黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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第3章 Z_276年+ 赤泥
03_80 成功の作法 下町編


 マギーは、ポレシャ市の町外れに住んでいる行商人だ。

 相棒である少女ニナと一緒に路地裏の段ボール天幕に暮らしている。

 細い木材を釘や縄で骨組みを作り、毛布や新聞、段ボールにニスを塗り、ビニールを張って防水にした小さな家だ。

 

 敷地には、西側に胸の高さ境界柵も作ってある。根を焼いた木の杭を地面に打ち込み、植物の蔦や若木の枝を刺し違いに交差させ、泥や粘土で固めた土壁は、就寝中に野犬やら巨大蟻が徘徊していても阻んでくれるし、仮に屍者が忍び寄っていても数秒は押し留めてくれる。戦うにも、逃げるにも、貴重な時間を稼いでくれるだろう。

 変異獣が来たら?――――備えが整う前に来ないように祈るしかない。

 確率的には、そう分が悪い賭けでもない筈だ。

 

 見すぼらしく見えて、曠野には僅かな資材すら中々に貴重であり、春から秋には、泥の小屋やら段ボールに新聞の天幕、廃屋に布で仕切った部屋に暮らしている渡り人(オーキー)や自由労働者たちの姿が少なからず見かけられた。

 敷地内の所々に土嚢も詰まれて、クロスボウのボルトが突き刺さっており、それなりの備えがされているのも見て取れる。最近は、徒弟のトリスに猫耳のココも一緒に暮らし始めた。四人で寝るには天幕もやや手狭で、増築しようとマギーも考えている。兎も角、町外れ地区の住人にとっては、それほどに悪い家でもなかった。

 

 

 毎日の食事も、お決まりのパンと粥、鶏肉、蕪とキャベツ、人参に芋のシチューやスープだが、飢えることもない。中町地区や自由都市で洗濯を頼み、時々は風呂を楽しみ、行商人としての販路や仕入れ先も、それなりに広がっている。

 

 マギーは、都市通貨で三百もする大型ソファを購入すると、余分の配送料を払ってポレシャ市まで宅配してもらい、其の儘、敷地に設置した。今も寝転びながら本を読んでいる。ジーナ・Eが顔を出して、チョコレートが出され、リリーがお茶を入れていた。派手な成功や取引はないが、盗賊団に遭遇することもなく、276年の春の日々は穏やかに過ぎていた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 嫉妬は人間を破壊する。

 だから、マギーは派手な金の使い方を用心深く避けている。服には金を掛けるが、見合った服を相場より安く渡り人(オーキー)や自由労働者にも売っている。

 行商人でなければ、呉服商――それも下層地区では稼いでいるが、比較的に良心的な商人と見做されるよう動いていた。

 しかし、けして金に鷹揚なところは見せず、十や二十の掛け金に熱心に足を運ぶのも、小さな商いを大事にしていると周囲に喧伝する為だ。

 

 赤の他人におのれがいくら稼いだなどとは、六年で一度も吹聴していない。一着で数千単位の軍用コートも扱うが、これは己や仲間の命を守る為、防弾、防刃繊維を織り込んだ戦闘服が揃いで必要だからだ。

 

 勿論、ケチに過ぎれば、生活も窮屈となる。評判を定期的に把握しながら、許される範疇にささやかな贅沢を拡大しているが、一気に家を建てれば、善良な隣人たちの注目を浴びるだろう。だから、最初に粗末な新聞の天幕を建て、それを段ボールへと作り替え、ニスを塗り、毛布を張り、今は木材と釘、布を縄を備蓄していた。のこぎりに金槌、釘抜きに鉋なども買い揃えて、市民街区の雑貨屋に預けるか、鍵の掛かる櫃に仕舞い込んである。

 

 最初から、木材と布の家を作るよりは、段ボールの家の一部を木材と布に作り替え、増築する方が目立たない。勿論、現在のマギーの風評はもはや悪くない。

 良い方向に評判が積み上がっているので、家の一軒なら見逃される可能性もあるが、不確定の事態に備えて、評判を温存していた。

 

 120lb(ポンド)のクロスボウに加えて、エア・ライフルやネイルガンも購入した。屍者や変異獣に侵入されても、ある程度、対抗できるだけの装備も、一度に買えば、良くも悪くも評判となったに違いない。

 何年も前から少しずつクロスボウを増やしつつ、下町の渡り人(オーキー)や自由労働者、農民たちにも売却しておけば、何時の間にやら、武器を扱う商売も当たり前の光景となり、品不足に際には文句も付けられるが、足りないほどが丁度いいと考えている。

 

 数を揃え、大鼠や野犬から数匹の変異獣や屍者まで討伐してみせれば、人間相手にも相当の脅威であると見做されるのが当然だろう。

 ゆえに狩った大鼠や野犬の肉を其の儘、定期的に隣人たちに振舞っている。

 焼いた肉と薄焼きのパンに根菜類のスープも提供すれば、近隣の人々もすっかりと気を許して、多少の武威を示しそうとも、もはや警戒する者もおらず、何時の間にやら心強いと歓迎する向きに風向きが変わっていた。

 

 これも新参者が行えば、警戒を呼んだはずであったから、最初は小動物の罠から初め、月に2~3台の60lb(ポンド)クロスボウの販売からと拡大すれば、人とはいつの間にやら慣れる生き物だった。

 

 そうして下町のちょっとした顔のマギー姐さんが、数年のうちに火縄銃を扱おうが、何時の間にやら家を建てたとしても、誰も違和感は覚えず、不安も覚えないだろう。ニナやジーナ・Eとも、討議を重ね、慎重に確認してから、次の段階に進んでいる。万事は順調。仏教徒ではないが、無事是貴人、平穏無事と言う教えは、いい言葉だと思いながら、マギーちゃんは大きく欠伸をしたのだった。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 嫉妬の襲撃を受けたのは、慎重に偽装・隠蔽していたマギーちゃんではなく、下層地区に勢力を築きつつあった渡り人(オーキー)の徒党であった。

「馬鹿ぁああ!うんこぉおおおお!」下町――いや、ポレシャ市でも有数の浴場の壁に泥濘が投げられていた。

 街路に立って大笑いしているのはいい年齢をした青年。まだ二十歳にはなってない。だが、十代後半で普通に働いているか、早いものでは父親になっている年齢の青年だ。

 立ち止まってざわつく人ごみの中「……マジかよ。あいつ、あの年齢《とし》でそんなことしてんのかよ」ニナが思わず少年っぽい言い方となって茫然と呟いていた。

 

 他に真面な娯楽もあれば、同時に集団行動や生存術を学べる遊びも幾らかはあるもので町は勿論、農村の子らも、早くに他の遊びに移行するし、娯楽が少ない廃市街で暮らしていても、十歳頃には泥遊びを卒業するのが普通だった。

 特に好むうちには、石膏や漆喰の職工へと進むものもいるが、大笑いを続ける青年には、単に楽しげにはしゃいで泥濘を投げてるように見える。

 

 とは言え、ニナも馬鹿にした様子ではなく、ただ痛々しいものを見る眼差しで青年を眺めていた。過去には、ずっと孤立していた少年だった。

 今となれば、もう少しやりようもあったとは思うが、当時のニナは少女であって、不快な言動や行動ばかりする相手をはぶくのに躊躇はなかったし、助けたり面倒を見るのであれば、トリスやココ、近所の子ら相手でよかったと後悔はしていない。

 

 向こうもニナとは関わらなくなっていた。

 そもそもマギーの徒党に喧嘩を売る者が滅多にいない。屍者や変異獣を狩るというのは、一線を越えている。それは庶民の徒党ではなく、武装集団の域に入っている。

 訓練されて武装している集団の一員。手を出していい相手ではない。だから、昔の不仲だった喧嘩相手たちも、今のニナには手出しをしない。そもそも喧嘩相手だって、殆んどがまともに働くか、勉学に身を打ち込んでいて、偶に顔を合わせても、互いにはにかんで照れ笑いを浮かべ、それで和解している。

 

 曠野や廃市街に生活を移した者らとて、互いに暴力の恐ろしさを知り抜いた後だから値踏みの視線を投げかけつつ、軽い挨拶を交わし、互いに通過儀礼《イニシエーション》を経て大人になっていた。浮浪傭兵や無宿人とて、利害も無しに敵対はしないし、なにより子供時代の懐かしい思い出を敢えて汚そうという気持ちには中々、なれないものだ。

 

 ニナも、他の大人も、今だって遊ぶし、顔を合わせる。

 生涯を仕事の時間だけで埋められるよりは、共同体は近代の生産力を維持していて、中世水準の生活に満足できるなら余暇は多くなる。

 だから、ポレシャの人々の時間割には、大人になっても遊びが常に一定を占めていた。それを推奨されてもいる。だけど、それはもう半分、大人になった者たちの遊びで、心から笑い転げる事、共感することは自然、少なくなるし、意地になったり、夢中な熱を帯びる瞬間は、そうは訪れない。心の疲れを癒すための余暇であり、遊技であった。ニナに限らず、皆成長し、社会に推奨されてるのだと、言語化できる程度には自覚もしている。だが、一人、置いて行かれていた。

 

 

 自警団が駆け付け、頭を小突かれ、不貞腐れたように座り込んでいる。今は十七歳か。ぎりぎりを子供として扱われる年齢だ。豊かで安定した土地が故の悩みだろうか。居留地から貰える仕事と日当だけを頼りに、まだ普段はフラフラしてる少年少女らも、正規居住者や登録労働者の子弟に珍しくない。

 

 青年――馬鹿な小僧が其の儘、馬鹿な青年になって、なにかを叫びながら、手錠を掛けられて、詰め所に連行されていった。

 下町の姫様を自称する若い娘が、ライフルを背負った精悍な青年をお供に表に出てきた。手にしてるのはモップとバケツ。

 ちょっと嫌そうな顔をして躊躇しつつ、おのれを鼓舞するように「ええい!指揮官先頭!」とおどけたように叫んで、汚れた壁に水を掛けると、ごしごしと洗い出す。

 

 姫様を見守るように背後から目を光らせ――「手伝いさないよ!」言われて、しぶしぶとモップを手に取るライフルの精悍な青年を見つめ、ニナは微かに首を傾げた。

 ニナは姫様を大事な友人だと思ってるし、絶対にそんなことは起こりえないのだけど、姫様の徒党と抗争になった場合、徒党の面々の大半はどうにでもなる。

 彼ら彼女らは、基本的に働き者の渡り人(オーキー)で、力持ちもいれば、敏捷な者もいるけれど、相手をどう殺すか、突き詰めて考えたりもしなければ、定期的な戦闘訓練を行って戦闘力を維持したりもしない。だけど、あの青年だけは読めなかった。もしかしたら、ニナより強いかも知れない。さすがにマギーより上ではあるまいが。どうにも読みきれない。

 

 青年もニナを見た。互いに身のこなしや目つきを値踏みしている。

 青年の目頭には、皺がよっている。強い緊張に幾度も耐えてきた巌のような表情、氷のように冷たい瞳。ニナは思わず、微笑んだ。姫様がニナの視線に気づいた。

 青年に抱き着きながらニナを見て「上げないのだわ!」

「誤解するな、そんなんではない」青年が言った。

 ニナはフッと笑った。「姫様を守ってよ。本当に、今となったら下層地区で一番のお金持ちの娘で本当のお姫様なんだから」これでも、心配しているのだ。

 美人で愛らしく育ち、清潔で大事にされている。だから、穢したいと思う者はいるはずだった。不愛想なライフルの青年は「言われるまでもない」とぶっきらぼうに告げた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 浴場に汚物を掛けた青年は、自警団事務所に半日の留置の後、説教を喰らい、保護者――青年の父親である親父に引き取りの上で釈放された。稼ぎの良くない親父にとって罰金はかなりの痛手だったが、払う以外に道はなさそうだ。

 

 ポレシャ市の刑法においては、未成年が仕出かした軽犯罪の責は親が取らなければならなかったし、また被害者の浴場経営者が昔からの顔見知りで寛大な処置を望んでくれた為、刑罰こそ下されなかったが、謝罪は要求された。謝罪には賠償金の減免も条件として含まれていたから、今度こそ機嫌を損ねてしまう。

 今や、下層地区でも有数の顔役に成り上がりつつある渡り人(オーキー)の頭目―――ほんの五、六年前には悪し様に罵っていた相手――に媚びの笑みを向けながら、親父は自警団の面々が立ち会う中、謝罪をする羽目に陥っていた。

 

 

 何もない伽藍洞だった廃墟の応接室は、随分と修繕とされていた。

 座り心地の良さそうなソファに座った浮浪徒党の頭目『陛下』に対して、帽子を胸に当て、諂いの笑みを向けた。

 

「この度は愚息がご迷惑をおかけして、へへ」

 

 言いながら、室内を見回した。浴場に入ったのは初めてだったが、漆喰に煉瓦で修繕した跡がそこここにあった。拠点として少しずつ修繕しているとは聞いていたが、買い取って修繕していれば、俺が其処にふんぞり返っていたかもしれないぜ、と空想を弄ぶことで湧いて来る怒りを必死に抑える。

 

 応接室で座っている渡り人(オーキー)どもの頭目は、座るように勧めすらしなかった。

「もう二度とやらせねぇよう、しっかりと躾けて参りますんで……」と頭を下げて見せるも、それで済まさず――

 

「あまり暴力に頼らず、一度、息子さんと話されたらいかがかな?」

 

 嫌味にカッと頭に血が昇った。

 金持ちかも知れねえが、家の事には口出しさせねえ。と

「家のことに口を挟まれる謂れはねえ筈ですが」はっきり言ってやる。

 

 啖呵を切った親父に対し、何も言えなくなった『陛下』。

 と、扉からノックがした。

 二回を二回。連続して室内に知らせてくる。

 

「入りなさい」『陛下』が声を掛けて

「失礼します」娘が入ってきて口を開いた。「壁の清掃が終わりました」

 

「ありがとうございます。率先して仕事をしてくれるあなたを誇りに思います」

 

 いちいち、娘に頭を下げる『陛下』。何が『陛下』だっておかしくなる。

 

「他の人も、評価してくれるといいのですが」と『陛下』は呟いて、「分かっています」

 

 娘も娘。当たり前のことをいちいち、口に出して確認してる。

 鈍くさいったらありゃしねえ、と親父は思わず、鼻で笑ってしまった。

 娘の傍らでぬぼっと突っ立ている小僧まで頭を下げた。

 

「娘を守ってくれて、ありがとう」

 

 よく頭目がつとまらぁ。と親父は思う。

 

「それが仕事だ」

 

 小僧にまで舐められてやがる。

 

「お湯を沸かしてあります」

 

 隣の青年に向かって丁寧に言うと、小娘と小僧の二人は頷いて、室内から下がっていった。

 

「随分と、他人行儀な親子ですね」へへっと。馬鹿にしたような言葉が出た。

 

「私はそうは思いません。娘を誇りに思っています」

 

「へぇ」うまく使うもんだいと思いつつ。

「家族っちうんは、もっと温かいもんだとおもいますがね」胸に帽子を当てて呟いた親父は事務所を辞した。

 額を抑えて黙り込んだ『陛下』の憮然とした表情は中々の見ものだった。

 鼻を明かして、言ってやったと上機嫌の親父は、意気揚々と応接室を後にすると、廊下を歩きながら、ちょろいもんだと鼻歌を歌った。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

「もう二度とやらせねぇよう、しっかりと躾けて参りますんで……」拳を握った父親が得意げに歯を剥いた。また、人前で、殴りつけ、笑いものにするのだろうか。

「あまり暴力に頼らず、一度、息子さんと話されたらいかがかな?」と『陛下』が勧めてみるも、瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にする親父。

「家のことに口を挟まれる謂れはねえ筈ですが」荒々しい言い方には、謝罪に来たことも忘れてるようだ。

 正直、他の子供への教育に悪影響を与えるので、見えないところでやって欲しいとすら思う。冷たいが、言っても変わらない人間はいる。

 

 息子たちが哀れだな。『陛下』が考えていると、扉からノックが響いてきた。

 二回を二回。仕事のみの簡潔な報告と、事前に知らせてくる。

 

「入りなさい」『陛下』が声を掛ければ

 「失礼します」娘が入ってきて「壁の清掃が終わりました」報告してくる。

 

 

「ありがとうございます。率先して仕事をしてくれるあなたを誇りに思います」

 感謝を言語化し、明示する。愛する家族と好きに話せる時間を常に保ち、ひとつひとつ、愛情と感謝を伝えるのが許容される状況は幸福な日々だった。

「他の人も、評価してくれるといいのですが」

 仕事をしても必ずしも評価されるとも限らない、とは『陛下』も伝えておく。

 それでも部下たちや他の人がどう見るかは、士気や風評に関して実際に仕事をするのと同じ程度に影響が大きい。

「分かっています」

 娘は覚悟してると応えた。それで充分だった。

 

『陛下』は満足げに微笑んで

「娘を守ってくれて、ありがとう」

 一番大事な仕事を任せた青年に礼を述べた。

 

「それが仕事だ」

 ぶっきら棒な青年に苦笑を浮かべ

 「お湯を沸かしてあります」と休憩を勧めた。

 

「随分と、他人行儀な親子ですね」などと親父が言ってくるので

「私はそうは思いません。娘を誇りに思っています」端的に告げた。

 家族であっても公的な態度を崩さないのは、信頼と愛情が土台にあって始めて成立し、機能するが、そこに至るまでの試行錯誤も蓄積があるとは想像さえ出来まい。

 

「へぇ、家族っちうんは、もっと温かいもんだとおもいますがね」と親父。

 そういう考え方もあるかも知れないが、言ってる人間が人間だけに聞く気にも成れなかった。

 

 何故か、意気揚々と退室していった親父の背中を見送ってから、「あれは駄目かな」『陛下』はため息を漏らした。

 

 登録労働者から一応の選別をするポレシャ市には、あまり多くは目立たないが、外の世界には、けっして珍しくもない人物だ。

 最初は、真面目に見えたのか。偶々に滑り込んだのか。或いは、後から堕落したのか。些細な口出しにも攻撃されたと誤解して簡単に激昂し、反射的に噛みついて来る。

 ――常に自尊心が脅かされてきた人間の反応。ポレシャへたどり着くずっと前にいた土地で、よく見かけた類型だった。

 

 話しているだけで疲労するが、ポストアポカリプスの下町だからこそ、階層差があっても物理的距離が近い。様々な人物と生活圏が重なっており、度々、顔を合わせざるを得ない。

 だが、だからこそ、流浪集団の頭目に過ぎない『陛下』も、市民や富裕層から様々な思考や生活習慣を見て、学ぶことが許されてきた環境でもあった。

 

 休息は許されても、弛緩してはならない。

 見下してはならない。それは思考とノイズとなり、魂を腐敗させる。

 そんな暇があるなら、仲間たちに気を配り、前を向いて歩き続けるべきだ。

 他の渡り人(オーキー)や自由労働者にだって、利け者もいれば、野心家もいる。愛想よく振舞いながら、どん欲に学び、好機を掴もうとしている。

 隣近所の隣人に過ぎないマギーさえ、武力と富を蓄えている。

 最初の印象通りに、只者ではなかった。

 市民や正規居住者も、此方が大きくなるほどに、態度や対応が変わってきている。 

 こちらを認めての対等の付き合いは、逆に言えば、敵に回った時の容赦のなさでもある。

 善良な人々が多い平和なポレシャ市であってさえ、なお、油断はしてはならない。 

 暴力や法を使っての財産の没収がないとしても、誰もが日々、努力を積み重ねて、競争を繰り広げているのだから。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――

 

 3月上旬_14545都市通貨

 

 

 すまん。SIDE使った。

 わいも好きじゃないが。

 

 

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