黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

374 / 376
03_102U 戦慄!マギーちゃんハウス

 文明が後退しつつある黄昏の時代(トワイライトエイジ)。人々の生活リズムを決めるのは時計ではなく太陽だ。高緯度の曠野では、十一月に入ると陽は十八時を待たずに地平へと姿を消す。

 

 マルグリット・モイラは懐の懐中時計を開いた。戦闘が始まってからおよそ一時間半。断続的に銃声が響いてくる。昼食を取ったのが午前の十時半。十七時半は、本来なら夕食を取っている時間だが、戦闘の前に胃に固形物を入れるのは避けておくべきだ。マギーは些か空腹に弱い。瓶に若干の砂糖と塩を入れて一口、二口傾けると、傍らのリジィに廻した。受け取ってリジィも呷った。

「経口補水液を作って飲ませておいてください。注意力を維持するのに役立ちます」

 雇ったランツクネヒト達に水の瓶と砂糖、塩を支給する。戦闘が近づいている予感にスン、と鼻を鳴らすと、マギーは、敷地内の土嚢や陣地の配備に見落としがないか。もう一度、見直した。

 

 ランツクネヒト達は奮戦しているが、敵は恐ろしく粘り強いとの報告を受けている。味方の分隊指揮官たちは賞金稼ぎ共。雑兵で数を増しつつ、精兵が指揮統制を保って奮戦していると分析している。二人や三人を削っても勢いは落ちないし、かと言って、数の差が大きいために精兵を狙い撃ちするような余力もない。多分に、敵の損耗は十や二十では効くまいが、そのうちどれだけが数合わせの雑兵かも見当がつかないそうだ。一方で、味方傭兵は敵の突撃を正面から受けてしまった三班を除けば、いまだに戦力を維持している。半壊した三班にも、イザベル・ミラーの牧者衆が援護射撃に入った。戦況は、まず順調。問題はない。

 

 ランツクネヒトの伝令が駆けつけてきた。

「姫君の一行が到着しました」報告してくる。

「開門を……」肯いたマギーが指示を出すと、敬礼して戻っていった。ランツクネヒトは、リジィの顔見知りの小規模徒党を幾つか雇用した。一応の合言葉を傭兵間で定めたようだが、総勢が四十名でほぼ顔見知りばかりであれば、賞金稼ぎがこちらの装備を奪い取って内部に入り込む可能性も低い。

 

 絹服の少女と老執事。それに侍女と女兵士。盲目の兵士が付き添っている。他の要員は……今は、考えまい。マギーが迎えに出ると、顎をツンと逸らし「大義」とだけ告げた。いかにもなお姫様振りにランツクネヒトたちが感心したような戸惑ったようなざわめきと視線を向けている。恭しく一礼したマギーは、市街地の表通りへと視線を向けた。戦闘音は徐々に近づいてきている。そして日没も。

「……思ったより手強いですね。最悪、ここで迎え撃ちます」マギーの言に肯いたリジィが「総員戦闘準備!敵が来るぞ!」とランツクネヒトたちに号令を発した。

 

 夜戦になるだろうか。それとも退くだろうか。夜になれば、銃の精度は低下する。

 そして、ランツクネヒト。白兵で並ぶもの少ない剽悍な傭兵種を揃えている。こちらに優位となる筈ではあるが、夜の闇にこそ不測の事態もまた起きかねない。

 これが変異獣の侵入や屍者の発生、或いは略奪者《レイダー》や無法者《アウトロー》の強襲などであれば、とうに市民軍が即応しているに違いない。地区常駐の警備兵は、しかし、恐らく、侵入者連中の『賞金稼ぎであり、捕り物の最中だ』との言い分も、また中央の議会へと報告しているだろう。民兵隊や保安官事務所が出動してくるかは五分五分か。或いは、もっと分が悪いかも知れない。これまでのところ、連中は民家に押し入ったり、略奪する気配を殆んど見せず、民間人を巻き込まずに、こちらの手配した傭兵隊や牧者衆とのみ戦闘を継続しているからだ。

 

 賞金稼ぎと標的の私戦であると、言い張れない事もない。そしてパオロ・ジャッコーニ爺さんにも政敵はいるし、下層地区がどうなろうが、軍を動かしたがらない悪い意味での保守派も根強い。

 ヘルナル大尉は無能ではない。軍は既に出動態勢を整え、少なくとも小隊規模が至近距離に展開しつつ、情勢を見守っているに違いない。斥候や偵察兵の数人は、既に市街へ入っている頃だ。有力市民に飼われた狩人やレンジャーも、物陰から戦況を窺っているに違いない。机上の地図を眺めながら、マギーは鼻を鳴らした。想定内の事態だが、軍の矛先がこちらを向くような状況にならなければ、なんとでもなる。どうにでもして見せる。赤泥のジルカが凄腕であるとしても、スネイクバイトのウロボロスとて一流の端くれ。易々と引けを取るつもりはなかった。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 地区の北口から入り、通りを左折。東に突き進んで今度は右折。自治地区の自由市場の通りに突入するも、ランツクネヒトたちの陣地が立ちはだかった。背後の頑丈な建物の上階に狙撃手が三名。ランツクネヒトが二十名に騎士と衛兵。半数近くが脱落するも、空き地への突入に成功。標的アーシア・オブ・ガルダの身柄を抑えようとするも、抜け道から脱出される。

 

 抜け道を追って再び、西の行政地区へと戻るも、南側にランツクネヒトの新手が立ちはだかった。短時間の戦闘で南へと追い散らすも、アーシアの逃げた西側方面近くの建物に十名もの射手が陣取って狙撃してくる。ランツクネヒトどもも態勢を立て直して、じりじりと迫ってくる。再び、足止めを置かざるを得ない。十人ほどの素人に五人ほどの玄人を混ぜて、後方の安全と退路を確保してもらう。

 

 本隊は路地を曲がり、アーシアを追い詰めた筈が、路地には分厚い頑丈な木戸が立ちはだかっていた。

 赤泥のジルカの喉から乾いた笑い声が漏れた。高さは、手を伸ばした人間を上回り、恐らくは閂が掛けられ、反対側は土嚢で塞がれてる。先行した無宿人《ノークォーター》や黒騎士、浮浪傭兵たちは足止めされていた。

 

「……狙い撃ちだぜ」忌々しげに誰かが吐き捨てた。身の軽い漂泊民《ジプシー》やらが乗り越えようとすれば、高い位置から性能のいいライフルで狙われたそうだ。

 夕暮れが迫っていた。土煙の中、ジルカは周囲を見回した。他の場所ではどちらが優位かさえも分からない。ただ、足止めの為に味方を置いてきた場所からは、まだ鬨の声や時折の銃声が響いてくる。銃弾の節約に入ったと言うことは、少なくとも膠着して、持ちこたえてはいるのだろう。

 ここまで辿り着くのに随分と数を削られた。狙撃兵にも狙われる最初の強固な陣地を素人だけに足止めさせれば、短時間で殲滅された挙句、本隊が後ろから挟撃を受けただろう。だから、どうしても要所要所でかなりの人数、腕利きたちを割かざるを得なかった。

 

 最初の陣地で半数近くが死傷、或いは敵勢を押さえるための足止めに留まり、ランツクネヒトと狙撃兵たちの第二陣を突破するにも幾らかの犠牲を払って、進路と退路を維持し続けている。東の空は藍色の幕に覆われている。

(あと、どれくらいの時間を持ち堪えられる?連中は、一晩を耐え抜けるか?)

 自問自答するジルカにも分からない。

 

 有り体に言えば、ランツクネヒトとて、さほど大した相手ではない。各地での戦乱の際、とにかく数を揃える為にまず雇われる戦争の犬たち。あらゆる土地に蔓延っていて、二束三文で命を懸ける忌まわしい雇われ兵ども。だけど、逆に言えば、領域国家や都市国家級の雇い主が戦力を集める際、まず雇用するのがランツクネヒトだ。

 契約に忠実で、装備や数に優る相手であろうとも最低限、使い物になるだけの戦闘力と装備を保持している。これ以下の浮浪傭兵こそ、有象無象の集まりで話にならない。既に大半、姿を消してるように、そもそも使い捨ての盾にすらならないのだ。

 

 曠野の冬の夜は、想像を越えて冷え込む。零下十度の夜にランツクネヒト――恐らく、間違いなく有力者たちに雇われた歴戦の傭兵たちを相手に戦い抜けるだろうか。

 近隣から、金で集めた一山幾らの手勢は、一度、大半を使い捨ててしまえば、現地では二度は集められまい。一重に黒騎士たちや無宿人《ノークォーター》らの指揮統制と金銭への渇望だけが、食い詰めた放浪者や貧民たちをして、ランツクネヒト相手に辛うじて戦闘を持ち堪えさせていた。

 

 ジルカは、この作戦に相応の大金を投じていた。が、入植者の紹介やら、小物の賞金首の捕縛などで、半年でそれなりに額を稼いでもいた。支払った前金も、大半が手形。総額でも致命的な金額ではなく、味方の被害が大きくなれば、比例して支払う報酬も減る。要するに、撤退しても致命傷ではない。

 

 脳裏で、退くか?と選択肢が浮かんでいた。乾坤一擲は、プロのやり方ではない。今までの戦歴で偶々、負けてこなかっただけで何時かは撤退する日も来るだろうとも考えていた。それが今日、この時でもおかしくはない。しかし、同時に此処まで掛けた経費と仕込みの手間暇。そして名声への拘りが撤退を躊躇させていた。騎士どもの誇りとは違う。傭兵や賞金稼ぎにとって、信用こそが金銭化できる資産であり、そこを失うことは将来的な損失になる。赤泥のジルカの名は、仕事を引き受け、報酬を上げる為の貴重な信頼であり、財産であった。

 

 今、周囲にいるのは二十人弱。最初の三人の一人にも満たない。それでも追い詰めた。流石にこれ以上の新手がいるとは考えられない。いや、そう思いたくないだけだろうか。四十人を越えるプロの護衛が立ちはだかるなど、何処の大国の王侯、大統領だと文句のひとつも言いたくなる。絶対に田舎の騎士領主の娘に出てきていい人数ではない。

 

 頑丈な木戸をどうやって乗り越えるか。話し合ってる仲間たちを下がらせて、ジルカは大きな球体を取り出した。「爆弾?!」驚きの声を無視しつつ、導火線に火を付けて物陰まで撤退する。「これで失敗したら、とんだ赤字」ぼやきながらジルカは頭を伏せた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 轟音と共に門扉が破裂した。直後、喊声を上げながら敵兵が路地を突入してくる。

 狭い路地に密集しつつの突撃。機関銃や、ドローンなりが主役を占める時代には愚の骨頂でも、弾薬が少なく、銃の精度が低い戦場には勇気と士気が大きな要素を占めるものだ。

 

「爆発物か」土嚢の背後に頭を下げながら、マギーは呟いた。間髪おかず、味方が反撃を行った。

「敵が門内へ侵入!防衛線を維持しろ(ホールド・ザ・ライン)!」リジィの怒号が響いた。元ランツクネヒトの経歴から、仲介と集めた手勢の隊長を任せたが、元一兵卒なのに見込み通りによく勤めている。

「弾幕を張れ!弾はあるぞ!」リジィの指示に、猛烈な銃火が回廊を制圧していた。

 発射速度が三十秒に一発の燧石銃《フリントロック》とて、十丁以上も揃えれば、弾幕とはいかずとも、制圧射撃は行える。武器も商っているマギーの家には幸い、黒色火薬と円弾が豊富にあったし、十人のランツクネヒトにはゴーグルを貸与しておいた。

 

 ジーナ・E(エクルストン)とニナには鹵獲品の紙薬莢ライフルを与えているので、敵を狙い撃ちさせている。とは言え、一年前の古い弾薬だからか、若干の不発も出てるようだが。夕暮れの中、猛烈な白煙に忽ち、視界が悪化するも敵を射竦めて前進を押し留めてはいた。

 

 常日頃から工夫を怠らない性格のマギーだ。普段から、何年もかけて地味な準備を積み重ねる。ここ二年か、三年は、暇を見ては土嚢を積み、簡素な土塁や見張り台を敷地内に構築していた。一緒に土木作業しては「防御度が三上がった!」などとゲームのポップアップみたいな台詞を叫んで、仲間うちでケタケタ陽気に笑っていたものだが、これが実際、予想以上に役立ってくれた。

 

 マギー自身、十人がマスケットを持って土嚢の後ろに籠ったら、例えアサルトライフルを持っていようとも迂闊には近づけないと思える程度の陣地に仕上がってる。

 土嚢や土塁は、銃弾に対して最良の遮蔽のひとつである。例え、マスケットでも土嚢の後ろからだと恐ろしく手強い。土塁や胸壁、銃眼、柵の構築に射界整備と射程の計測。多少の知識と手間暇さえ掛ければ、安価な資材や積み重ね次第で誰でもそれなりの陣地を作れるし、攻める視点を持って、幾度かの改造も重ねていた。

 

 ましてランツクネヒト。けして射撃が上手いとは言い切れずとも、怯みもしなければ容赦もない。上手く散開し、遮蔽を取りながら、互いに援護射撃と制圧射撃を巧みに続けている。ここら辺の呼吸は、やはり歴戦の傭兵こそが本領を発揮する。加えて、眼前の戦場には目に見えない力が張り巡らされていた。近隣の路地は整理されて射界が開けており、距離も測定済み。火力差があっても地形や遮蔽、配置で戦況は幾らでも変化する。マギーに言わせると、殆んどの居留地は本来、あまり金を掛けずにもっと防衛力を高めることができるのだが、その手間暇を平時から惜しまず積み重ねられる人間は意外と少なかった。

 

 敵から見れば、ただの路地や建物にしか見えないだろう。しかし、実際には、どこからどこを狙い撃てるか。どこが死角となっており、高所や角度から当てやすいか。遮蔽物の有無に、通れば危険な位置。当たり難い遮蔽の後ろに兵を配置するか。何年もかけて調査、測定され、マギーの都合に合わせて調整されてきた。目に見えない情報の刃であり、盾が戦況に作用している。ジルカは、十人の銃兵と戦っているつもりだろうが、実際には投入された時間と情報も敵に廻っている。もっともマギーにとって不思議な事に、世の中にこれを理解できる人間は意外と少ないのだが。

 

 とは言え、とりま、一級の戦闘指揮官であれば似たような感覚や思考は持ち合わせているものだし、一角の人物なのに戦場での勘に乏しいなら、マギーの知らない分野で想像の付かない技能や思考力、鋭いセンスを持ち合わせているかも知れない。たまさか、今の世に戦闘技能が幅を利かせやすいだけで、それが唯一無比の価値でもないのだが。

 

 仮にアサルトライフルを所持してようが、どこから撃たれるか分からない状況で前進させては、性能を完全には発揮できないし、対して防御側は、ここに出てきたら撃てば当たる、という場所を把握している。つまり、マギーが構築したのは物理的な壁や土塁だけではなく、戦場設計と情報の網であった。ここにランツクネヒトとの組み合わせが効いてくる。素人が頑強な陣地に籠もっても、銃撃されたら、恐怖で頭を上げられないかもしれない。射撃のタイミングも合わせられず、無闇と弾を浪費し、隙だらけの横から崩される可能性もあった。ランツクネヒトは、撃つべき時に撃ち、無駄に身を晒さない。隣の兵を援護しながら、敵の嫌がる圧力を維持できる。それらは見えないが確かに存在している技術だ。

 

 

 映画みたいに一瞬になぎ倒せる位置関係に詰められるなら兎も角、アサルトライフルを有していても連発性と精度しか優ってない。加えて、弾薬も貴重。多勢が良く配置された土嚢陣地を攻めるのは、ほぼ絶望的だ。攻撃側が、姿を晒して前進する必要があるのに対し、防御側は遮蔽物から必要な瞬間だけ射撃できる。加えて、射界や距離を把握している。散開している防御側の火線に、攻撃側はどこから撃たれるか分からない。近くの建物に昇るかとも危惧したが、面した民家はいずれも扉が木材と釘で封鎖されている。容易くはあるまい。時間と労力の投入が、安価な割に防衛戦に有利な簡易要塞を築かせていたが、見た目以上の難攻不落ぶりに笑えてきた。

 

 後ろの土塁に身を屈めて、鏡で戦況を伺い、味方の様子を窺っては、身を低くしてはい回りながら、火薬や円弾を支給して廻り、横合いに神経を配るも回り込まれる様子もない。「役に立つとは思ってましたが……想定以上です」独り言を囁いているマギーだが、此の侭、あっさりと勝ててしまうのではないかと思えるほどだった。

「……でも、もうじき、完全に陽が沈むんですよね」マギーの視線の先、西の地平の彼方に夜の帳が舞い降りつつあった。

 

 辺りが薄暗くなるにつれて、敵が沈黙を守りつつ守勢に入った。ので、指揮官のリジィも火力を弱めた。遮蔽を取られたら、無駄弾である。マギーも助言しようと考えていたので、妥当な判断だろう、多分。戦場の条件が変わる。日没後に突撃してくるだろう。火は焚いているが、刻一刻と周囲が薄暗くなっていく。息も白い。寒いな、と思って、西の壁を一瞥する。積んである薪の山に火を付けられたら、酷いことになるな、と何となく考えた。四か月分、日中もぶっ通しで燃やせる量だ。まあ、最悪、家が燃えても、立て直せる。身内全員が簡易宿泊所に移るだけの金もあれば、既に予約して金も払ってある。

 

 白い息を吐きながら、マギーは準備運動をする。銃撃戦の最中に馬鹿みたいだが、銃弾が豊富ではない時代には大事なのだ。足が攣ったり、転んで死ぬのは嫌である。

腕の良い戦士が、くだらない原因で死ぬのを見てきた。と言うより、それで勝利を拾った経験もある。

「泥臭くても生き残りたいです」呟きに「こっちもです」と近くにいたランツクネヒトが笑ったので、大きな声で「諸君、泥臭くても生き残ろう!」と声を掛けた。笑い声や賛同の呟きが帰ってきた。悪い空気ではない。腑抜けてもないし、かと言って逸ってもない。気力に満ちている。

(……他の抗戦地点はどうなってるだろうか)と、ふと思った。時折、銃声が響いてくるから、まだ戦闘は続いているのだろう。敵の本隊に居座られたため、連絡は遮断されている。配備した戦力からすれば、負けることはあり得ないと思うのだが。イザベル・ミラーは無事だろうか。撤収しても構わないのだ。そこまでは決めてなかったが。闇の中では、銃はさほど役に立たないし、白兵に持ち込まれてしまうかも知れない。

 

 ニナやジーナ、味方のランツクネヒトたちに砂糖と塩の手製スポーツドリンクを支給する。こんなものを呑んでおくだけでも、意外と違ったりする。後は、温かいエールも身体の内部から温めてくれる。既に零下に入っているだろう。土嚢に囲まれて、相手の射線が通らない位置で、交替で火の傍に当たらせる。

 久しぶりの白兵になるだろうか。しかし、以前より弱くはなっている。

 人との命のやり取りに嫌気がさしてる部分があった。誰かを殺傷するよりも、話し合って稼いだり、建設的な物事の方が楽しくて、好きになってきていたのだ。人としては成長しているかも知れないが、それは戦士としては間違いなく劣化だろう。

 

 さて、南方の賞金稼ぎ、赤泥のジルカは、どれほどの手練だろうか。今回の手筈は見事だったが、しかし、手腕だけで南方で最高の一人とは見做されまい。絶対に戦えるはずだ。ニナやジーナ・E(エクルストン)。リジィが無事に生き残ってくれればいいのだが。そして、セシリアやガルダ人亡命者たちも無事ならばいい。

 冷えた空気で鼻の奥が痛む。鼻梁を指で摘まんだ。スンスンと鳴らしてから、山羊娘ルーの鼻を鳴らす癖を思い出し、苦笑を浮かべた。病院で治療を受けた頃だろうか。角を拾って届けたら、細胞賦活材でくっ付くだろうか。生き残れたら、後で探しに行こう。皆が生き残れたら、いいのに。火の傍で白い吐息を洩らしながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

イザベルの戦況

 

1D100_43

 

敵に相当の痛手を与えてから、素早く撤収して、お家に帰った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。