黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_88B 群狼

 偽札偽造犯ドルマンは縛り首となったようだ。新聞記事に拠れば、即時執行され、所持していた偽札の原板は、参議たちの目の前ですぐに炉で溶かされている。

 

 薄暗い部屋の中央でラージンはせせら笑い、新聞を置いた。テーブルの上のコニャックをグラスに注ぎ、軽く呷ってから嘲笑を漏らす。

(ポレシャの保安官も存外、間抜けだな)

 原板を確保した犯罪者が、それの複製を造らないと、どうして思い込めるのだろうか?

 ドルマンは死んだが、原板はこの手に戻った。本来、『闇の帝王』と取引して、原板を得たのはラージンだ。目ざとい頭目のドルマンとその手先に嗅ぎ付けられ、いやいやながら差し出すことになったが、ポレシャ市警襲撃による間隙をついて、複製と取り換えることができた。後は、地下からの脱出路を使って誰にも知らないうちに離脱するだけで済んだ。

 

 偽札を作っては、派手にばら撒いた阿呆どもには散々、足を引っ張られたが、ようやく相応しい本来の持ち主の手に戻ったわけだ。

 これさえあれば、俺こそが廃市街を支配できる。それだけではない。

 富と権力を蓄えれば、いずれ『闇の帝王』その人とさえ成り代われるかもしれない。

 

 ラージンは、上機嫌で鼻歌など奏でていた。が、不機嫌そうに眉をしかめた。

 壁の向こう側、随分と遠来だが、男の野太い声の歌声が混ざってきたからだ。

 ……ヨーホー、ヨーホー。と、どこからか下手糞なフレーズを繰り返しながら、耳障りに入ってくる。

 舌打ちして椅子から立ち上がった。廃屋ではあるが、防備は整ったねぐらだ。

 出入り口にはワイヤーと連動したクロスボウ罠も仕掛けてあるし、なにより、近くには巨大蟻やら変異獣が彷徨っている。廃市街の一角に踏み込む馬鹿な酔っ払いがいると思えないが、不快感に歩き回って、段々と近づいて来るのに気づいた。まあ、ありえない訳ではない。

 

 ラージンの隠し部屋は、人が住む地域と廃墟領域の深みの境界へと位置している。時々は通り過ぎていく旅商人やら廃墟漁り(スカベンジャー)も少なくない。

 

 それでも念の為、懐に9ミリの自動拳銃を挟み、雨戸の傍で息を潜めた。下手な歌声が遠ざかっていった。

「下手糞め、聞くに耐えないぜ」吐き捨てた時、轟音と共に雨戸が破られた。

 ラージンが驚愕しながらも拳銃に手を伸ばし、引き抜くと同時に床に筒状のなにかが投げ込まれ――爆発して、室内の反対側まで吹っ飛ばされた。

 

 破れた雨戸を乗り越えて「よいしょっと」男が乗り込んでくる。

「おぅい、生きてるか」心配そうな声を出して歩み寄ってくる男に、倒れた姿勢のまま、ラージンは銃弾を叩き込んだ。

 

 顔を庇うように腕を交差させた男が、後退って壁に当たり、ずるずると崩れ落ちた。

「あーあ。生きてるとも」立ち上がりながら、吐き捨てたらラージンは、撃ち尽くした拳銃を眺める。

「爆発物、てめぇ……正気か。廃墟で。耳がジンジンするぜ」

「おう、上等上等。生きてるな」男が、巨漢が何事もなさそうに立ち上がって、ラージンは目を剥いた。

 コートの生地の下には、鈍い金属の光。分厚い鉄板を仕込んで、平然とした様子で歩み寄ってきながら、拳を握りしめる。

 

 馬鹿でかい拳が――叩き込まれて、鼻の骨が砕け散った。

 ラージンは激痛に息も出来ず、涙を零し、真っ青な顔色で口だけを動かす。

 拳銃を握った腕が捕まれる。万力のような力だ。

 ぽきん、と。小枝みたいに骨が折れた。

 ラージンは仰け反って絶叫し、相手の正体を悟って泣き出した。

 

 小便を洩らしながら、背中を見せて這いずって逃げようとする。

「ジョージ。じー。あ……なんで、引退したって」

 ジョージアと呼ばれた賞金稼ぎの巨漢。『骨喰《ほねは》み』は、拳銃を部屋の反対に蹴り飛ばした。

「おい、逃げるなって」親しげな笑身を浮かべながら追いついて来ると、残った左腕も掴み、「やめ、やめて。頼んでないからぁ」懇願を口走っている涙目のラージンだが、軽い破裂音と共に再び絶叫した。

 

 屈みこんだジョージアが「で、原板はどこだ?」笑顔のまま尋ねてきた。

「げ、原板?」空っとぼけたラージンの頬が張られた。

「おいおい、とぼけなさんなよ。爺さんがびっくらしてたぜ。

 念の為に刷ったら、似ても似つかぬ粗悪品だってよ」

 鼻血を出してるラージンの胸倉を掴み、ジョージアが歯を剥きだした。

「連中締め上げたら、ラージン君。

 オメエがいねぇってんで、アジト突き止めるのに半日かかった」

 

「ドルマンもてめぇの裏切りが腹に据えかねたらしく、聞かないでも、色々と謳ってくれたけどよ」ジョージアの言葉に、ラージンは弱弱しく呻いた。

「なんれぇ、原板すぐに溶かしたって。ドルマン処刑したって」ラージンの嘆きにジョージアが首を傾げた。

「え?あんな新聞記事信じたの?かく乱の偽記事に決まってるじゃない。

 どうせ効果ないだろうけど、って言いながら、出したけど。

 そっか。それでさっそく偽札作ったんだ。意外と効果あるもんだな」内面の意志か矜持に致命的な一打を喰らったかのように、ラージンの表情が崩れた。

 

 所詮、ラージンは小粒の犯罪者に過ぎなかった。沈黙の守り方も知らなければ、尋問や拷問への対訓練を受けてる訳でもない。ジョージアの凄みの前に、あっさりと口を滑らせ、程なく洗いざらいを吐かされた。

「ドルマンの方が賢かったし、骨があったなぁ」すっかり廃人のようになったラージンを縛りあげると、ジョージアは煙草を口に咥えて笑った。

「まあ、これで千二百か。楽な仕事だよ。まったく」

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 薄暗い路地の奥、影の色濃い場所で、小刻みに震え続けているマシューをリリーは黙ってじっと見つめていた。

「ま、町中で手配されてて……で、でも、やってない……」怯えたような眼がぎょろぎょろと周囲を見回している。喉を潰すような切迫した幼馴染の声音に、しかし、リリーは躊躇なく路地の奥に足を踏み入れた。

 震えるマシューの傍らに屈んで「大丈夫、大丈夫やから」肩を抱きよせる。

 

「……分かっとる、うちは分かっとるよ。マシューはそんな事する子じゃないって」

 マシューの強張っていた表情がゆっくりと崩れて、やがて静かな嗚咽が響いた。

 安堵しつつも、なお怯えて声を殺し、びくびく口を抑えながらすすり泣いている。

 

 やがて、鼻を啜ると、ふっ、とマシューが身じろぎした気配があった。

「あ、相変わらず信じやすくて心配だ」とリリーに声を掛ける。

「やっておらんのやろ。なら、大丈夫。うちは味方やから」リリーがはっきりと繰り返した。

 永いようで短い沈黙の最中、外で足音がした。

 マシューが息を呑んで、肩を震わせたが、其の儘遠ざかっていった。

「……うん、本当にやってない。だけど、どうすればいいのか」囁くような声に

 

「お姉ちゃんに任しとき。なんとかするから」呟いたリリーだが、外の市場では、今も街路を賞金稼ぎたちが動き回っていた。ほんの数人、ただし、誰も彼もが戦闘に長けた――暴力に慣れたどころではない――恐るべき手練揃い。

 到底、素人が太刀打ちできる相手ではなく、出し抜くにはよくよくの考えが必要だった。

 

 短時間で知恵熱が出るほど考え込んだリリーは、取りあえずマシューをその場に隠して、家へと戻った。敢えて、のんびりした歩調で戻ると、ニナのコートを無断で。嫌がるトリスからは、予備のスノーゴーグルを地に頭が付くほどに頼み込んで借りて鍋に入れた。それからマシューの隠れていた小路に戻ると、急いでコートを羽織らせ、冬用の毛糸帽子にスノーゴーグルを掛けさせる。大きなスープ鍋には買い込んだ野菜を入れて二人で定期市へと踏み出した。

 

 賞金稼ぎたちは鋭い目の持ち主だが、買い物で二、三度往来したり、誰かと合流しても、不審には思わない筈。マシューと二人でゆっくりと歩かせる。

「やあ、リリー。このベリーどうだい?」顔見知りの農民が売り込んでくる。

「トリス、この間の小説……トリスじゃないな?」下町の少年がマシューに話しかけようとして、戸惑ったように口籠った。

 

「後でな、後でなー。うち、今、急いでるんや。

 トリスに用があるんなら、後で来させるから」

 穏やかな喧噪の市場、人を避けながら進んでいる。コートの下は粗末な襤褸着で草履。拙いだろうか?

 曲がり角を左折する際、賞金稼ぎらしい二人組が少年に話を聞いていた。

 少年が指さし、鋭い目を向けてくる賞金稼ぎ。

 あんな離れた他人のやりとりで、違和感に気づくか?普通?

(ちょっ、待っ……どんだけ鋭いんや)流石にリリーも焦りを覚えた。

 犯罪者相手には心強いけど、追われる身となったら怖くてたまらない。

 

 ささやきを交わし合い、頷きながら、二人組は明確にリリーたちに向かって速足で歩き始めた。

(……あかん)

 分かっていたことだ。田舎町の年寄夜警を出し抜くのとは、訳が違う。

 賞金稼ぎ、特に免許持ちは尋常ではない。

 猟犬のような嗅覚で盗賊団や無法者、略奪者にも恐れられている。

 

 西部のガンマンのような二人組が迫ってくる。

 路上に座っていた浮浪傭兵めいた三人組が同業者の動きを見、軽く見まわしてリリーたちに目を付けたか。これも同様に立ち上がって、リリーたちの背を追ってくる。

 まるで高度に統制された群狼に追われているかのような焦燥。

 

 長く大きな本通りに向かって曲がる途中、ガンマンの片割れが白い何かを口に加えていた。ピュイーイ。笛の音が響いて――

 本通りの向こう側で聞き込みをしていた部族戦士たちがこちらを見た。迷いのない足取り。見た目は部族だが、逸る様相もなく網を広げるように道に広がって、リリーたちと接触しようとする。

(……挟まれた)喉を鳴らし、少しだけ早足になって進んで、「次を左に」マシューに囁いた。

 

 左の細い路地へと入り込んだ、背後から追ってくる。ひと気のない場所は好都合なのか、少しずつ早足になってくる。周囲の物陰や屋上を警戒する者もいれば、先頭に立つ足の速そうなもの。最後尾でマスケット銃を取り出す者らと、声を出さずに役割分担までしていた。

(……軍隊やん!)

「姉ちゃ……」不安そうに囁いたマシューの腕を引っ張りながら、リリーは早足で歩き続け、前方で口笛が鳴らされた。

 

 前方の路上に積み上げられた土嚢の小さな銃眼から、遮蔽を取った燧石銃《フリントロック》の銃口が突き出ていた。数は三つ。「……誰だ!」とニナの鋭い誰何がとんだ。

 

 

 背の高い、林立する大型廃墟の影の下で、賞金稼ぎたちが足を止めた。

 一瞬ほどの遅滞もなく、素早い動きで遮蔽を取る。

 反射行動的に廃屋の物陰に隠れ、或いは後方に下がって射線を確保する。

「マスケット三。子供だ。白兵で潰せる」此方から視線を外さずに言葉を発した。

「スネイクバイト、マギーの巣だ。ポレシャで武器を売ってると聞いた」

「……マギーか、どうする?」

「引き返そう」結論までは早かった。

 

 まずは最後尾の浮浪傭兵たちがマスケットを構えながら、少しだけ後退し、その後に射線を遮らないよう、最前列のガンマンたちが小走りにその背後に回った。それから中衛の部族戦士たちがさらに背後へと駆け戻って、じりじりと距離を取りながら一定離れると、踵を返して立ち去っていった。

 賞金稼ぎたちが見えなくなると、(……意外とあっさり退いていった)安堵のため息を漏らしたリリーが礼を言おうと振り返れば、ニナが蒼白の表情で震えていた。

 

 土嚢の後ろに蹲りながら「あれ……全員、足音も気配も薄い……全員。賞金稼ぎ?なんで?」

 歯の根があわない程に震えていたが、深呼吸を二、三度繰り返し、冷静さを取り戻すと、まず少しだけ高い土嚢へと昇って、相手が完全に立ち去ったかを慎重に確認。

 

 リリーたちを、自宅へと用心深そうに招き入れた。

 分厚い木の壁でも、ライフル弾や、或いは高所の廃墟から狙われたら詰むだろうが。マスケットやクロスボウ、拳銃弾程度なら、防げるかもしれない。

「皆を危険に晒しました……なにをしたの?リリー。それは誰?」リリーをキッと睨みつけて、ニナは詰問してきた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 黄昏の世に賞金を懸けられる者たちと言えば、まず盗賊団《バンディッツ》に始まり、無法者《アウトロー》。略奪者《レイダー》や人狩り(マンハンター)。一部の無宿人《ノークォーター》、あるいは違法な奴隷商人。

 誰も彼もが尋常ならざる相手であって、追う側も追われる側も一筋縄ではいかない。

 

 一般に賞金稼ぎは、油断できない手練揃いだ。

 賞金は数百から数千通貨と、庶民が数か月から一年も働いた金額だが勿論、危険にはまったく割に合わない。

 怪我に恐怖、不具、死、因縁と報復――三倍でも見合わない程だ。

 名の売れた腕利きほどに、相手は狡猾な凄腕賞金首ばかりが増える。

 二束三文のはした金に悪党を追いかけ、場末の土地で殺し合い、誰に顧みられるともなく立ち去っては、次の獲物を狙う。浮浪傭兵の方がまだ割がいい。

 

 だからこそ、社会は賞金稼ぎを養う。土地の大物や、まともな類の貴族や市長などの統治者は、名の売れた賞金稼ぎたちをもてなし、或いは客人として一冬を世話し、或いは、普段から滞在させている。凶悪無残な悪党どもが賞金稼ぎたちを恐れるからだ。

 

 かつてのマルグリット・モイラは、一流と呼ばれていた。個人的な戦闘力に加え、数十人単位の指揮を執り、地形を視るのに卓越して、数多の賞金首を捕縛してきた。現役後半は、やや傭兵活動に堕したとも評されているが、国の依頼で名うての密輸業者の一団を殆んど生かして捕縛した逸話は、今も語り草になっている。

 賞金稼ぎには二種類。状況によって相手を生かしたまま捕まえるものと、悪党は出来るだけ始末しようとする者。マギーは前者だった。

 後者は、独立系の賞金稼ぎたち。特定の組合と繋がっていない、犯罪者にとっては勿論、同じ賞金稼ぎにとっても、もっとも厄介な類の同業者たち。

 

 

 引退したマギーは戦闘力が衰えているし、部下もいない。廃墟や丘陵の得意地形でもなければ、夜の闇でもなく、此方だけが地形を知っている訳でもない状況で、一人で複数名の賞金稼ぎには勝てない。

 賞金稼ぎとて人間だから、不意打ちで銃弾を浴びせれば殺せるが、それはマギーやニナに対しても同じことだ。社会のルールを無視するくらいでなければ、素人は賞金稼ぎに太刀打ちできない。

 

 マギーと部下たちが、普段から抜かりなく防弾コートを着ている理由でもある。

 一着、二千都市通貨。賞金稼ぎたちにとっては、多分、手の届く装備ではあるまい。しかし、今の猫耳ココや徒弟トリスが賞金稼ぎに太刀打ちできるとも、マギーは考えなかった。ニナでも無理だろう。場数が違う。

 マギーとジーナ・Eで、なんとか。ランツクネヒトのリジィが運が良ければ……

 しかし、そもそも、若い娘たちをあんな連中と戦わせたくない。

 

 ジーナのコートも買っておくべきだったか?――弾の補充云々などと考え過ぎず、マシンガンでも仕入れておくべきだったか?

 だけど、伝手と信用だって貯めるには時間的費用がかかる。

 互いに信用を形成するプロセスは一朝一夕には構築されない。継続的取引を行う意志の確認に、相場や市場の調査も付き纏う。

 マスケット分野に傾注したから、硝石銃《フリントロック》も四丁を揃えられたし、火縄銃《マッチロック》も十数丁と仕入れて捌けたのだから、居留地の依頼もあって、当時はあれが最良の選択だった。

 

 

 

 

 一通りの事情を聴き、質疑応答を終えたマギーは、リリーの頬を張った。

 勿論、全力ではないが、リリーが地面に崩れ落ちた。頬は赤く腫れあがっている。

「他の皆を危険に晒した。下手をすれば、死ぬところだった」マギーは淡々と告げた。

「ごめん、そこまで理解してなかった」俯いたまま、リリーがぼそぼそと言う。

「……理解してやったなら、二人とも殺したところでした」抑制された声で告げたマギーは、木箱の上に腰を下ろすと、悩ましげに額に手を当て、仲間たちを見回した。

「これから件のマシュー君含めて、みんな助かる方法を考えます。

 何かいい考えがある人……発言を求めてください」

 

 場にはジーナ・Eも、リジィもいる。二人とも浮かない顔だ。

「賞金稼ぎは恐ぇなぁ」とリジィ。変異獣相手でも無闇に突っ込みたがるランツクネヒトが怯みを口にしていた。

「幾らですっけ?」ジーナ・Eが尋ねて「800居留地通貨」メモを見ながら、マギーが言った。

「……半年は喰える」ニナが唸って「外部地区や農村なら一年」徒弟のトリスが呟いた。

 

「ご、強盗傷害なんかしてない」逃亡犯が誰でもするように、マシュー君も無実を訴えた。

「仕送りを。故郷に仕送りしたって言ってたのに、実際は……」

「親方がネコババ決めてたのかぁ。まあ、聞く話だな。自分で送らなきゃ」とリジィ。

「問い詰めたら殴られたから、殴り返して……それで給料分だけ貰って」マシュー君が言葉を絞り出し、リリーは困ったように背を撫でている。

 

「随分と大金もって逃げたことになってる」近所の壁から剥がしてきた手配書を眺めたマギーは、それを隣に座ってるジーナ・Eに回した。リジィも肩からのぞき込んでる。

 

「賞金稼ぎ組合は一応、裏採るけど有力者や伝手あると……」ジーナ・Eが顔を顰めてる。

「おいおい、いい加減な組織だな」とリジィ。

「ポレシャ圏は司法しっかりしてるから、組合小さくてどうでもいい職員しかいないんだよ」ジーナ・Eは言い訳のように言った。

「賞金多めの逃亡犯。狙いめって奴だなぁ」ランツクネヒトの呑気な言葉に、マシュー君は、途方に暮れたように呻いていた。

 

「司法しっかりしてるなら、それこそ、警察とかに駆け込めないん?」徒弟のトリスが疑問を口にした。

「マシュー君は戸籍を持ってません」マギーは切って捨てた。

「登録労働者ですらない」ジーナが補足する。

 

「ポレシャの司法は、金を払うか、義務を果たしている民衆を守る為のものです。

 だから、それが君たちを真っ先に地区名簿に登録させた理由です」マギーが言うと、徒弟トリスと猫耳ココが顔を見合わせてる。

「……労役割り振られるだけと思ってた。なんで、あー。そっか。そうなんだ」徒弟トリスが腑に落ちた顔で何度も頷いている。

「やけに勧めると思ったぜ」と小柄なリジィが少年みたいに鼻を鳴らす。

「いずれ正規居住権を与えてやりますからね」マギーは、ジーナ・Eにも視線を向けて、事も無げに請け負ってた。

「一応、商業組合に顔を連ねてる行商人の親方が、戸籍を持たない逃亡犯に賞金懸けて、申し開きの場がない」ジーナ・Eが手配書から読み取ると、「こわ」とリジィが肩を竦めている。

 

 商業組合やら賞金稼ぎ組合に口を出すことは、市当局として出来るとしても、やりたがらない事ではあった。

 マギーが見るに、ポレシャ市は、むしろ、かなり人情的ですらある。登録労働者と言うだけで守るのだから。間違いなく善政ではあるが、逆に範囲内をしっかり守る為に、外には口も手も出さない。比較優位にある一つの主権が、他の共同体に、私の民には手を出すな。私もお前たちには口を出さない、と振舞っている訳だ。

 

 だから、マシュー君がせめてポレシャの登録労働者であれば、法律を介して、市当局や弁護士なども介入できた。実際のマシュー君は市の部外者で、商業組合の親方に賞金を懸けられ、外の世界の賞金稼ぎたちに狙われている。法治国家を自認するポレシャとして介入はしないだろうし、保安官助手としてのマギーにも手出しは出来なかった。

 

「……どうしたものかな」ソファから空を眺めるマギー。考えは幾つか浮かぶが、決定打は思いつかない。

 思い悩んでるところに、「お前!マギー!なにしてやがる!」怒鳴り声が響いてきた。

 

 頬を叩かれ、顔を腫れあがらせて蹲ってるリリーとおまけのマシュー君に、相談する為だが、彼女を中心に取り囲んでいる娘たち。

 一目見て何か誤解したのだろう。ジョージアが足音も荒く、走ってきている。

「またややこしいのが来たよ」マギーは頭を抱え込んだ。

 

 

 ―――――――――

 

 登録労働者=治安、司法、労働、契約、身分保障。

 

 外部地区に寝泊まりの渡り人(オーキー)や自由労働者は戸籍がない。

 

 職工や浮浪傭兵、鉱夫団

 団体や組合を都市に登録してて、その団体の名簿に載ってる。

 

 農民は農村戸籍を持っている。

 

 

 

1D100_04 賞金稼ぎたちは、大人しく引いてくれた。

 

      完全な確信があった訳ではないからだ。

 

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