この世界で9番目ぐらいな俺、異世界人の監視役に駆り出されました 作:東雲(しののめ)
かなり春めいた青空が広がるユグレー大陸。
冷たかったはずの風は完全に姿を隠し、心地よい暖風だけが辺りになびく。
また
「――ほう、あれがハーレンス王国の首都ですか」
ただそんな暖かな気候に相反するように、女性の淡々とした、うだつが上がらないような一声が静かに響く。
暗いクリーム色をした髪もまた、暖色に色づく春の中では浮いているように思えた。
「まさかワタシがクレスの手伝いをすることになるとは。ただ彼は我が宗教で唯一の信者、たまには助力してあげるのでも良いでしょう」
視線の遠く薄らと見える先には王都がある、近頃勇者を召喚した話題の国だ。
彼女の仲間……もとい銀髪の信者は今はそこで任務中であり、今回は――
「さて、今回こそ信者を獲得すべく大いに〝布教〟をするとしましょう」
彼女は組織の長たる
しかし彼女は素直に従い仕事だけする性分は持ち合わせていない。その脳裏にはまた別の思惑が大きく占領する。
「ただかなり大きな都市と聞きますし……そうだ、この際クレスに布教活動を手伝って貰うのもアリですね。流石ナイスアイディアですワタシ」
黒と白を基調とした特異な服装、若干奇抜なチョーカーやピアスを着用、その背には十字架が描かれた巨大な黒棺が。
「――参りましょう」
一考もつかの間、様々な目的のためその歩みを進める。
彼女は自称聖職者であるが大前提として人間ではない。
6という数字を冠した意思持つ〝災厄〟である。
今般、『
*****
クラリス・ランドデルクは大貴族だ。
艶やかな長いブロンドヘアと白磁の肌、画に描いたような温厚美人。
それでいて王族に次ぐ公爵家の長女という身分を持ち、学園では生徒会長を務めている。
つまるところ全てが〝完璧〟な少女であった。
そしてまた〝平凡〟を求める少女でもあった。
束縛のない自由な人生、それは貴族たる彼女には何よりも遠いモノ。
願ったところで叶いはしない、ただ出逢いは忽然と訪れる。
煌びやかな銀髪と整った顔立ち、不思議な魅力を持ったとある少年と――
「入学式の手伝い、無事に終わったそうだな」
「とっくの前に終わってますよ。問題なく進められました。生徒会が次に手伝う行事は1年生の……林間合宿でしょうか」
お父様に言われるまでもなく、生徒会長としての役目は全うできた。
数日後に控えた林間合宿は自分が参加しないせよ、それなりの手伝いはしていた。
「クラリスは本当に優秀ね。当時のこの人とは似ても似つかな――」
「っごほん! オレの昔話は別にいいだろう」
「あらあら、恥ずかしがっちゃって」
私の前でも平気でイチャイチャ。
お父様とお母様は相変わらず仲が良い、いや良すぎるくらい。
「シルクも2週間後には12歳か……」
「はい父様! 僕だってもう中等部生です!」
「うぅ、子供の成長は早いものだなぁ……」
「泣かなくてもいいじゃないですか。それとシルク、食べながら話すのはマナー違反です」
自分からみてもシルクは本当に可愛い。
顔立ちも女の子のよう、ただ本人はもっと男らしくなりたいとか。
……実はまったく同じ台詞を違う人物からも聞いている。
(クレス君、どうしているでしょうか……)
初めましては入試で助けたところから、身分を全く気にしない少し変わっている人。
なんとか受かりますようになんて願っていたらまさかの実技入試1位通過。
彼の名は瞬く間に学園に駆け巡った。
クラス決めの職員会議、勇者もいるがクレス君のことで話は大盛り上がりだったとか。
「改めてだが、シルクの誕生日祝いで
「はい」
「はーい!」
「それとクラリス、お前のパートナーの件についてなんだが——」
そのお話ですか……
私は今年で17歳、両親の配慮で許嫁は居なかったが期限は着々と迫っている。
既に沢山の家から話は来ている。
「他の公爵家、エイデンスト家の長男なんかどうだ?」
「嫌です……」
「お前はそればかりだなぁ」
「クラリス、あなたも貴族です。想い人がいないならいないで、そろそろ決断をなさい」
この貴族世界では珍しい話、私の両親は政略結婚をそう推していない。
自分が信じられる、好きになった人物であれば誰でも良いと言うのだ。
それは長男で跡継ぎであるシルクがいるからこそ。
「ただいつまでも相手を見つけられないとなれば、見合いしかありません」
「周りからの圧力もあるんだ。舞踏会に連れそう人がいないなら——」
両親の考えが理解できているからこそ、それ以上は聞きたくない。
確かにこれまでは言うだけ言って、想い人ができた試しはなかった。
でもようやく、ようやく現れのだ。
本当の自分を見せることのできる人が。
……でも彼とは出逢ったばかり、そんなすぐお付き合いするような関係ではない。
まさかこのタイミングで名前を出すようなことは――
「あれ? 姉様ってお付き合いしてる人がいるんじゃないの?」
「「「っえ!?」」」
若干重苦しくなってきたこの空気を打ち破ったのは弟のシルク。
突然の発言にビックリ仰天、私も両親も動転してまったく同じリアクションをする。
「だって最近部屋でニヤニヤしながら〝私たちは運命の出会い〟とか〝あなたを愛してる〟とか1人で色々———」
「す、すす、ストップ! ストップですシルク!」
「隣の部屋に居てもブツブツ聞こえるんだよね。確か相手の名前は――グフッ!?」
「はいはい。もう大丈夫です。大丈夫ですから」
弟の要らぬ事ばかり喋る口を急いで塞ぐ。
(わ、私の妄想がシルクまで聞こえてとは……! 迂闊でした……っ!)
これでも童話の類はよく読む。
一番好きなのはベタだが身分違いの恋というやつ。
そこにクレス君と自分を重ねてあたかもラブロマンスを脳内に描く。
ただ描きすぎて口から出ていたとは……恥ずかしさを越えて情けなくなってくる。
「クラリス……」
「ひゃ、ひゃい、はい!」
「……まさかパパに黙って付き合っている人がいるのか?」
「えーっと、そのぉ……」
ど、どうする私!?
シルクが正直者であることは誰でも知っている、嘘などついた試しがない。
お父様もお母さまも真剣な眼差し、ここで答えられなければ婚約者は貴族の誰か、好きでもない人を相手にさせられる。
(お父様、お母様、そしてクレス君、ごめんなさい——)
私はこの空気をそのままに。
息を整え、胸を張り堂々と、あたかも本当のことにそう言った。
「――私には今、お付き合いしている方がいます」
いつも読んでいただきありがとうございます。
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