黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_45 マギーのこぶし

 狼の毛皮の青年は、膂力も、速度も、反射神経さえ、マギーを随分と上回っていた。とは言え、常人を容易く殴り殺せる程度だ。負け惜しみではなく、想定を越えてはいない。そしてマギーは、自分より強い相手、でかい相手と戦うことに慣れていた。

 

 ある程度の格闘技術を収めたもの同士の戦いでは、早々に容易く相手を圧倒は出来ない。馬や猪などの野生動物並みの力の持ち主であればマギーを圧倒できるし、乗用車のようなパワーと体躯を持った変異獣なら、マギーを簡単に殴り殺せる。

 

 狼の毛皮の青年は所詮、人の域は越えてはいない。筋骨が軋む程度の打撃では、たかが百キロ弱の小娘を振り回せない程度の膂力では、マギーを押す事は出来ても、容易く打ち倒すことは出来ない。だから、楽しい。

 

 打つ、撃つ、撃つ、殴、殴、薙ぐ、打。叩きつける。骨が軋む。嬉しいなぁ。こいつは本当に殺す気で殴ってくる。楽しい。ああ、楽しい。こんなに本気になって俺と向かい合ってくれる。歯を剥き出して、必死に汗を掻いている。俺も。俺もだ。俺もなんだよぅ。

 マギーも打った。背筋を使って、腹筋へと拳を叩き込む。まるで岩を打ったようだ。よく鍛えている。岩みたいな肉の鎧に、うっすらと脂肪を纏って、それが衝撃を分散している。すぐに反撃が来る。肘撃ち。受けた腕の骨が軋んだ。体の芯まで届くような鋭く、強烈な打撃。打たれた熱を持ったようにジンジンと疼き続ける。もっと。もっとだ。もっと重たい拳を撃ち込まなければ、こいつの臓腑に届かない。ああ、ああ。マギーは喘いだ。心臓がフル回転するエンジンのように昂っている。こんなに鍛えてくれた。俺と闘り合うために。俺もだ。お前と闘り合う為に、今日まで鍛えてきたんだよ。

 

 この時、殴り合いをしているマギーの脳みそはバクっていた。バグったのではない。獏《バク》てったである。

 

 青年の大振り。それはよくない。焦ったな。躱せるほど遅くはない。受けて、マギーは地面に手を付き、足を跳ね上げた。入った。予期せぬ蹴りが下から青年の顎を捉えた。ここだ。「で、め。ごろず」言ってる青年に拳を叩き込む、腹に、肩に、腹に、腕に、防ごうと両腕を固めるが、姿勢を低くしたマギーは横合いから腹筋にフックを叩き込む。通った。肉の割れ目を抜けて臓腑に届いた感触が拳を撫でた。マギーは濡れた。顔に拳が叩き込まれるが、軽くなっている。だから休まない。小刻みに、体を踊るように左右に、体重を乗せ、時に牽制で、フェイントを織り交ぜ、拳よ、砕けよとばかりに叩きつける。拳が軋む。構わない。拳よ、砕けてくれ。砕けることが定めであれば、今日この場で砕けるための拳だったんだ。

 

 狼の毛皮の青年がなりふり構わず、距離を取った。ごそ、と背中を探ると黒光りする拳銃を取り出して「やってられるかぁ!」乱射される銃声。マギーはジグザグに後退しながら、恐ろしい素早さで曲がり角へと後退し、遮蔽を取った。

 走っていく足音にナイフを引き抜きながら(さて……ここからは問答無用の殺し合い、と)切り替えて、そっと様子を伺えば、青年の姿は影も形もなかった。

 

 溜息を漏らしてるマギーに、ニナがやってきた。「……うわぁ」言いつつも、ペタペタ触って撃たれてないか確認してくる。撃たれていた。上腕部。

「見た目、45口径だが、安い弱装弾だわい。ジャケットで止めてた」マギーは呟いた。買っててよかった。伝説のデザートレンジャーの上着は、見事に弱装弾を止めてのけたが、かと言って、衝撃までは殺しきれない。左上腕の骨や筋肉にかなりの打撲痕が残されていた。数か所も出血している。火の傍へと戻って、上着を脱ぎ、傷を確かめる。全身に青痣や打撲痕が刻まれている。

 ぷぃう、マギーが息をして唾を吐くと、血みどろだった。全身に痛みが押し寄せてくる。多分、腕がひび入ってる。

 

「殴り殺されるかと思いました」不死身めいたマギーは、言ってる割に平然と歩いて簡易宿泊所に戻るとコートの裏地に縫い付けた布を切り裂いて、注射器のアンプルをニナに取り出してもらう。

「あまり使いたくないが数日、安静にするよりはマシかな」マギーは愚痴るように言った。

「随分と毒々しいけど、大丈夫なの?」とニナが不安そうに尋ねる。

「ただのナノ治療薬。ちょいと高いけど副作用はないから。多分、あんまり」

 生体細胞により、遺伝子に変異が起こる場合が云々の注意書きに不安そうなニナだが、撃たれた場所を中心に指示されたとおりにアンプルの三分の一を打つと「残りは捨てて」言ってマギーは立ち上がった。

「これを使うとひどくお腹が空くんだよね。他の人はそんなことないらしいけど」

「じゃあ、多めにご飯作る?」ニナが聞くと首を振って立ち上がった。

「もうお腹が空きました……今日は食べに行こう」 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 廃墟を走り抜けながら、ヘイズは苦々しい思いで手元を見た。

(……くそ、何発撃った?)拳銃の金属薬莢弾。特に大口径の弾薬は、武器商人や工房との伝手でもない限りはかなりの貴重品で、特にポレシャのような辺土では、早々に入手できるものでもない。

「六発……撃ち過ぎた」随分と離れた位置の廃屋へと逃げ込み、そう。逃げ込んでから確かめて、舌打ちする。

 (……しかも、全部躱しやがった)顎に良いの食らって、視界がブレてのめくら撃ちとは言え、尋常の動きじゃなかった。

「保安官補……くそ。厄介な事になるか?」

 打たれた部分がかなり痛みを発していた。女の打撃じゃない。特に内臓を殴られたのが効いた。呼吸が苦しい。吐き捨てた唾に血が混じっていた。

 

 

 廃墟の陰で身を休めるヘイズだが、何処からか屍者の不気味なうめき声が響いてくる。(……今、襲われると拙いな)銃弾は、貴重だ。あまり使いたくなかった。

 そういや、ルークたちは、近くに寝泊まりしていたな。と思い当たった。

 廃墟近くの寝泊まりで節約しているのがいかにもルークらしいしみったれた考えだが、今に限っては役立ちそうだ。薄笑いを張り付けたヘイズは、貧乏人連中が寝泊まりしている小地区へと足を向けた。

 

「ヘイズ、どうしたってんだ?」小生意気にも寝台を借りてる大部屋へと転がり込むと、戸惑ったようにルークが声を懸けてきたが、ヘイズは構わずフードを脱いだ。

 鏡を見れば、頬が多少腫れている。

「ちょいとした喧嘩さ」荒々しい性格にもめ事を避ける選択肢はない。ヘイズは好んで、絡んできた破落戸を叩きのめしている。

「ポレシャにも中々、どうして……一筋縄じゃいきそうにねぇな」楽しげなヘイズにルークは唾をのんで尋ねた。

「相手は何人だ」

「何人って……そりゃ」言いかけたヘイズだが、女から逃げたと言うのも躊躇った。

「負けたのか、お前が」ルークが呆然と呟いているが、気にはならなかった。

「まあ、いいさ。そりゃそうだ。世の中、広いもんだ。やっと実感できたぜ」

 父親に持たされた膏薬を塗り付け、湿布を張ったヘイズは、へらへらと笑った。

「……野郎。強い奴とやり合うのに慣れてたな。打点をずらされていた」ふんふんと機嫌よさそうに「俺と同等のやつも、それなりにいるって訳だ」

 ひひ。へへ、とヘイズはおかしそうに笑っている。ルークは不気味そうに眺めていたが、構わない。

「お前と同じ程度のがいるってことかよ?」

「おう。逆に、そういうもんだってのが分かったからな」上機嫌のヘイズだが、部屋を見回して、ふと、気づいた。

「おい、ワイトはどうした?」

「ワイトは……さてな、仕事じゃねえかな?」ルークの一瞬の躊躇とごまかすような物言いに、ヘイズは立ち上がった。

 微かな笑い声の聞こえてくる中庭に目をやると、井戸の傍で泥だらけのワイトと見覚えのある娘が話していた。頭から水を被ったワイトに、娘が笑顔でタオルを渡していた。

 若い娘を目に止めたヘイズが、舌なめずりした。今まではじっくりと見たことがなかったが、確かに父親の付けた従者に小作農の娘がいたはずだ。

「ニニ。そういやぁ、いたなぁ。へへ。そういう事か。それにしてもよぅ……」

 ヘイズは口笛を吹いた。ルークの表情が引き攣っている。

「ワイトにゃあ、もったいねぇ娘だなぁ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 不審者を逃がしたマギーだが、単純に話を聞こうと考えただけで、相手の行状は正当防衛の範疇だった。破落戸を数人、殺したとはいえ手配を掛けるほどの罪状ではない。廃墟には、廃墟なりの掟が存在している。そして部族や無法者、放浪者には、都市や居留地の法や統治を嫌って敢えて踏み込まない者たちも少なからずいる事を鑑みるに、冬の市で大暴れしなければ放置しても問題あるまいと結論していた。

 

 そういう訳で、保安官助手のマギーは別に狼の毛皮の青年を手配など掛けなかった。常人だったら寝込むくらいの怪我を負いながらも、マギーは次の日には冬の市へと出かける。

 ニナは心配するが、マギーは本当に平気そうだった。それに兎に角にも、稼がなければならない。日々の糧や薪、服などは揃えたが衣食に不安がなくなった以上、次は家に手を入れるのだ。来年からは、今までとは違う伝手に当たったり、大工仕事に挑戦する必要もあるかも知れない。

 

 己で取得するのが困難な技術や知識であれば、人を頼ったり、雇う必要もあるだろう。吹きさらしの紙と布の薄い天幕ではなく、せめて雨風はしのげる程度の小屋を作り、寒さを凌げる環境を整えたい。生き延びるのがやっとの暮らしから、安定した暮らしを望めるだけの収入を得られるようになった今、もっとよい生活へと移行したいとも思うのだ。

 

 そうしてニナとマギーは、その日も、飽きることなく冬の市を廻って廃墟漁りたちの戦利品やら、廃墟民の持ち寄った鉄くずやら木板に布やらを買い込んだ。零細商人は兎も角、足で稼ぐのだ。

 

 冬市が開かれるデパート跡地の周辺では、露店が手軽な食べ物や飲み物を提供している。農民たちは温かい粥やスープを作り、廃墟民や浮浪者が野鼠や蛙の串焼きを売っている。寒風の中、行き交う人々はぽつぽつと露店に寄っている。

 

 目立たぬ場所では、フードやマントを羽織った娼婦たちが集まり、壁際や辻で声をかけている。冷たい風の吹きすさぶ瓦礫の街で火の傍や薄暗い路地に固まって寒さを凌ぎながら、黙々と客を引こうとする。偶に商談が成立すると、泥と土に端材で出来たあばら家といそいそと姿を消していくが、中にはニナと同年代か、もっと年下と思える少女もいて、場所によっては売り上げの一部をうろつく男に金を手渡してる女も見かけられた。ヒモか、或いは場所代か。女衒の組織に所属したり、或いはよそ者などから守っている名目か。よく分からない。ニナの思い浮かべる推測も、大半、本や映画の受け売りでしかない。

 

 町外れにも娼婦はいるが、ニナは同世代で似た気質の者たちとばかり好んで交流していた為、その世界をよくは知らない。少年少女で徒党を組んで、他の徒党と偶に衝突もする。遊びまわったり、親や保護者の元で働き、学校では真面目に勉強しながらも、廃墟を冒険したり、時には野犬や巨大鼠を罠に仕掛けたり、手製の武器で退治するとかいう狂気の遊びを行うこともある。

 

 『冒険』も度が過ぎなければ大人たちは口を出しては来ない。何故ならば、安全な居留地でも人はしばしば怪物に襲われるし、人狩りにも襲われる。骨を折ったり、打撲する程度の徒党同士の喧嘩や、ゲッコーに野犬、鈍間な屍者《ウォーカー》との戦いが、将来は本物の悪漢や危険な変異獣、走屍《ランナー》や屍者の群れ(ゾンビホード)相手に戦う予行演習になるからだ。奇妙な話だが、徒党に属する乱暴者の少年少女の大半は、下町や中町における最良の英才教育を受けている層にも重なっていた。

 

 楽しげに行き交う家族連れの姿がある一方で、悲壮感を顔に張り付けながら、家具を売る農民の姿もあった。農民たちの視線は遠く、哀しげで、値札のついた古びた椅子や机に込められた過去の生活を惜しむようでもあった。

 炭を少しでも安く買おうと目を皿のようにして品定めする渡り人(オーキー)の一家もいた。子どもを背負った母親は手持ちの貨幣を数えながら、少しでも値切れないかと店主に交渉している。隣では、厚手のマントを羽織った夫か、長男が無言で薪の束を見つめ、冬越えに必要な燃料を計算しているようだった。

 

 笑顔と焦燥が交錯しながらも、冬の市には活気が溢れていた。湯気を立てる屋台の粥に群がる浮浪児と怒声を上げて追い払う露店の主。値段交渉を続ける売り手と買い手。威勢よく客を呼び込む商人たちの声が絶え間なく響いている。賑わいの中にも、それぞれの事情を抱えた人々が行き交っている。

 

 冬市の片隅、毎週の土曜日。大人の男ばかりが行きかってる一角があって、マギーや他の女たちも近づく様子が見えなかった。ニナは何となく扱っている商品に見当をつけたが、無理には覗こうとは思わなかった。

 

 気が変わったのは、中町のクリード・モリス。クリーニング屋の末の息子と数人の少年たちがこそこそと近づいていくのを見かけたからだ。

(……エチチな同人誌の導入部みたいだけど、まあ、大丈夫だろう。クリードを揶揄えるネタになるかも知れない)ろくでもない判断をしたニナは、するすると廃墟の屋根に登ると、足音もなく歩き出した。至近の猫にも気配を悟らせずに背中を取れる、特級の廃墟で生まれ育ったニナの得意技だった。

 

(……悪は見逃せないよ!)そう思って忍び込んだニナちゃんの目と鼻の先、案の定、そこでは太古の奴隷市めいた淫靡な風景が本当に繰り広げられていた……訳でもない。

 貧しげな風体をした農民の娘や若い女渡り人(オーキー)、自由労働者などが椅子に座った男たちの前に立つまではいいだろう。

 自己紹介が、洗濯が得意。農作業ができる。料理が得意。字が書ける。羊の世話。鶏を増やせる……そこは違うだろう。

 男たちが入札めいて、幾ら幾らと金額を上げるが、それもあくまで常識めいた金額。何なら娘たちの側にも選択する権利があるようで、自分から金額の低い二番手、三番手に売り込みに行く場合もあった。

(普通の紹介やん?……なんで、こんなこそこそする必要があるのだ?絶対にエッチな奴隷市場だと思ったのに)

「……食事と寝床の支給、三か月の奉公で先払い200緑ポンドから!」競り合いが始まり、やがて競売人が木槌を叩くと、娘が駆け寄って雇い主に挨拶した。

(……いや、この後、エッチな人身売買があるかも知れん)見張るニナだが、しかし、数人の娘さんの奉公先が決まった後は、あっさりと解散してしまった。

 

 誰もいなくなった無人の会場に天井から飛びおりたニナは、ポケッと見回していたが、柱の陰から覗いていたクリード・モリスとその一味と目が合った。

 なんとなく肩を竦めると、向こうも肩を竦めた。そのまま、無言で会場を後にする。スケベな奴隷市場とか全然無かった。

 

(……いや、状況次第では、愛人になる娘とかいるかもしれない)だけど、それは奴隷とか人身売買ではなく、例え貧困が理由であっても、自由選択の範囲内だろう。ポレシャでは、人身売買は認められず、奴隷制も認められていないのだ。

 

 

 

 ※※※

 

「やめろぉ!ヘイズぅ!」床に転がったワイトが叫んでいた。

「ヘイズ!」鋭い叫び声を上げたルークも、手製クロスボウを構えている。

 細い木の矢を発射するだけの安っぽい代物をヘイズの背に狙い定める。

「今すぐやめろ」ルークの低く抑えた声に、ベッドでニニを押さえつけていたヘイズが反応した。

「お前、誰にものを言ってる?」

「撃つぜ……俺は本気だ」ルークが引き金に指を掛けた。

「殺すぞ、ルーク?」ヘイズが獰猛に笑う。

「ああ、死ぬかもしれないな」頷いたルークは、ワイトに声を懸けた。

「ワイト。時間を稼いでやるからニニと逃げろ」

 ヘイズに狙い定めながら、ゆっくりと呼吸を整える。

「それで保安官事務所でもどこでも逃げ込んで庇護を受けろ」

 

 ヘイズが嘲笑を浮かべた。いや、いやと抵抗するニニを掴むと、一瞬で起き上がり、ルークへの盾にする。

「勘違いしてるぜ、ルーク。俺は犯罪なんかおかしちゃいねぇ」泣いているニニの首から頬をゆっくりと舐める。

「こいつは、俺の持ち物なんだ」

 ルークはゆっくりと首を振った。

「……勘違いはお前だぜ、ヘイズ。此処じゃ、親父さんの権力は通用しないと言ったはずだ……例え、ニニがお前さんのところの小作人だとしてもな」

 

「奴隷制は禁止されていて、人身売買は認められていない、だったか?ポレシャのパンフレットを見てひどく感激していたなぁ、ワイトちゃんよ」くっくとヘイズが笑った。

「ポレシャはいい土地だが、な。隅から隅まで全部、読んどけよ。114ページ、外国人の所有する奴隷に関しての項目だ。市民および登録した住人の売買は、これを認めないが元々、外国人が持ってた奴隷の所持はそのままに認められる」ヘイズは淡々と言いながら、机の上の法律書を顎でしゃくった。

「そんでこいつがバホラにおけるニニの奴隷証明書さ。書面も、さっき役所に提出してきた」

 ニニの胸もとに刻まれた番号とバーコードを見せながら、ヘイズは酷く楽しそうにひっひっと笑った。

「つまり、こいつはポレシャでも俺の財産ってことだ」

 笑いながらニニを肉の盾にして、隙間からヘイズは囁いた。

「どうした?それでも撃つか?ルーク」

 

 自由民が助けを求めるのと、逃亡奴隷が駆け込むのでは、保安官事務所からの扱いも異なってくる。ワイトとニニにとっての救いの道が閉ざされたことを悟り、ルークはため息とともにクロスボウを下ろした。

 瞬間、ヘイズが一気に間合いを詰めてルークの腹に拳を叩き込んだ。反吐をまき散らしながら、床へと倒れるルーク。脂汗を噴き出しながら、ヘイズを睨みつけて吐き捨てた。

「あんたはとびっきりの糞野郎だな。ヘイズ」

「そうかい、俺はお前が好きだぜ。ガッツがある」笑いかけたヘイズは、もう一人の床に転がっている青年の頭を踏んで、くく、と笑った。

「で。どうするワイト君。もう一回、俺に立ち向かってみるかい?」

 怒りの唸りを上げて起き上がろうとするワイト。

「いいぜぇ、昂ってきた。お前の前でニニを味わってやる。よく目の玉かっぽじって見てろよ?すぐに俺を大好きになるからよぉ。ナルみたいになぁ」ヘイズが楽しげに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月の下旬

 

 6209クレジット

 

 

 

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