黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

296 / 301
03_88F 『判決は……』

 六月十一日の昼。事件発生から、四日目。マギーちゃんは、一番親しい参事パオロ爺さんとローランズ副保安官。何故かいるスタンフィールド氏にイザベル・ミラーも伴って、市庁舎の会議室で待っていた。壁際には、公証人も一名。

 

 正午の十分ほど前、議会衛兵に案内されて、自信なさげな女性を伴って――擬態にしろ、使い走りにしろ、海千山千の賞金稼ぎ組合に無能な職員がいる筈もない――モレッティがやってくる。

 

 モレッティ親方と連れが会議室に入ってきたので、頷いて話し合いを始める。双方の要求を書面にまとめた書類を提示し、賞金稼ぎ組合への提訴が取り下げられた場合、減免措置の凍結を解除する。ただし、判断するのは門前町の商業組合であるとされ、またモレッティ親方は、同一の案件で再び、マシュー君への提訴は行わない、と記されていた。

 

 圧力を懸けた、と書面に掛かれるのは、はっきり言ってよろしくない。醜聞である。しかし、モレッティ親方の徒弟への賞金首認定も他聞を憚るやり口ではあった。

 殺害依頼を取り下げるには、他に方法が無かったとも私見のメモが書き加えられている。マシュー君が、悪魔的頭脳の持ち主と言う可能性は低い。モレッティ親方を出し抜いて、なんとか出来るなら徒弟に甘んじてるとも思えない。

 

 

 公証人が書類を取り出し、確認してから、机の上にペンが置かれた。

「……署名次第、いささかの時間は掛かりますが、手配は取り下げられます」と眼鏡の女性が発言し、マギーちゃんは、手配が取り下げられ次第、マシュー君が無事に保護されればすぐにでも減免措置の凍結は解かれると保証した。モレッティ親方が「こっちばかり条件が多いねぇ」と不満げに口にするも、何時、手配が解けるとも明言していない以上、当然の保険だった。

 

 二人は書類を読み取ってから、サインをすると、公証人が書類を仕舞い込んだ。

 マギーとモレッティ親方は無言で立ち上がった。

 互いに握手も、笑顔もなく、一瞥して軽い会釈だけすると、其の儘、別れた。

 モレッティ親方とその連れが部屋を去ったのを見届けてから、マギーは電波探知機を取り出して、盗聴器が付いていないことを確認してから、ローランズ副保安官に頷きかけた。

 

「さて、モレッティが異常者にしろ、厳格すぎる親方にしろ、おのれの顔に泥を塗った徒弟マシューを許すとも限らない」言いながら、ローランズ副保安官が取り出した調査書には、モレッティ親方が過去の徒弟たちに酷く厳しく当たり、数人が命からがらに逃げ出したとの内容が記載されていた。

 

 他の者たちが流し読みしながら、囁き合っている間に「時間だけ稼いで此方が油断している合間に、賞金稼ぎたちが狩るのを待つつもりかもしれん」人の良さそうな表情に辛辣な見解を口にした。

「そんな異常者かね。そうは見えんかったが」パオロ爺さんが首を傾げ「いや、爺さん。徒弟に対して、賞金を懸ける時点で、既に尋常じゃないよ」スタンフィールド氏が指摘すると「失言じゃった」と意見を撤回する。

 

 室内に顔を揃えているのは、あまり他人の情緒や人間性に期待しない面々ではあるが、それでも比較的、善性を強靭に保っている性格の持ち主たちだ。偶然にしろ、良い人選だとマギーちゃんは思った。

 

「出来るだけ早く、可及的速やかにマシューを保護せねばならんね」ローランズ副保安官が一同を見回しながら発言すると、面々は静かに頷いた。

 モレッティ親方が約束を守るならそれに越したことはない。守らないとしても、最悪でも、賞金稼ぎたちが捕まえるより早く保護するべきだった。

 だが、マシューがこちらを信用するかどうか。そもそもが、マシューの幼馴染のリリーは現状をどう捉え、誰を信用するべきだと考えているのだろうか。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 マギーちゃんは、浴場に来ていた。個室を借りて、浴槽に沈み込む。

 隣では、ジーナ・Eとニナがそれぞれ湯舟に浸っている。

 一応、手元に一体成型の手斧だけは置いてあるが、ほぼ無防備だ。斧が微細な油に包まれているのは、錆びるのを防ぐ為。隣の浴室からは、トリスやココ、リジィの騒ぐ声が伝わってくる。自分ひとりだけ贅沢に浸る習慣は、マギーにはない。

 

 浴槽に浸りながら、マギーは物思いに耽っている。隻眼のリリーは善良な人間ではある。マギーたちがポレシャ市に越してきた頃からの付き合いだが、隣人に対し、常に親切で腹を空かせていた時に食べ物を分けてくれた。おのれも腹を空かせていただろうに、だ。

 

 野良仕事の最中、村に入り込んだ変異獣に襲われて、片目を失明している。寝込んでいる間に、幼馴染に許婚を奪われた。いたたまれなくなって逃げ出し、ポレシャ市に転がり込んで、マギーたちと出会った。件のマシュー君と同じ、農村地帯の出だ。

 

 表裏なく一貫して善良だが、しかし、今回はやらかした。知り合いのマシューを助ける為、マギーを当てにして賞金稼ぎたちから逃げ込んできた。

 追われる者が地元の有力者のところへと逃げ込み、追跡者や法執行官らと武力衝突を起こす事例は、枚挙に暇がない。

 賞金稼ぎと言うのは、恐ろしい腕利き揃いで合って、現状では勝てる勝てないどころの話ではない。むしろ、現有装備と練度、人数で戦えば、必ず死人が出る。

 だから、運が良かった。本当に……隣の浴室から、ぶにゃ!と言うココの鳴き声と、トリスの笑い声が響いて来る。ふざけ合ってるのか。もしかしたら、ニナも、徒弟トリスも、猫耳ココも死んでいたかも知れない。

 

 マシュー君の逃走幇助に関しては、マギーやニナ。他の仲間を危険に晒した訳ではないから、やらかしには入れない。昨夜の賞金稼ぎとの遭遇に関しては、普通に相手がマギーの想定を上回った。まさか、ポレシャ市の副保安官を街道で待伏せするとは、予想できなかった。決まってもない勝利を確信したマギーの失策で、むしろ、そちらの方が気持ち的には沈ませる。

 

 マギーちゃんは元来、休養を重視する思考の持ち主で、マシュー君を探し回る前に、まず気力と体力を維持しなければ、見つかるものも見つからないと考えていた。

 所詮、他人事でもあるから、のんびり構えてられるのかも知れないが。

 マシュー君は、マギーにとって守る対象に入ってない。

 リリーが助けようと駆けまわっているから助力しているだけだ。

 冷たいかも知れないが、逆にリリーの失策を裏切りとも考えてない。

 

 リリーは情に厚い。優先順位が、マシュー君なのは理解してたのにマギーは計算に入れなかった。果たして、リリーとの関係を切るべきだろうか。

 そもそも、マギーが些かなりとも、金と権力を欲したのは、愚かな隣人を含め、身内や友人に安全で食べるに困らない程度の生活を与えてやりたいからでもあった。

 

 世界は脅威に満ち満ちている。身近な脅威だけでも、部族や浮浪傭兵。盗賊団に無宿人《ノークォーター》、無法者《アウトロー》、略奪者《レイダー》。

 騎馬民族や変異体、死の河や邪教軍団とまでは言わない。

 此の侭、富と戦力を蓄えれば、五人や十人くらいの部族や浮浪傭兵。或いは盗賊団くらいは退けられる日が来るとマギーは踏んでいた。 

 

 しかし、(ニナやトリスらが失われていたかも……)と思い耽れば、湯に浸ってる腹の底にも冷えを感じる。「……切るべきかな」とも呟いてみる。

 マギーにとって一番、恐ろしいのが仲間の喪失だ。

 しかし、今のまま、商売が上手く運ぶと言う絶対の保証もない。

 友人を切って上手くいくとも限らない。

 情に流されて他の仲間を死なせれば、きっと後悔する。

 だが、リリーなり、他の友人がこちら側を救う状況もあるかも知れない。

 分からない。どちらを選んでも、幾らかは後悔しそうな気もする。

 

 正直言えば、リリーは愚か者だ。それでも、マギー一人であれば、友誼を保ってもいいだろう。

 向こうから切られるなら別として、見捨てたくはない。しかし、仲間がいる。

「分からんー。ニナー、ニナさんやー」マギーは唸った。

「はいなー」返答が返ってくる。

「リリーを切るべきだと思うー?仲間が死にかけた。嫌いじゃないけど、判断付かない」問いかける。

「誰だって欠点はある。一度は許そうよー。二度は考えるし、三度目はないが」ニナの返答を聞いて「ジーナは?」ともう一人に尋ねる。

「……知り合ったばかりだし、親しくない。保留で」

 

「トリスー」とマギーは呼びかけた。

「へーい」壁の向こうから返事が返ってくる。

「リリーをどう思う?今回のやらかし、許せる?」マギーの問いかけを考えてはいたのだろう。

「無理ー。一緒にいたら死ぬー。嫌いじゃないよー。でも、無理ー」とトリスが即答。

「ココはー?」猫耳に尋ねた。

「ぶにゃあ!にゃご、にゃが!」とココ。

「そうか、そうか。分からん」マギーは頷いた。

 

「あいつは飯が旨いー」ランツクネヒトのリジィがのたまった。

「聞いてない」マギーが言うと「ひでぇ」と返ってくる。

「仲間じゃないし、まだー。そもそも、お前も、私たちが仲間でいいのかー?」マギーが言うも返事は返ってこない。

「お互いにもうちょっと様子見期間じゃないか?」マギーが言うと「あー。そうだなー」上ずった声が返ってきた。

「リジィは嬉しそうですよー」トリスが報告してきた。

 

 マギーはため息を漏らした。仲間たちの生存を最優先に考えるのであれば、リリーは、切って然るべきかも知れない。

「わたしも馬鹿の類かも知れないが、人間的に嫌いになれない。

 むしろ、好きだ。しかし、好き嫌いだけで済まないのが今の世の中」

 うむむ、とマギーは唸ったが、悩みは一向に解決しそうになかった。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 六月十三日。二日経過した。モレッティ親方は約束を守ったらしい。

 マシュー君の新しい手配書が市中でも出回り始めた。

 三角印で顔を覆い、手配内容は誤解であり、撤回されたと説明している手配書だ。

 既に配られた手配書は、取り消せない。賞金稼ぎには持ち歩いている者らもいる。

 だから、手配書を回収しつつ、取り消しを告知する新しい手配書をばら撒いた。

 

 悪評紛々たる賞金首が、司法取引なり、人質交換なりで撤回させるのもよくある事例だが、今回は無名の行商人の徒弟に過ぎない。モレッティ親方が賞金稼ぎ組合にいかな伝手を持ち、どう納得させたかは不明だが、単なる勇み足として処理されたようだ。

 

 拘留してしていた賞金稼ぎたちも、この一件での遺恨を持たず、マシュー君を追わないと宣誓された時点で殆んどが釈放された。釈放条件が甘すぎるとの意見もあったが、独自の司法が機能してるポレシャ市にとって、賞金稼ぎは物騒過ぎて抱え込んでいたくない者たちでもあった。一刻も早く他所に行って欲しいとの思惑から、形ばかりの所払いでお茶を濁したのだ。

 

 行商へ出発する前日。最後の夕食を食堂で取っていると、目の前の席に人が一人、断りなく座った。

「やあ、スネイクバイト」眼鏡を掛けて書類を読んでいたマギーちゃんは、無言で纏めていた書類を相手に差し出した。相手は受け取って、流し読みし始める。時々、顔を掻いている。

 マギーは二人分のコーヒーと紅茶を頼んで相手の前に両方、置いてもらった。

 西部のガンマンめいた賞金稼ぎは時折、眉を顰めて、資料をメモに移していたが、マギーは「それはコピーだ。持っていっても構わない」告げると懐に入れてから、大きくため息を漏らした。

 

 それから「大きな間違いを犯すところだったようだ」とだけ呟いた。

「賞金稼ぎが圧力を気にしないのも、交渉を受け付けないのも正しい」とマギーは言った。これで恥を掻かされたと考えるものもいれば、それでもマギーやマシュー君の命に固執するものもいるかも知れない。賞金稼ぎには、盲目的な正義の観念に隷属した人間や怒りの化身、社会的変質者も混ざっている。

 

 だから、マギーも油断はしていない。数日を付け回されていたから、敢えて話す機会を持つ為、店へと誘った。爆発物でも仕掛けられたら逃れようがないが、店の客には私服の民兵や保安官助手、常雇傭兵が数人、混ざっていた。

 

 だが、ガンマンはどこか穏やかな表情を見せつつ「あんたはきちんと俺の期待通りのヒーローだったよ、弱い人を守り通した」そう告げると、銅貨を数枚、置いて立ち上がった。

(……この手の人間に、あまり買い被られるのも、恐いものだが)思いながらも。

「行くのかね?」とマギーが尋ねると「また、何処かで会うかもしれんな」と告げてくる。

「私は、もう会いたくない。この数日は寿命が縮まりっぱなしだった」マギーが首を振るうと、賞金稼ぎの頭目は、苦笑を口元に浮かべて立ち去っていった。

 

 賞金稼ぎの姿が見えなくなってから、ようやく深々と息を吐いたマギーだが、さて、件のモレッティ親方との決着はいまだついていない。

 今までは、天涯孤独な徒弟が田舎に逃げ帰ってから盗まれたと吹聴していたものが、マシュー君が市内にいるにも関わらず、盗難による減免措置を届け出たのは、慣れ故に驕りが生じたからだろうか。将来を潰された二人の青年の為にも、金をだまし取られた商業組合に対しても、責任を取らせるべきだが、それはもうマギーの管轄ではなかった。

「うちの保安官事務所は、ここからがちょっと手強いぜ。モレッティ君」そううそぶくと、マギーは紅茶を傾けた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

「もう、都会んは懲り懲りだよ、姉ちゃん」マシューが苦笑を浮かべた。

「故郷《くに》に帰るん?」ポレシャ市の外れまで見送りに来たリリーが尋ねる。

「畑をやるよ。作男でもなんでも食っていければそれでいい」マシューは頷いて、頭陀袋を背負った。

「いろいろとありがとう、姉ちゃん。リリー姉ちゃんが居なかったら、きっと駄目になってたよ。

 リリーは何も言わず、ただマシューを抱きしめた。

「うわぁ、止めてくれよ。もう子供じゃないんだから」言いながらも、マシューは動こうとしない。それから涙がこぼれ出した。

「本当に世話になって……みなさんにも……俺は絶対に忘れないよ」

 乗り合い馬車の御者が、急かすように角笛を短く一吹きする。

 寂しげな表情を浮かべ、リリーは額を当てた。

「何処にいても思ってるから……挫けないで、頑張ってね」それだけ呟いた。

 

 

 ポレシャ市からは、徒歩、或いは中途まで乗合馬車で三日の旅。

 ポレシャ圏とも言えない、農村地帯の外れの村がマシューの故郷だった。

 村は丘陵の頂にあって、背の低い囲いや木柵が設置された村内まで踏み込めば、小さな小屋が数か所、部落のように密集していた。

 村の中にも地区があって、まとまりを持って暮らしてる。かつては小さな世界が嫌で、大きな町に憧れたものだったが……生家への道を辿りながら、マシューは思い耽った。

 

 家が見えてきた。家族は驚くだろうか。

 扉なんて上等なものはない。入口の布をかいくぐり、「ただいま」

 

 部屋の中で家族が縛られてる。

 

「あ、え?なんで」マシューが呟いた途端、腹部に激痛が走った。

 

 見下ろすと、じんわりと血が広がった。

 

 撃たれた。

 

 部屋の隅に男女。死角にいた。気づかなかった。

 

「ポーラ村のマシュー。賞金800ポレシャクレジット。

 

 容疑は、身分詐称、脅迫、業務上横領――及び強盗傷害」

 淡々と手配書を読み上げながら、まるで裁判の判事のように。

「中央第一法廷より仮託された権限を持って、此処に被告に対する略式裁判を行う」

 歩み寄りながら、非情な目でマシューを眺めている。

 

 マシューが床を這いずった。

「や、やだ。なんにも悪いことしてない……どうして……やだぁ」呻き、血の付いた指で床と地面を這いずりながら、力ない動きでマシューは泣いた。

 

「判決は死刑」低い三発の銃声。

「神の御慈悲を」言いながら、刃物を取り出し、マシューの顔の皮を切り取った。

 農民たちの間でまことしやかに囁かれている賞金稼ぎたちの習慣を目にし、マシューの家族たちが猿轡越しに悲鳴を上げた。

 

「皆さん、ご協力ありがとうございました。

 しばらくは不自由だと思いますが、後で外れの村人に知らせておきます」

 家族に慇懃に一礼し、賞金稼ぎたちは村はずれへと消えていった。

 

 

 

 

 リリーは、絶叫して跳ね起きた。

「なに?リリー!無事!?」

 

 マギーとリリーの敷地内。火の傍の見張り場所でクロスボウを抱えていたトリスが立ち上がっていた。カンテラに火をつけ、「警戒!」叫びながら、周囲を見回してる。ココも背中合わせに周囲を見回していた。

 

 

 深夜の裏路地は、色を失ったまま息を潜めていた。崩れかけた廃屋が両脇に迫る路地の入り口には、土嚢が詰まれ、作りたての木戸も設けられていた。少しずつだが備えが増している。薪は積み上がっているし、水に食べ物の備蓄も相当量で、今年の冬――遅くとも来年の冬には、簡易宿泊所に泊まる必要すらなくなるだろう。

 

 親切には、してくれてる。マギーは。心臓の鼓動を沈めながら、リリーは目を閉じた。弱々しい炎に敷地内が微かに照らされている。街並みのどこか遠くから、獣の遠吠えが。或いは屍者の呻きが響いて来る。案外、近くから聞こえる時もあるが、建物や瓦礫に阻まれて、すぐには来れない――筈だ。保証などなに一つもないけれど、そう信じて誰もが毎日を生きている。

 

 かつての看板が斜めに垂れ下がり、風に擦れて低く鳴る。月は雲に遮られて、割れた舗道に溜まった黒い影ばかりが落ちている。遠くで何かが崩れる乾いた音がして、すぐに静寂が戻る。いつもの夜。庶民は不安を抱えながら、過ごすしかない町外れの夜だった。

 

 周辺は一応、背の低い境界柵に囲まれており、今も成長中のマギーの小屋が壁のように立ちはだかっている。小屋からリジィとジーナ・Eが出てくる。持ち主であるマギーとニナは、今は旅の空だった。

 

 嫌な汗で全身がびっしょり濡れている。

「……ゆ、夢?」リリーは呟いた。

「なんだ、もう。五月蠅いなぁ」「人騒がせな」トリスやリジィは言いたい放題言って「念のためにゾンビに噛まれてないか、見るよ。悪夢を見たって、誤魔化す奴もいるから。後で悲劇になるから」ジーナ・Eが勝手に服を脱がして、肌を確かめていた。ココも周辺を警戒してるが、すぐに丸まった。

 

「本当に悪夢か……凄い汗だ」ジーナ・Eがタオルを持ってきて、投げてくれた。

「マシューが……夢の中で賞金稼ぎに」受け取りながら、リリーは呟いた。

 

 市内から賞金稼ぎがいなくなっても、マシュー君は見つからない。

 マギーもそろそろ行商人の仕事に戻る時期だったが、念の為にリリーには後の手順を本気で教え込んできた。

 手配書が回収され、或いは、新しい手配書が出回るのは、まずは人口密集地からだ。農村に出回るのはかなり先になる。だから「これを飲み込まず、好きに行動するなら、今度こそご自由に」冷たさを漂わせつつ、マシューが見つかっても、しばらくはポレシャ近郊を離れるな、と忠告してきた。

 手配書の撤回に気づかずに徘徊してる賞金稼ぎに遭遇する可能性を避ける為で、リリーは幾度も頷いた。

 

 初夏にも関わらず、肌寒い夜の気配に、リリーはぶるっと身を震わせた。

「……マシュー、何処におるんや」火の傍に蹲ると、リリーは力なく呟いた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 廃墟を走り続ける。ひたすらに。

 怯えたように、身体が引きつり、足がもつれる。

「……なんで?どうしてぇ」荒い息の下、そんな思考ばかりがばらばらに脳裏を掠めた。

 

 ひと気のない場所へと追い込まれているのは、分かった。

 廃市街の危険な徒党や破落戸に乞食でさえ、追うものを一瞥するや、顔色を変えて壁の向こうへと引っ込んだ。

 

 振り切ろうとする此方の意図も引っ掛けも、アッサリとあっさりと見抜いて、追跡者は着々と距離を詰めてくる。

 

 嫌な気配は朝から漂っていた。それが偶然ではないと気づいたのは、角に数人の男女が立っていて、囲むように間合いを詰めてきたから。

 

「しょ、賞金稼ぎ」いやだ。なんで、どうして?もっと悪党は沢山いるのに?

 追い詰められた。袋小路に目をぎょろぎょろと視線を走らせるも、逃げ道はない。

 賞金が掛かって稼げる奴もいるはずなのに。どうしてよりによって、追ってくる?

 

 

 

 だって……だってあたしには、賞金は懸かってない!

 

 

 逃げ道がないか。周囲にむなしく視線を走らせるが、出口はない。

 

 連中は、入念な狩りの計画を立ててから、獲物を追い込んでくる。

 

 袋小路の出口を塞ぐように立ちはだかった人影が、冷たい視線を向けながら、何かしらの書類を取り出した。

 

「ポレシャ市の親方モレッティ。罪状は、無実の少年を賞金稼ぎに殺害させようとした欺罔《ぎもう》及び殺人未遂……」

「中央第一法廷より仮託された権限を持って、此処に被告に対する略式裁判を行う」

「判決は……」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

53 (1D100)

23 (1D100)

51 (1D100)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。