黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

315 / 316
03_89P 6月20日Ⅶ 変装

 一口に天幕といっても、曠野の民草には諸々の型式が伝わっている。春から夏の暖かい時期だけ使う新聞紙やぼろ布、段ボールで作った簡素な使い捨て型もあれば、安い薄布や布切れを幾重にも縫い合わせてニスを塗った、少しはしっかりしたパッチワーク型もあって、こちらとて初秋まで凌げればいい方だが、それでも宿代の節約にはそれなりに役立つ代物と好まれている。

 

 蔓と木板に泥を塗った天幕とも小屋とも付かぬ奇態な住処もあり、これに手間暇かけて大型天幕に、そして泥小屋へと進化させる辛抱強い家主もいれば、冬籠りの宿に泊まった際、寒さに耐えきれずに僅かな薪にしてしまうものもいる。

 

 通常、天幕として用いられる最良の素材は重帆布《タープ》である。文字通りに大型船の帆として用いられる分厚く頑丈に造られた厚布は、太い糸を用いて密に織られている。織り目が詰まっているため、水滴が糸の間に入りにくく、加えて、テレピン油やリネン油、松脂などが塗られている為、かなりの雨水でも表面を滑るように弾いてしまう。

 

 代替品としては、遠来との交易で入手できるビニール製ブルーシートなども相応の資材として流通している。これもまたタープと呼ばれており、また屋根型の小型天幕も同名で呼ばれているが、いずれも伝統的な帆布が語源である。

 重帆布より劣化が早く破れやすいが、それでも丁寧に手入れをすれば数年から十数年は保ち、軽くて入れ替えも容易なため、金銭に余裕のある独身の労働者にとっては悪くない資材として選ばれている。働き者の一家などは、一旦は安い薄布やブルーシートで家を作っておき、徐々に壁や屋根を木板や帆布と入れ替えていくことも多い。

 文明崩壊後《ポストアポカリプス》の世には、そうした端材も、より貧しいものにとってはありがたい資材であり、小銭や多少の食料と引き換えに出来るのだ。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 亡命ガルダ人一行が身を休めている天幕は、中々に立派な代物に見えた。頑丈な木材で骨組みし、四方に帆布で屋根と壁をしっかりと張っている。

 これなら風も雨も通すまい、と感心してるマギーだが、前の持ち主である破落戸商人たちがこんな上等な帆布天幕を持てるはずもない。木材と帆布は、きっと参事会の差し入れだろう。とは言え、お付きの侍女など露骨に不満げな視線を向けており、帆布の有難さを理解しているかは怪しいものだった。もしかしたら、厚手の布や毛布と貴重な帆布の区別さえついてないかも知れない。

 

 大量の帆布としっかりした木材をふんだんに使った豪華な天幕は、材料費だけでも一千都市通貨を下るまいと思えた。マギーちゃんの小屋も似たり寄ったりだが、完成までに六年を要している。

 資材を問題なく調達出来るようになるまでまず四年。足を棒にして自由都市《ズール》の蚤の市を歩き回っては木こりや隊商と交渉し、安定して資材を仕入れられるようになるまでそれだけかかった。流れ者がいきなり立派な小屋を建てれば、材料を盗まれていただろうから、僅かな資材で小さな天幕を建てて徐々に増築し、備蓄しても盗まれない立場を地区に築いてから人手を集めて六年である。

 

(……お、これが嫉妬か。なるほど、腹立たしいものだ。姫さまに罪はないけれど、君の身分がいけないのだよ)とは言え、マギーは抑制の効いた性格の持ち主であり、さほどに深刻な妬みを覚えた訳でもない。

 それでも棒手振や露天商、零細行商など同業者の幾人かがおのれに向けてくる仄かに苦味が混ざった視線の意味を今こそ、心で理解できたマギーは、真面目な表情を保ったまま、お姫さまを無感動に眺めていた。特にうだつの上がらぬ者よりも、むしろ、働き者や稼いでいる同業者に嫉妬される理由も分かった。真剣に戦って負けるのは、どうしたって面白くはない体験である。

(まあ、いい。そう遠からず、自分の力でもっといい家を造れる。

 それにしても、みんな、流浪のお姫さまってものが好きなんだなぁ)

 

「町の者ども、着飾っているようだ。花なども飾られている」口にする姫さまを見ていると、あの綺麗な綿のドレスで一帯を散策したのか。それともフード姿だったのかな。と考えてしまう。

 護衛は付けていただろうが、革鎧を身に着けた兵士が二人も付き従えば、重要人物ですよ、と見た者全てに知らせるようなものだ。

 憂慮に満ちた視線で部下のジーナ・エクルストンと色々と囁き合ってると「姫さまも、皆も、フードを付けてました」と苦笑しつつ、女兵士が教えてくれた。

「それなら、他にいない訳で無し」とマギーちゃんも頷いた。

 思ったよりも、対処はしているようだ。フード姿で下層地区をうろつけば、後ろ暗い連中の一味と思われるに違いないが、ドレス姿で目立つよりはましであろう。

 

 無法者《アウトロー》や罪状持ちの無宿人《ノークォーター》。或いは、他所の居留地や農村よりの追放者《バニッシュド》。脛に傷ある曠野の放浪者たち。常時ではないにしろ、大型居留地の外縁や郭外地《フォーブール》には、その手の連中が時折、姿を現すこともある。

 流石に手配書が出ている賞金首ともなれば、大きな町には入れないが、仲間が町に入り込み、商人の代理人と交渉して物資を調達するのは防げない。無論、町にとっては歓迎されざる客人ではあるが、人口が数百から千に及ぶような大型居留地で人の出入りを完全に管理するのは、ほぼほぼ不可能であった。居留地に害を為さなければという暗黙の了解のもと、無法者《アウトロー》や無宿人《ノークォーター》が外地区を行き来するくらいであれば、見て見ぬふりをするしかなかった。

 

「いや、賞金首には間違いありませんね」「うふふ。なるほど」などと部下と呑気に笑い合う保安官助手マギーちゃん。とても、無能そうだ。姫さまお付きの幾人かも、白い眼を向けてきている。

 前の事件の賞金稼ぎどもが町にまだ留まっていたら、また騒ぎを起こしていた恐れもあった。いや、正義漢たちだから、姫さまに肩入れしていたかも。兎に角、理念で動く連中は、何をするか分からない所があって恐ろしかった。

 立ち去ってくれてよかった、よかった。

 

 油断しっぱなしのマギーちゃんは「明日は夏至のお祭りですからね」迂闊にも一言、口を滑らしてしまう。

「祭りか」姫さまはパッと顔を輝かせた。嫌な予感に襲われたマギーちゃんは、まるで道に迷った哀れなパグ犬みたいに顔を曇らせている。顔を覆うジーナ・エクルストン。

「少しだけ見てみたい」などと案の定、言い出しやがった。

「なりませんぞ」と爺やが髭を震わせた。当たり前である。

「少し見るだけだぞ」と抗議するお姫さま。

「御自分が狙われていることをご承知の筈」と爺や。

「わたしは祭りに行ったことが無い。此処では、誰も私を知らない。少しだけ見て回ってはならぬか?」着たばかりの良品ではあるが庶民服のドレスでクルリと回ってから、姫さまは爺やを覗き込んだ。

 

「今、刺客に狙われているのです。

 彼奴らを撃退し、そして亡命を受け入れられてからでも、遅くはないはずです」

 いいぞ、爺や。もっと言ってやれ、とマギーちゃんが内心で応援してると、姫さまがぽつりと「……来年も生きているかな?」

「狙っているのは、赤泥のジルカであろう?私でさえ、耳にしたことがある」姫さまの言い分は深刻で、周囲の者たちも沈黙している。

「……助かった者がおるのか?」

 

 姫さまの言を聞いたマギーは、恐れおののいてジーナ・エクルストンと視線を合わせた。そんなかよ。ジルカ。そこまでなのか。同時に、姫さまが殺されたら、帆布の天幕回収できないかな。本物なら、いくらで売れるかな、なんて卑しい思考が浮かんできて、二秒後には自己嫌悪に襲われた。

 

 

 果たして姫さまを守り切れるのか。正直、マギーには自信がなかった。

 『赤泥のジルカ』は、マギーがまだ、ほんの小娘だった頃から名を響かせていた。  

 一方のマギー。スネイクバイトを引退してからもう八年ほど経っている。訓練は怠っておらず、幾らかは実戦も積んでいるが、現役賞金稼ぎの頃のようには身体が動く気はしないし、勘も幾らか鈍っているだろう。そして、戦えば仲間が死傷するかも知れない。それが何よりも恐ろしかった。賞金稼ぎを引退したのも、仲間の喪失に耐えきれなくなったからだ。

 

 『赤泥』みたいな一流どころとは、やりあいたくない。保安官助手のマギーちゃんは困ってしまい「責任を持てないので」云々……むにゃむにゃと優柔不断な小役人のように口の中でなにやら呟いてると、若い青年兵がなにやら軽蔑した視線を向けてきた。女兵士や侍女も。たまらぬ。新しい癖が開きそうになった。

 

 一同があれこれと話し合っている最中、隻腕の騎士はただ一人、会話に関わるでもなく、椅子に持たれながら耳を傾けていた。マギーが観察するところ、静かに瞑目している騎士は、負傷によって衰弱するどころか、全身から精気が静かに立ち昇っているようにさえ見えた。

 

 剣を振るう鍛錬は、垣間見た。腕を失い、戦力外かと思えば既に左腕での剣の扱いもこなれている。普段から訓練していたのだ。隻腕での剣の使い方を。多分に、急所より逸らす為、凌ぎきれない剣を受けた。喪う箇所も計算に入れて、凌ぎきれないものを凌ぎ、追手を返り討ちとしたと女兵士が語ってくれた。

 

(ヴェルダンのギィ卿(サー・ギィ)……聞いたことのない名だ)

 もっとも、マギーはさほど騎士の名に詳しい訳でもない。曠野で名を馳せる者といえば、まず略奪者《レイダー》や都市軍の兵士。少数の無法者《アウトロー》にレンジャー。それに賞金稼ぎや傭兵の名がいくつか。現役を退いて久しいマギーだから、新しい腕利きの噂も幾つかは取りこぼしているだろう。

 名を馳せる、か――微かな苦みと仄かな恐怖とともに脳裏に思い浮かぶのは、惨めな敗走の記憶。曠野の怪物、超越者ども――だが、人の領域を越えた超人は、辺土には数えるほどしかいない。特殊な機動甲冑を保有する勢力も辺土にはそう多くもない――それでも遭遇する時は、遭遇するものだが、法執行官の立場なら、もはや警戒すべき相手でもない。マギーは苦笑をして首を振るう。どちらにせよ、隣国の騎士の名を知らなくても無理はない。

 

 

 

 西方に商業都市連盟《リーグ》と接し、北方には軍閥領域が迫る曠野の地は、言わば二大勢力の対峙する緩衝地帯であった。と言っても、干渉はそう激しくはない。

 曠野は痩せた荒地が広がる不毛の大地だ。水源も乏しく、僅かな人口は散っており、鉱物資源にも天然資源にも恵まれていない。加えて商業都市連盟《リーグ》も、軍閥連合も、他に主敵を抱えている。大軍の展開しづらい地勢に自立心旺盛な土着民たちがゲリラ戦を展開するに絶好の地形とあれば自然、曠野への侵出にも消極的になろう。

 

 貴族領が主体の湿原諸邦と異なり、曠野の地は大半、小さな居留地や廃墟によって占められており、貴族の勢力もさほど大きくはない。正直に言えば、手練も数えるほどしかいない。それでも、かつてマギーが戦場で相まみえた騎士のうちには、印象に残っている敵手も二、三人はいた。

 

 利き腕を失えば残った腕で刃を振るい、そちらも失えば相手の喉笛に食らい付くとは昔の武士の心掛けだ。黄昏の世(トワイライトエイジ)にも名を馳せる騎士ともなれば、肉体の一部が欠損しようとも怯まぬ勇猛さを持ち合わせている。朝方に切り落としてやった腕に義手を取り付け、昼前に戻ってきた女騎士には、マギーでさえ怖気を振るったものだ。

 南方の湿原諸邦は、騎士の本場。貴族の抱える騎士の数も、層の厚さも、曠野の比ではあるまい。そうした猛者を悉く打ち破り、屍横たわる古戦場を踏破してからこその一流であり、二つ名持ちである。だから、『ウロボロス』マルグリット・モイラは、『赤泥』ジルカを恐れている。

 

 目に見えない敵はいつだって恐いものだ。ジルカは既に、民衆の波に溶け込んでいるだろうか?目立つ頬の入れ墨は、古典的な視線誘導ではないかと、マギーは疑っている。化粧で消してしまえば。或いは、入れ墨が化粧かも知れないが――警戒する護衛も相手をジルカではないと錯覚しやすくなる。

 胸が嫌な予感にざわついている。マギーは目を閉じ、顎に手を当てた。狙われるお姫さまは、もっと恐いに違いない。フッと口元に微笑みを浮かべて、お姫さまを見つめ、「まあ、安心してください。赤泥か、泥んこか知りませんが、ポレシャの保安官は優秀です。犯罪者なんぞ近づけませんよ」大言壮語してでも安心させてやろうとしたら、『なんか頼りになりそうにないな』と言う視線を向けられてしまった。なぜだ。

 

 

「医療品と食べ物、それに衣類まで与えて頂き、感謝しています」侍女が礼を述べつつ「ただ、天幕暮らしだけは、 皆慣れていないので……」

 生活に関しては困ったことはなさそうだと、マギーちゃんは安心して頷いた。住居に関する不満についてだけは、マギーに言われてもどうしようもなかった。

 

 働き者の自由労働者や渡り人(オーキー)一家で、毛布と木材を使った仮小屋。外地区など、住人の大半がボロ布の天幕や泥小屋住まいであったり、廃屋の片隅で布の仕切りを隔てて寝起きしてる訳で、さすがにこれ以上の贅沢を言われても、対処は出来かねた。それに人目も少ない路地奥の空き地は、亡命者が身を隠すに絶好の隠れ家だ。逆に言えば、逃げ場もない訳だが、現時点でジルカ相手に住処を嗅ぎ付けられた時点でお終いだろうと、口にはしないがマギーも割り切ってもいる。

 

 

 姫さま一行に与えられた場所と天幕は、それでも随分と上等な代物なのだ。八人が寝起きできるような土地付き建物となると、ポレシャ市内でも、殆んど空きが無い。まともな空き家には残らず権利者が居て、いずれは身内の子供や弟妹に引き継がれるし、空いてる売り物件となると、同時に壁や屋根に大きな穴が空いている。修繕しないと居住するのは難しいのだが、遊牧民戦争で市の余剰資金は払底する一方、数年前の巨大蟻襲撃とズール都市への屍者の襲撃などで、一帯の資材は品不足に陥って高止まりしている。

 

 一方、天幕であれば普段は倉庫に保管して、有事に持ち出すことが出来た。恐らく非常用の備蓄を取り崩したのだろうが、内側に毛布を張り、厚着をして火を焚けば、零下二十度の真冬も凌げるほどの代物であった。もし、厳しい寒波が来ても、建物の内部に避難してから天幕を張りなおせば、さらに五度から十度の低温にも耐えられるだろう。曠野の庶民――貧困層ではない――は、寒さの厳しくなる時期には、簡易宿泊所や避難所へと移って冬籠りするのに対して、大型天幕であれば引っ越しもせずに、冬を越えられる。要するに、稼ぎのいい職工や驢馬持ちの行商人が、数年働いてやっと購入できるほどの庶民としては最良に近い物件を提供されているのだ。

 

「家の具合はいかがですか?不便などは?」一応、尋ねるマギーちゃんに対して姫さま。「なんか、漂泊民みたいな家じゃな」事もあろうにそうのたまった。

 ジーナ・エクルストンが咳き込んだ。衣装を持って女兵士や小姓娘と戯れてた徒弟トリスと猫耳ココが息を呑んで振り返ると、さすがに姫さまも失言を悟ったようだが、なにが拙かったかまでは理解してないようだ。

 

 帆布の天幕なんか持ってるのは、旅商人――否、隊商でも相当に裕福な大手だけであるのに、なんの区別も付いてないのだ、このお姫さまは。

 定住民からは多少の蔑みと警戒を向けられる漂泊民だが、問題は其処ではない。薄い布の家と同じにされたことだ。

「物凄い失礼です、姫さま」とマギーの険を含んだ声に思わず顔を上げる。

 

「曠野では、冬をしのげる家が最良の家とされます。それを提供することは最高級のもてなしなのに、よりによって温暖な南の薄布と同列に扱われるとは……」マギーは頭を抱えていたが、しばらく考えてから「いや、むしろ良かったか」と開き直ったように結論した。

「今のを参事が聞いてたら、生涯忘れられない侮辱になります。本当に良かった」頷いているジーナ・エクルストンに、姫さまは少し表情を引き攣らせていた。

「そんなに?本当に?」男装の小姓が尋ねると「硝酸を造ろうとした若者がうんちを爆発させた時も十年で許したパオロ爺さんが、下手すれば一生、許さないくらいの侮辱」と猫耳ココが珍しく流暢に答えた。

 だが、まあ、これで本人に対して失言することは無くなった。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 ともかくも、亡命者の一団は変装を終えた。ほつれも継ぎ接ぎもない衣服は素材や仕立ても含めてやや上等に過ぎたが、若い兵士らと侍女、男装の小姓たちは、渡り人(オーキー)や自由労働者に見えなくもない。趣味に金を掛けるものはいるし、洒落者の範疇で収まるだろう。一点を除けば、姫さまも普通の娘さんに見えた。

 ただ爺やだけが、どこか場違いに見える。立ち振る舞いや所作があまりにも上品で、どう見ても、引退した市民か、正規居住者に見えるのだ。例え汚れてなくても、明らかに服が負けている。

 マギーは唸った。隻腕の騎士も、肉体労働者には到底見えない。元軍人と言われても似合わず、騎士という以外の言葉以外が思い浮かばなかった。

 

 負傷者に関して言えば、狼や野犬、巨大蟻や変異獣などが廃墟や荒野をうろつく土地では、小さな怪我は付き物だ。屍者に噛まれた、と誤解されるのを避けていれば、親切な土地の者に心配はされようども、さしたる注目を浴びる事はないだろう。

 

 変身を終えた一同を見回してから、お姫さまに目を止め「見事なお髪《ぐし》ですね」とマギーは気が進まない様子で言った。

 姫さまは「うむ」と自慢げに指で髪を梳《す》き流した。見事な手入れの姫さまの髪だけは、庶民と言い張ろうにも無理がある。お姫さまの髪は腰まで伸ばされ、艶やかに煌めいている。天然素材の整髪剤を用いたとしても、湯浴みの度に誰かの手は借りなければ手入れを保てない。

「そんな髪をしている庶民はいません」とマギーは指摘する。綺麗な髪を―――整えるなら兎も角――本当にやりたくない。冒涜ですらあるが。

 ううむ、と唸ってから、マギーは鋏を取り出した。

 

 姫さまが首を傾げ、それから理解したのか。恐怖に青ざめた。

「お主の髪も長くないか?」何をされるか理解しつつあるのだろう。姫さまは、やや怖気を振るいつつ、指摘してきた。

「女の子たちに手入れをしてもらっても、かなり傷んでます」と受け流すマギー。

「ガライ家の娘さん……ポレシャで有数の金持ちでも、そこまで綺麗な髪はしていない」徒弟のトリスがそう呟いて、目を逸らした。

「無理にとは申しませんよ。もしかしたら、我々が思っているよりも赤泥のジルカが間抜けかも知れませんし」他人事の口調で言いつつ、マギーが爺やに視線を送ると、頷いて、姫さまになにやら耳打ちし始めた。

 覚悟を決めたのか。姫さまはため息を漏らして「よかろう、一思いにやるがよい」

 こてんと毛布に転がった。

「寝ていては切れません」とマギー。

「姫さま、往生際が悪うございます」爺やに裏切られて、姫さまは生まれて初めて、下品に舌打ちしてみせた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 初登場時と姫さまの口調が変わってるのでは……ですと?

 

 気のせいです。仕様です。

 

 ところで、僕の好きな漫画は魁!男塾です。

 細かい事を気にしないで進むのがいいですね。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。