黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_90I 愛と痛み

 廃市街は人の居住域として扱われている。例え、時々は、怪物が居住区に迷い込むにしても―――日が暮れる前に、住処の窓や扉には土嚢が詰まれ、夜な夜な、こん棒や粗末な槍。貧弱なクロスボウを持った誰かしらが、怯えつつも扉の傍で不寝番を務めるとしても。

 

 大通りに露店や屋台は少ないが、いつでも素早く逃げられる量の荷を背負った商人は見かけられる。食べ物や薪、炭団子なども買えるし、鉛や鉄、錫に真鍮の貨幣がやり取りされている。例え、建物ひとつ隔てた裏路地に屍者たちの群れが犇めき合おうが、変異獣が壁の向こう側に彷徨っていようが、明日には消え去っていても不思議ないとしても、人々が纏まって暮らせるなら、そこは人類の居住区であった。

 

 近場の居留地の青銅貨や大ぶりの銅貨も見られるが、銀貨は滅多に流通せず、紙幣はあまり信用されない。布や革の財布を胸や腰に吊るす人々は、息を潜めて暮らしている。赤子は好まれない。鳴き声は怪物どもを引き付ける。それでも子は産まれるし、子供たちは静かに暮らすよう躾けられる。時に人買いや奴隷商人が訪れて、子供や赤子を引き取っていくこともある。世には、人手が足りない土地や農場もある。そこでどんな扱いを受け、どんな人生を生きていくかは、誰にも分からない。

 

 

 糞尿―――排泄物の処理能力が、人口の集中を抑制している。少量であれば、穴に埋めて十年もすれば土になる。近くに大型居留地があれば、引き取ってもくれる。

 土になった後は、武装神官団や農民らが。糞尿でも、汲み取り人や農村の雑役夫らが幾らかの食べ物や金と引き換えに採りに来る。汚いが食いはぐれる事はない仕事だ。黄昏の時代(トワイライトエイジ)、必要不可欠な仕事に見下されたり、嫌悪の視線も科学知識の残滓で軽減されている。金を貯める為の若者が就くことも多く、成り手が空くことは少ない。

 

 ゆえに核となりうる大型居留地近くの廃市街には、怪物も少なく、糞尿処理の上限が高く、子供も育ちやすい。いずれ屍者や変異獣、巨大蟻の類を駆逐し、小集落や小部落。農業主体の小農村。居留地外縁の外地区、或いは正規居留区のひとつまで発展していくかもしれない―――幸運に恵まれれば。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 廃市街には、希望がある。例え、すぐ横に奈落の穴が開いていても。

 

 廃墟領域は、より不安定な土地だ。例え、人が暮らせる浅い場所であろうとも、生存は保証されていない。

 廃墟領域の幾つかは、より巨大な廃墟領域――人類喪失領域の一部だ。それらを奪還、或いは攻略するには、大規模な軍隊なり、驚くほどの英雄的な冒険が求められる。

 

 表層、浅層、中層、深層、中核部。人が隠れ住むのが表層で、廃墟漁りたちが潜るのが浅層から精々、中層。ごく一部のストーカーや廃都探索者《ルインハンター》、遺失技術捜索者《テックハンター》らが深層や中核部へと潜って生還してみせるが、それは経済活動の一環に過ぎず、群れ為す膨大な怪物やミュータントから領域を奪還できるものではない。

 

 曠野の幾つかの居留地―――ポレシャ市も、廃墟領域と隣合《となりあ》っている。とは言え、これとて制御不能な広域廃墟領域などではない。

 それなりに広く、奥には警備隊さえも踏み込めないが、全体像は掴めており、怪物の数も種類もおおよそ見当がついている。腕利きの廃墟漁りを送り出して、地図を製作させたのだ。刺激せずに時折、あふれ出す少数の怪物を掃討するに留めている。 時に建物や通りを奪還しているが、積極的な攻勢には出ない。怪物によってポレシャ市が失陥しても、田園部が生き残るように。また田園が略奪者や無法者などに攻められても市内に誰かしらが残るように、名家たちは保険を打って婚姻で血族を分散させている。

 

 調査隊による怪物らの生態調査や行動予測、分布把握のデーターは、それとなく一般にも流されている。悪用されないように全公開はされないが、定期的な調査の一環に協力した廃市街などには、それとない警告と共に、若干の武器や食料、土嚢など資材の援助が行われる。廃墟民たちが持ちこたえれば、それだけ正規の地区も安全になるからだ。

 

 

 しかし、廃墟民――特に、廃墟領域に暮らす廃墟民などはこれら一切に殆んど関与していない。一口に同じ廃墟生活者と言っても、廃市街に暮らすものと、廃墟領域に隠れ暮らすものでは生活の安定に雲泥の差がある。定住せずに領域の廃墟を転々と移り暮らしている者もいる。他の人々からも隠れ潜み、日々を生き延びるのを最優先とする彼ら彼女らは、 余力も無ければ、市から見ての利用価値もない。成長する余地もない。

 

 彼らは単独か、ごく少数の家族単位で廃墟領域に隠れ暮らしている。時折、かなり大きな隠れ里を形成しているとの噂が囁かれるも、人が増えれば痕跡も増える筈だ。にも拘らず、地図作りに雇った本業の腕利き廃墟漁り(スカベンジャー)たちは、黙して語らず、居留地在住の兼業廃墟漁り(スカベンジャー)では、殆んど接触することもない。

 

 

 帰するところ、廃墟生活者の殆んどは貧しい人々だ。伝説的な廃墟の民など、存在しておるまい。危険な廃墟帯に暮らす理由は、一重に家賃が掛からず、風雨を凌げるからに過ぎない。多少の屍者や巨大蟻が身近を彷徨っていようとも、隠れて息を潜めればよい。少なくとも、逃げ隠れ出来ない野を放浪よりはましと考え、廃墟生活者たちは廃墟領域の浅層に移り住んだのだ。

 

 若干の水と食べ物も手に入るし、交換も出来る。怪物から身を潜めつつ、寒さを凌げる建物もある。それ以上に望みなどない。今の環境でも十分に生きてはいける。踏み出せば、何かを失うかもしれない。ならば、貧しくとも今の暮らしのままでいい。

 失敗時の致命的なまでの影響への恐れが、廃墟民に諦念と合理性からの消極的な生存戦略を維持させている。勇気あるものは外に出るか、いなくなった。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 心の奥底に癒えない傷が疼いている。

 

「お祭りにはいかない方がいい」とは年長のお姉さんの忠告だった。

「でも、誰でも来ていいって宣伝してるよ」サラは言いかえした。

 だって、ずっと楽しみにしていたのだ。廃墟民の生活に楽しい事なんて殆んどない。日々を怪物から逃げ隠れして、脅えながら僅かに乏しい糧を得ている。

 

 昨日まで普通に歩けた通りが、今朝には屍者たちや変異獣、巨大蟻が群れで彷徨う危険地帯と化している日常。討伐に向かった大人らや若者らが喰われて、屍者の群れが大きくなっても、嘆くよりも逃げなければならない。必死で木箱や瓦礫を積み上げた扉を屍者たちに破られ、なだれ込んでくるかもとは、全ての廃墟民の悪夢だ。隣人の若奥さんは扉を開けた瞬間、音もなく傍らに佇んでいた屍者に噛まれた。昨日まで一緒に笑っていた友人がゾンビに噛まれ、あと数日で転化する定めに茫然とした表情で見上げてくる。

 

 だから、祭りに行きたかった。

 

 多分、廃墟民は、曠野で最も惨めな身分だろう。奴隷と違って自由民だし、もしかしたら他所の地には、遥かに地獄めいた環境で生きている者らがいるかも知れないので、あくまで曠野の地では、多分、と限ったが。

 もしかしたら、攫われてきた鉱山奴隷とかいたらもっと悲惨かも知れない。だけど、さらなる地獄があるとて、死の匂いが付き纏う危険で無力な日々に慣れる筈もない。

 

 小さな畑や水たまりを命綱に、冬は大勢で薪と食べ物を持ち寄って、地下室に籠って過ごす。地面の下は、不思議と少しだけ暖かい。

 入り口に怪物が入り込まない事だけを――特に屍者が嗅ぎ付けないように―――祈りながら、日々を少しの食べ物と眠りで冬眠みたいにやり過ごす。入口は小さく、近くには薬草をたくさん摘んでおく。そうすると、 屍者が嗅ぎ付けないと言われている。

 

 貯め込んだ水と僅かな食事。糞尿は隅に穴を掘って埋めるか、上の階に登って、窓から空き地の出来るだけ遠くに投げ捨てる。 町では働けない。戸籍がないから。外地区には入れない。お金が無いから。廃市街には住めない。もう先住者がいるから。

 

 元から、戸籍も身分もない。廃墟生活者のおおかたは、小さな村や山間の孤立した部落、或いは寸断された街道筋の集落から流れてきた住人の成れの果てや末裔だ。言葉も独特で通じない事もあるし、お金もない。町での常識も知らない。仕事へのアクセスや社会のルールも知らない。手探り状態で痛めつけられれば、さらに臆病になる。だから、誰も済まない廃墟領域に隠れ潜む。そこなら、まだ居場所がある。ただし、同時に怪物も彷徨っている。誰も住まないのには、理由もあるのだ。

 

 廃墟民を嫌う都市や居留地もある。公正なポレシャ市でもいい顔はしない。ただし、入り込まなければ五月蠅いことは言わない。その不確かな風評を信じて。か細い伝手や噂を頼りに遠い土地から、ポレシャの廃墟領域に流れ着いた廃墟民は、誰にも歓迎されず、小さな隠し畑を作り、鼠や小動物を捕まえて細々と生きている。

 

 

 サラは廃墟民の娘だ。ポレシャ市近郊、居住地区に隣接する廃墟地帯で生まれ、両親に愛されて育った。それなりに幸運な人生だろう。愛情を受けていただけでなく、一家が揃っていた。市で祭りがあると聞き、行きたいと告げた時、母は困ったように笑った。

 

 何日も掛けて、古いカーテンをドレス調に仕立て直してくれた。貴重な針と糸を使って、出来上がった時には「お姫さまみたい」だと皆が褒めそやしてくれた。

 

 だけど、母も廃墟で生まれ育った人間だ。外のことは知らなかった。祭りの日に地区に足を踏み入れてみれば、外地区や廃市街の子らですら、遥かに上等な衣服を纏っていた。

 

 あまりにも見すぼらしい装束を見た子供たちの間に一瞬、沈黙が広がった。

 場違いなものを見る、戸惑ったような目。一緒に行った子は、それまで喋っていたのが黙り込んだ。俯いたまま列に並んで、大人にお菓子を貰う。

 サラは、耐えきれなくなって逃げ出した。菓子を配ってた太った青年がなにか叫びながら、紙袋を掲げて少し追いかけてきたが、すぐに息切れしたので振り切れた。

 

 その後、母を罵ってしまった。ドレスを破いて。あの時の哀しげな顔。もう何年も前の。今も痛みが滲む。後悔している。勿論、謝った。

 一緒に行った友人は、あとで小さな紙袋を差し出してきた。あの子と一緒に来たね、と二人分貰ったのだと。ネコババもせずに持ち帰ってきた。

 

 取り返しのつかない程には拗れなかった。良い家庭なら、一度の失敗や暴言、恥で崩壊することは早々ない。実際は大抵、そこまでの蓄積がものをいう。

 普段から、いい子で振舞っていた。親も静かに頷いて、優しく抱きしめた。サラは震えてつっかえながら、互いに話した。皆が手の届く範囲で善良に振舞ったけど、どうしようもなく、少しだけ世界が噛み合わなかった。どん底ではないけれど、重たく苦しい苦味がこびり付いた数年前の記憶だ。

 

 

 

 春先の話だ。少し年の離れた妹が今年の夏至祭に行きたいと言い出した。

 「ジジ、お祭りに行きたいの」そう訴えかけてくる妹に、サラはしばし考えこんだ。 

 一般に廃墟生活者はかなり貧しい生活を送っている。仕事は少ないものの、税は無いので貧困に喘いでいる訳ではない。ただ、それ以上に現金収入に乏しかった。

 ごく一部の徒党のみ、密造酒の製造や巨大鼠の養殖、鼠肉の燻製作り、茸や芋の栽培などで稼いでいるが、それは例外中の例外だろう。

 

 

 一日仕事の賃金は、ポレシャ市内の行政地区で15から25通貨ほど。外地区や農村で、12から18通貨くらいとなる。行政地区での仕事は身分証が必要としても、ちょっと差があり過ぎるようにも思える。信頼できるか否か。道具を貸せるか。そんな事でも差がついて来る。野良仕事や道具を貸しての土木に見張りを付けてくる。だけど、近くで倍はない。

 

 あくまでサラの体感だが、これが廃市街や小集落では8から12通貨に下がり、さらに廃墟地帯の労働者だと一気に6から10通貨まで落ちてしまう。

 短時間労働だと2通貨ほどか。小さな集落や市外縁部の雇い主ほどに金払いが悪く、物価以上に買い叩いてくる。ただ、布や食べ物、釘や木材など現物払いや食事付きだと少しマシになる。

 小動物の肉や採集、痩せた畑だけでは口を糊することはできない。どこかで働かざるを得ないが、雇い主にも、現金は貴重なのだろう。だが、物々交換の取引は、どうしたって現金払いよりも些か手間が掛かる。つまりは、豚と子山羊を交換したがっている者が、常にいるとは限らないのだ。

 

 

 サラは、服の事を考えた。まともな服を買えるのは、【町外れ】だろう。

 しかし、かなりの金が掛かる。

 勿論、古着の一着くらいなら、廃墟生活者だってなんとか買える。問題は、子供服はすぐに小さくなってしまう事、それに可愛い服を仕立てないといけないことだ。

 

 食費以外に冬に備えて金や薪、保存食を貯めないといけない。無駄遣いする余裕は余りない。手っ取り早いのは、持ち物を売ることだが、廃墟地帯の物品や持ち物なんて残念ながら碌な代物ではない。家具や食器、燃料に工具などの財貨も限られている。取引してくれるのも廃市街の業突く張りな商人くらいで、かなり買い叩かれる。

 

 廃市街の通貨を幾らか貯め込んではいる。少しだけ評判のいい徒党に仕事を貰って、ルールを教えてもらって。何年も、何年も掛けて貯めた金だ。しかし、廃市街のビタ銭なんて町外れ地区に持ち込めば目減りしてしまう。しかし、可愛らしい服を買うには、どうしたって【町外れ】地区の自由市場くらいには赴かないとなるまい。

 使ってもいい金を父と母、兄とサラでテーブルの上に出し合った。どうしたって、服を買える金額ではなかった。しかし、冬の為の蓄えを崩すことはできない。

 

「服を仕立てましょう」ほほ笑んで切り出したのは母だ。

 思いつかなかった訳ではなかったけど、頼めなかった。

 それをもう一度、仕立てようと言い出した。

 もしかしたら、気に入らないかも知れないけれど。

 古い布を使って、少しだけまともな服を、母と二人で仕立て直した。あの時のことは取り消せないけど、もう一度だけ。どうか神様。一日でいいです。奇跡を。

 ジジが、夏至の日を笑顔で過ごせるように。

 

 日時を決めて喧伝していた時間。廃墟地帯まで武装した役人たちが来て、廃墟民の子供にまで券が配られた。人数を把握する為だと、囁く住人もいた。税を懸けられるに違いないと、子供に受け取らせない親もいたけれど、サラはジジの為に受け取った。菓子をくれるらしい。あの時、受け取らなかった菓子を。

 ポレシャ市の役人たちは、同じ時間、各地区で一斉に目の前にいた子らに一斉に券を配ったそうだ。二重取りは出来ない。 

 

 そうして、夏至の日。同じ廃墟地帯から――或いは、少しだけマシな廃市街から、子供たちが大人に連れられて市の下層地区へと向かった。

 罠じゃないか、と言うものもいたけどポレシャ市が一々、嵌める理由も無ければ、祭りの日には、不法移住の罪状で誰かが逮捕されたことはない。目こぼしされている。サラにも、弾圧や悪政よりははるかにマシに思える。少なくとも見た目は公正であろうとしてる。口だけで公正と言い張るのではなく。なら、それでいい。サラも、もう疲れていた。

 

 外縁の地区には、泥や粘土の家屋が並んでおり、空き地には段ボールや木板で作られた天幕もあった。来るたびに、町外れ地区の家は増え、それぞれが少しずつ大きくなっている。窓や扉には花束が飾られている。屋台や露店、それに天幕の出店が開かれており、驢馬や犬、牛や馬の荷車までが藁や食料、粘土や水の樽を運んで往来している。地区では、日暮れが近づいても人々は平然と出歩き、秋や冬に差し掛かれば、路上にも四六時中、ドラム缶で火が焚かれている。黄昏の時代には、稀な光景にも思える光景だが、廃墟地帯の住人が感覚を狂わせると死ぬことになる。

 

「すっごい!すっごーい!」ジジが目を輝かせて、叫んでいた。

 連れてきてよかったと、それだけでサラは思った。夏至祭は特に人手が多いが、外縁の町外れは、市では下層地区だとしてもけっして貧しくはない。めかし込んだ若い娘の姿が目立つ。洒落た若い男もいる。行商人や遊牧民、牧童や牧者、農民に木こりらが、親子連れや恋人連れで出歩いている。スリや強盗を警戒してか、自警団の姿も見掛けられたし、応援なのか。普段は姿を見せない門前の衛兵隊までが巡回をしている。辻々や路傍では、様々な宗教の神官坊主なども説法をかまして寄付を募っていた。手品を見せる道化や火を噴いている半裸の大男。剣を呑み込む長身の男。逆立ちの上に飛び乗る双子の娘たち。着込んだ猿が音曲に合わせて踊っている。

 

「ジジ!こんなん初めて見た!」代名詞よりも個体名が機能しやすい小共同体の子供は、一人称を使いがちだ。妹を見つめて微笑んでいたサラだが、はしゃいで走ってるジジは、身なりの良い女性にぶつかってしまう。

「無礼者めが!」路上に怒鳴り声が鳴り響いた。ジジがびくっとすくみ上った。

「こちらの御方をどなたと思ってる!西の丘の戦いでランツクネヒトの隊長《ハウプトマン》ヒルダを討ち取ったクリスティーネ・モーデュソン卿であらせられるぞ!」鍛えられて均整の取れた男女の一団。

 まだ若いが、頬に傷も生々しい少年が、ひときわ背の高い女性の傍らでぶつかってきたジジを怒鳴りつけた。全員が剣を吊るし、胸鎧を身に着けたり、高性能なライフルを背負っている者までいる。

 

 人ごみが静まり返り、遠巻きになってる中、サラは慌てて飛び出した。

 しかし、口を開いて謝罪するよりも早く「子供相手に止めなさい。評判が悪くなるでしょう」少年の頭を大きな掌でバチンと叩いて窘めたのは、取り巻きされている背の高い女性だった。

 少年が、きゅう、と呻くように息を漏らして、膝から崩れ落ちた。

 背の高い女性は「もうふざけて」と呟きながらしゃがみ込むと、ジジに向かって「大丈夫?」と尋ねてきた。ジジがこくんと肯くと「お祭りを楽しんでね?」頭を優しく撫でてから、立ち上がった。

「でっかぁ」ジジが驚いたように目を瞠ったのは、みたこともないほど背が高かったからだ。苦笑を浮かべたクリスティーネは、白目を剥いてる少年をひょいと掴んで肩に乗せると、歩き出した。

「クリス様、午後の拳闘試合には出られますか?」

「おう。流れの闘士で中々、強いものが来ているらしいですぞ」

 取り巻きたちが口々に尋ねる中「さて、どうしようかな」いなすように首を傾げていた。

 口をポカンと開けていたジジに、サラは震えながら抱き着いた。

 

 

 思わぬハプニングはあったけれど、終わってみれば、祝祭の雰囲気はすぐに恐ろしい出来事を押し流していった。

 帰宅するべきかとも迷ったが、しかし、振り返ってみれば、あの女性も、取り巻きの大半も、それほど粗暴とも思えなかった。一際若い、頬傷の青年が暴走したのだろうか。

 折角のお祭りに妹を楽しませてやろうと、兎も角も、お昼ごろ。ジジを連れて町外れを訪れたサラは、地区の広場へとたどり着いた。市民街区や中町――ここは職工や店舗の集まる閉鎖された地区で、正規の住人や登録労働者以外は入りにくい――などでも、配布しているらしいが、廃墟地帯の住人が踏み込めるのは、やはり下層地区までだ。

 

 近寄るごとに菓子を持ってはしゃいでいる子供らとすれ違う。下層地区では珍しく、石畳が敷き詰められた空き地にたどり着いてみれば、子供たちが集っていた。

町の子供らが並んでる列とは別に、貧しげな子供たちも並んでいた。二列あった。

 リボンで包まれた小さな袋。同じものだ。どちらに並んでも良い。

 券と引き換えだ。役人が配っている。あれなら、貧しく見すぼらしい姿でも並びやすい。戸惑う。或いは、廃墟民の羞恥まで拾い上げたなら、決して悪い町ではないと思えた。

 

 太ったピエロが菓子を配っていた。受け取ってはしゃいでいるジジが駆け戻ってきた。ピエロが微笑みながらサラに視線を向け、大きく目を瞠った。それから歩み寄ってきて、真剣な表情でサラの手を掴んだ。

 驚いたサラに、ピエロはハッとした表情で手を放し「失礼」と口籠ってから「お嬢さん。あの時の分を受け取ってもらえるかな」と菓子の袋を差し出してきた。

 

 

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