黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_40B 廃墟の約束

 文明社会の瓦解した曠野の地においては、自力救済が生存の基本であるが、比較的に秩序の保たれている居留地などでは、法秩序が一定の機能を果たしている事も少なからずあった。ポレシャも幸運な例外のひとつで、街はずれと呼ばれる下層地区でも、自警団が防備や治安の大半を担っている。怪物の襲撃やら、人攫いに無法者の侵入などに備えて、居留地から幾らかの武装の支援や僅かばかりの物資・食料の給付を受けながら日々、バリケードの警邏などに当たっている。

 

 とは言っても、自警団の武装や人数には限りがあって、地区全体の治安を守るには至らない。ひと気の少ない一帯に通じる街路に関しては、土嚢や木壁などで封鎖してお茶を濁し、夜間には一か所に纏まって、火を焚きながら警戒を続けるのが関の山であった。

 

 それでもバリケードを守っている自警団は、地区の人口密集地の大半を守ることにおおよそ成功している。定期的な見回りを行ってる大通りの周辺においては強盗や殺人、誘拐などは殆んど発生していない。これは、黄昏の世の居留地としては中々に暮らしやすい土地である事を意味していた。

 

 つい先日も、無軌道な若者の一団が老夫婦の民家に押し入ったのを近隣の人間が駆けつけて取り押さえるのに成功していた。こちらは自警団の手柄ではないが、兎も角も、助け合いという概念がポレシャ一帯には生き残っている。その際、強盗団を取り押さえた一人であるマギーは、久しぶりに顔を合わせた自警団員に、新入りたちと引き合わされることとなった。

 

「にしろ、やり手の行商人のマギーさんだ。市民街区の方に出入りして、町外れの出入り口には滅多に顔を出さないからな。古い馴染みたちは、もうお見限りかい」

 古参の自警団員に、マギーは苦笑する。

「嫌味か、貴様?まあ、お前さまも頑張って、防壁内に出入りする身分になることだね」遠慮なく言い合いながら後日、詰め所に顔を出すと確約してマギーは別れた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 約束の当日、マギーは道に迷っていた年下の少年と連れ立って、自警団の詰め所へと歩いている。メモを片手に四辻をうろついていた少年は、廃墟で暮らしていたとぽつぽつとマギーに語った。それも廃市街ではなく、曠野の真ん中に点在するような廃屋のひとつに一人で暮らしていたそうで、略奪者《レイダー》に襲われていた渡り人(オーキー)の旅隊《キャラバン》を助けたところから、後日、礼をすると言ってポレシャの住所を書いたメモを渡されたそうだ。

 

 勿論、略奪者《レイダー》と言ってもピンキリで、数千の軍勢を動かす砂の王のようなレイダーの大君主《オーバーロード》から、通りすがる旅人を殺して荷を奪いながら暮らしている二~三人で小徒党まで幅広いが、それにしても、大抵は銃器で武装し、殺すのを躊躇わない略奪者《レイダー》と言う人種は、例え、小物でも侮れぬ危険な相手に違いなかった。

 

「……大したものだ」その話が本当なら、とマギーは、ライフルを背負った少年の横顔を眺めた。朴訥とした語り口には、嘘は感じられないが、その場を取り繕える嘘の達者なんて、幾らでもいる。しかし、浮浪者めいた装束だが、その容貌には鋭利なものと素直さが共に伺えた顔立ちで、なるほど懐の広い年長者に好まれそうな少年だとマギーも感じ入った。

 

 

「おっさんは、自力で撃退しそうだったけどな」少年がぼやくように言った。

「『陛下』か、なるほど。良い相手と知り合ったな」マギーは呟いた。

「『陛下』?とても王様には見えなかったけどな」少年の疑問に対して、マギーは肩をすくめた。

「彼の綽名さ。裏路地の王とも呼ばれてる。もっとも小さな村のひとつくらい、実際に所持するか、作り上げてもおかしくない人物だが」言ったマギーは、考え込むように微かに首を傾げた。

 文明崩壊後《ポストアポカリプス》の黄昏の世(トワイライト・エイジ)において、おのれの領地を築き上げることは、究極の出世なり、野心のひとつと見做されている。だが、『陛下』が綽名のような世俗的な野望を抱いている人物かと言われると、素直に肯けないところがあった。その望みは、もっと別なところにあるかも知れない。

 

 

 兎も角も、『陛下』は、邪悪な人物ではない。無駄に頑固な年配者や狭量な先達もいる一方で、目下を導き、経験を積ませて、己以上の人物と育てることを恐れない者らも結構な割合でいる。徒党の子供たちに対する対応を見る限り、年少の世慣れぬ廃墟育ちが師事を仰いだり、保護を受けるにあたって『陛下』はおそらく当たりの部類だろう。マギーの知るところ、町外れと限るならば、最良の人物の一人と見做してもいいほどだ。

 

 

 そんなことを考えながら、町外れの複雑な街路を歩き続ける。時折、見かける空き地に泥や土で作られた家々は、大抵、立派な家屋を建てられる程に古くから暮らしている一家の持ち物だ。壁には所々、ひびが入り、乾いた埃が風に舞っているが、家の周囲には小さな堀などが掘られて木製の刺が設置され、怪物や野生動物、夜間の泥棒を寄せ付けないように工夫されている。

 

 端材を組み合わせた木造の入り口や小屋には、藁で編まれた天井が乗せられ、風が吹くたびにきしむ音が微かに聞こえた。此方は働き者の一家の持ち家だろう。中々に高価な木材を使い、農家との伝手が必要な藁を度々、交換しているのは、他の者たちよりも相当に稼いでいることの証だった。水の入った壺を運ぶ作業している一家も、よれよれの古着ではあるが、大きな破れや解れが一つもなく、きちんと継ぎ接ぎされた暖かそうな衣服を着こんでいる。

 

 ひび割れた泥の壁や、雨風で歪んだ木材が組み合わされて作られた簡素な家々だが、しかし、壁や屋根、床がしっかり揃って、雨風を殆んど遮ってくれる住居というのは、流れの渡り人(オーキー)や自由労働者にとって憧れでもある。

 

 街はずれの大半の家屋は、それほどには大きくもないし、立派でもない。廃墟の壁が瓦礫を積み上げた力技で補強され、路地裏の天幕を支えているが、どこか頼りない。段ボールを重ねただけの家々は、雨に打たれてふやけた跡が残り、脇には古びた布切れが敷かれていた。それでも持ち家は、黄昏の世(トワイライトエイジ)の流れ者たちには、中々の贅沢品であった。

 

 

 湿った土の匂いと、長い年月が経過した鉄や錆びた釘の酸っぱい臭いが漂い、かすかな煙の臭いが混じる。どこかで小さな焚火でもしているのだろうか。焼け焦げた瓦礫の黒ずんだ表面が目に入り、触れれば炭のように崩れそうだ。

 

 路地裏に目をやると、薄汚れた衣服をまとった子供たちが、段ボールで作った家の中から少年をじっと見つめていた。目は新参者に対する好奇心と警戒心が入り混じり、何かを期待しているようでもある。時折、笑い声が響き、ひそひそとした話し声がその後に続く。さらに奥では、痩せた犬が鼻先で瓦礫を掘り返して何かを探していた。

 

 遠くの方から、鉄が擦れるような音が耳に届いた。ガリガリと不規則に続く音に混じって、足音が瓦礫の上を踏む乾いた音もする。重い靴を履いた誰かが通った跡なのか、足音はゆっくりと近づいてきたかと思えば、また遠ざかっていく。

 

 少年は目を細めて周囲を見回していた。つま先は、警戒する猫のように爪先立ちになっている。ここに住む人々の生活の気配――その中に漂う静けさと、猥雑な空気の狭間を感じ取ってマギーは微笑み、少年に声を掛けた。

「警戒することはない。此処の人々は善良だ。大半は、だが」

 少年が無言でマギーを見つめた。

「理由もなく人を殺すことはないし、最低でも、人目のある所では法を守る程度の慎みは持ち合わせている」マギーの説明に、曠野から来た少年は戸惑いながら、口を開いた。

「それは……天国みたいだな。こんなところが、地上に残っていたのか。さっきから喧嘩もないし、火縄銃なんかはチラチラと見るのに、銃声も聞こえてこない」

「……子供たちには優しくしてやってくれ。君に興味があるんだろう。少々、やんちゃな子が多いが、慣れれば可愛いものだ」

 言ってマギーは一度、立ち止った。

「もうじきに自警団の詰め所だ。随分と曲がりくねった街路を歩いたが、君を罠にかけるつもりはない。彼方此方封鎖されていてね。廃墟に巣くった居留地は何処でもそうだが、使われてない建物や道路、立ち入り禁止の地区も多い」

 少年がうなずくと、マギーは薄暗い通りの入り口で立ち止った。

「この先だ。道順はおいおい覚えればいいだろう」

 確かに『自警団詰め所、この先』との古びた看板が佇んでおり、一応、地図の案内図とも合致しているものの、傍目には怪しいかも知れない。

 マギーと少年は、互いに不意打ちし辛いよう、横並びになって通りに足を踏み入れた。

 

「自警団は、あまり、いい仕事ではない。分かっていると思うが、危険も多い」歩きながらのマギーの忠告に、横を歩いている少年は微笑んだ。

「それは普通に生きてるだけで」

「確かに。しかし、本来、避けられる危険と相対することになる」続けたマギーの言に、少年は少しだけ考え込んだ姿勢を見せた。

 

 幾らかの手当てはもらえるが、割に合うかは分からない。人によってはそれで生活が助かることもあれば、深手を負う人もいるのだ。そして、死については……誰かが死ぬような怪我を負う事態は、大抵、自警団も一般人もないような事態ではある。

 

「訓練を怠らないように。そして仲間を信頼する事……使い捨てにされるかも知れない、と思っているかな?」マギーの説明と、そして問いかけに「正直に言えば」少年はうなずいた。

「君を一方的に利用しようとするものもいるだろう。言い換えれば、信頼できそうな人を見つけることだ。ただ、同僚というだけでなく。この時代には貴重な相手だ」

 淡々と続けていたマギーが少年を見た。多少、気恥ずかしい言葉かもしれないが、まじめな顔で受け取っているようだ。

「分かり切った事を口にしてるかも知れないが」とマギー。

「いや、有難い話だ……です。あまり……」少年の呟きに対し、マギーも無言で頷いた。

 

 古びた中型の廃ビルの目の前で、マギーが足を止めた。所々が崩れているが一階部分に目立った崩落は殆んどなく、土嚢や頑丈な木材、丸太で補強されている。

「ここが自警団事務所。私も少し前、所属していたが……」

 見上げている曠野の少年に頷きかけた。

「君がポレシャに馴染めるようであれば……また、会おう。少年」

 

 

 

 格好いいことを言って別れたマギーは、五分後、自警団の詰め所で、死んだ魚のような目で天井を眺めていた。

「ジーナ・エクルストンです。賞金稼ぎをしてました。ポレシャの自警団に入れて嬉しいです」眼前。可愛らしい娘さんの敬礼に、自警団員たちのまばらな拍手が起こった。独身男性はやや熱心だったかも知れない。

「付き合ってる人はいる?」若い自警団員からの問いかけに、うふ、と照れたようにほほ笑むジーナ。

「ああー。残念」

 一見すると、マギーは殆んど聞いてないようだった。我関せずとベンチに座ってるマギーを、ジーナが覗き込んでくる。

「保安官助手ですね。先輩、よろしくお願いします」

 ああ、とか、うん、とか呻いたマギーは、無言のまま目をそらし、再び天井のひび割れを見つめた。

「気を付けて。マギーは女の子が好きなのさ」女性の自警団員が耳打ちしたのが聞こえてる。ジーナは薄く、ほほ笑んでいた。

 

 

 自警団詰め所の裏手の小さな空き地にバーベルやらダンベル、懸垂器具などが設置されている。今は丁度、昼時の少し前で、誰も人がいない。マギーは片手に5キロのダンベルを持ち、支えていた。無理なく力を込めて、ダンベルを伸ばした手の先でしっかりと水平に保持する。大した重さではないが、すでに5分ほども維持していた。

 

 手のひらがダンベルの重量を受け止めるたび、無意識に手が落ちそうになる。マギーは息を吐いて静かに整え、背筋と腕が引き締めて意識して態勢を安定させている。

「長時間の戦闘で銃を持った態勢が崩れないようにするトレーニング、でしたっけ?」マギーの背中から声が掛けられる。

「ジーナ」振り返らずにマギーは相手の名前を呟いた。

「相変わらず訓練は欠かしていないんですね」新入りの自警団員ジーナが軽い足取りで歩み寄ってくる。ショートトップのスポーツ用上着には鍛えられたジーナの腹筋が剥き出しで、蛇の刺青が露になっている。

 

「どうやって突き止めた……いや、安全保障保険か」マギーが疑問を口にし、直後に自分で解答を口にした。

「正解」ジーナは微笑んでいる。

「賞金稼ぎの誰かが口を滑らせたな」

「初めて男と寝ましたよ。でも、おかげでポレシャにこれた」言いながら、ジーナは無防備に距離を詰めて、マギーを見上げてきた。マギーの方が10センチ近くは背が高い。

「他に知ってるのは?」とマギー。

「スネイクバイトのウロボロスが間抜け晒したって知ってるのは、チームメイトでも私だけです。もっとも、他の連中が今、何をして何処にいるかなんて知りませんけど」ジーナは微笑みながら、突然、抱き着いてきた。

 鼻をスンと鳴らし「マギーの匂い」うっとりとしてるジーナ。マギーの沈黙をどう受け取ったか。

「口をふさぐ気ですか?手配済みです。私が手続き怠ると、彼方此方で居場所が張られます。もっともポレシャ捨てられたらこっちには打つ手ありませんけど」

「そんなつもりはない」言ったマギーは「わたしを恨んでるか?」ジーナに質問を投げかけた。

「なんで?」不思議そうに尋ね返すジーナ。

「何も言わずに消えたのは、そりゃあ、業腹ですけど。チームは末期状態だったし。付き合いきれないってのも分かるかな」さして気にした様子もなく、ジーナは昔の団についてどうでもよさそうに語った。

 

「マギーと近しい連中は、見習って早めに抜け出しましたよ。だから全員、ごたごたにも巻き込まれずに済みました。抜けたのは怨んでないです。ただ、まあ、チーム崩壊を怨んでる連中は、別にいるかも」

 言いながら、マギーの首筋をチロリと舐めたジーナが、少し怒ったように言った。

「いや、むしろ、そっちの方が腹立つ。なんで、何にも言わないでいなくなったんですか?」ジーナは、ボスボスとマギーの腹筋に拳を入れてくる。

 

(お前らと縁を切りたかったからだよ)とは言わずに、マギーは取りあえずごまかす為に、ジーナの髪を優しく撫でた。そういう処なのだが、本人は理解できてない。

「調べたんすよ。もし、旦那とかいて、家庭とか持ってたら諦めようって」

 ジーナは目を細めながら、マギーに囁いてきた。マギーは困ったように口を閉じている。

「女の子三人と一緒に暮らして、保安官助手でやり手の行商人で地区の顔役マギーさん。十年後には土地持ち農民か、市民に違いないって評判です」

「……そんなうまくいく訳ないだろ」とマギーはやっと囁いた。

「……マギーが出来ないなら、誰にもできませんよ。ね、あやからせてください。役に立ちますよ?」

「相変わらず、過大評価する」困惑気味に呟いたマギーに「二番目でも、三番目でも、もっと下でも構いません。また、可愛がってください。あの頃と同じに……」ジーナが抱きついてきた。甘い香りが鼻腔をくすぐり、マギーは喉を鳴らした。互いに身体のいいところは知り尽くしている。それでもマギーは、ジーナを優しく引き剥がした。こう言うのを、切り捨てたはずの過去が石の下から這い出してきたというのだろうか?途方に暮れつつ、マギーは天を見上げた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 昔の友達と偶々、出会ってね。そんな言い訳でジーナを塒へと連れ帰ったマギーだったが、ニナは、すん、と鼻を鳴らしてマギーの匂いを嗅いだ。

「浮気したぁ。また!またぁ!三度目だよ?」

 犬並みの嗅覚を前に、昔の友達作戦は秒で破綻した。抱き着かれただけなのに、ニナは怒る。理不尽だとマギーは思った。

「スタンフィー!エッチなお店!そして今度の自警団のお姉さん!」

「し、してない。まだ。二、二度目」とマギーは言い訳した。

「まだって言った!まだ!ってなに!?二度も、三度も!」

 

 隣家に暮らす渡り人(オーキー)娘、隻眼のリリーちゃんが楽しそうに修羅場を眺めていた。

「昔の女ってやつやな。何人おるんか知らんけど、いい薬やで」楽しげに適当なことを言って、ニナの怒りに火を注いでいる。やろぅ。そのうち分からせてやる。マギーは誓った。

「熱心に追いかけていたやつは、流石に他にはいないですよ」ジーナが言って、マギーは安心した。 

「ただ、新生のスネイクバイトとかもあるらしいですよ。残党と、新しい団員が」と不安を煽るような情報を教えてくれた。

「うわぁ、聞きたくない。その名前はもう聞きたくない」マギーが喚くように言った。

「……スネイクバイトって?」ニナの問いかけにマギーの顔色が悪くなる。

「知られたくなかった。若気の至りなんだよぅ」言い訳するマギー。

「可愛くなりましたね。またでかくなってるけど」とジーナがニナに説明した。

「マギーが昔、所属していた賞金稼ぎの徒党です。それなりに名は知られてたけど、知りませんか?」ジーナの説明に、マギーの顔色が本当に悪くなった。

「うちは聞いたことあるで。二、三度小耳に挟んだ程度やけど」隻眼のリリーが唸って「あー、はい。同じく」とトリスも手を挙げた。

「漫画とかだと、創設メンバーと新生メンバーの対決とかありそうやな」リリーが冗談めかして言ったが、マギーが絶望的な表情を浮かべたので、気まずそうに沈黙した。

 

 兎も角も、ニナちゃんはジーナに向き直った。

「マギーはわたしのです」譲る気はないし、妥協する線もないらしい。

「いいですよ。ニナちゃんのものです。時々、共有してくれるなら」ジーナの言葉に、ニナが不快そうに唸った。

「マギーは物ではないです。誰と付き合うかはマギーが決めます」とニナ。

「マギーを怨んでる奴は結構、います」淡々とジーナが告げた。ニナが片眉を上げた。

「腕利きの賞金稼ぎに付き物ですけど引退して五年、十年経っても犯罪者やその身内に狙われるってあると聞きます」ジーナの説明にニナは沈黙している。

「そうそう見つかるものでもないけど偶々、ポレシャやズールで消息を知るかも知れない。私がそうだったみたいに」

 

「そういう時、近くにいたら、役に立ちます。命に代えても、守りますよ」ジーナは請け負った。

 マギーはため息を漏らして告げた。

「すぐに、命懸けになるな。悪い癖だ。万が一の覚悟くらいがちょうどいい。敵は一方的に殺すように考えろ」

 頷いてから、ジーナはニナをじっと見つめた。

「私は、マギーより少し弱いけど、賞金稼ぎとしてソロで700の首を狩れる程度には腕が立ちます。傍にいたら絶対に役に立ちます」

 ニナが黙り込んだ。マギーをジーナを見比べてから、真剣に考え込んでいる。

 

 

 一方でトリスが不安げな表情を浮かべたのに、目ざとくマギーは気が付いた。

「例え、他に仲間が見つかっても、まず約束したのはトリスだ」マギーに言われてホッとしたようにトリスが頷いた。

「来年か、再来年には登録する」とトリスの不安を払拭するよう改めて約束する。そのマギーの様子を見て、ジーナは目を細めて微笑んだ。

「徒党を作りたいんですよね。今度は堅気で、自分が頭目として」言いながら、ジーナは胸に手を当てて告げた。

「先約は大事です、もちろん。こっちはこっちで、しばらく自警団所属の自由労働者としてやっていきます」マギーの前で、ジーナは妥協案を示した。

「二年後か、三年後。もっと先でもいい。私が生きていたら、入れてください。今は、それでいいです」

 

 口約束でも、マギーは基本的に約束を守る人間だ。悪党に強要された約束などは破るにしても、それ以外はやや偏執的なくらいに約束の遂行に固執する性格の持ち主だった。ジーナは、それをよく知っている。マギーが助けられるよう努力すると言えば、本当に努力するし、仲間に加えると言えば、加えるのだ。

「先約、か」マギーは、トリス、リリーと視線を向けてから、ジーナを見つめた。

 断ったら、恐い、とも感じた。ジーナなりに、随分と譲歩してきているのは分かる。勿論、勝手に押しかけてきたのだが、しかし、過去のジーナの人生にはマギーも責任があるのは確かだった。殺伐とした少女時代の記憶と縁を切りたかったマギーだが、ジーナは比較的に過去の柔らかな部分でもある。

 目を向けると、ニナがしかたない、とでも言いたげに肯いた。

「そのうちにな」マギーが頷くと、ジーナはしてやったりと言いたげにほほ笑んだ。

 「おい?なんでうちを見たんや?!入らんぞ?!」リリーが喚いていたが、こうしてまた一人、頼りになる仲間(予定)が生まれた。

 

 

 

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