ポレシャから東に、いくつかの水源があった。最大のものとしては、峡谷の湖を中心に川が伸びており、森や小さな泉もあちこちと見掛けられる。しかし、肥沃な峡谷に開拓者や移民団が新たな居留地や農地を切り開こうとした試みは、悉くが頓挫《とんざ》している。彼の地はレイダー王――それも略奪者の中の略奪者。曠野の大君主《オーバーロード》と恐れられる砂の王の直轄領であるからだ。
東の湖畔一帯を越えたさらに先、謎めいた砂の王の居城が存在していると酒場や街角の暗がりで夜ごと、伝説のように語られていた。しかし、確かめに向かった賞金稼ぎや討伐隊、探検家は多いものの、生きて還った者は殆んどいない。
領有を宣言してはいるものの、砂の王の軍団も東の湖を完全に支配しているわけではない。湖を水源とする周辺の農民や牧畜民、自由居留地の人々に加え、他の略奪者や無法者の砦までも敵に回してしまうからだ。とは言え、湖の所有者なり、新しい隣人が誕生することを歓迎しないのは放浪民や遊牧民、それに一帯の先住者である自由の民――戸籍を持たず、故に税を納める義務も持たない武装農民どもにとっても同様であるから、開拓団は常に大規模な先住者や遊牧民、それにレイダーらの連合軍の攻撃に晒されることとなる。つまりは、誰か、或いは特定の勢力が独占することが許さない土地なのだ。
複数の勢力が相互に牽制し合っているものの、遠来の農民や居留地が水源として湖水を利用することは誰も咎めはしない。為にポレシャ市や近隣の農村も農業用水や飲料水として、古くから東の湖を利用していた。
ポレシャ市の水汲みキャラバンも十台もの牛や馬が曳く二輪や四輪荷車に空の壺や樽、ボトルなどを満載して湖へと向かっている。毎日、運搬されている数トンの湖水は、千人からの生活用水や家庭菜園を支えている。
武装した二十人から三十人の集団に加え、市と契約する牧者衆や農場の牧童、羊飼いに牛飼い。中途では農村や廃市街のキャラバン、小規模経営の水売りや木こりに猟師、薬草取りたちも加わって、半日の距離の泉で水を汲み、引き返す者もいれば、湖まで同伴して、帰りも同行する顔馴染も珍しくない。
牧草地で争う牧者衆や牧童なども、湖の近くでは争わない。暴力を持って曠野の一部地域に君臨し、自由居留地群を脅かす砂の王が、皮肉にもその名をもって湖畔一帯を非戦地域としているのだ。豊かな水源は巨大蟻や熊に狼、変異獣の生息地ともなっている。湖近くの廃墟群には古い街道を通じて、他所からの屍者の群れが流れ込み、さらに一帯を徘徊している。狂暴極まる鎧狼――小口径の銃弾くらいは弾き返す狂った自然の産物も生息している。集団で行動し、争わないのは正しい。
対立する無法者《アウトロー》一味や略奪者《レイダー》一党であっても、湖の近くでは争わず、憎まれ口は効き、睨み合いはするものの、銃も剣も抜かない。生き延びる為には最低限、人間同士では休戦しなければならないからだ。日常として水源が必要であれば、一時的な裏切りだけでは選択肢として割に合わない。
さて、川や沼、湖の一部水源には、危険な病原性原虫《アメーバ》や動物の糞害と寄生虫、或いは汚染された藻が繁殖している。曠野は標高が高く、冷涼な土地なので比較的に汚染は少ないが、かと言って油断してよいものではない。
つまり、水を買う時には浄水装置に懸けたり、蒸留したかなどを慎重に見定めなければならない。これが水売り屋や水キャラバンに鑑札が必要とされ、また評判によって大きく売り上げが左右される理由である。勿論、汲んできたばかりの水を敢えて正直に売る者たちもいて、 その場合、顧客が自分たちで煮沸したり、浄水器に入れて処理しなければならない。
ポレシャ市は、比較的に良心的、かつ正直な水売りが多い。それで稼げる仕組みになっているからこそだが、それでも、ギリギリで利益を追求する商人や、或いは節約しようとする客はどうしても出てくる。
一応、処理したが時間を節約したり、未熟な作業員に任せたりと、手抜きして売るものもいれば、多分、大丈夫で薪を節約したり、いけるだろ、と水を買って中毒を起こす者もあり、そこで長年の評判が大事となる。勿論、問題外の人間が騒ぎを起こす場合もあるので、新参の水売りはどうしても中々、信用される者でもない。つまり代替りで顧客がかなり減る事例も見られる。
そこで樽作りの職人は重宝されるし、素焼きの壺を作る仕事も食いはぐれがない。ことにプラスチックの樽は、非常に高値で取引されている。つぼ焼きを手伝う日雇い仕事も、賃金は悪くない。南から粘土が運ばれてきては、焼き場に持ち込まれて壺が作られる。夏は焼き物と鍛冶の季節だ。燃料の節約できる季節に鋳物や刀剣類、焼き物や陶器などを一気に作り上げてしまう。稼ぐものは、夏だけで年収の半分近くを稼ぎ、残りの時期をのんびり過ごしながら、軽作業や兼業の小商いで喰い繋いだり、或いは、次の夏に備える鍛冶や焼き物職人たちもいる。
薪や石炭、コークスなどの燃料を運び込み、鉄や粘土を仕入れてくる木こり団や都市鉱夫団、或いは行商人や交易商人にとっても稼ぎ時であろう。日雇い人夫にも、真面目な仕事ぶりで夏はほぼ専属となり、残りの季節を余裕をもって過ごせる賃金を貰っている者たちもいて、その子供世代になると、最初から鍛冶場や焼き場の徒弟から初めて、職人を目指す少年少女らもいるのだ。
中近世にそうであったように、焼き場の職人たちは気風が良く、社会でも一目置かれている。明るく、なにかにつけて積極的であり、物おじしない。そして、水売りや水キャラバンとの繋がりが強い。特に地下水源に頼らずに暮らす町外れや外地区、廃市街などでは、ちょっとした事情通であり、また、最近では自警団的な役割も果たしていた。有力市民や参事会は、力添えして立ち上げたにも関わらず、急速に勃興しつつある焼き物職人の組合に対し、どう対処するかを決めかねているようでもあった。
燃料や資材の節約の為とは言え、鍛冶職たちと結び付け、二十人近くの職人や徒弟を一つの仕事場に集めたのは、市政にとって失敗だったかも知れない。水キャラバンを慎重に分割して作り上げたにも拘らず、それを補助する焼き物職人組合が想定以上に勢力を拡大してしまった。加えて事態を複雑化させつつあるのが、抜け目がなく、しかし、相対的に衰退しつつあった二つの郊外の名家が、それぞれに組合に肩入れして、影響力と資金を確保してしまったことである。
他の徒党もだが、資金や部下を増やしたがるのも、安全になるから。だけど、大きくなればなるほど社会的な影響も大きくなる。それは必ずしもいい事ばかりではない。権力を目指している――ああ、いや。ある程度は欲しいが、最高の目標ではない人間にとって。一定の線を越えた時、安全のための成長と拡大が別種の危険を招きかねない。
実際のところ、一部の人間は密かに市政の混乱を都合が良いと見ているだろう。破滅的状況をもたらすには至らない程々の緊張状態と力の拮抗は、ニナにとっても歓迎すべき状況だ。なんとなれば、行商人であるニナとマギーも、恐らくは有力者たちの予想以上に力を付け、警戒されて然るべき成り上がりの一人だからだ。
今は、まだ大丈夫だ。たかが行商人に過ぎない。それでも地区で屈指の稼ぎだが。
しかし、マギーは相応の能力の持ち主だ。もしかしたら、その才もポレシャ市と言う器に収まりきらないで、溢れるかも知れない。ならば、いっそ踏み込むべきではないだろうか。或いは、増えた資金は、全く別の土地での拠点と活動の為に分散しておくべきか。
あくまで、ニナが洞察するところでは、だが――市民の所有する地下水より、今や水キャラバンの方が比重が大きくなりつつある。旧来の井戸や土地持ちの市民層に対し、流通や護衛、壺や樽作りなどが力を持ちつつある。持ってる者に対して、繋げるものが力を持ち始めている。インフラを握る者は、常に政治となるのだ。
今はまだ、一部の人間しか察していない。或いは、ニナの寿命の間に変化は訪れないかも知れないが、或いは……さて、誰がいかに動き、事態はどう転ぶだろうか。そしてニナはどう振舞うべきだろう。
これら一連の考えを口にしたことはない。マギーの性格には、他者に対して公正で清冽な領域がある。だからこそ好きだし尊敬さえできるのだが、迂闊に口にすると、もしかしたら関係に亀裂が入るかも。それにマギーたちは年長者だ。色々と考えてる程度に頭もいい。多分に気付いている。でも、口にしない。均衡を保つために沈黙しているのかしらん?
ならば、ニナが一人で抱えていればいいことに過ぎない。現状では、まだ。
だけど、それも夏至祭の今この瞬間には、どうでもいいことでもある。
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力を付ければ、どうしたって危険視され、警戒される。ニナだってさんざ、他人の悪意や嫉妬に晒されてきた。黄昏の時代だ。稼いでいる、食べ物に困らない、と言う理由で、偶に理不尽にも憎まれもする。善良な商人だから大丈夫、なんて絵空事は信じていない。力を持つ者は、その意志ではなく、能力によって警戒されるのが人の理、世の摂理。自分たちもいずれ危険視されてしかるべきだろう。
ならば、別勢力の成長とそれによる新しい均衡。利害の対立と複雑化は、よい防波堤になる。権力が分散し、利害が複数化している状況の中、注目が一点集中しない状態は好ましい。既得権益層の視線が散り、均衡が複雑化すれば、自分たちだけが標的になることもない。
市の参事会と焼き物組合、郊外の二つの名家と水キャラバン。勢力が増えると、誰もが他を牽制し始める。その流動性に成り上がりの小勢力が生き延びるための亀裂が生じるものだ。恐らくは、他の徒党もその匂いを嗅ぎ取っているに違いない。もっとも、今のところは外部の木こり団から炭や薪を取引し、粘土や土を仕入れているのは大手商会や市当局である。
危険、かつ忙しい行商生活にも、楽しみは色々と見いだせる。最近のニナは、古代ローマやら三国志の漫画に嵌まっている。自由都市に赴くたび、図書館で一冊、二冊と読むのがささやかな楽しみの一つだ。
つらつらと考え込んでいるニナの隣に『路地裏の王女さま』が腰かけた。
「なんか、また悪い顔をしてるのだわ」と囁いてきた。「えぇ、嘘。そっかなぁ」妙齢になった時に、悪い人相にはなりたくない。眉間のしわをムニムニと揉むニナに「その顔、周りに見せ過ぎない方がいいのだわ」と語りかけてくる。
「もうちょっと気楽になりなさいよ」言われて肩を竦めるニナの眼前、試合の為の円に樽職人の青年が進み出た。ニナたちより少し年上だろう青年は、力こぶを作って見せながら、木剣を手に取っている。皮の小手や脛当て、胴着を纏い、鉄製の帽子を深く被っている。対戦相手は、牧者娘のイザベル・ミラー。牧者衆がこの手の催しや教練に顔を出すことは珍しい。
牧者衆は、複数の羊を連れて牧草地まで導くのが主な仕事であった。羊飼いと似ているが、羊飼いが村での役割にして職業であるのに対し、牧者は職であると同時に身分(階級ではなく身元としての)である。ただし、大規模な武装羊飼い団もいれば、少人数の牧者衆もあるので、明確には区別つかないこともある。
狼やコヨーテ、変異獣や屍者と言った脅威に対し、紙薬莢を用いたライフルで射撃し、近接されたら槍と犬、驢馬で立ち向かう。牧者の恐るべきは仲間との連携に陣取り、慣れた地形の把握と射撃の精密さにある。機動も白兵も、人並でしかない。
剣の技量とは、達人になるほどに体格や膂力の占める割合が低くなるものだが、イザベル・ミラーは、何試合もしている。勇敢で冷静沈着。鋭い目をして射撃も巧みだが、身体は細く、剣も熟練《ベテラン》の領域には達していない。
勝ったり負けたり。少し屈強の素人相手でも、突き飛ばされたり、強烈な振り下ろしを喰らってふらつくが、対戦相手がある程度、選ばれており、女子供や下手糞も出てくるので、まあ、自尊心が傷つかない程度には白星も上げている。
歯を食い縛ったイザベルは、僅かに涙を零した。悔しいのか。しかし、それなら勝ったところで辞めればいい。何試合もこなせば、疲労してさらに勝率も低くなる。イザベル・ミラーは剣に打ち込む性格でも、生活でもなかったと思うけど、なにか転機でもあったのかしらん?
洞察しつつ、首を傾げてるとかなり遠い場所に見物してる牧者らの一団。「……振られたんで自棄になってるわ」イザベルを見ながらの囁きが、元・廃墟生存者ニナの鋭い耳に入ってきた。
(あー、やっぱりか。そっか。ガイ君に振られちゃったか)ニナは小さく嘆息した。
ジーナ・クレイが輝くような笑顔で、牛飼いのガイ少年と連れだって歩いているのを幾度かは目にしている。それは全員、住人が五百人足らずの町外れ地区に暮らしているのだもの、ねえ。ジーナ・
ジーナ・
ニナは腰ポシェットの中身を確かめた。それから、イザベルを呼んで隣に座らせ、冷たい水筒を与え、塩と砂糖の飴を手渡した。タオルを被ったイザベルは汗だくになりながら、水筒を受け取り、大人しく飴を口に含んだ。「今度、甘いものでも食べに行こう」あまり親しい訳ではないが慰める。
イザベルの知り合いだろうか。数人の若者が歩み寄ってくると「イザベル。振られたんだって?」ひとりの若者が無神経に言ってきた。
「はあ?振られてないです?」強気に吐き捨てるイザベルの肩を「気にしないで」ニナが抱きしめると「お、レズに慰めて貰うのかな」
こっちにまで飛び火してきた。不特定多数に性的嗜好が知られており、面白可笑しく弄られるのは、流石に良い気分はしない。
「あたしが慰めてあげるわ、イザベル。可愛いと思ってたの」自分を抱きしめながら、高音で独り芝居する無礼者。連れの数人が軽く笑う。やや、引いてる者もいるが。
「誰です、あなた。無礼ですよ。話しかけないでください」ニナの辛辣な言葉。それまでむっつりと沈黙していた相手の仲間の一人が、逆に面白そうに笑った。
「無礼ですよ。まあ、お高く留まっちゃって」
無礼者は、言い返してきた。
ニナは相手をマジマジと見つめた。外見からするに十代後半、それも十五や十六ではあるまい。市法には20歳が大人ではあるが、もしかしたら成人に届いているだろうか。ともかくも一人前と見做される年齢で阿呆な言動をする者が地区におり、おのれと関わるとは思っていなかった。
服装からして焼き物職人――多分、見習い。しかし、いい若者が。いや、最近になって急に地位が上がった職能衆なら、あまり教育されてなかった徒弟が有頂天で跳ね上がる事もあろうか。徒党単位で引き上げれば、愚物も混ざってくる。
ニナは表情と感情を消して相手の顔をじっと見、同時に砂地に足先で相手の顔の特徴をわずかに描いた。それから肩を竦めると、メモを取り出し、「気にしちゃいけませんよ、イザベル。振られたからってなんです」イザベルに話しかけながら、若者の顔を描いた。
「だから振られてないって。ガイなんか、好きでもなんでもないですし」イザベルが怒ったように吐き捨てるが「誰もガイ君とは言ってないです」とニナ。
「俺も振られたんだ。慰めてくれ」図々しく話しかけてくる窯場の多分、見習い。
いっそ殴ろうか。それとも後で浚おうか。いや、やり過ぎは良くない。相手は盗賊団でもなんでもない。それでも、頭にくる。
窯場の顔役の関係者だと問題が出る。だけど、あんまり舐められるのも面白くない。だけど、まあ、殴るくらいなら、いいか。
誰かに舐められると、許容範囲の基準がほんの少し下がってくる。繰り返されるようだと、不味い。本当にくだらない事だが。馬鹿な餓鬼は連鎖反応を起こす。おのれも馬鹿にしていいと思うのだ。暴力はどうしたって有効な通貨で、マウント行為は侮ると危険なのだ。
(……躾けておくか)勝てるとも限らないが、舐められっぱなしが一番まずい。
ニナも小口径の銃で撃たれても我慢して動ける程度には、痛みに強い。勝てなくても殴りつけておく。若者の喧嘩で済む。それで悪意が無ければ、口出ししてこなくなる。バンテージを巻きながら、立ち上がった時。
「おい、いい加減にしとけよ」友人のノルベルト君が先に立ち上がった。上背があるし、額に血管が浮かんでいる。他に数人も。路地裏の王女様と、お供の若い衆も、立ち上がって若者を睨みつけていた。ナイナちゃんは、ちょっと離れた位置で他人の振りをしていた。
「おい、もうよしとけ」向こう側でも引き留めるものがおり「冗談じゃないか。マジになるなよ」へらへらしながら、焼き場の若者の一団は離れていった。
友人の有難みが身に染みた。ノルベルト君の背中を軽く叩いて「ありがと」ニナは皆に頷きかけた。
でも、言いつける。ニナは今の若者と、周囲にいた数人の顔を素早く描き、止めた、一緒になってはしゃいだ。沈黙、などと描き加えた。「こいつの名前、分かる?」路地裏の王女様に尋ねるとお供の郎党の一人が肯いた。「ああ……」 連中の言動は、マギーと『陛下』に報告される。だからと言って、報復する訳ではないが、連中は、ポイントが一つ、二つマイナスだ。
「セス……ね」ニナは呟いた。
相手の名前は抑えた。住所。身元もすぐに割れるだろう。
あまり効果はないだろうが、マギーは取引を避けてくれるだろう。『陛下』は分からないが。次に、ニナやイザベルと揉めた時、他の連中なら、口頭の注意や金で解決できる時に前科になったり、或いは殴られるだけで済むところを、運悪く骨を折られる事もある。殺す程ではないが。殺人となると制裁した側にも悪評が付き纏うし、関係者だってただでは済まさない。面子は相手にもあることを忘れてはならない。
それほどの報復はしない。どうやったって嫌な奴はいる。そういう連中と付き合わざるを得ないのも、社会で生きる宿業だ。ただし、ニナは青年を『敵』と定めた。軽々しく他人を馬鹿にするのは、とても恐ろしい事だ。十年、二十年。恐らくイザベルも、そしてニナは、侮辱を忘れない。折があれば青年に仕返しするし、ついで程度でも不利益を働きかけるかも知れない。
十五、六なら、ニナも怒りを呑み込んだかも知れない。しかし、二十歳近くで馬鹿なあれが、この先、まともになるとも思えなかった。正直、覚えておくのも面倒だが、大人の馬鹿は一生涯、馬鹿だ。それに復讐と言う料理は、冷めた頃が一番美味しいのだから。