黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_90F 暗中模索

 ポレシャ市の世話役たちは、滞在中のガルダ人一行にかなりの糧食を提供していた。保存の効く大麦に雑穀の袋が主体で、後は二日に一度、若干の野菜や肉が使いの者たちによって届けられている。

 

 トリスたちが亡命者たちの寝起きする空き地の天幕を来訪したのは、まさに昼前。

「わあ、玄関が出来てるよ」「にゃあー」などと騒がしくも楽しげな声と共に、路地奥の木扉を開けて入ってくると。

「食べ物でぇす」「ぶにゃあ」徒弟トリスと猫耳ココが、抱えていた袋をゆっくりと毛布の上に置いた。それからセシリアを見据えると「ヘーロウ」と親しげに手を振ってくる。セシリアもやや気乗りしないまま「ヘーロウ」と生返事を返した。

 

 差しいれの中身は大麦と燕麦。脱穀済みだが、半年から一年程度は保つ。大麦など、そのまま茹でるだけで粥にできる。パンが食べたいなら粉屋に挽いて貰い、パン窯を借りて焼くのだ。

 あとは比較的に安価なライ麦と蕎麦を少量。旨くもないが、栄養学的にはバランスがよろしい。家庭用の小さな臼と杵で粉にして、少量を薄焼きパンにしている。

 

 

 流石に亡命者八人に高価な小麦パンを提供していいと思うほどの余裕は、世話役マギーにもなかった。議会から予算は受け取っているが、ほんの志程度。当然に赤字が出ている。とは言え、マギーは気にした様子はない。辺土の市《ブーク》や都市に有力な市民や裕福な住人がなんらかの役割や仕事を割り振られるのは付き物である。逆に言えば、居住者の一人として認められたと言う事でもあるのだ。

 

 よくある話だと、徒弟トリスは親方の思惑に関して語ってくれた。だけど、それ以上は黙して語らない。トリスがセシリアに語ったと言うことは、つまり、姫さまに伝えろと言う事だろうか。迷いつつも、そう判断したセシリアは、相手にも思惑はあるとそれとなく伝えることにした。亡命者一行の不安を和らげるためであり、そしてマギーに対して、些かの感謝を忘れないようにと。

 

 

 多分に忠告も兼ねているとみたセシリアが「これは、あちらの徒弟が語っていた事なのですけれど……」と補足しつつも、トリスの語った言葉を其の儘に老執事へと伝えてみた。老執事は、姫さまの前で繰り返させてからセシリアに向かって「お主を連れてきてよかった」と頷いた。恐らくは誉め言葉だが、故郷に留まりたかったセシリアはやや複雑な面持ちで肯いた。

 兎も角、執事殿と姫さまは先日、マギーが顔を見せた際、直々に礼の言葉を伝えた。商人は、苦笑を浮かべてから、一応は恭しく肯いてみせた。

 

 姫さまや老執事とマギー、そしてニナは、しばらく南方の情勢について話し込んでいた。湖畔の湿原諸邦で、知る限りの諸侯――ではなく、郷士や豪族たちの動向や性格、産物などについて。きっと、それが食料を提供している対価と言うことだろうか。幾つかの有名な傭兵団や黒騎士、自由騎兵についても話題に上がっていた。

 

 北の行商人が湖畔諸邦の傭兵に付いて知ってどうするのだろう?

 疑問を抱いたセシリアだが、トリスは「己が赴かなくても、南に向かう行商人に対しての通貨になるからね」と教えてくれた。まったく、商人とは抜け目のない生き物だが、教えると言う事は、隠す程の考えですらないのだ。

 

 

 引き出せる情報が無くなったら、果たしてマギーたちはどう振舞うだろうか。

 少なくとも、今は、対応が変わる様子は見せない。まだ利用価値があると見られてれているのか。それからも食料は差し入れられているし、目を負傷した兵士のボーモンも、治療院へと入院させてもらった。これはジャッコーニ参事の計らいだそうだ。

 おのれの判断が正解なのか。いつまで、市から世話をしてもらえるのか。

 手持ちの資金がどれだけ持つのか。セシリアには、なにも分からない。

 

 

 負傷した兵士ボーモンの目は治るのだろうか。

 兵士コリンも同僚の傷を気にしていた。

 医療費は幾らかかるだろう。姫さまは払うと言ってたが。

 殿様が健在だった頃、館では引き取った老兵や不具となった兵士たちは大広間でも暖炉のすぐ傍、火に当たれる位置に居場所を与えられていた。

 故国ガルダの廃兵たちはどうなっただろうか。ポレシャ市に廃兵院や傷痍年金があっても、他所の土地の兵士を面倒見てくれはすまい。多分に誰もが不安に苛まれつつも、日々を過ごしていた。

 

 南からの刺客【赤泥】のジルカは、すでにポレシャ市内に潜伏しているとも聞かされた。ある意味で、ジルカよりも恐ろしい【死手《デス・ハンズ》】黒騎士グレアムは、何処まで迫ってきているのだろうか。

 数名の浮浪傭兵を雇うにもピイピイしていたはずの貧乏郷士たちが、あのような名うての手練どもを一党丸ごと、何故、いかにして動かしたのか。

 侍女見習いに過ぎないセシリアには、何処の誰が攻め寄せたのかも、未だによく分かっていない。ただ、ガルダ郷を根こそぎ搾り上げようとも、報酬に見合うはずもないものを。

 

 

 

「野菜は、此処に置いておきまぁす」「うにゃあ」商人の徒弟たちは、屈託とは無縁の笑顔を浮かべながら、働き続けていた。

 老執事が「ご苦労」と頷いてる。本来であれば、代金を支払うなり、請求書を受け取るなりをするのだろうが、今は亡命者として援助に頼りきりの苦しい立場。

 気まずげに咳ばらいを一つして「主のマギー殿に礼を伝えてくれ」と徒弟に重々しく告げていた。

 

 はぁい、と返答したトリス。「この時期は、汗かくので、チーズとバターを入れたスープも美味しいですよぉ」言った後に「そうだ。チーズにバターとか、後は水とかその他とか、安く売ってる店に案内しましょうかぁ?」

 セシリアの腕に抱き着くと、「丁度、お祭りだし」と、そう提案してきた。

 老執事は、ふむん、と顎を撫でた。それから意見を伺うように姫君に視線を向けて「どういたしますか?」

 

 姫さまは通りの喧騒に耳を傾けながら、「今日は、祭りであったな」穏やかに呟くと「一日、好きにするがいい。

 明日はイヴリン。明後日はコリンが休みとしよう」そう告げてきた。

「よい御考えかと」と老執事が肯いた。

 セシリア、と呼びよせると、姫さまは執事から受け取った幾らかの紙幣と銅貨を手渡してくる。

「いまだ使えるようだ。紙幣から使うがいい」姫さまはそう告げながら、まだ幼さの残る侍女見習いを優しく撫でた。

 

 トリスたちは、年長の女兵士イヴリンとも簡単な世間話は交わしていた。

 イヴリンは忠実で善良だが、若い割に、やや愚直で頑固な気質がある。

 トリスの会話の匂わせるような語彙にも、全く気の利いた反応は示さなかった。

 或いは、理解していても性格的に応じる気持ちにならなかったのかも知れない。

 

 同じく下っ端である若い兵士コリンは、全く駄目だ。だって、下町の水売り娘に良いようにされちゃってるから、商人徒弟の含みのある会話なんて、まったく理解できないだろう。町の商人たちは、まったく回りくどい会話が好きなようだ。

 仮にセシリアも意味が分からなかったら、どうなってたのだろう。それでも見放される、と言う事はなかったと思うが、ただ、少しだけ距離を取られてたかもしれない。

 

 多分、そこら辺が、トリスがメッセンジャーとしてセシリアを選んだ理由だろう。

 イヴリンやコリンの前では、トリスたちはまったく年齢相応の、やや無邪気な商人徒弟の少女として振舞っている。文字通りに猫を被るっていうやつだ。

 

 

 

 休暇をもぎ取ってくれたことには本来、感謝すべきだろうか。

 自由市場から、地区の出店が出ていたり、旅芸人一座が芸を披露している十字路や広場を目指して歩き始める。

「今日一日、お祭りを廻ろう」腕組みしながら、トリスが鼻歌を歌っていた。

 反対側では猫耳少女のココがにゃがにゃあと鳴きながら、飛行機の木工玩具を振り回している。セシリアより多少、年上なのに、こんな振舞いだけは、ガルダ領の少年少女よりも子供染みていた。

「何故?」セシリアが尋ねると、トリスは軽く首を傾げた。

「何故、と言う意味が、どうして誘ったかなら、鬱屈した顔をしていた」

 顔に触れつつ「……そうかな」と言うと「そうだよ」頬を軽く指で突つかれて断言された。にゃあ、とココが背後からセシリアに花冠を被せてきた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 【赤泥】のジルカがポレシャ市に身を潜めてより、ほぼ一日。ジャッコーニ参事と、その意を受けたマギーを含む法執行官たちは、あっさりとジルカの足取りを見失っていた。

 

 とはいえ、ポレシャ市の保安官事務所や市民軍が取り立てて無能な訳でもない。

 そもそもがガルダ人亡命者の受け入れも、市参事会で全会一致の決定があったわけでもない。古い条約を重んじる一部参事たちが独断で受け入れただけの、自由居留地圏にはありがちな玉虫色の判断であった。

 自然、ガルダ人たちを守る為に動かせる人員も限られたものとなるし、また、【赤泥】のジルカが市内に潜入したと言う情報ですら、元をたどれば些かいかがわしい出自の一衛兵からの報告に過ぎないとくれば、正規の人員を動かすには法的根拠も、確たる証拠も、現状、何もかもが足りなかった。

 

 老パオロ。パオロ・ジャッコーニ参事には、些か理想主義的な一面がある。自由主義的な政体が結んだ条約は、守れるだけ守るべきと考える人物であって、ひいてはそれがポレシャ市の為になるとも信じていたが、しかし、現実に動かせる手勢は余り多くない。

 

 民兵隊や保安官事務所に幾人かの知り合いはいるが、親しく付き合う保安官助手のマギーが、恐らくは一番頼れるだろう。パオロ参事は議会の代表ではなく、有力ではあるが一参事に過ぎない。また、亡命者の件についても、議会で決議された訳ではなく、正規の手順で滞在許可を取っただけであった。それでも、老参事は出来るだけのことはしようと考えていた。この場合の出来るだけとは言い訳ではなく、己の財産や時間をかなり割いてでも、の出来るだけである。

 

 トリスの親方であるマギーは、老パオロに付き合うつもりであった。

(多分、同情したのだろうな……物好きな)と思いつつも、実際のところ、老人の酔狂が嫌いではない。それにおのれの人生に関しても、利益を求めるだけではいささか味気ない。人助けや友情、冒険による彩りもあった方が退屈せずに済むと言うものだ。

 

 

 まだ日差しの穏やかな午前。部下のジーナ・エクルストンと連れだって下層地区出入り口へと赴いたマギーは、保安官助手としての職務に励んでいた。

 人出は多い。夏至の祭りに町が浮き立っている中、他所からの来訪者だけでも常よりも倍以上に膨れ上がっていた。近隣の農村や農場、小居留地と外地区の住人らに普段から付き合いのある牧者衆、鉱夫団、木こり団に森の民、沼沢地の住人らなども顔を見せていた。

 

 夏至祭の噂を聞きつけた流れ職工や外来の行商人もいれば、驢馬や痩せ牛、犬の荷車に荷を運ばせている顔見知りの馬喰や農夫らに、廃墟漁り(スカベンジャー)らもいる。見慣れぬ顔の物売りに芸人。近場の猟師、薬草売りや花売りに加えて、遠来からの無宿人《ノークォーター》や流れの傭兵、流浪の銃士《ガンマン》や博打打ち(ギャンブラー)、巡礼や乞食坊主の類なども紛れ込んでいた。

 

 財布をすられたと騒ぐ者や、順番を巡って揉める者もいれば、番人たちは慣れた様子で間に入っては、引き剝がしていた。兎に角、傭兵や無宿人《ノークォーター》の団体は、そのままでは入れない。変装されたり、中で合流されたらそれまでだが――入れる時には、補償金や強力な飛び道具は預かっておく。

 曠野の無頼らも、大型居留地と無闇に揉めようとは考えないようで、今のところ、大人しく指示には従っていた。十数名の傭兵団であっても、市の警備隊が相手となると、流石に太刀打ちできるものではないのだ。

 

 それでも傭兵団に対応するうちには、神経質に汗を掻いている門番らも少なくない。こうした無宿人《ノークォーター》や傭兵らは、得てして自警団の大半よりも強力な武装を抱えており、いざ暴れ始めたり、暴力を匂わされたら、地区の自警団に抑えきれるものではなかった。

 一方で、そうした傭兵や無宿人《ノークォーター》の類は、屍者や変異獣が襲来したり、盗賊団や略奪者《レイダー》、無法者《アウトロー》を相手取る際には、心強い雇い兵として役立つのも確かであったから、あまり無碍にできるものでもない。要するに出入口の検問とは、特に祭日は、自警団員にとって神経を削る仕事であった。

 

 

 

「どうにも、忙しそうで気が引けるよ」マギーは言いながらも、保安官助手としての職務に精励すべく、門番のトムを呼び出した。南方よりの刺客・賞金稼ぎである【赤泥】ジルカが訪れた際、地区出入り口の当直として、ジルカ一行を検め、若干の問答をした自警団員だ。

 

「全部で三人?」とマギーが問いかけると「それは、間違いなく」トムは頷いた。

「無宿人《ノークォーター》か、浮浪傭兵みたいな身なりをしていた。

 背の高い男と、若い女が二人」と告げてくる。ポレシャの自警団員であれば、満更の無能はいない。

「ジルカの面相は?」重ねてのマギーの質問に「派手な入れ墨が、こう赤い文字で頬に」とトムは言い淀む。さすがに印象に残った事しか話せない。日に何十人と通り過ぎるのだ。

「来た場所……旅券の発行元がええ、と。フェイ……」そこで口籠ったトムに対し、思わずマギーは「……フェイルノート?」と口を出した。

「そう、そこだ」肯いたトムだが、やらかしたマギーは咄と舌打ちした。

 間抜けしてしまった。自分から口にしては、証言としてあまり価値がない。とは言え、法執行官としては、パートタイムの素人。賞金稼ぎを引退して五年以上経ち、勘も鈍ってるようだ。

 

「あとは、昔馴染みだって、ジョージアさんが引き継いで……その間に、そのジルカの仲間って奴に、ジョージアの事を色々喋っちまったよ」とトムは頭を掻いた。

「どうせ、在る事ない事……いや、上出来だよ。トミー。

 思い出せる限りで後でリストにしておいて」

 指揮系統的には、保安官は自警団の上層なので、マギーも一応の上司に当たる。ご機嫌を取るように綽名で親しげに呼ぶも「へぇい」仕事が増えた自警団員は、露骨に気の乗らない返答をしながら検問に戻っていった。

 

 

 保安官用手帳に情報を書き込みつつ、マギーはジーナ・エクルストンと視線を合わせた。

「フェイルノートは、芸人一座の旅券の行き先にもあったな」と記憶を探りつつ、マギー。調査用のメモで確かめてみれば、やはり主な行き先の一つに上がっていた。

「旅芸人一座の遍歴と、ジルカの標的の名前と場所、時期を組み合わせてみます?」とジーナ・E(エクルストン)が提案するも「曠野ならともかく、南方の暗殺された人物なんて調べられん」保安官助手マギーは首を振った。

「それよりも、気の効いた浮浪者か、乞食に、それとなく芸人一座を見張らせておこう。

 まあ、大勢いるが。誰がジルカの協力者か分からん」マギーはぼやきつつ、使う人員を思案した。手下も際限なくいる訳ではないし、依頼すればするほどに支出も増える。似顔絵を複製し、市内の密偵に廻すだけでも金や食料が掛かるのだ。

 

 手配書となれば猶更である。判事なり、保安官なりに相応の根拠や証拠を示す必要があるが、赤泥のジルカはまだ何もしていない。官憲が好き勝手出来ない。逆に自分が怪しい動きをしてもそれだけでは逮捕されない。自由主義社会だからこその代償だ。

 

 

 だけど、ジルカに協力者はいる――筈だ。短時間で広大な市街地に身を潜めた標的を突き止めるには、三人ばかりで探し回るのは、あまりにも非効率だ。

 だから、南方から来訪してきた遍歴の民をそれとなく監視させている。他に隠れた影の仲間がいるのかも知れないし、別のネットワークから情報を得ているかも知れないが、マギーの手も限られている。誰もが手持ちの札で勝負せざるを得ない。

 敵の姿が見えない中、推測でその工作活動を想定し、それに対して有効なはずの対策を組み立てて、確率とコストを考慮して打っていく。推測にさらに憶測を重ねている。もしかしたら、全く見当違いの手を打ってるかも知れない。不確かさへの恐れは、マギーのうちにも若干だがあった。

 

 手強い相手と相まみえる時は大抵、正面からの衝突とは別の、見えない領域での決断や推測が求められる。相手も同じ領域で戦っていると言う事だろうか。

 ならば、ジルカも、不安は感じて、息抜きに青空を見上げたりするのだろうか。

 どこかで息を潜めながら、今は知る由もないなにかしらの判断や思考を積み重ねているのかも知れない。

 

 或いは、内通者を使っている可能性もあるが。間者まで仕込まれていたら、最初から勝ち目は薄い。亡命者たち自身の失態でもある。流石に、マギーも責任は持てない。

「もしかしたら、意味もないけれど……やらないよりましか」それでも、手がかりもない状況で、マギーは次善の手を幾つとなく打ち続けている。蓄積した手がどれほど有効かは、分からない。ただ、どれかに引っ掛かればいいと期待するだけだ。

 

 

 いささか汗を掻いたので、大通りで出店をしている茶店の軒先で紅茶を二杯頼んだ。

 甘いビスケットを齧りつつ、市内の諜報網や重点に関して打ち合わせをしていると「しかし、ジョージアを信じて大丈夫でしょうか?」ジーナ・E(エクルストン)が妙なことを言い出した。

「うん?」と首を傾げるマギー。

「だって偶々、赤泥のジルカと知り合いで、馬鹿正直にお姫さまを狙っている事を教えてくれた。ジルカは馬鹿ですか?」呆れたように鼻を鳴らすジーナ・E(エクルストン)。

 

 少し考えてからマギーは「ジョージアは南方の出だ。賞金稼ぎの同業者。以前にジルカと組んだこともあったんだろうな」と告げる。

「それはそれで拙い気もしますがね。他に狙いがあるのかも」とジーナ・E(エクルストン)。マギーは片目を閉じた。

 

 賞金稼ぎが知己の同業者に声を掛けるのは、それほど不自然ではない。

 横の繋がりも、情報の売買も、そして治安関係に就職しているのも、味方になるか、敵に回るか分からないのも、全てがよくある事象だった。

 

 大組織の陰謀の端緒であったり、他にポレシャ市そのものを的にした陰謀で在ったりと、あまり考えても意味がなかった。

 ポレシャ市は、自由居留地圏の南方からの玄関口だ。南には他に幾つか居留地が点在しているが、緩衝地帯にある勢力の常としての向背常ならぬ政治的動向は、同盟者として到底、信頼できる態度ではなかった。

 いきおい、湿原諸邦からの傭兵団の侵入や騎行《カバルガータ》戦術などを最初に引き受けざるを得ない地勢がポレシャ圏の役割となる。なるようにしかならない。

 

 そうした懸念も、考えも、全てをジーナに説明してみた上で、マギーは自問自答してみる。

「偽りだとして、なんの仕込みだ?わたしに賞金でも掛かったか?ポレシャを狙うどこかの諜報員か?」呟いてから、どうでもよさそうに「この件では、ジョージアを信じる」マギーは断言した。

「リリーへの態度も、堅気に成りたいのも本気だろう。まあ、もしかしたら、なにかの陰謀で私を狙ってる奴に雇われたとかあるかも知れん」己を鈍いとは考えてないマギーだが、他人の嘘を全て見抜けるとも考えてない。

「これで騙されたとしたら、どうしようもない。

 今回は、ある程度、ジョージアを信じないと始まらない」

 割り切ったマギーの言葉に、ジーナ・E(エクルストン)は考え込んでから「分かりました」頷いた。

 

 それからマギーは、ジーナ・E(エクルストン)の耳元に唇を近づけて、囁いた。

「それにそもそも、守り切れなくて元々なのだ」

「え?そうなん?」ジーナ・E(エクルストン)が驚いたように目を瞬いた。

「ジルカを撃退できればよし。駄目でも、やれるだけやったと言う姿勢は参事会に見せておく」失敗時の着地の見せ方も大事なんだよ、とマギーがこそっと囁くと「……うわぁ」ジーナ・E(エクルストン)は苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 すぐに理想社会を作りたがる物語は多いけど、そこそこいい社会を悪くならないように踏ん張って運営する描写が好きなんだ。

 色んな立場に成りえる。それを選ぶしかない人もいる。いいよね。

 

 

 

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