黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_102H 裏 セシリアは

 セシリアは、疲れた足取りで保安官補の敷地――行商団の拠点へと足を踏み入れた。徒弟トリスと猫耳ココが、薬缶を載せた火の傍に駆け寄ると、毛布の上に寝転がった。お湯を呑んだり、欠伸をしている。にゃー。

『冬は乾燥するから、水分を取るのだ』とセシリアにも勧めてくる。セシリアも疲れていたので、今日は泊めてもらう。何度も泊まっており、気兼ねをしないでいいと言われていた。勿論、気兼ねはするし、行商団も誰でもいい訳ではない筈だ。その程度には、セシリアも信頼を得たのだと思おう。

 

 兵士コリンや兵士イブリンも、働きに出ると数日は開けることもある。

 コリンが水キャラバンの一員。イブリンは、市内の大きめの宿屋に勤めてるらしいが詳しくは知らない。ただ、ガルダの亡命者でも、若い三人は比較的に早く仕事を見つけた。

 

 仕事帰りには度々、行商団の拠点に泊めてもらっている。貰った賃金の半分は貯めて、残り半分は……どうするかを決められずにいた。町外れでは手に入りにくいチョコレートなり、キャラメルなり、姫さまへの土産に持ち帰ることもある。もっとも、毎回ではない。チョコレートは一枚で、日当が軽く吹っ飛んでしまうのだ。

 別に賃金は其の儘、差し出してもいい。ただ、それを当たり前と見做されて、そしてずっと国に帰れなかったら――恐さもあった。いや、姫さまなら妥当な妥協点を見出してくれると信じたいが(……どうすればいいのかな)と迷いが生じている。

 

 時々、セシリアは行商団とどちらに属しているのか分からなくなる。

 いや、勿論、姫君に――姫さまへの忠誠が優先であるが。成り行きとは言え、忠誠心がなければ、他国にまでついては来ない――忠誠の分配は難しい問題だ。定期的に数日の仕事をし、水汲みなどでは毎日を世話になり、一緒に暮らして助け合えば、別の共同体への義理や愛着も確実に育ってくる。亡命者には、よくある問題なのだろうか?こればかりは他人に相談できることでもない。

 

 

 敷地の隅の竈では、巻き毛のルーが調理鍋を掻き混ぜていた。隻眼の料理番リリーと一緒に立ち働いている。セシリアが時々、訪れた時は、何時も山羊娘のルーがいた。ルーとも毎日、顔を合わせてる。水キャラバンの店に、水を買いに行くのに同行しているからだ。ここの家の子になるのかな?居付いてる。まあ、受け入れられているようだし。いいのだろう、多分。竈の近くには以前、助けてくれた議会衛兵ジョージアが座っていて時々、重たい鍋などを動かしていた。三人は親子みたいにゆっくり過ごしている。

 

 

 家族でもないのに、身内だけで集まった時のような和やかな雰囲気が漂っている。良い徒党だ。この行商団に限らず、地区内外には幾つもの徒党があって、身寄りのない者たちなども集まっている。生業は様々だ。浮浪者《ホーボー》や浮浪児、渡り人(オーキー)や風来坊の自由労働者の旅隊。それに近くの農村から出てきた出稼ぎ労働者の徒党もある。行商団や露天商、棒手振の若者らが集まった一団もあれば、木工や漆喰塗りの職人や職工。農場を塒に身内めいた繋がりの牧童団や作男の一団もあった。言うなれば廃墟漁り(スカベンジャー)の一団や木こり党や牧者衆、鉱夫団。傭兵団や砦を持った無法者《アウトロー》だってある意味では、徒党だろう。

 

 

 戸籍がしっかりしてない時代に、生活にゆとりのある者の家に気の合った居候が転がり込むのは、中世に遡るまでもなくままあった話だ。喰う・寝床・働く際に集まった方が便利ではある。身元の保証もしやすいし、それに移動や生活の安全の確保も重要だ。勿論、抜けたり、入ったりには面倒が付き物の徒党もあれば、新参と古参で温度差が生じたり、割れたり、合流することもある。

 

 黄昏の時代にも限らず、親を亡くした子が親戚や知人の家でそのまま育てられたり、職人や商人の徒弟が親方の家で暮らす。使用人や小姓が共同の大部屋に暮らす。戦乱や飢饉で身寄りを失った子が、奴隷や召使いになる。行き場のない若者や旅人、外国人が飯を食わせる代わりに働くという形で落ち着く。古今東西でどれも珍しくもない逸話が残されている。居候にも様々な形と待遇があるものだが、ポレシャ市で保安官補の家であるなら、それほど悪いことにはなるまい。

 

 肌寒さの中、震えながらセシリアは火に当たる。火で焼いたチーズ、塩の利いたスープがすぐに出てくる。薪は沢山あるし、水にも困らない。身体を湯で身体を洗う事も多い。保安官補の家には、恐ろしい量の石鹸が蓄えられてる。食事前には、手を洗え。偶には、身体を洗え。結構な水を消費している。貯水樽が幾つもあって、雪や雨水を貯め込んでいる。

 

 まことに結構な暮らしだが、気になるところもあった。性欲だ。集団生活ではどう折り合いをつけるかも重要なのだが、保安官補は年長の女性同士で仲良くしていた。

「誤解しないで欲しいのですが、まず、私も、他の娘たちも誰でもいい訳ではない。そして身内には、各々で幸せになって欲しいと考えている」女の人と抱き合っていた保安官補はそうのたまい、多少、引いたもののセシリアも肯いた。言葉を信頼する限りは、徒弟に手を出すことも、同性愛を強要するタイプでもないと思えた。そして、今のところ保安官補は一切、嘘をついてない。言葉の定義にやや拘り、約束と契約の際には慎重だが、全て守っている。同性愛的な傾向は、閉じた集団には時々見られるものだ。少し違うようにも思えるが、セシリアの尻を狙わないなら、それで構わない。

 

「セシリアは、少し欲しいですね」だから、夕食後。保安官補が頭に手を載せて言った時も一応、冷静さは保てた。

「賢いし、目端が利きます。そして普人《ノーマル》。トリスもココも、どうしても差別と偏見を受けますからね」告げる保安官補は、確かにセシリアから見ても、一旗揚げられるだけの器量人であるから、評価されてるのは普通に嬉しい。欲しがる理由も納得がいった。

 

「二君に仕えませんか?当然に彼方《ガルダの姫君》優先で問題はありません」言われたセシリアは、揺れを自覚したので口を固く閉ざした。

「今すぐ、答えを出す必要もありません。臨時雇いより少し重要な仕事を任せて、少し給料が上がるだけです。多少の忠誠心を求めますが、封建の君臣のような奉仕は求めません。こちらも生涯、子々孫々の庇護を保証できる訳ではありませんからね」契約の釣りあいに関しても、筋は通っていた。

 保安官補の勧誘を受けたセシリアが「考えさせて戴きます」と先延ばしの言葉を吐いていると、少し離れた外の席で食事を取っていた料理番リリーが、傍らの山羊みたいな少女を掲げて「ルーは?!」と大声で尋ねた。

 

 保安官補が首を傾げて「ルー?うちの子になりますか?」と問いかけると、山羊みたいな娘は迷いなく、こくんと頷いた。

「よろしい。私に何かあったらニナが決めます。ニナに何かあったら、ジーナ・エクルストン。分からないことがあったら、トリスか、リリーに聞きなさい。リリーは君を可愛がってますけど、状況を把握できるとも言い切れませんから」

 巻き毛のルーが、メェーと鳴いた。するとトリスが「ばんざぁい!」とルーに抱き着いて、猫耳ココが「にゃー!」と甲高く鳴いた。

(……拙いな)と胸を高鳴らせながら、セシリアは困ったように笑った。

(一緒に冒険したら絶対、楽しいぞ。これ)

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 保安官たちは月に二度ほど、自由都市での仕入れの旅に出るそうだ。一週間ほどは帰らないので、月の半分近くを留守にする計算となる。よく使っている定宿へ手紙を出すことは出来るのだが、兎も角も、留守中になにが起こるかは分からないし、留守での事件発生も二分の一を避けられない。保安官補にとっては、ガルダ人亡命者の一件も、ジルカの事も突き詰めれば他人事だ。

 

 そして、いい加減な、と責めるのは間違っている。何故なら給料を受け取ってる正規の保安官助手たちと違い、マルグリット・モイラは兼業の保安官助手で、ガルダ人たちは税を納めている市民ではないからだ。武装権の代わりに、国家に治安を仮託している訳でもない。襲撃される側に事情や正義があるのであれば、保安官補や民兵、自警団員らは、きっと助太刀してくれるだろう。しかし、曠野の人々は、まず自力救済せねばならない。

 

 だけど、自力救済と言っても、セシリアは戦士ではない。今から訓練しても付け焼刃にしかならないし、下手をすれば、狙われる状況を想定しているとジルカに悟られかねない。仮にナイフや貴重な拳銃を持たされたとしても、役立てられるかは分からない。防弾防刃の鎧や服を纏っている職業軍人や傭兵は多い。マグナム弾などなら兎も角、骨董品の拳銃と3~4発の32口径や9ミリの弱装弾が役に立つだろうか。いや、小娘だとマグナム弾は中々に当てられないし、拳銃が壊れるかも知れない。数百発の実弾訓練を無造作に行える土地でも時代でもないのだ。

 

 日没までの短い時間。徒弟たちに組打ちを教えていた保安官補だが、身を護る術を身に着けたい。と頼み込んだセシリアに、「なぜ、急に護身術を?」と質問を返してきた。

「……黒騎士団が狙っていると耳にしました」セシリアの言に、保安官補に微かに瞳を細めた。

「誰から聞きましたか?」

「お婆《ババ》……ええと、南へ残った姫さまお付きの薬師です」

 奇妙に頬を痙攣させた保安官補が、頬に手を触れて考え込んだ。状況をどの程度をセシリアに明かすべきか、考えているのだろうか。

「不快な質問をします。その人はどの程度まで信用できますか?例えば、家族を人質に取られた時、拷問された場合、何処まで秘密を守り切れるでしょうか」

 

「ルートは直接ではありません」セシリアは湾曲的に応えた。

「お婆《ババ》は、南の自治都市に住み込みで働く娘へ。娘の勤める薬草問屋の主人から、近況報告の形で私信を兼ねた報告を。複数の取引先のうち、一つとしてポレシャの私書箱に……勿論、偽名です。このルートは既にジャッコーニ参事には明かしています。また、保安官補に直接、問われた場合、ヨハン執事から、明かして構わないと許可を戴いています」答えを聞いた保安官補は、何故かホッとした様子で肯いた。

 

「南方人の君に言うまでもありませんが、騎士と言うのは血統と環境、訓練と経験が積み重なった闘争の専門家です。特に今の時代の騎士は、様々な武器を使いこなし、性能から対処法まで知り尽くしています。訓練したいと言うのならしてもいいですけど……」保安官補は、戦うことは考えない方がいいと告げてきた。保安官補たちが戦場でまみえた黒騎士たちは、徒手でも強いのが当たり前で、遮蔽は取るし、素人も侮らない。

「腕一本落とされ、臓腑がはみ出ようとも戦い続ける奴が、例外と言えない程度に時々います」と保安官補は語った。滅多に遭遇する者ではないが、無視すると痛い目に遭うか、死ぬ。そんな奴が時々は紛れてるそうだ。実際に、味方だがギィ卿(サー・ギィ)は、片腕を喪っても敵を仕留めて生還している。不意打ちしてギィ卿(サー・ギィ)を倒せるかな?と考えてみたセシリアは(無理だな)と結論した。

 

「まあ、一応、やりましょう。走り込みと、短期間で効果を出すとなると背筋かな」保安官補がセシリアを鉄棒にぶら下げた。

「拳は肩幅と同じで。懸垂とサンドバッグを叩くことを集中的に。二か月でもすれば、何もしないよりはマシになります」

 指導しながらも、保安官補は浮かない表情を見せていた。

「これから組打ちや投げ技、人の急所や構造を教えますが、いいですか。言うまでもないと思いますが、まともに騎士と戦おうとしないでください。運が良ければ、不意打ちして逃げる隙を作れるかもしれないが、一瞬の前兆を読み取ってもおかしくない」そうしてともかくも週に二、三日。セシリアは若干の鍛錬を積めることにはなった。食事の量も蛋白などが足りないし、曠野の冬は野外で厳しすぎて、鍛えるにいい季節ではないが。

 

「もし、不安が消えない様なら……君は、自分の命と姫さまの安全のどちらを優先しますか?それによって、打てる手が変わります」考えながら、保安官補が尋ねてきた。セシリアが返答すると保安官補は頷きながら、白紙のノートを開いた。

「カバーストーリーです。君は、セシリア・ポール。

 東谷の豪農アダムス・エヴァン・ポールの孫。ジャッコーニ老人が身元保証人。

 3000都市通貨までは、身代金として払ってもらえる」

「攫われた時、姫さまの情報を吐く前に?」瞳を細めたセシリアに頷いて「ポール一族は親戚の多い実在の一家で、話の通じる知り合いです。君が攫われることはないと思いますが毎日、寝る前に設定を詰めてください。こんな備えは役に立たない方がいいんですけど」保安官補は、そう、ため息を吐いた。

「セオリーとして打てる手は、おおよそ打ちました。後は敵味方の変化でしょうか」告げた保安官補は、セシリアを頭を軽く撫でてから「お互いに生き残れるといいですね」耳元でそう囁いた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 黄昏時、少し高い建物の屋上に登ったセシリアは、毛布に包まったトリスやココらと一緒に彼方の夕陽を眺めていた。ルーは、夕陽を眺めるでもなく、敷地で一生懸命に動き回っている。

「……姫さまを、さ」セシリアはなんとなく口を開いてから「刺客を撃退しても、国に帰れないんだよね」と言い直した。傍らのトリスが大きな単眼で見つめてくる。

 

「これから先、ずっとこの土地に縛られて、生きていくのかな。秋でもこんな涼しい。きっと冬は凄く寒いんだろうね」呟いてから、膝の間に蹲った。

「ガルダに帰りたいよぉ」

 セシリアが肩を振るわせて泣いた。誰も声を掛けなかった。

 

 金色の輝きが聳え立つ西の山麓へと沈み込んでいくにつれて、地平の彼方までゆっくりと流れていた白く疎らな雲が夜の帳へと呑み込まれていった。

 僅かな残照が残っているうちに、建物の階段を降りる。近所にも関わらず、トリスも猫耳ココも燧石銃《フリントロック》と手槍を背負っていた。

 

「先刻の話……」トリスの低い声に「忘れて」セシリアは首を振った。

「もっと吐き出していい。姫には言えない事もあるだろうから」トリスが呟いた。

「……時々、考える。残っていたら、どうなっていただろう」セシリアは呟いていて、トリスも、ココも、耳を傾けていた。

 滅多にない。ほぼ有り得ないとは言え、至近で屍者や変異獣と遭遇するかも知れない。勿論、建物各階の安全は確認済みで、街路は味方が見張っているとは言え、一瞬の隙に怪物が入り込んでいるかも知れない。見通しのいい、影の少ない建物を、それでも足早に降りていった。

 

「分からない。でも、ついて来なきゃよかったとも考える。今からでも、戻れるか。此処で生きて死ぬのかな。最近、暇があると、そんなことを考えている」セシリアの囁きに「帰ればいいじゃない」トリスはあっさりと返答した。

 それから「言い方良くないね。ええと、そうではなくて……」と首を振ったトリスは「簡単に言ったように聞こえたなら、御免ね」とまず謝った。

「トリスの言う事なら、相当な理由があると思うんだけど。真剣だから、結構、頭には来たけど」セシリアは淡々と呟いた。廃屋の入り口が見えてきた。

 

「覚悟の問題だと思う」とトリスは言葉を続ける。

「今すぐは無理だと思うが。しかし。南方諸邦は、そう遠い訳ではない。五年先、十年先、絶対に帰るんだと。そう考えておけば、故郷に戻ることはできる」

 セシリアは沈黙して耳を傾けていた。

 

 街路に出ると、四方に視線を走らせながら親方の家へと向かった。

 途中の横路地を度々、のぞき込み「クリアー」「にゃー」と確認してから渡った。 

 曲がり角からやや距離を取って動くのは、遮蔽に密着すれば防げる銃弾よりも、至近で遭遇する怪物を警戒しているためだ。

「今までの日常の延長として、生活が断ち切られてしまうのが嫌だ、と言うなら、それは難しい問題だと思う。だけど、帰るだけなら、数年のうちには帰れると思う」とトリスの言に「ふむん。切り離して考えろ、か」とセシリアが肯いた。背後を警戒しながら保安官補の住処へと帰還すると、背の低い木戸を閉める。

 

「要するに今までの生活、日常が断ち切られたのが辛い。取り戻すのは難しい。ただし、帰国は簡単。そこは分割して思考すべき。とトリスは言っている」考え込んだセシリアに対して「問題は帰れない事ではなく、今までの生活が失われてしまったことだよね?姫さまたちから離脱が許されるのか。そして見捨てていいものか」トリスの言い分。

「身も蓋もないね。帰って、新しい殿様がどうするかも分からない。村の娘だから、見逃されるかもしれないけど」セシリアは笑い方を竦めた。

 

「……その上でアドバイスすると今すぐ決めることはない。様子を見て、此処に慣れて欲しいとは思ってる。独り立ちできる準備や伝手。稼げるようになって、生活のゆとりや余裕を作って、一人旅できる。或いは付き添ってくれる人を探して、地図も準備して、南方へ」此処で言葉を区切ってから、トリスは考えるようにゆっくりと喋った。

「人買いもいるからね。本当に。此処での生活を作りながら、同時並行で進めればいい。その為の手伝いはできます。或いはお姫さまがポレシャではなく、ズールへと移動する可能性もあるけれど」トリスは言葉を切った。

 数十秒を沈黙して「……なるほどね」とセシリアは頷いた。

 

 燃え盛る薪の傍へと屈み込んだ。周囲は完全に闇に包まれつつあった。

 お湯で軽く身体を洗い、素早く替えの下着を着込むと、歯を磨いて家へと入り込む。保安官補とニナ、ジーナ・E(エクルストン)に用心棒のリジィ。徒弟のトリスと猫耳ココ、リリー。そしてセシリアとルー。居候のジゼル。本来は精々、八人が眠れる広さだ。十人だと手狭だが、冬だと他人の体温が有難くもある。

 隅では、ドラム缶ストーブが炎を放っている。近い場所には、猫耳ココと山羊娘のルーが陣取って眠っていた。他の者は、暑くて些か耐え切れない。

「春になったら、増築します」と保安官補が呟いていた。

 

 

「トリスは賢いね」目を閉じたセシリアの称賛に、トリスはものすごく嫌そうな声を返してきた。

「そうでもない。親方もそうだし、そこら辺の徒弟たちでも大人で賢い。親方はもっと頼りになる。ニナでも良いけど」トリスの自己評価が些か低いのがおかしかった。

 いや、保安官補は、確かに頭がいい。なら、ニナも相当なのだろう。そしてきっと、それは楽しいに違いない。今はまだ小さな行商団だが、団員として拠点が育っていくのを一緒にやっていくのだ。

 

「地元は占領されちゃったんだ」セシリアの眠たげに呟きに「隊商紛れて、地元に帰ってさ。家族に会うくらいなら出来ると思うよ。それに何時までも刺客を送って来れるのかな?」トリスの言葉は中々の説得力だとセシリアは思ってたのに「ごめん、適当は言ってる」

「いや、いいよ」セシリアはクスっと笑った。

「なに?」とトリス。

「いや、なんでもない。考え方だけで、大分、楽にはなるね。時間は有限だけど、今は余裕がある」心地よい疲労が押し寄せてきた。何時しか、穏やかな寝息を立てていた。

 

 

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