本日はご多用の中、禪院家合同慰霊祭にご参列いただき、誠にありがとうございます。
本慰霊祭は、禪院家において多くの命が失われたこのたびの事態によって亡くなられたすべての方々の御霊を慰め、その安らかなることを祈念するため、有志一同の発起により執り行うものであります。
私はかつて呪術界において補助監督として職務に携わり、禪院家の方々とも仕事を通じて幾度か関わる機会がありました。
深い交友があったわけではありません。しかし、同じ呪術界に身を置く者として、その歩みを見聞きし、その存在の重みを知る一人であります。
禪院家は古くより御三家の一角として続き、多くの優れた呪術師を世に送り出してきました。
幾世代にもわたり、数え切れない呪霊との戦いに身を投じ、また呪詛師との戦いの最前線にも立ち、多くの犠牲を払いながら呪術界を支え続けてきた歴史があります。人知れず命を落とした者も少なくありませんでした。
今日私たちが享受している平穏も、そのような名もなき犠牲の積み重ねの上に築かれてきたことを忘れてはならないと思います。
その功績は、一つの事件によって失われるものではありません。
御三家から除名されたことにより、禪院家を呪術界の一門として弔う主体も失われました。
その結果、家として故人を送り出す者もなく、呪術界として公式に慰霊を執り行う機会も失われることとなりました。
さらに、族滅という前例のない惨事により、多くの亡骸が身寄りのないものとなりました。
行政による遺体の収容と火葬は滞りなく終えられました。
けれども、火葬は人を送る営みの終わりではありません。
故人の名を呼び、その生涯を思い、冥福を祈る者がいてこそ、人は初めて見送られるのだと私は信じています。
だからこそ本日、この場を設けました。
これは禪院家を評価するための式ではありません。
事件を裁くための式でもありません。
ただ、亡くなられた方々を弔うためだけの式です。
家を守ろうとして命を落とした方も、
家に縛られ苦しみながら生きた方も、
戦いの中で命を絶たれた方も、
それぞれに一度きりの人生がありました。
私たちはその生のすべてを推し量ることはできませんが、命を終えた御霊の前では等しく頭を垂れます。それが死者に対する最低限の礼であり、生き残った者の責務であると考えるからです。
今日ここに集った私たちは、呪術界を代表する者ではありません。
ですが、かつてその世界に関わった者として、そして一人の人間として、誰にも見送られることなく逝かれた方々へ、せめて最後の祈りだけは捧げたいと思いました。
どうか亡くなられた皆様が、苦しみや争いから離れ、安らかなる眠りにつかれますことを心よりお祈り申し上げます。
そして、ご参列くださいました皆様のお心遣いに深く感謝申し上げ、式辞とさせていただきます。
皆様におかれましても、どうか共に祈りを捧げていただければ幸いです。
私は「禪院家合同慰霊祭」を執り行いたいとずっと思っていました。しかし、私には合同慰霊のノウハウがありません。そこで、現実の合同慰霊祭や葬祭実務を踏まえてAIと検討を重ね、式辞の起草について多くの助言を受けました。
そもそも私には禪院家の葬儀を行なう法的権利はありません。部外者である私に禪院家(「炳」「灯」「躯倶留隊」構成員とその他の禪院家関係者)の遺体を引き取ることはできませんから、火葬を行なうことも不可能です。
存命の禪院家関係者としては、禪院真希と伏黒恵がいます。しかし、彼らが禪院真衣以外の葬儀を行なうとは考えづらいというのが本音です。そうなると、部外者に残された道は一つです。有志で「禪院家合同慰霊祭」を開催するのです。
今回の禪院家合同慰霊祭は、禪院真希も伏黒恵も禪院家の葬儀を行なわなかった場合の展開です。葬儀がなかった以上、禪院家の遺体は行政が処理し、その後、有志による禪院家合同慰霊祭が行なわれたという流れです。
全くの部外者、しかも非術師が禪院家について知っているというのは不可解ですから、元呪術師や元補助監督が有志として参加しています。なぜ現役の呪術師や補助監督でないかと言うと、呪術界は禪院家を御三家から除名していますから、呪術界関係者が主体となって禪院家合同慰霊祭を行なうのは政治的に無理があるからです。
ゆえに、これは裏設定ですが、禪院家合同慰霊祭を開催したのは呪術師や補助監督の職を辞した少数の人々です。
私は現実とフィクションを区別しています。そんな私が、禪院家族滅という事態に対して、現実的な対応を考えずにはいられなかったのは、「もし現実なら誰が彼らを弔うのだろう」と考えずにはいられなかったからです。本作は、その思考実験の結果として生まれたものです。加えて、存在しないキャラクターへ悲哀と同情の気持ちを抑えられなかったことも関係しています。言ってしまえば、私の故人(故キャラ?)への考えは式辞という体をとった小説本文に尽きています。
当作品の裏側については以上です。お読みくださりありがとうございました。