黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_90E 異邦

 血と炎に彩られた黄昏の時代(トワイライトエイジ)にしても、亡国―――国が亡びるほどの破局は滅多に起きるものではない。

 

 小さな村落や部落は、あっさりと消える。不作や寒波での逃散に人狩り隊の襲撃。

 十数人から数家族単位となると共同体は常時、人手が足りず、物資の蓄積にも限度があり、抵抗力そのものが乏しい。例えどんなに助け合っていようと、半世紀を閲していようとも、時として半日足らずで滅びてしまう。ことに治安の悪い土地であれば、斥候を放っている奴隷商人どもは、手頃な【収穫期】を迎えた小居留地を見逃さない。原野を旅する者が時折、朽ちた小屋や無人の部落などに踏み込んで目にする枯れた井戸や、収穫されぬまま放置された畑。屋根の下の壊れた赤子の揺り籠は、いずれも何らかの襲撃か。或いは望まぬ急な避難の痕跡だ。

 

 

 数十人、十数家族の村や集落となると一気にしぶとく、そして粘り強くなる。

 常時の見張りを置けるし、他所との交流がある。土嚢を積み、土塁を築き、見張り塔を建て、そして弓矢やクロスボウ。原始的なアーキバス銃。否、パイプのクロスボウや簡素な弓に手作りの槍や斧、ナイフやこん棒でもいい。十か二十も揃えば、賊も気軽には襲えなくなる。変異獣や屍者、巨大蟻にコヨーテも数体であれば、犠牲が出る事もあらば、しかし、大抵、あっさりと始末してしまえる。

 

 だが、野蛮に沈んだ無法の地に、抜け目のない盗賊は何処にでもおり、蛮族や人狩りの労働力を狙っての小規模な襲撃や拉致もまた、繰り返される日常であった。

 近隣住民が貧しければ、家財や収穫物、家畜を狙っての泥棒も絶えることがない。拡張性に恵まれたか。或いは、古くから栄えてきたか。数十戸、百人単位の惣村や居留地でも油断してはならない。住みやすい土地は、狙われやすい土地であり、それ自体が貴重な財産だ。

 浮浪傭兵や無宿人たちは言うに及ばず、浮浪者や乞食などの放浪民も時に恐るべき脅威に膨れ上がる。数十人、或いは百人以上の徒党を組んで押し寄せる腹を空かせた難民や流民が、元の住人を追い払って村や住居を乗っ取ってしまうことも、稀ではあるが聞かない話でもない。

 

 

 それでも、おのれの邦《くに》だけは大丈夫だと思っていた。満更の思い込みだけではない。複数の村が連携しての防衛線を構築した領地は、中々に堅固で盗賊傭兵や怪物どもの襲来を幾度となく防いできていたのだ。

 七か村に、村人が千を数える大きな領地だった。一つの村ごとに騎士と従騎士、従者や兵士たちが十人から駐屯し、中央に位置する館は厳重に守られて、小さな砦のごとき様相を為していた。近隣の騎士たちの勢力や兵士とて、似通ったドングリの背比べであり、精々が豪族と呼べる程度。諸侯と呼べるほどの者もいなかったのだ。

 

 だから、ガルダ領は安全だ。三日月状の湖畔諸邦が統一されたり、外部から強大な勢力が襲来して呑み込まれるにしても、それはずっと遠い先。

 時折の小競り合いはあっても、これまで百年以上も安定した時代が続いてきた。自分が生きてる間には、破滅も大きな戦乱も起こりえず、これまでの百年と同様、存続するに違いない。おのれの血統も、これから先の時代を変わらずに平穏と暮らしていけると考えていた。いずれは長じてどこかの家に嫁いで誰かと結ばれ、子を作り、また血が連綿と受け継がれていく――セシリアは、無邪気にそう信じていたのだ。

 

 

 だけど、それも幻想に過ぎなかった。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 喉の渇きに目を覚ます。天幕の分厚い帆布を通しても、薄く白く輝いている。

 早朝だった。

 最初に支給された時は、なんだ、これと思ったけど、確かに高価な良い天幕だ。

 今の季節、夜でも寝苦しいくらいに暖かく過ごせている。ただ、曠野の冬が冷たく厳しいと囁かれている。どうなるかは分からない。

 

 

 他の人を起こさぬよう、寝台からそっと身を起こした。

 木材を組んで藁と布を用いての簡素な寝台だが、土地の庶民には贅沢品らしい。

 そう言えば、地元でも農民の大半は床に毛布や藁布団で寝ていた。

 地べたに毛布を敷いて寝ると、冷たい地面が熱を奪う。相当に涼しい土地だ。夏なら大丈夫だが、他所から来た人なら、寝台で眠るよう習慣づけておいた方がいいと、親切な大工が組み立ててくれた。

 

 どちらにしろ、日当は世話人の参事から貰ってるらしいが。

 その世話人のジャッコーニ参事も文句も言ってこない。

 親切な人々が多い。短いとは言え、旅してきた。悪い町でないのは分かる。

 途中の町より、雰囲気がずっと穏やかだった。目を掛けられているうちに、馴染む努力を重ねるべきだろう。小娘でもそれくらいは理解している。理解はしている。

 

 姫さまたちと同じ天幕に寝起きしている。

 かつて館に部屋を与えられていた時は、四人部屋だったけれど、遥かに気楽だった。礼儀見習いを兼ねて館に上がった同年代の少女たちと将来の夢を話したり、里帰りした時のお土産を分け合ったものだ。ガルダが失陥した最後の日、館には敵兵がなだれ込んでいたが、あの子たちはどうなっただろう、と頭の片隅で思った。

 

 隅の水瓶に向かい、柄杓でコップに水を注ぎ、一口分だけ飲んだ。この土地は水が高い。召使は、無駄に使うべきではない。

 五代か、六代前が兄弟だったとかの遠い縁戚で、こんな地の果てにまで付いてきてしまった。

 事態が混乱していて、つい付き従ってきたけど、逃げても良かったのではないだろうか。

 ガルダに残ってたら、どうなってただろうか?

 捕まれば、乱暴されたかな?それとも、小娘だから見逃されただろうか?

 上手く家まで逃れていたら、お父さん、お母さんは迎え入れてくれただろう。

 館に勤めていたと言っても、侍女見習いに過ぎない――召使いよりは上にしても、おそらくは放置されたかも。都合のいい考えだろうか。

 

 

 

 ガルダからの亡命者一行でもっとも身分が低いのはセシリアであった。

 最初は、召使いもいれば、下女もいたが、謝りながら逃げてしまった。

 それも無理はない。兵士たちのように、殺される末路よりはましだろう。

 ただ、追手側に情報を売ると言う裏切り者はいなかったと思いたい。

 なにしろ、小さな邦《くに》だった。そこら辺の自由農民でも五、六代を遡れば、殿様と血が繋がっているのは珍しくなかった。

 セシリアでさえ、姫の遠い親戚である。だから、なんだと言う訳でもないが。

 小さな郷に千人が暮らしているなら、かなりが顔見知りになる。

 その分、税は緩かったし、結束も固かった。なにしろ、大半が親戚だ。

 

 落ち延びる姫を守る一行は、当初十六名。うち六名が男性の兵士。

 皆、信頼できる使い手で、同性と言う事で選ばれた女性兵士たちも、一人前には戦えるはずだった。中途でうち五名が脱落した。

 他にも、逸れた者たちもいれば、途中で逃げ出した者。朝起きたら、荷と共にいなくなっていた雇い人もいた。元より、高級な荷は持たせてなかったが、その時の姫は、些か気持ちが参っていたように見えた。

 

 そもそもガルダ郷とて、武に拠って立つ騎士領である。巨大蟻や変異獣の巣窟であった渓谷を、剣を持って切り開いたのを始まりとする土地だ。

 小なりとはいえ、独立不羈の封建領として相応の守りは備えていた。

 村も堅固に守られて、五人や十人の盗賊や傭兵が襲い掛かってこようと守り抜けるだけの備えは為されていた。館は当然にそれよりも強固に守られており、易々と失陥させような力は、近隣の郷士豪族になかった筈だ。

 

 それが黒騎士グレアム。湿原諸邦に畏れられる【死手《デス・ハンズ》】が一人。 

 近隣の郷士豪族に雇えるはずもない歴戦の傭兵騎士が何故か、寄せ手に加わっており、そして、いかに勇猛なガルダの騎士団とは言え、黒騎士グレアムが相手では……

 館に攻めよせてきた時に、裏切り者も出た。或いは、草かな。館内から火が出るとあっという間に門の守りが破られた。【死手《デス・ハンズ》】とその手勢の追撃は、熾烈を極めて――

 

 ポレシャ市に逃げ込んだは良いけれど、黒騎士たちがやってきたらどうなるか。

 ジャッコーニ参事は「黒騎士の二人や三人、どうとでもなる」なんて事もなげに言っていたけれど、あいつら、途中で助けてくれた農場や小さな町を丸ごと焼き払うくらいは平気でしてくる猛悪な傭兵騎士たちだ。正直、一つの町では、黒騎士とその手勢を相手取るのは手に余るのではないかと不安も抱いている。親切にしてくれた老人が崩れ壊れる姿など、二度と見たいものではなかった。

 

 

 まだ早いうちに起き、辺りが充分に明るんでくると長持ちから簡素な少年用の着替えを取り出した。小姓服は、元は逃げ出した少年の持ち物だ。人が脱落していくうちにも、なにか役立つかと持ち歩いていたが、今は保安官補から貰った街に馴染める服装を纏った。これは動きやすく頑丈で、やや厚いが良い生地で出来ている。痛みも少ない。着替えて天幕から出る前に、縄で結んだ小さな壺を両手に一つずつ持っている。

 

 

 昨日の冷えた粥が、鉄三脚の鍋の底に残っていた。それに軽く塩を振って、急いでお腹へと入れる。食事は朝夕に二回。大抵、夕飯を纏めて作るのは、薪を節約する為だ。その他は、軽食を何度か取りながら一日を過ごす。

 

 既に起きていた老執事から水代を預かり、「危険な場所は避けるように。出来るだけ安いに越したことはないが、一番は綺麗な水を探しなさい」細かい注意に頷き返しながら、木扉を開けて表通りへと進み出た。

 一度、あまり良くない水を売りつけられている。慣れない土地で失敗した。

 近くの通りを水売りが差し掛かるので水を購入するのだ。ガルダから持ち込んだ若干の銀貨と銅貨は通用するし、紙幣もまだ両替できた。それに市から幾らかの食料配給券も支給されていて、これが通貨の役割もしていた。だけど、流通と大量生産の潰えた廃墟の時代。ポレシャ市のような大きな町でも、現金よりは現物――物々交換の方が随分と強かった。

 

 

 水は毎回、別の水売りから買っている。赤泥のジルカがどうやってか、標的を突き止めてくるなら、地元に馴染んだ商人に聞き込みするのではないかと懸念したからだ。こういう所から足がつくかもしれない。とは言え、単なる想像に過ぎないけれど。一口に水売りといっても、その形態や規模はさまざまだ。天秤桶を担ぐ者。驢馬に水桶や壺を括り付けた者。屋根の下で、水の満ちた壺の傍らに座る者。荷車や荷馬車に壺や桶、樽を積んで配送する者などがいる。

 

 売り手も老若男女。大人と共に壺を運び、荷馬車を押す少年少女。単独商売の老人。家屋で水売りをする女。酒場やらの注文先に樽を運び込む屈強の男など。リットル、ガロンで売るものもいれば、一杯単位で売ってる者もいる。水だって湖水。井戸水。浄水器に入れた水。一度、蒸留した水と、それぞれの値段が違い、しかも、旅人や他所者にはただの湖水や池の水を蒸留しただの、浄水器に入れただのと偽って売るものまでいた。湿原地帯では想像もつかないことだが、綺麗な地下水や井戸水よりも、エールのほうが安いほどだ。

 

 

 ポレシャ市の西には居住区を守る大防壁がある。古いビル街や住宅を其の儘、出入り口を塞ぎ、路地や道路、空き地は土塁を積み上げ、ベトンや瓦礫の石積みで補強し、廃車を積み上げて改装した全長数キロに及ぶ巨大な防壁だ。 なので、かなり離れているポレシャの各地区を、日中は比較的、安全に往来できる。

 

 隣町と言うか。南に『中町』と呼ばれる区域があり、そこではさらに品質のいい水が売っている。薪に木炭、炭団子の行商や露店、店舗もあれば、鍛冶師や鋳掛屋の小さな工房や出店も通りに並んでいる。干し草、藁に紙、皮革や布、粘土を売る店もあった。木工職人の店では食器も売っているし、家具の交換や売買、修繕をする家具店。衣服を修繕する針子もいる。職工や職人の多い地区だ。

 

 これら大半の品物は、実は町外れ地区でも安めに購入できる。逆に鉄くずや玩具、火薬に鉛玉、医薬品、新鮮な野菜や果物など、農民や廃墟漁り(スカベンジャー)、外の行商が持ち寄る外来品などは、町外れの方が手に入りやすい。品質もそう悪くないが、行商人や露店、屋台はいつ休むかも分からず、品切れの品も多かった。なにしろ農夫や職工が余りものを売りに来るだけの兼業商人も多いからだ。

 

 

 

―――――

 

 

 

 街について色々と教えてくれるのは、ご近所の少女トリスである。もう一人の世話人マギーは、保安官助手に行商人を兼ねているそうだ。トリスはそんなマギーに使われている徒弟の若い少女で、連絡が必要なときは言付けを頼めばよいとマギーには言われている。

 勇敢な娘だ。初めて会った時、破落戸みたいな露天商たちから助けてくれた。町の行商人の徒弟で一つ目の変異者だが、毎日が楽しくてたまらないと言った様子で、猫耳の相棒と共に歩き回っている。何度か様子を見に来てくれて、今もよく早朝に顔を合わせる。

 

 ココは、よくいるただの猫耳だ。気まぐれで呑気。やや怠け者。こちらは兎も角、時々、一緒にいるのを見かけるのがニナ。ちょっと眼付きの鋭い娘さんで、雰囲気が恐かった。何処を見てるか分からない眠たげな眼と、口元の薄いほほ笑みには見覚えがある。

 故郷の村の酒場でも時々、見かけた熟練の廃墟漁り……と言うよりも、遺失技術探索者《テックハンター》たちがああいう目をしていた。

 トリス曰く『親方の行商の相棒だよ』だそうだけど。

 穏やかでどこか茫洋とした保安官助手にとっては、用心棒なのだろうか?

 

 セシリアは水売りを探し、通りや路地を歩き回った。毎日、少しずつ近所の地理に詳しくなっていった。地区でも細い路地や古い建物の出入り口などは、木柵や土嚢。それに木の壁や瓦礫を積んで封鎖されている。時折、壁の向こうから野良犬の吠え声や巨大な鼠たちの鳴き声。或いは巨大蟻の顎を鳴らす音に屍者の呻きまで響いてくるが、通行人たちはさほど脅えた様子も見せずに、用心深そうに塞がれた通路や扉を一瞥しつつも、其の儘に通り過ぎていった。

 

 

 通りで天秤棒を担いだ少年――もしかすると少女かもしれないが、まず値段を確認してから水を買う。「飲める水だよ」と言いながら、水壺の蓋を開けると柄杓でセシリアの壺に水を注ぐ。

 蓋ぎりぎりまで入れると、支払いを済ませた。水売りが来た道を引き返していくのは水が売れたので、貯水槽かなにかに水を補充しに戻るのだろうか。

 

 

 浄水器で濾した水と湖や泉で汲んできただけの水ではそれぞれに違う。池や沼の水、雨水、時間が経った水でも、匂いや舌ざわりはやはり違うのだ。古い水だと腹を壊したりするので、地区の鑑札を持ってる水売りから買うようにしている。

 水を運ぶ前に、買った場所と日時。値段と量。相手の名前をメモしておく。これは相場を調べるのと他の人にも教える為だ。水の質も後で追記する。元より、セシリアは、侍女見習で利け者と褒められていた。だから、供に選ばれたのかも知れないが。

 

 路地奥の天幕が置かれた空き地へと戻った。皆が食事を取っていた。

 セシリアが水を置いて手を擦る。姫がこちらを見て、ご苦労、と頷いた。

 そんな一言でも、報われる気はするが、しかし……

 起きていない者もいる。疲れが溜まっているのか。

 夜の見張りに付いていた女兵士イヴリンが、壁に寄り掛かりながら船を漕いでいた。寝顔を見るとあどけない。きっと二十歳前だろう。十代も半ばになってないセシリアに言われたくはないかも知れないが。セシリアは一行で最年少なので、あまり話さない。顔くらいは知っていても、逃避行の際、初めて名前を聞いたり、話をした者も多いのだ。元からの顔見知りは、姫さまと、あとは老執事くらいだ。

 

 

 水はそこそこ重たい。両手で五キロほどだろうか。八人には、全然足りない。

 怪我人もいる。身を清めるのに、日に何回となく買いに行かなければならない。

 セシリアだけでなく、若い兵士のコリンも買ってくる。

 可愛い水売り娘と話し込んで、少し高めの水を。馬鹿だ、とは思うけど。ついてきただけでも有難いし、致命的なほどではない。誰もが不安なのだから、セシリアも見て見ぬ振りをしている。

 

 ただ、金が足りるのかな。とセシリアは不安に苛まれる。若干の金と銀を持ち込んだとは知っている。ただし、人が運べる程度の量でしかない。

 どんな大金だって、いずれは尽きる。

 これから、どうなるのだろうか。有り体に言って不安だった。

 

 姫さまに何処まで付いていくべきだろうか。

 忠誠心がない訳ではない。なかったら、こんな地の果てにまで付いては来ない。

 だけど、まったく知らない未知の土地で言葉さえも少し違う。文法は基本同じだけど訛りや単語の意味、発音が少しだけ違うのだ。

 方言程度の違いだから、何とかなってるけれど。

 

 

 曠野は、何もかもが乾いた土地だった。

 息苦しさが付き纏うほど、空気も、大地も乾いている。

 迂闊に半日、蓋を閉め忘れただけで壺の水が目減りしている。

 枕元に零した涙の跡さえ、いつの間にやら消えていた。

 

 水が乏しい。公衆トイレの使用に一々、代金が必要でトイレットペーパーも馬鹿にならない。葉っぱで拭いたり、棒で拭って洗いつつ使う人も多い。

 町中は案外、土地が狭い。正確には、安全な区画は狭いだが。

 湿気がないのはいいと思ったが、無さ過ぎる。肌がかさかさと乾燥する。

 薪が信じられない程に高い。三倍近くもする。

 放っておけば、庭に雑草が蔓延る湿原地方と違い、食いつくした草は百年後も荒地のままだ。同じ種類の雑木が育つまで、倍も時間が掛かる。米も魚も食べられない。清酒もない。

 

 生き物の種類まで違う。水生の怪物や爬虫類、巨大な羽虫がいない代わり、不気味な巨大蟻や蠍が渇いた大地に彷徨っている。

 湿地帯ではあまり見ない屍者が幾らでも湧いてくるし、代わりと言ってはなんだが、水生の廃墟に適応した変異者の群れは殆んどいない。

 

 慣れないといけない。

 

 

 

 

 

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