自由都市ズールに東正門から入って、大通りを右に曲がると、旧鉄道駅の遺跡の前。文明崩壊前は一等地であっただろう巨大な建築物が視界を圧倒するようにそびえている。服屋『ヴァルモード』の店舗の前には、青い制服を着込み、防弾アーマーを身につけた屈強な警備員が数人、一定の距離を保ちながら警戒に当たっていた。携えているのは、いずれもAKやARと言ったやはり旧世界の高性能な自動小銃で、小さな要塞のように威圧的な雰囲気を醸し出していた。
「うわあ、凄い装備」ニナが息を呑んでいた。時にAKすら所有する盗賊たちを間近で幾たびと目の当たりにしているが、凶悪な盗賊たちの武装ですら、警備員の磨かれた兵装と比較すれば、見劣りするかも知れない。
「略奪者レイダーの徒党でさえ、多少はばかるくらいに腕利き揃いだよ。ここら辺の警備たちは」
「……略奪者レイダーが買い物に?」
「自由都市ズールと揉めてない徒党ならね。中には兵数数百すうひゃくとか抱えてる徒党もいるけれど」
出入りする客の姿にも、みすぼらしい風体のものは一人としていなかった。渡り人オーキー風情が出入りしていいのだろうか、ともニナは怯んでいるようだ。
ディスプレイに並んだ商品の値札も、三桁は勿論、四桁さえざらにある。そこら辺の蚤の市では、襤褸服が20から30ほどで買える。『ヴァルモード』ではもっとも安い品でも十倍から値が張っている。
普段、マギーたちが商品として扱ってる古着や安価な品とは、値段や質において天と地ほどの差があった。『ヴァルモード』の衣服は、庶民の手に届く範疇ではほとんど最高に近いもので、マギーの知る範疇では、最も品揃えが良かった。
「わたしも入った事はない。追い出されたら、大人しく出ていこう」言って笑うとマギーは歩き出し、ニナは背後をそっと追いかけた。歩いているうちに、一番近くにいた警備員がこちらに目を向けた。一瞬、冷たい視線が体を貫くような気がしたが、主に服装を吟味しただけだろう。すぐに視線を外し、何事もなかったように素通りを許された。
足を踏み入れて、まず驚かされたのは店内の清潔さだった。足元に広がるフローリングや壁が、無駄な汚れ一つなく輝いている。静かに音楽が流れる空間では、文明崩壊前の贅沢な遺物となった電気が今もなお商品を照らしていた。初めて見た光景なのに、奇妙に既視感と懐かしさを覚えるのは、映画やアニメで見た文明崩壊前の映像の為か。或いは、人類の脳髄の奥にそうした記憶が眠っていたのか。呆然と佇んでいるニナの手を引っ張って、兎も角もマギーは目当ての商品を探し始めた。
商品はどれも、全て新品だった。ニナは息を呑んで驚いているが、マギーは微かに目を細めただけだ。ジャケット、ズボン、帽子から下着に至るまでが、手触りが良く、精密に仕上げられている。擦れた感覚のない縫い目、織りの精緻さ、使用感のない光沢を放つ素材。どれもが、まるで遠い過去世界から引きずり出してきたかのような完璧な仕上がりだった。
商品のほとんどは、遠来の地域から輸入されている。技術の衰退が続く黄昏の世に、未だにこれだけの精緻さと品質を保つ製品が作られ、流通していること自体が、マギーにはある種の奇跡のように感じられた。遠くの文明や、かつての大国の技術が今も何らかの形で生き続けているのだろうか。だが、それもいつまで続くかは分からない。生き残った僅かな都市は、蓄積した富を目当てとした蛮族や海賊、遊牧民の脅威に常に晒されている。戦争で弱ったところを、屍者ゾンビや変異獣に呑み込まれたと言う話も珍しくはない。
ため息を吐いたマギーは、首を振って店員に声を掛けた。兎も角、今は買い物を楽しもう。マギーも結局は、只の渡り人オーキーの一人に過ぎない。我が名は、マルグリット!黄昏の世を真に憂うる者である!しても、何の意味もないのだから。
「此方、狩人が好む形式のジャケットです。お値段は1200。かなり高い防御力を誇っており、こと、防弾性能に関しては抜群です」
「こちら、1400。賞金稼ぎなどが好む一品。この価格帯で最高に近い防弾性能と防刃性能を兼ね備えています。ゾンビの噛みつきすら防いだ事例も御座います」
「彼方は、2000と3500で御座います。隊商の方が好む機能的なデザインで、優れた防寒性と高い耐久能力を所持しております」
「此方、巨獣の皮革に科学的処理を施した革鎧で、当店で最高の防御力を誇ります。お値段は4000。凄腕の狩人の方々がご愛用なさっております。車や馬車などで移動為されるお客様が主にご使用される為、防寒性については他の品と比較してやや劣るかと存じます。しかし極めて強靭かつ柔軟な素材を用いております」
「此方、富裕層に大変人気のデザインとなっております。耐寒性と耐水性、そして着心地の良さにおいて比類ない心地よさをお約束致します。また、洗濯のしやすさと着こなしの良さから、市民の方々へのプレゼントとしても大変喜ばれております。価格も大変手頃な1800となっております」
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マギーは結局、腕利き狩人たちに大人気と言う防弾・防刃ジャケットを購入した。狩人と言っても、そこら辺の小物変異獣や野犬やらを狩ってるような連中ではないだろうが、しかし、だとしたら、何を狩っているのか。寡聞にしてマギーも想像がつかない。
「マギーも知らない事、あるんだねぇ」ニナが呑気に言うので、マギーは肩を竦めた。マギーが詳しいのは、略奪者レイダーや盗賊バンディットの名にやり口だ。装備や戦術、賞金額などにはかなりの知識を持っているが、怪物に関してはそこらへんの商隊員に毛が生えた程度にしか知らない。
「そうだね。わたしも知らないことが沢山あるよ」マギーはそう返しながら、ジャケットの質感を再確認した。革や縫製部分、それに要所や関節を守るプロテクターも、しっかりとした手触りで、見た目以上に厚みがあった。
それでも1200クレジット叩いて装備を購入したのが正しい選択肢かは、マギーにも自信がなかった。小型変異獣には早々、負けなくなったが、しかし、それはマギー一人に限っての事でしかない。もし、五匹かそれ以上が襲ってきて、短時間にマギーが対処できなければ、ニナが犠牲になるかも知れない。
屍者の群れ相手に切り抜けられるかも分からない。巨大蟻だって、攻撃力だけ見れば変異獣を上回ってくるし、変異熊など遥かに恐ろしい怪物と遭遇してしまえば、狩人のジャケットとて紙のように破られるかも知れない。
急に心細くなって、しかし、マギーはニナを抱き寄せ、そっと囁いた。
「これで小型変異獣は、どうにでもなる。襲われた時、兎に角、逃げ惑ってでも生き残って。そうしたら私がなんとでもするから」ニナの髪を撫でながら、マギーは笑った。
装備や保険、知識や技術を積み重ね続けるしかない。どんなに準備しようと生き残れる保証がなくても、黄昏の世に飲まれない為、曠野に生きるものたちは抗い続けるしかないのだ。
※※※
崩れたコンクリート片や錆びた鉄筋が散乱する廃墟の一角は、それでも比較的安全な一帯と見做され、旅人たちが時折通り抜ける抜け道だが、薄暗い物陰には時折、油断できない気配も蠢いている。
ポレシャに近い廃市街の外縁は、居留地の子供にとって格好の遊び場であった。大人たちとしては当然に未成年の立ち入りを禁じているのだが『俺は、私は大丈夫』と考える、恐れを知らぬ勇者ばかたちは出入りを止めようとしない。
年に二、三人は死んだり、消息を絶ったりするにも拘らず、今日も今日とて、弾けるような子供たちの笑い声が響き渡っていた。保護色のポンチョを纏った二人組の少女が、廃墟ビルの二階でこらえきれない様子で笑っている。
「次、あたし! 次、あたし!」スノーゴーグルを付けたトリスがはしゃいだ声でスリングショットを振り回している。
「いやぁ、位置難しくない?」ニナが首を傾げる。
「イケるって、マジで。いける」力説するトリスにニナが標的を指摘した。
「ほら、岩の影になってる」二人から十メートルほど先の地面、廃屋の隙間に小さな灰色の影が様子を窺うように出入りしていた。
「いや、絶対いけるって。頭出してるし」言い張るトリス。
「キャラメル賭ける?」ニナが肩を竦めた。
「おっけ」とトリスは自信満々だった。
狙いを定めたトリスは、スノーゴーグル越しに鼠を見据え、スリングショットを構えた。いっそ無造作な動きで引き絞られたゴムから放った鉄球が、吸い込まれるように鼠の頭蓋に命中。脆い骨を粉砕し、あっさりと死の痙攣に陥らせた。
「当たった! ほら! いけるって!」トリスが小さく叫んだ。
「うわぁ、マジか。凄いわ。やるわ。天才かよ」ニナは素直に褒め称えた。
二人の少女はけたけたと屈託なく笑いながら、地階へと降りて仕留めた鼠たちを回収し始める。当然、周囲への警戒は怠らないが、二人とも短い槍は構えつつ、スリングショットもあった。薄い鉄のフライパンを少しへこませてしまう鉄球のスリングショットには、弱い野生動物や怪物なら怯ませる程度の威力があった。小さな巨大鼠(?)や野良犬の一匹、二匹なら撃退できる。それでも走り屍ランナーやら変異獣に遭遇すると流石に拙いので、長居はしない。
一口に廃墟と言っても、比較的に安全な地域もあれば、深奥などには危険な一帯も存在している。二人のいる場所は当然に浅い外縁。廃墟でも人が屯する市場に近く、かつ、居留地の防壁からも目と鼻の先。怪物の群れでも目立つならば銃撃に駆逐され、同時にすぐに人のいる場所に逃げ込める恰好の遊び場だった。
「ああ、アドレナリンでますわ」トリスが額に手を当て、やや陶酔した声を洩らした。
「危ない遊びに嵌ってる」ニナが頷いた。
「一応、これで稼げるからね。鼠肉売ると、金になるし」トリスがにやと笑って、仕留めた鼠を槍の先に結んで軽く持ち上げた。
「問題は、鉄球だけどねぇ」鉄球の価格が気になるニナだが、
「ペイするにしても、商人の伝手がねぇ。まあ、鉄球なら居留地の鍛冶屋でも作ってもらえそうだけど」鉄球も回収すればペイするが、見失う事もある。本来のスリングショットは害獣駆除が主眼であって、狩りで稼げるような道具でもないのだ。
「これで、七匹」トリスが鼠を掲げながら、頷いている。
「こっち、五匹。弾が見つからない」地面を這っていたニナが舌打ちして立ち上がった。
「また新しいの買ってもらおう」
二人は、捕らえた野鼠を紐で結んで槍の穂先へとぶら下げる。中世の職業的鼠捕りが持っていた杖みたいに死んだ鼠たちを吊るした恐ろしい形状となるが、文明崩壊世界の少女たちは気にしない。むしろイケてるのでは?と、きゃうきゃうと騒いでる。
獲物を誇らしげに掲げながら歩き出した少女たちだが、トリスがやや物憂げに、あぁ、とため息を漏らした。
「しかし、煙草の草も、罠の針金。スリングに鉄球も全部、お世話になってる」
「こっちも見込みがあってのことだよ」返したニナも、そう深刻ではないと思いつつも、トリスのメンタルケアを行う。大事な仲間の予定者だからだ。
「いずれ時期を見て、仕事に加わってもらうから、今は準備期間だと思えって言ってた。まあ、私たちか、トリスが死ななければね」
「あーい」トリスが軽く返事をし、それから二人は、土嚢と木材に守られた廃墟の一角へと足を踏み入れた。
少女たちが足を踏み入れたのは、廃市街の一角に広がる市場だった。今にも崩れそうなガラクタめいた見張り台、粗末なクロスボウを肩に担いだ見張りが座っている横を通り過ぎれば、かつて車両が行き交った街路には屋台や露店、掛小屋かけごやなどがぽつぽつと点在していた。
人の姿もそれなりに見られる。大半は、ボロボロの布を纏う廃墟民か、精々が薄汚れた服を身に纏う浮浪者だったが、農民や自由労働者、渡り人オーキーの姿もちらほらと見掛けられる。市場を物珍しそうに見て回る若者たちの一団は、春先に近隣の村々からポレシャに出てきた出稼ぎ労働者だろうか。世慣れぬ様子で屋台に目を留め、安っぽい装飾品や、何に使うのかも分からない鉄片に興味を示している。その背を、鼠のように薄汚れた浮浪児たちが、じっと尾行していた。目は労働者の持つ財布や荷物に向けられており、隙を伺っているのは明らかだった。
粗末な荷車を引いてきた農民一家が、黄ばんだタオルケットを古代ローマのトガのように纏った商人たちと取れた芋や雑穀の価格でやり取りしている傍らで、金欠の渡り人オーキーたちが、屋台の前に集まり、鼠や蛙、そして蟲肉が積み上げられた籠を覗き込んでいた。焼かれた鼠の焦げた匂いや、蛙の湿っぽい皮膚の臭いが漂う中、匂いを嗅いだり、色を見て慎重に品質を確かめながら、貨幣を大事そうに財布から出すと、結局は胡散臭そうに眺めていた肉を購入していった。
トリスが普段、肉を売りに行くのは、居留地も『町外れ』と呼ばれる地域だ。渡り人オーキーや出稼ぎの自由労働者が住み着き、浮浪者ホーボーや放浪者ワンダラーが出入りする下層地区だが、木製のバリケードと木柵や土嚢に守られており、少なくとも廃墟のように怪物に怯えながら夜を過ごし、日中に眠りを蓄える必要はない。
そこでトリスは、煙草の葉や小動物の肉などを住人たちに売りながら、棒手振としての生活を一年近く続けている。
働けば、金が貰える。食べ物も買えて宿にも眠れる。それはトリスには有り難い事だったが、マギーが言うには、廃墟の出には、それが出来ないものも多いそうだ。
『お前は廃墟出だ。一目でそれと分かる。
顔を売り、信用を蓄積しながら、時期を待て』マギーの引き上げると言う約束を信じ、トリスは揉め事や悪事には手を染めず、愚直に守って生きてきた。時折、不安に襲われもするが、それでもやり続けている。人は、他人の心中を見ることは出来ない。マギーはトリスの行動でその心を測っているのだ。
商売と言うものの仕組みを理解する。人と人の信頼を目にして肌で感じる。それが大事だと言うマギーには、仕入れ値として少しだけ払っているが、罠やスリングで捕まえた蛙や野鼠、栗鼠に兎などの肉と親方マギーが自由都市から仕入れている煙草の葉は、トリスにとって生活の糧以上に、未来を変えてくれる道標になると信じていた。
普段は、町外れで売る鼠肉だが、腹が減ったので、市場の片隅にある料理の屋台へと持ち込んだ。
居留地の食堂で喰おうと渋るニナを「廃墟で一番旨いパイを焼く」力説したトリスが連れ込み、金を払って料理を注文すると、肥満した巨漢の店主が肉包丁を振るい、鼠たちを粉砕した。
肉を細かく刻んで鍋に投入。肥満した店主の手元に秘密の調味料が現れ、香辛料やハーブの混ざった強烈な香りを加えていく。じっくりと煮込まれた肉をパイ生地に載せると、焼き台へと入れた。焼き上がったパイが皿にのせられると、店主は無造作に手にした柑橘類を引き裂き、果実汁をパイの表面に絞りかけた。鮮やかな黄色い液体が、パイの表面に染み込み、香りが広がる。完成した鼠肉パイは、黄金色に輝き、パリっとした皮の中に、ほろほろと崩れる肉の旨味が詰まっていた。
「……嘘」一口食べたニナが呆然と呻いた。
それから包み紙を取り出して、いそいそとパイを入れる。
「マギーにも食わせないと……こりゃあ、えらい事じゃ」
「もう一つ、注文していいかな?」トリスが言って、金と鼠を差し出した。肩をすくめた店主が料理を始めた時、二人の背後から一人の少年がふらりと姿を見せた。
いきなり隣に座ると、トリスの注文したパイに手を伸ばし、図々しく口へと運んだ。
「おい!?」スノーゴーグルの下、恐らくは険しい目で睨みつけながら怒鳴ったトリスだが、相手の顔を見て表情を強張らせた。
「よう、トリス」言った少年をまじまじと眺めてから「……見たくもないツラを見たな」苦々しい表情でトリスが吐き捨てた。
ニナやトリスより、やや年上だろう。雀斑の目立つ、ひょろりと背の高い少年を眺めると「……誰?」ニナが口を挟んでトリスが事情を説明した。
「ほら、ビルに置き去りに……こいつがカイ」
「あーあ、あの時の……」ニナの視線も好意的ではない。ビル屋上で窮地に陥ってたトリスを助けてくれたのが、ニナとトリスの縁の始まりだった。
「あのビルどうなってるんすかね? なんか、目と鼻の先に遭って危険だから封印とか言ってたけど……」
「そのうち、居留地広がったら、売りに出すかもよ。マギーが買いたいって言ってた」廃墟で絡まれたら名を出してもいいと、ニナはマギーに言われている。
例え下層地区住まいでも、居留地の子に手を出せば、ポレシャから民兵や保安官、自警団などが乗り込んでくる。ニナとつるんでるトリスが比較的、廃墟の市で穏やかに過ごせるのも、ポレシャの行商の徒弟になったと見做されているからだが、身分としては些か弱い上、その道理が、暴走する少年愚連隊に通用するかは分からないと危惧してもいる。
「あー、なる。すげぇ夢っすね」
「そん時は、トリスも部屋貰えるかもよ」
「あー、いい夢っすね」
公然と無視されたカイは、しばらく黙っていたが皮肉っぽく言った。
「随分と羽振りがよさそうじゃないか。そっちは居留地の徒党の子だな。新しい飼い主に尻尾を振ってる訳だ。温室暮らしは快適か?」
カイの態度に違和感を感じて、トリスが背後を見れば、棍棒を持った少年少女たちが背後に並んでいた。カイの余裕の源は、バックアップこれだった訳だ。
「はあ? 羽振り?いや、別に。普通っすけど?
そっちもお変わりなくて結構すね?揃ってない顔がいるっすけど、元気ィ?」
カイの親しい仲間が何人か見えないことを、トリスは揶揄してやった。
「廃墟で生き残るのは、大変っすからね。カイちゃんも十年後も、二十年後も、今と同じように暮らせてるよう祈ってるすよ」手をひらひらさせるトリスに、カイは一瞬、険しい目をしてから、脅かすように低い声を囁いた。
「てめぇ、腰抜けミュータントが上等な口を聞くようになったじゃないか、置き去りにされてピイピイ泣いてたのは忘れたか?」
「会ったら、さ。ぶっ殺してやろうと思ってたけど、その様見てたら、こっちはもうどうでもよくなったっす。今後は赤の他人で」
「待て」
「……なんだよ、しつけぇなぁ!」
カイは突然、表情を曇らせると、ため息を漏らしてから言った。
「リンが病気だ。お前に会いたがっている。多分、最後になる」
四月中旬
5115クレジット