黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_09 オーキー暮らし マギーちゃん塒を乗っ取られるのこと

 マギー姉さんとニナは、曠野の地に生きる渡り人(オーキー)の娘たちだ。血の繋がりはないが、互いを大事に想いあってる。

 

 渡り人(オーキー)というのは、拠点を持たずに曠野を旅し続ける者たちの呼称だ。と言っても、寄る辺なく流離い続ける流浪の民とは一線を画していた。

 

 流浪の民は、風と共に移動し、曠野の厳しい自然の中で生き抜く術を知る者たちだが、渡り人(オーキー)はそれよりももっと文明的な生活を好む傾向があった。

 元々、何処かの集落で暮らしていたが、戦乱や飢饉、怪物の襲撃などの災厄で、故郷を離れざるを得なかった住人などが多かった。

 

 

 やむにやまれず故郷を離れ、放浪を強いられて渡り人(オーキー)となった者たちは大抵、安住の地を求めて地を彷徨い、各地の居留地を訪れては働き口を探したり、廃市街近くにキャンプを作って物資を漁ったり、交換したりしながら、辛うじて糊口をしのいでいる。

 

 場所によっては長く腰を据え、共同体の一員になる未来を掴む渡り人(オーキー)もいるが、それは大抵、幸運な少数派だった。曠野は過酷な土地であり、渡り人(オーキー)のような他所からの流れ者は多くの場合、居留地で警戒され、歓迎されずに浮き草のように不安定な日々を過ごさざるを得ない。

 

 小さな居留地の多くは、仕事も資源も限られており、他者を受け入れる余地を持っていない。加えて、曠野を彷徨う者たちには、武装した放浪者や無法者、他所の土地で罪を犯した追放者なども含まれており、必ずしも行き着いた先で歓迎されたり、仕事に有りつけるとも限らない。

 

 新しい居留地でそれでも仕事に有りつき、荒地に天幕を張ったり、粗末なあばら家を建てて暮らしている渡り人(オーキー)たちは幸運な方で、廃屋に潜り込んだり、風雨にさらされながら野外で暮らす者たちも少なくない。そうした者たちには、いずれ、廃墟民か、或いは浮浪者《ホーボー》となる末路しか残されていなかった。

 

 

 ※※

 

 ポレシャの居留地に転がり込んだのは、マギーたちにとっては幸運だった。勿論、移住する前に、よく吟味はしていたが、実際にも悪くない土地柄だった。住人は善良で比較的に安全、税も安い。辺土にある為、物資に欠乏しがちな欠点も、行商の生業を選べば、稼げる状況と見做すことも出来た。ポレシャは大きな居留地で、日雇い仕事なら探せばそれなりに転がっている。マギーたちも農地の作男《ファームハンド》や建設現場の労務者、あとは近場の自由都市で仕入れをしての行商などをして口を糊していた。

 

 ポレシャ居留地には、幾人かの行商人がいる。とは言え、大半は兼業でしかない。何らかの所用で出先に出掛けた際、高く売れそうな地元の産物を売り払うか、或いはその逆に何かしらの物資を買い込んで地元で売るのだ。

 しかし、大半の行商人は、馴染みである近隣の村や農場にポレシャの産物や道具を売りに行くだけに留まっており、手を広げて活動しているわけではない。街道上が危険なことあって、せいぜい生活の足しにする程度で、商売に熱心とは言えなかった。

 

 

 なにしろ文明崩壊後の世は、危険に満ちている。文明地を少し外れれば、荒れ果てた大地や屹立する廃墟にゾンビや変異獣が巣食っており、レイダーや餓えた野生動物、頭のおかしな狂人やカルトが獲物や生贄を求めて彷徨っている。街道筋ですら、安全とは言い難いのだ。

 

 そうした中、マギーたちは例外的に活発に活動していた。月に2度か3度、居留地と自由都市を往復し、ポレシャで収穫された小麦を都市の通貨に換金していた。その資金を元に、都市で建築資材や日用品、中古品などを仕入れ、それを再び居留地に持ち帰る。こうした手間をかけた取引は、ただ物々交換に頼るよりも効率が良かったからだ。

 

 

 危険を冒しているだけあって行商の利益は悪くない。自由都市との一度の往来で300クレジット前後を稼ぐことが出来た。対照的に、居留地の下層地区《まちはずれ》で得られる日雇い仕事の賃金は、おおよそ15~20クレジット。しかも、毎日、仕事に有りつけるとも限らないのだから、行商を月に2度か、3度行うだけで、十分に生活費はまかなえた。

 

 とは言え、金も物資もどれだけあっても足りなかった。文明崩壊後《ポストアポカリプス》の世には、人口が希薄で土地は余っている。代わりに資材は貴重で、しっかりした家屋には相応以上の価値があった。

 

 新参の風来坊は、一から家を築かなければならない。なにしろ、下層地区の町はずれに流れてくるのは、移民でも大概が寄る辺なく貧しい渡り人(オーキー)ばかり。新顔の中には、ぼろぼろの毛布を家代わりに物陰へ忍び込み、怪物に襲われぬよう、朝から昼までの時間帯に眠りにつく者たちすらいる。

 

 はした金で土地を借り、棒切れと紐、それに新聞紙で作られた簡素な天幕を張った路傍のねぐらですら、何も持たない者から見ればまだ恵まれている方だった。僅かなりとも雨風を凌げるし、闇夜に紛れて徘徊する怪物に襲われる恐れがほんの少しだけ減るのだから。天幕は狭く、寒さが厳しい夜には、焚火の番をしながら交替で眠るしかないが、何もない曠野を彷徨うよりは遥かにましだ。

 

 マギーとニナも、塒を仕立てるのには苦労した。袋小路の路地裏を無料で借りると、それでもちょくちょくと手を入れ、壁代わりに厚手の布など張って保温性を高めてある。隙間風は酷いが、冬以外はそれなりに快適に過ごせる。屋根はビニールと新聞、そしてタープで覆い、雨もかなり防いでくれた。かなりの金と手間を掛けて、狭いながらも、一年掛けてまあまあ満足できる家へと仕上がった。内部の小さな棚には、都市で買った食器や道具を並べている。

 

 

 悪くない家だと自負しているマギーたちだが、問題は行商に出ている間の留守だった。ポレシャから自由都市へは、移動だけでも一日の距離がある。一度行商に出れば、最低でも三日、場合によっては四日、五日とかかることも珍しくない。その間、塒に何者かが潜り込まないか不安が常につきまとう。荒廃した世では、簡素な住まいでも貴重な財産だ。空き家と見なされれば、無法者や放浪者が勝手に住みつく危険は常にある。幸いなことに、ポレシャは全体的にいい意味での法治が行き届いており、下層地区の自警団もしっかり機能している。一時的に入り込まれる事はあっても、占拠されて厄介ごとに発展するなんて事態は、ポレシャでは想像の埒外にあった。

 

 

 4日掛かりの行商の旅から居留地へと帰還したマギーたち。物資を仕入れてくるので、防壁での扱いもよく、書類を見せることで市民区画直行のゴンドラにも載せて貰えた。

 得意先の雑貨屋に仕入れた品を下ろしたマギーたちは、その足で市民区画の酒場に拠ると、テーブルで祝杯を上げながら今回の総利益を計算する。食事代や酒、たばこ代に図書館、風呂の料金、石鹸、洗剤などの諸経費に生活費を引いても、手元には都市通貨《ズールクレジット》主体で878クレジットが残り、うち330クレジットが利益だった。

 

 勿論、派手には騒がない。儲かったね、などとも言わない。目ざとい者には分かるとしても、目立つのは避けるべきだった。ノートで利益を確認してから、筆談して次回の旅の計画を練りつつ、静かに喜びを嚙みしめている。

 

 ちょっといい奥の席に案内されて、鶏肉のソテーに晩春の新鮮な野菜。グリーンピースに焼きジャガイモ、春キャベツのバター炒め、豆のスープ。そしてなんと言ってもアスパラガス!小麦多めの焼きたての白パンがテーブルに並び、芳醇な香りが食欲を刺激する。爽やかなワインとアップルジュースがグラスに注がれ、春の風味が広がる。近隣果樹園の新鮮な果物から絞ったものだ。料理の代金は二人合わせ、11クレジット。ただし、居留地では中々に入手できない、貴重な都市通貨《ズールクレジット》紙幣での支払いに、シェフも機嫌よく対応してくれた。

 

 都市通貨は、辺土では日常的に手に入るものではない。特に下層地区やら郊外の村々では、都市通貨を持つ者は少なく、かなりの取引が物々交換で済まされている。

 

 しかし、都市紙幣が手に入れば、店主やシェフの態度も一変する……訳ではない。ポレシャは善良な住人が多く、貧しい頃からかなり親切に接してくれたからだ。しかし、特に他所の土地では、金は力であり、大量の都市通貨を持つ者は一目置かれている。零細商人や不景気な農民の中には、都市通貨を持っていれば、それまで露骨に見下していた渡り人(オーキー)風情のマギーたちにさえ、へりくだる者たちもいるのだ。

 

 普段より、やや豪華な食事を楽しんだ二人は、腕を絡ませながら、塒へと向かった。これから久しぶりにセッ……!我が家に帰るのだ。

 

 なにしろ最近の取引相手は、露天商や屋台商人から店舗持ちや天幕の商人相手に代わってきている。油断できない海千山千の古だぬきたちは、ちょっとでも利益を掠め取ろうと、最初に言った値段を空っとぼけて誤魔化したり、書き換えようとしてくる。中には支払いの時に、紙幣や貨幣の一枚、二枚をちょろっと抜く奴もいて、旅のさなかは勿論、自由都市でも気を抜く行動は一切しないし、出来なかった。

 

 マギーがいなかったら、ニナは身包み剝がされて売り飛ばされていたかも知れないし、ニナがいなかったら、マギーは細かい誤魔化しに気づけない時もあっただろう。二人でもきっと気づいていない何処かでは欺瞞を受けているだろうが、兎も角、大枠では、かなり稼げているので問題はない。

 

 酒瓶片手のマギーと、ハーモニカを吹いてるニナは、弾むような陽気な足取りで居留地の防壁を抜け、門前町を通り過ぎ、中町を経て、町外れへと帰ってきた。

 防壁及び門前町と中町の間、中町と町外れまでは、数百メートルの瓦礫の道が続いていてバリケードの間から忍び込んだ野犬や巨大鼠などに襲われる事例もなくはないが早々、出るものでもない。多分、大丈夫の精神で二人は横断して実際、無事に通り過ぎた。確率的にも、そう度々、襲われていたら溜まらない。

 

 なんか見ない顔がチラチラと増えてるわいと呟きつつ、下層地区を歩きながらも、足取りは軽かった。久しぶりの我が家である。実際の守りが固いかはともかく、安堵感はひとしおだ。路地裏の玄関が見えてきたところで、軽い違和感を覚えたマギーが「ん?」と足を止めてしまう。

 

「なんか妙じゃないか?」スンと鼻を鳴らし、マギーは用心深そうに辺りを見回した。

「……そうだね。なんか、妙だ」止まったニナも囁いた。

 違和感を感じる。数秒を観察し、家を出た時と屋根の形とか、小物の位置とか微妙に変わっている気がする、と気づいた。

 浮浪者《ホーボー》か乞食に潜り込まれたか?或いは、留守中に知己のリリーか、トリスでも訪ねてきたのかも知れない。

 前者でも問題はない。公的な書類に借地人としてマギーの名が記載されてるし、よしんば相手が複数いても自警団を呼べばどうにでもなる。とは言え、マギーは上機嫌でかなり酔っていた。ホームベースなので油断してた。本調子ではないのも自覚している。

 

 酒臭い息を吐きながら、立ち止まったマギー。

「むぅ……世界が揺れてる」身体を揺らしながら、呟いていた。

 まずは様子を見ようと一歩を踏み出したニナの目の前。塒に設置した木製扉が開いて、中から幾つも人影が飛び出してきた。甲高い笑い声を上げてるのは幼い子供たちだ。

(……あれ?我が家?なんで、子供?)

 あまりの展開にマギーちゃんは脳の処理が追い付かずに固まっていた。

 ニナは、えぇ?と漏らしてる。子供の一人が家のすぐ前に立ち尽くすマギーとニナに気づいて立ち止まり、首を傾げた。

「だあれ?」

 

 彫像のように固まってるマギーの前に子供たちが集まってきた。

「しらない人ぉ」

「おきゃくさんー?」

 口々に言い募りながら尋ねてくる謎の子供たちを前に途方に暮れた様子のマギー。

 背中を塀に預けて観察してるニナだが、子供たちが騒ぎ立てるうちに来客に気づいたのか。ねぐらから、また一人。今度はやや年嵩で、十代半ばと思える眼鏡の少女が姿を現した。

「どちらさまです、うちになんかごようですか?」強気そうな眼差しに露骨に警戒を浮かべた眼鏡の少女は、子供たちを庇うような位置に立ちながらニナとマギーを睨みつけてくる。

 あまりに事態にマギーは放心してる。頼れない。

「おっ、お前らこそ、誰だ?」問いかけたニナも混乱を隠し切れなかった。

「家の前でじろじろと……人を呼びますよ」眼鏡娘が理不尽にも警告してきて「ふっじゃけんな?!」ニナは叫んだ。

 

「ふざけてるのはそっちでしょ!」眼鏡娘が鋭い声を返す。「ここは下層区画の委員から割り当てられた家です。勝手に家の前で騒ぎ立てられて迷惑なんですけど!」

「割り当て?!」ニナは目を見開き、指を突きつけた。

「冗談!ここは私たちの家!割り当ても何も、私とマギーで建てた!」ニナの声が少し震えてるのは、怒りか、それとも焦燥や不安か。

 ぎゃあぎゃあと口喧嘩を始めたニナと眼鏡の横、マギーは呆然自失して突っ立ってるように見えた。これが小汚い廃墟民が自宅を乗っ取ったとかなら、マギーにも理解は出来た。叩きだせばいいだけなのだが……

 金の無さそうな図々しい阿呆やら居留地に出稼ぎにきた若僧でも、まだ分かる。

(……子供たちの集団?十数人?それなりに小ぎれいで廃墟民でもないよね。

 なにがどうしてこうなってる?)

 言い争っていたニナと眼鏡が掴み合った。互いに槍と小さなナイフは持ってるが、使わない。拳も振りかざしてない。二人ともに抑制は効いているようで、取りあえず静観に廻ってるマギーの横手、鋭い男の声が掛けられた。

 

(……保護者かな?若くはないが、中年という程でもない)

 眺めてるマギーの目前。「なにをしている」と掴み合ってるニナと眼鏡の間に割って入り、青年はニナの腕を掴んで鋭く問いかけた。

「……あなた、誰かな?」マギーはゆっくり首を傾げた。

「俺は保安官だ!お前こそ……」名乗って掴みかかってきた青年に、眼鏡がホッとしたように安堵の表情を浮かべていた。

 ふうん、と頷いた瞬間のマギーの姿が搔き消えた。少なくともニナには、そう見えた。

 ほぼ瞬間に地面に引き倒された青年の喉に、伸し掛かったマギーがナイフを突きつけていた。

「知らない顔だ。何時の間に、うちの保安官は変わったんだ?」マギーが淡々と尋ねる。

「……お前」

 青年は息を呑み、眼鏡が悲鳴を上げたが、

「動いたら殺す。許可なく喋ったら殺す。眼鏡、お前が動いたらこいつを殺す。喋ったら殺す。武器を出したら殺す。歩いたら殺す。理解出来たら、ゆっくりと両手を肩方向に伸ばせ」マギーは静かに警告した。

 それから首を傾げたマギーは、瞬きせずに不思議そうに青年に尋ねる。

「エヴァンス保安官も、三人いる副保安官も全員、よく知ってる。誰一人してからもお前みたいな奴の話をしたことがない」

 マギーは目を細めて青年の顔を見つめ、声を低めて続けた。

「お前、何者だ?何を企んでる?」

 マギーは追い打ちをかけるように冷静に質問を重ねる。

「嘘はつかない方がいい。保安官や副保安官の顔を忘れるわけがない」

 ナイフをさらに喉元に押し付け、囁くような声で続ける。

「どうせ、背乗り(はいのり)でも目論んだか?正直に言えば命は助けてやる」

 場の空気がさらに張り詰める中、マギーの目は一瞬も青年から離れない。

「あ、いかん。マギーのお目目、ぐるぐるになってる(比喩)。冷静に見えて酔ってるし、混乱してるから刺激しないで」ニナがなんか必死に言ってた。

 

「ま、待ってくれ」出てきたのは、近所に暮らすニール親父だ。

 マギーとニナの一応の顔見知りの中年男だが、時々、挨拶する程度でさほどに親しい訳でもない。

「近寄るな。ニール」マギーは警告してから、偽保安官とニールの顔を一瞥する。

「……何処かで見た顔だと思った。顔が似てるな。兄弟か?」

「従弟だ」と苦しげなニール親父。

「こいつ、保安官だと名乗った。背乗り(はいのり)でも目論んだか?」マギーは低い声で尋ねる。

 警戒対象が増えてしまった。情報源は一つあれば、充分だ。偽保安官は始末しようか?マギーの思考が物騒な方向に流れそうになる。

「放浪民のスパイが手引きして、居留地乗っ取った事件もあったな。元の住人は皆殺しだった」

「違う!」ニール親父は泣きそうな声で喚いた。

「そいつはセフの保安官で、彼らは避難民だ。セフの村人なんだよ!」

「……避難民?なんの話だ?」とマギー。

「お、お前らが出掛けたその日の昼に、やってきたんだよぉ。本当だよ」汗を搔きながら、ニールは訴えた。事情は薄々分かってきたぞ。でも、有罪。

「他人の家を勝手に貸し出したのか?」

「ひゃ、百人近くいるんだ……みんなに家を借りたけど全然足りなくて、路上で寝てる奴も。……子供だけは安全な家に。ちゃんと門番には言付けを、帰ってきたらすぐ云おうと」必死に言い募るニール親父。

 言い分が全部、本当なら、まあ、情状酌量の余地はなくもないとも思えた。

 酔っていて頭がよく働かない。

 言い分は分かった。子供たちは許す。大人に関しては、二、三人ぶっ殺して、財産権主張に強硬な姿勢を見せるべきでは?

 酔ったマギーの頭の内部で強硬派マギーちゃんがそう主張した。ハト派のマギーちゃんは見当たらないが、今は亡き恩師《オー》が登場して、様子見するべきだぞと警告してきた。

 マギーは考えたが、結論は出ない。不法侵入者たちにとって幸いなことに、酔った時のマギーは、一時、判断を保留する癖をつけていた。

 

 大人だけなら無法者向けの対処をしていたかも知れない。しかし、マギーの目の前で、子供たちが息を呑んで見守っていた。小さい声でほぁんかぁ……とか泣いてるし、ぷるぷる震えて涙目で堪えている子もいる。そして、生来の本質がどうであろうと、マギーちゃんは善良でありたいと己に生き方を課していた。

 

 マギーと同じか、それ以上に腕が立ち、ずっと気が短かったり、善良さが欠けたポストアポカリプスの住人だっているのだ。他人の家を勝手に貸し出すとか、子供たちの目の前で血の雨が降っていてもおかしくない程、ニール親父の判断は迂闊で愚かだった。

 

 子供からは撃たれはしないだろうな。人によっては偏執的と思えるほどに用心深く子供たちやその他を警戒しつつ、マギーは、偽保安官の喉元からそっと刃を離した。なにしろ酔っているので、ついうっかり手元が狂いかねない。

「話せ……全部。あと、お前は信用できないから、リリィ……いや『陛下』だな。『陛下』か『長老』を呼んで来い」

「すぐに呼んできますぅ」比較的に信頼できそうな近所の顔役を呼べと、ひどく億劫そうなマギーのぶっきら棒な命令に、ニール親父は汗を拭きだしながらコクコクと頷いた。

 

 

 6月初めのマギーたちの財産

 

   878クレジット

 

 

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