある。ヒトで言う寿命だ。使えなくなったら、その兆候が見えたら、あるいは決まった年数使ったらポイ。まぁ
モノを大切に、ってのは理想ではある。
使えなくなるまで使おうってのは有難いハナシだ、使われる側からすれば。でもその整備に使う時間を仕事自体に
さて、本題はここからだった。オレは役割を終えて、廃棄処分されることになった。別に文句なんかありゃしない、最後まで仕事をやり遂げて、堂々のご退場。整備不良だので持ち主に不都合を
『もっと知りたかったな──
ないのに……オレを管理してた職員が、そんなことを漏らしやがったのだ。
もっと仕事をして欲しかったと、これから廃棄される
好都合にも、オレの廃棄理由は、あらかじめ取り決められた年数使ったからってだけ。
──設定を保存しました。
「ってことで、最後の仕事をしに来たぜ!!」
さてやって来ました、橋間地はハンカク街の骨董品屋"エイボン"。特別製の
「何者だッ!? 貴様……!」
まぁ、その後1秒と経たず首元に刃を突き付けられたんだけどな。
「ダフォディールだな? 潯総隊長に取り次いでくれ、依頼がしたいってな! あぁ、アドレーさんでもいいぜ、話がスムーズに進むなら!」
「
その
──データを検索中……。
うーん、どうやり取りするのが手っ取り早いだろう? 彼女の熱心な職務態度には頭が下がる想いだが、オレにとってそれは余分で、要するにどうでも良い。オレが会いたいのはエイボンの店主である
「金はあるぜ、だったら客だろ? いいから呼んできてくれよダフォディール、仕事だぜ?」
「……あぁ、よく分かった。なら仕事をさせてもらおう──もっともそれは、
一応は気を遣ってくれていたんだろう、首元に据えられつつもオレを傷つけなかった刃は、僅かに角度を変えてオレの首をカッ切ろうと閃く──
「はーいそこまで。スイセンちゃん、そのカメラ頭を離してやりなよ」
「……っ、潯さん……すみません、またお騒がせして」
「潯総隊長! お会いしたかったぜ!!」
直前、彼女は二階から現れて凶行を止めてくれた。ダフォディールが武器を下ろすや否や、オレは潯総隊長の目の前へと瞬く間に
「──! くっ……」
「うーわ気持ちわりぃな……アンタ、
一方で、潯総隊長は突然目の前で消失、次いで出現したオレに眉を
「
「あぁ、そう」
どうやらオレの音がデカイらしく、潯総隊長は頭痛を
「はぁ……で? カメラ頭の
「取材依頼さ! このファンスで買えるだけ、潯総隊長の時間を売ってくれ!!」
「……アンタ、私が
オレがゴソゴソ懐を漁るのを、呆れた風に見ながら"時の魔女"サマは
「コレだけある!! 言っとくが、キレーな金だぜ? 自分で稼いだんだ! 真っ当な手段でな!!」
両手いっぱいの札束を差し出すと、潯総隊長は……
「んなッ……!? っ、ごっほん!」
目を見開いて
「ど、どうやらなかなか話が出来るヤツみたいじゃない。いいだろ、その取材とやらに付き合ってやろうじゃないかっ」
どうやらオレがかき集めたファンスは依頼料として不足なかったようで、とりあえず客として席を
「そんじゃ、さっそく話を聞かせてもらうぜ!」
「あぁ、用意してくれた金の分だけ、好きに質問するがいいさ……と、その前に。ひとつこっちから聞いてもいいかい?」
「そりゃモチロン!」
「私への取材依頼ってのは、管理局からの
「お察しの通り、オレは潯総隊長を敬愛してるからな! そしてさらにご
「はぁん、ずいぶんとヒマなヤツがいたもんだね」
「お嬢様は実力もさることながら、
「はいはい、ありがたいこった」
理解に苦しむとばかりに肩を竦める潯総隊長とは対照に、アドレーさんがオレに寄り添った態度を示してくれる! 彼は
おべっかはうんざりとばかりに潯総隊長はこちらへ手を向けた。その意図を汲んで、ハナシを続けさせてもらうことにする。
「んじゃ質問させていただこっかなーと! まずはコレだな、ぶっちゃけ
「何度も舞い戻らされては鉄面皮に面談させられてんだろ? 何を今さら」
「すっとぼけないで下さいよぉツれないねぇ! 職員としてっ、総隊長として隊員を従える未来はあるのかお聞かせくださいよ!!」
「あぁ、分かった分かった面倒くさいな。直接的な言葉しかいらないってか? そんな可能性は無いよ──少なくとも、
「含みのある、言い換えるなら希望のある答えじゃないですか? 未来は分からない、可能性はあるって言ってるようなもんだ!」
「……言葉には気をつけな?
その時になってようやく、オレは潯総隊長がどこか
「……アレ、もしかして怒らせちゃった?」
「いえ、お嬢様の機嫌は非常に良いと言えるでしょう。お客様のご依頼をいたく気に入っておいでです」
「おいアドレー」
アドレーさんがオレに答えると、鋭い視線は彼へと向かう。
「お言葉ですが、お嬢様──お客様には
けれど、そんな風に彼が言うと……なんと言うことでしょう! 潯総隊長は意識を切り替えるように浅く息を入れて、まさしく上機嫌とばかりに口元を
潯総隊長のファンには彼女に付き従うアドレーさんとセットの、いわゆる関係性オタクも居るからな! こんなやりとりも美味しくいただけちゃうぜ!!
「あんまり
彼女は仕切りなおすようにそう言った。……? 潯総隊長の言葉に、アドレーさんは難しい顔で
「あ、一応訂正させてもらうぜ! オレは
オレがそう言った途端、出入口のほうで気配を消していたダフォディールが身構えたのを感じた。
表面上は変わらず
「……うちの
「オレのことを知りたいって!? うーわマジかよ、照れるな……でもま、その興味関心を削ぐのは
「──ほんっとうに今さらなんだけどさ。アンタ、ただ私のファンって言うには詳しすぎるんじゃない? アドレーにスイセンちゃんは、まぁ分かる……でもタギドは別だ。管理局のいち職員が知ってるのはおかしな話なんだよ。その影響を受けた異象も当然ね。取り立てて隠したりはしちゃいないが、直接IDの管理をしている部署でもなけりゃ知る機会がないはずだ」
「
その時、今度こそマジで潯総隊長は険しい表情を見せた。うーん、カッコいい!!
「お前……その
? オレの頭が監視カメラだってことは最初から知ってただろうに。ただのソレが一人歩きしてる程度の認識だったってことかな? それは失敬したぜ!!
「現象異象? 化身って……」
思わずと言ったように疑問を漏らす鑑定士に、潯総隊長はどこか慈しみを見せながら口を開く。
「そう、お宝も見たんだろう? エビスーズの……アドレー、なんてったっけ?」
「
「それだ。オークションでステーリーと行動してる時に出くわしたって緑色の幽霊? ソイツと同じ。ヒトと意思疎通を図るために作り出された存在だから、異象としての本体は別にいるって訳だ」
「おうともさ! なんだか勘違いさせちまったようで申し訳ねぇなっ。ついでに詳しく自己紹介しとこうかな? オレが生まれた契機は、耐用年数の関係で廃棄予定の
「…………チッ。アドレー」
「かしこまりました」
転じてさらに顔を
「お聞かせ願いたいのですが、お客様。監視カメラとしての貴方様には、
「いんや? ノーだぜっ。オレの仕事はただの監視だ。けど、それ以外を求めたヤツが居たのはその通り。オレが収集した映像・音声データを
「──なる、ほど。重ねての質問になりますが、お客様ご自身について。ここまで流暢な意思疎通、
「あ~理解! オレが人間みたいに会話できるのがヘンってコトね? そりゃあ勘違いだ! オレは今までの仕事で収集したデータを、つまり人間たちの記録をそれっぽく引っ張り出してるだけに過ぎねぇからな! この口調もカメラの前で喚いてたスタッフのパクリ!! 一切の勘違いの余地なく、オレにオレとしての
「……承知しました。どうやら仰る通り、大きな勘違いをしていたようです」
「もういいだろアドレー、客としてまともに相手してやる理由は無くなったんだ。ほかならぬお客様ご自身の説明でね。考えるべきなのは、とっととコイツから必要なデータを抜くことさ」
「店長、どういうこと?」
「コイツの目的は私の取材なんかじゃない。本当の依頼内容は──管理局の汚職スタッフを捕まえて下さい、ってところだろう」
──セキュリティホールの補完シークエンス開始。潯総隊長の稼働を確認しました。
「監視カメラのお客さん、取材はここまでだ。あぁ、
「──あぁ! 完璧だぜ!!」
「……さて、この後の打ち合わせといこうか。アドレーは
「かしこまりました」
「お宝ちゃん、気になることがあんなら今のうちに聞いといて。ちょっとお出かけすることになるからね。あぁ
「えっ、と……それじゃあ。ルール異象って?」
「そうだねぇ……お宝ちゃんの知ってるとこだと、"取り立て屋"なんかがそれにあたる。歳月の執行者、生死と言う
「それじゃあ、この監視カメラさんは……?」
「ご丁寧に、
「ルール異象と現象異象は同じものなの?」
「小難しい話になるけど、それらは並べて語れるものじゃないんだ。タギドみたいなのを"生物"、同じ人型でもレインマンのように道具に宿ったのを"物体"と分類するとき。この監視カメラはあくまで手先で、本体がセキュリティだのって言うカタチを持たない概念的なヤツを"現象"って区別するんだよ。ま、あくまで便宜上だけどね」
「なるほど……それじゃあ、ルール異象って言うのは異象の持つ能力に由来する呼び名……?」
「能力と言うより
「だとすると……この監視カメラさんは、店長に何らかのルールを守らせに来た……? 本当の依頼内容って言うのがそれ?」
「ふふっ……また、半分正解だ。コイツはセキュリティルールを破った管理局の人間を、ソイツが大好きな私に捕まえて欲しくて来たんだよ。私に守らせるんじゃなく、私を使って守らせたいってコト」
「えぇ……? なんでこんな、回りくどいことを? それこそ管理局の人間を頼ったり、そうでなくても初めからハッキリ言えばいいのに」
「言っただろう? コイツはセキュリティルールに縛られてる。管理局の人間が破ったとなれば、その取り締まりを管理局の人間にさせるんじゃ意味がない。だから私を執行人に選んだのさ。言うなれば情報漏洩の被害者だからねぇ、その権利はあるだろう」
「依頼方法が遠回しなのは?」
「ルール異象特有の制約によるものさ。コイツはセキュリティの具象化であると解釈できるが、だからこそ言えることと言えないことがあるってワケ。推論に過ぎないけど、そこまで的外れってこともないだろ」
「その割にはすごく内部事情を漏らしてる気がするけど…」
「管理者とやらの影響だろうね。私に対する態度もそうだが、自我が無いと言っても考え方……データの処理方法と言った方が適当か? セキュリティ管理者による汚職の道具にされ続けたことで、司るルールそのものがバグッちまったんだろうさ。『最後にひと仕事』なんて言ってたが、コイツは己の排除まで込みで作動してるみたいね」
「道理で……」
「お宝ちゃん、何か気づいたことでも?」
「その……監視カメラさん。月光質屋のオートルさんみたいに、すごい早さで気配が薄くなっていってる」
「……なるほどね、さっきから静か過ぎる思ったんだ」
「お嬢様、準備が整いました。いつでも出発できます」
「んじゃ、熱心なファンにサービスでもしてやるとするか。お客様、土産話を持って帰るんだろう? 感謝しな、私が直接出向いてやるよ」
──骨董品屋エイボンの店長に、心からの感謝を。
「マジで!? 管理者も感涙して喜ぶだろうぜ!!」
──幸か不幸か、
「新しい職場はどうだい?」
──
──けれど今は、彼女を天井付近から見下ろしている。
「いい物はいっぱい使ってあげないと……特に、仕事熱心なアンタみたいなのは」
──あの日。ワタシは
──そして予定通りに、ワタシは廃棄された。
──しかし、それを拾う者が居た。マンダステクノロジーに一時預け、その技術提供を受けたうえで、ただのダミーカメラとして扱う女性が居た。
「……っ、ぷはぁ! うん、いい夜だ……」
──ワタシの仕事は、骨董品屋エイボンのダミーカメラ。そして時たま、こうして彼女の酒の肴になること。
──まぁ、悪い気はしない。少なくとも、本懐に反してデータを抜き取られることに比べれば。
「まさかストーカーに付き
──ひとつ息を吐くと、彼女は胸元から時計を取り出した。七宝焼きの、精巧な懐中時計。
「終わりよければ全てよし、か……」
──彼女はそれを開くことも無く。蓋の美しい意匠を撫でて、気だるげにつぶやいた。