黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_89E 境界都市――庇護と所属

 徒弟のトリスが親方マギーから聞いた話に拠れば、曠野の地を越えた南方の彼方には、群小の封土や自由居留地、惣村がモザイク状に散っているとのことだ。

 北の軍閥領域と西の商業都市連盟を除いては、何処《どこ》も彼処《かしこ》も似たような有様らしいが、特に南方と東方は群雄割拠が長く続いており、小国が雨後の筍のように生まれては消える戦雲に覆われた地方もあれば、数百年も顔ぶれが変わらず小競り合いを続けている地域もある。さらに言えば、曠野のうちでも自由居留地圏が強いのは中部から東部に掛けてであり、しかし、自由居留地圏の狭間にも、その外側にも様々な小国や封建領、部族勢力などが混沌と入り混じっている。

 

 そんな話を聞いて、行きたくねぇな。一生、ポレシャ市に引きこもっていたいとトリスは思った。だから、親方の説明する主な近隣貴族の紋章をニナや猫耳ココがふんふんと聞いてる時も真面目な表情のまま聞き流していたし、兵士たちの鎧に刻まれた紋章を見ても、見覚えなさ過ぎて所属も分からないし、ポレシャ市といかな関わりを持っているかも全く不明だった。

 

 武装したよそ者の一団がどんな行動をするのか。先行きが全く読めない。

 トリスがいささかの緊張を持って、それとなく値打物の布やリボンを肩掛け鞄に素早く仕舞い込んでると、傍らで猫耳ココも店仕舞いの準備をしている。

 考え過ぎかな、とも思わないでもないが、親方マギーは、『逃げ足を大事に。退路は常に確保しておくように。特に地元ならと』と言い聞かせてくれる。

 普段からニナと一緒に地図を作って、市内での移動経路を考えている人だ。これは徒弟トリスや猫耳ココの生存哲学とも一致してるので、考え方に関して相性は一致しているのだ。

 

 

 とにかく、目を引く五人だった――いや、見慣れぬ兵士が五人と護衛対象が三人かな?腕と目の深手が二人。他に一人は老人、一人は疲れ切った女兵士。残った一人も手負い。護衛対象と思しき小柄なフードに加えて、十二、三歳ほどに見える小僧とやや年長の少女が傍らに侍っていた。通りすがりの旅人にも見えたので、最初は連れと気づかず、見落とした。

 合計で八人かな。かなりの大人数だが――そして、かなり目立つ。

 

 どこかで大きな戦いがあったかな?誰かを守って撤退してきた。

 中立の――そして貴族の軍隊が追ってきにくい、自由居留地圏へと逃げ込んできた?ポレシャ市は、それなりにいい町だから、或いは亡命?

 重要人物?老人?お姫様?知識人?聖職者?若殿?少年?

 まあ、単なる可能性だけど、訳ありっぽいな。

 取り留めもなく連想していたが、猫耳ココが小さく、にゃ、と鳴くと、頷いて観察を打ち切った。洞察の眼差しを向けていたトリスだけど、絡むつもりは全く無かった。好奇心は猫をも殺す。特に都市では。

 全員ではないにしろ――やはり観察するような視線を向けていた幾人かの露天商や屋台商人らも、各々の商売に戻っている。他の商人、或いは徒弟とても、洞察力もあれば好奇心もあるだろうが、それを押し殺すなり、脇に除けて、関わらずにおのれの生活を優先する判断をしたのだ。

 

 ポレシャ市は、曠野では全く安全な側の居留地だが、ポレシャ市に含まれないポレシャも存在している。法的な都市と実質的な都市圏の違いらしい。

 市場通りの外れは、地元に不案内なよそ者の一団にはやや危険な界隈で、そして既に数人の破落戸や無頼が興味深げな値踏みの視線を注いでいた。何らかの化学反応が起きるかも知れない。起きないかもしれない。

 いずれにしても、トリスは見習い期間中の徒弟に過ぎず、情け深い親方の庇護の下、小金を稼いで快適な生活を送っている今の暮らしに満足しており、属する徒党の為にも余計なトラブルを引き込むつもりは皆無だった。考えの足りない破落戸やら失うもののない少年少女だけが絡んでいき、或いは巻き込まれ、冒険に踏み込むこともあるのかも知れない。

 

 町外れは自由市通りは、場所柄としてあまり治安がよろしくない。

 通りの半ばは市の下層地区に属しつつも、残りの半分は行政区域から外れていて、そちらはそちらで市に属する商人とはまた別の、外部地区や廃市街の自由労働者や浮浪者《ホーボー》、廃墟生活者からなる徒党が仕切っている。

 

 自由労働者と言っても、あまり行儀のよろしくない連中だった。町外れの自由労働者たちとは、根付いたところが違うだけの筈が、どこか雰囲気も異なっている。渡り人(オーキー)と言うより、浮浪者《ホーボー》とか放浪者《ワンダラー》と称した方がいい、抜け目のないいささか緊張した気配を纏っている。勿論、盗賊団やら略奪者《レイダー》、傭兵のような殺伐とした暴力的な気配とは全く別物だ。

 

 より危険な地域に日々暮らしているとは言え、都市の境界《フロンティア》の住人らは、町を襲う盗賊団や傭兵、略奪者《レイダー》や無法者《アウトロー》などとは明確に違うと見做されていたし、どうにも自分自身でも違うと思っているようだ。仮にも定住して働いて暮らしており、盗みやスリ、恐喝など多少の悪さはしても殺人や強姦、拉致などには手を出さず、上級市民から無頼どもと同一視されると憤慨までするのだ。ニナなどは不思議な自意識の在り方だと言っていたが、トリスにはよく理解できる。彼らや彼女らなりの秩序や一線があって、無法と軽犯罪は全く違う。だから、廃市街は兎も角、外部地区などは、身を護る以外では殺人などもそう起こらない。

 

 治安がやや悪いとはいえ、外部地区で小金を貯め、下層地区へと出てくる労働者や商人も少なくないとトリスも知っている。

 流れ者は、まず外部地区に落ち着くことが多い。傭兵や無宿人《ノークォーター》、牧童や放浪牧者、廃墟漁り(スカベンジャー)の類などもだ。一時的に転落するも再び這い上がってくる渡り人(オーキー)や自由労働者もいれば、外部地区は荒っぽいよそ者や失業者を吸収し、熟成させる都市の緩衝地帯《バッファー》としても良く機能している。

 ――東ローマ帝国のコンスタンティノープル、ヴェネツィア共和国。古代都市パルミラや古代アテナイのピレウス地区など、古来より都市はよそ者の隊商や船乗り、傭兵や放浪者などを受け入れる為の緩衝地区を抱えていた。マギー親方曰く、恐らくポレシャの当局者らは、歴史上の古い都市モデルを鑑みて、敢えてそのようにデザイン設計したのだろうか、と語っていた。

 

 

 それでも外部地区の側の自由市場には目に見えて浮浪児や不良、破落戸に徒党を組んだ無頼が彷徨っていて、剣呑な雰囲気が漂っている。

 地元民には手出しされないとしても、富裕な市民や正規居住者などはあまり近づかず、自警団や保安官助手マギーでさえ、破落戸なら兎も角、愚連隊が相手ともなると揉めたがらない。盗賊団や、市の民兵とは比較にならないとしても、浮浪傭兵や渡世の無宿人《ノークォーター》までも仲間に引き込み、相応の武装と人数を揃えているからだ。半ば裏社会に属する警戒されつつも、幾つかの武装した徒党は、外部地区や廃市街の縄張りが屍者やら変異獣、略奪者や傭兵団の襲撃を受けた際は、防衛線となることを期待されて市当局から目こぼしされてもいる。

 

 

 地区に登録してる行商人や近隣農村の農夫などは、よく心得ているもので店を開く時にも幾らかの場所代――本当に僅かな小銭で済む――を纏め役に払って、地区内の通りに露店を開いたりするのだった。事情を知らない遠来からの旅人や迂闊な行商人など、無料だからと自由市の外の方に店を出しては、破落戸やらに絡まれて場所代として幾らかの金を巻き上げられたり、性質の悪い露天商に買い叩かれたりすることもある。もっとも、そんな破落戸連中も、廃墟漁りや逸れ鉱夫、流れ職工などには、あまり阿漕《あこぎ》な真似はしない。連中には大抵、荒っぽい仲間が大勢いて、あまりに奪い過ぎるとある日、突然に職人同胞団やら武装鉱夫団の大規模な報復がやってくることもあるからだ。

 

 時には、持ち金や持ち物の一部を奪われた外来民が自警団の詰め所に駆け込んで来ることもあるが、市場通りであまりに阿漕に金や荷物を奪う行為をされたら、流石に見かねた下層地区の自治会も介入せざるを得ない。自警団には愚連隊の鼻薬や脅迫もあまり効かない。何故なら、人数も武装も勝っていて、背後には市の衛兵や民兵隊、市民軍が控えており、黄昏の時代(トワイライト・エイジ)に平穏で真っ当な暮らしが多少の金銭よりも貴重だと理解しているからだ。

 

 ともかく、変異者の小娘であるトリスと猫耳ココが一切手出しされないのは、地区の有力者である親方マギー。保安官助手で武器商人の庇護下にある徒弟だからだが、清潔な肌と栄養状態の良さ。取り立てて高価でないにしろ、頑丈で厚手の良く繕われた衣服を誂えてもらっている見た目で、可愛がられているのは一目瞭然だ。

 

 曠野の暴力は無秩序に襲い来るが、都市の暴力は関係性で降りかかる。

 これは他の徒弟や丁稚、農村の雑役夫、農場の召使なども似たようなもので、特に大人の守りのない子供、所属のない子供は悲惨な目に遭いやすい。

 そこそこに有力な農場主や店持ち商人に使われる小僧でも、襤褸着を着の身着のままでは、主人に目を懸けられてはおるまいと同年代の浮浪児や年長の不良らに目を付けられて虐められたり、少女だと悪戯される境遇に陥ることもあるのだから、人が沢山住まう街には街の恐さがあるものだ。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 ポレシャ市は、水が足りない。曠野の居留地は何処もそうだが、水源に人口を制約されている。ポレシャ市の第一の水源は地下水だが、これは市民と登録住人千二百を養うにも全く足りない。外部地区やら近隣農民を含めれば、二千は確実に越えるだろう人口を養っているのは東の湖沼地帯だが、これは低い位置にある為、水の運搬能力――樽や瓶の数に、驢馬や牛、荷車の台数などがポレシャ圏の人口を支えている。人口の伸張の前には、インフラとも言えないが、運搬・物流能力を高めて蓄積する停滞期が必ず訪れている。

 

 

 トリスは温い水筒から小さなコップに水を注いで、喉を潤した。標高やや高いポレシャ市に初夏の六月。誰しも喉は乾くだろう。

 

 最近のトリスは稼いでいるので、水やエールを気ままに買える身分となっている。 労働万歳だ。親方も季節ごとに林檎や檸檬、ベリーを買ってきてはお茶に入れたり、蜂蜜に着けたり、皮を剥いて手ずから食べさせてくれる。年下の子の面倒を見るのが好きなお姉さん気質の親方万歳。マギー宅に設置された浄水器も、意外と器用なニナによって、砂利と砂、木炭を層にして詰めた大きい樽型が完成している。綺麗な飲み水に困らない生活を送ってるだけで、笑顔が溢れてしまう。

 

 日差しの強さに喘いでいた浮浪児がうらやましそうに眺めてきたが、トリスだって自由気ままな生活への懐かしさに郷愁に駆られる瞬間もある。とは言え、水を飲みたいなら、地区の水輸送団にでも志願すればいい。ポレシャ市では、水運びや水売りは重要な役割で、稼ぎは多くないがけして食いはぐれない職業だった。

 

 牛の乳やら羊の乳、よく冷えた地下水や氷室に入れた果実水、良いワインや熟成ラムは正規居住者以上の飲み物だ。いや、時折、裕福な登録労働者や稼いでいる商人なども嗜んでいるが、それを日常的に楽しめる層は大抵、市の正規居住権も購入している。

 

 家々の軒先には水瓶や瓶、或いは樽。それに廃墟地区から回収した湯舟使いまわしの水槽に酢やアルコールを含んだ水が貯め込まれ、或いは煮沸された温い湯冷ましで住人たちが喉を潤しているが、これを見た旅人は溜まらない。乾燥した曠野の旅路を越えてきた為、喉が痛むほどに唾を呑み込むと、近場の酒場に駆け込むや否や、安くもない水やエール、どぶろくや密造酒などを喉へと流し込んでいる。

 

 初夏の廃市街。廃墟の残った街角の街路に開かれた露店通りでは、商人から行き交う旅人や荷運び人夫。驢馬引きに農夫、流れ職工、渡り人(オーキー)、貧しい巡礼に至るまで誰もが彼もが武装をしている。

 使われない廃屋や路地は土嚢が詰まれて封鎖され、街路の入り口は木柵で封鎖されており、見張り番が高い位置で火縄銃やクロスボウを構えている。いつ、怪物が襲ってくるとも限らない辺土の現実である。

 

 買い物が目的か。仕事探しか。時折は他所の居留地からやってきたと思しき失業中の書記や学生なども市場通りへと紛れ込むが、すぐに場違いと悟ってか。中町や門前町の方へと立ち去っていくのが通例だ。

 

 やや警戒しているトリスの視線の先、兵士の一団は日差し除けの布が張られた廃屋の片隅へと潜り込んでいた。そこは貧しい旅人や市場の客が身を休める為の場所なのだが、急に八人も入り込むと、やや手狭となってしまう。

 貧しげな巡礼の一団やら、賭博をしていた人足。浮浪者《ホーボー》の二人組、渡り人(オーキー)の家族など、他の者の迷惑そうな視線に、老兵が申し訳なさそうな顔をして挨拶しつつも、やや強引に入り込んだ一行は、肩を貸して負傷した二人を地面の瓦礫に座らせた。それから残った者たちも座り込むが、老兵は咳き込んだ後、崩れ落ちるように座り込んで動かなくなった。負傷した二名に老兵。女兵士も、壁に寄り掛かって目を閉じている。

 誰もが肩を落とし、動かない。いや、動けないのか。いかにも疲労困憊した一党に、フードの人物が億劫そうに立ち上がりながらも、童と若い娘を呼び、何事かを言いつけた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 自由市の呼び込みは、内側の商人らよりも外部地区や廃市街から来た露天商らの方が賑やかだ。なんとなれば、地区の商人らは商品の品揃えも、買い手の顔ぶれもおおよそが決まっているからだ。

 下層地区に常設の露店通りは住人の物々交換や流通の為の仕組みであって、ズール都の蚤の市のように掘り出し物を見つけたり、大きく稼ぐ為の仕組みではない。だから、外来の旅人や行商人たちが、様々な品々が売られている露店の賑やかさに外部地区側に引き付けられてもおかしな話ではなかった。

 

 自由市の通りには、乾いた土の路傍に布と木の骨組みの屋台が並んでいる。

 常設の店構えは、殆んど見当たらない。手入れすれば、再利用できそうな廃屋も幾つかは見当たるものの、自衛できる徒党などが四六時中、住み込みで警戒してる建物のみが、浮浪児やら漂泊民たちからの盗難を免れるからだ。

 

 折り畳みの卓や、荷車をそのまま売台にした店舗も幾らかは列を成している。

 色あせた薄い布の屋根が風に揺れているが、色とりどりの鮮やかな天幕や旗など持てるのは、相当に大身の店持ち商人やら一握りの隊商くらいのものだ。

 実際、裸一貫の棒手振商人や露店商から屋台持ちの商人に出世できるようになるのも一握りなので、屋台商人は誇らしげに商品を並べて、継ぎはぎの布がそれでも陽光を柔らかく遮っている。

 

 門前町の蚤の市に比較すれば、下層地区に常設の自由市など、客足も随分と閑散としてる。週の決まった日にしか顔を出さない露天商などもいれば、決まりきった安い食べ物や廃墟で拾われたスクラップや隊商の捨てた欠損品の食器、市民から廃品回収してきた玩具なども売られていて、しかし、どこぞの父親が我が子の為に彫った木製の車や紙製のガンマンに騎士なども、楽しげに買っていく渡り人(オーキー)の親子などいて、それでもポレシャ市の下層地区から外部地区、或いは廃市街に住んでいる住人たちは定住し、賃金を稼ぎながら、家族連れで買い物を楽しめる身分なのだ。

 

 動く金額は小さいだろう。しかし、多少の収入の多寡ではなく安全、かつさりげない日常を楽しめると言うのが文明崩壊後《ポストアポカリプス》の荒廃した時代において、庶民層にとっての最高の贅沢なのを行き交う人々の殆んどは骨身にしみて承知している。だから、暗黙の了解として居留地や自由市場の秩序までは誰も壊そうとしないし、敵に回そうともしない。まともな土地は希少であるが故、無頼や愚連隊にとってさえ、単なる追放刑が殊更《ことさら》に恐ろしいからだ。少なくとも、好んでポレシャ圏に住み着いてる類であれば、無頼や無宿人《ノークォーター》さえもそれを理解している。

 

 

 道の両側には、木箱の上に積まれた雑穀の袋。吊るされた鼠肉の燻製。

 樽に入った湖水、布に並べられた工具や古い釘、古い布や革など雑多に展示されている。古着などは大抵、穴が開いて解れた襤褸着ばかりだ。

 まともな古着は貴重品で、下層地区の自由市などには滅多に出てこない。盗難される恐れもあれば、まともな値段で買えるだけの客層もあまり足を運ばない。

 だから良い商品を偶々、仕入れた下層地区の商人は、そういう時は門前町の蚤の市や市民街区まで赴いて買い手を探したりするし、外部地区や廃市街の商人が売ってる古着で少しまともなものは、手前に屈強な男女が屯する奥に目玉商品として用心深く飾られている。

 

 外側の胡散臭い商人たちは、呼び込みの声を張り上げ、品物を大げさに示し、笑い声を交えながら客を引き寄せている。値札は控えめに掲げられ、交渉の余地を示すように、いくつかは最初から安く設定されているが、客が実際に興味を示すと、それはもう予約で売れた、などと言って、別の代替を高めに売りつけようとしてくるのだ。

 

 路地の角では即席の屋台が炭火を起こし、炊煙が立ちのぼる。乾いた空気の中、焼いた豆や簡素な煮込み料理の匂いが漂っている。通りの中央は人の流れが絶えず、一部の路地は肩が触れ合うほどに狭いが、荷車が通れるだけの動線は商人同士の話し合いできちんと確保されている。

 

 火縄銃を持った市場の番人が見張り台で交代している。有力な商人が人を雇ったり、徒党が信頼できる人員を出したりと有力者たちが共同で防備を整えてる。

 親方マギーは、比較的に新しい自由市場の発展よりも早く出世し、足場としてすっ飛ばしたので、地元民でありながらあまり関わってなかった。微妙な立場だ。むろん、誰もが小なりとは言え、徒党の頭の武器商人を軽視はしてない。

 火縄銃やクロスボウを月に五丁も売っては、時々、廃デパートに顔を出して催しものの拳闘に出たり、大口で廃墟漁りどもから資材を購入してるので存在感はある親方マギーだが、自由市場を牛耳られるのを恐れたのか。自由市場の面々は、親方マギーを敬して遠ざけるようにしている。マギーも、敬遠されてるのを感じ取ったか。近場である自由市場には、あまり顔を出さないようにしてる。

 

 露店と屋台、小さな天幕と店舗が交互に並び、行き交う人々にも常に緊張が漂っている。普通に歩いているだけでも、遠く変異獣や狼、コヨーテの遠吠えが響いてくれば、思わぬ土嚢や木柵を挟んだすぐ近場の路地から、巨大蟻の警戒音や屍者共の呻きが聞こえてくる時もある。

 野犬――野良犬ではない――や、巨大鼠が少数、迷い込んでくることも時折はあれば、笑い声と呼び込みの声の隣で、武装した見張りや抜け目ない旅人らは、周囲をさりげなく警戒していた。自由市は賑やかな喧噪に包まれながら、同時に文明と荒野の境界として絶えず、緊張と騒乱の芽を孕んでもいる。

 

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