黄昏のガンダルヴァ   作:猫弾正

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03_109A 晩冬

 冬の最後の一か月に入った。行商人のマギーちゃん(28歳)はおのれの小屋でぬくぬくと過ごしている。冷たい風が唸りを上げて町を吹き抜けていった。日の最低気温は、零下20度近くまで冷え込む。命を奪う寒さだ。路上から浮浪者や放浪者の姿は消え去っている。小さな小屋である。マギーちゃんと仲間たちと居候で九人。寝転ぶと床の広さは一杯一杯だが、ドラム缶ストーブに薪を突っ込むとすぐに部屋全体が暖まってくれる。

 

 天井のランタンは消してある。あぁー、誰かが欠伸をした。居候のジゼルかな?

 転化した屍者の呻きと区別がつかないので、仄かな明かりに照らされてる室内で注視していると、むにゃむにゃ言いながら寝転んだ。数分、様子を伺ってからマギーも目を閉じる。黄昏の世には、街路に屍者が彷徨う夜もある。古い木柵や傷んだ扉を打ち破って、地区へと入り込んでくるのだ。使わぬ街路には土嚢で封鎖され、或いは瓦礫を積んだり、木戸で戸締りされているが、完璧ではない。小さな町では、屍者が入り込むのはよくある事例だし、一晩中、見張りを置いたり、或いは町全体を壁で囲める富裕な居留地は、それほどない。

 

 他にも変異獣が壁を這い、巨大蟻が穴を掘り、空飛ぶ怪物やら古い地下鉄やら、気にし始めたら切りがない。ただの野犬に襲われたのが命取りとなる酔っ払いだっている。

 

 町外れ地区には、それでも滅多に事故はないが、近隣の自治区や廃市街では時折、屍者やら変異獣が見掛けられる。数が多かったり、不意を付かれれば、武装した自警団や夜警でも不覚を取りかねない怪物なので誰もが相手をするのは嫌がるものだが、地の利のある近隣での戦いならば、安全に戦闘経験を積めるとマギーは見ていた。

 後は、自治区や廃市街を戦場として間引いておけば、住んでいる町外れ地区が脅かされずに済むと言う打算も持っている。斥候から情報を聞いて、正確な位置と数を聞いて手に負えそうな場合、暇を持て余したマギーと手勢は、旧式の燧石銃《フリントロック》や手槍、カトラスなどを携えて時々、退治へと向かう日もあった。

 

 実際には、普通の野犬だの巨大鼠、働き蟻などが出没する方がずっと多い。とは言え、怪物だろうが、野生動物であろうが戦うのは路上や見通しの良い大型廃墟に限られている。土嚢を積んだり、荷車を倒して即席の陣地を作り、一方的に撃ち浴びせる。雨が降ると、マスケット銃は不利なので撤収する。巨大鼠如きに負けるとも思わないが万が一、噛まれて敗血症とか、或いはそこまでいかなくて腫れたり、膿んだりするのも馬鹿馬鹿しい。

 

 薄暗い建物内部には基本、踏み込まない。扉の横に屍者が音もなく佇んでいて、いきなり噛みついてくるかもしれない。万が一、防刃コートが破られたりしたら、人生が終わってしまう。意味もなく、仲間を危険に晒す判断は取らない。どうしても入る時は、臨時の仲間を募集する。出来れば、鎧や鎖帷子。最低でも、腕に雑誌を巻き付け、首に何重も鎖やらマフラーを巻き付けた白兵専門家を雇って先に突入させる。怪しい気配を気取った際は、入り口まで躊躇なく撤収する。試行できる時間と機会を有しているなら、危険を冒す意味合いは皆無である。

 

 建物に突入する前に街路でラッパを鳴らして、出てきてくれたところを撃つのが一番楽でいい。歩屍者《ウォーカー》なら、十体くらい出ても、装弾を焦らなければ楽に倒せる。六丁のフリントロックと二重の土嚢は、それくらいの威力を持っている。簡単に倒せる装備と弾薬の補給を整えるまで、積み重ねる工夫があったのだから、最大限に活用するべきだ。

 

 近隣住民は土嚢を積むだけで、後は弾薬代と戦闘を担当してくれるのだから、文句も出ない。暖かい季節には二足歩行のゲッコーも出るが、これは比較的に大人しく、人を積極的に襲う生き物ではないので、まあ遠目に見ても一々、駆除に向かったりはしない。狩人や猟師だとゲッコーの皮を嘗めして高く売る技と伝手を持っているので良く狩っているし、逆に精々、報奨金だけの巨大鼠だの働き蟻だのを嫌っている。

 

 貧しい者たちにとって、巨大鼠や巨大蟻の肉は貴重な蛋白源になってるが、マギーちゃんは鼠肉とか蟻とか巨大鼠とかワンコなんかは、もう口にしない。高貴な正規居住者は、鳥と羊と豚しか口にしないざますことよ?

 

 手斧や、カトラスも、度も怪物をぶっ叩いてると、骨に当たって欠けたり、潰れたり、柄だって割れる。白兵戦は少ないものの、手槍などは修繕費だの、買い替える必要が定期的に出てくる。弾薬代も五十通貨とか、百通貨が、普通に飛んでいく。自転車操業ではないが、リスクは常に存在している。金が入ったからと言って、庶民に良い装備を入手できる訳でもない。当たり前だが。むしろ今、入手出来てる燧石銃《フリントロック》がかなりいい銃器だ。戦力的には、頭打ちかな。とも感じていた。勿論、もっと良い武器は欲しいが、マスケットよりいい銃の入手ルートは、中々に構築出来まい。まあ、いい。毎日、それなりに楽しんでいる。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 東の空が仄かに明るんできた。ストーブに薪を入れながら、暖かい小屋で毛布に包まってヌクヌクしていると、用心棒のリジィが「ラジオが聞きたい」と言い出した。

「電池がない。と言うか、冬場は手に入らない。減りも早いし」マギーちゃんは断ったが「お前、お前が……文明の喜びを知れとか言って、ラジオを聞かせた癖に」などと言われた。

「……そんなん言われても。春になったら、また運ばれてくるから」慰めたマギーちゃんだが、リジィの怨嗟の眼差しが恐かったので、電池を探すことにする。

「……仕方ないなぁ。確か、ここら辺に古い電池が。掌で暖めれば使えるかも」部屋の隅に積まれた小さなガラクタを探した。刃が歪んだり、傷んだ近接武器が放り込まれていて危ないが、なんとか電池を見つけて、ストーブの近くで掌で擦ってからラジオに入れた。

 

 黄昏の時代、ラジオ局は短波ばかりの小規模な施設や設備が一般的だが、冬には電離層の影響を受けるとか、聞こえ難くなるとか、詳しいことは知らないが雑音だらけのラジオでも噛り付いて聞いてるので(まあ、いい)とマギーちゃんは頷いた。電池一本で、春先まで持ってくれよと、いるかどうか分からないラジオの神に祈った。と、用心棒リジィが聞いてた音楽を、猫耳ココがにゃごにゃごとなにやら訴えかけて、冒険もののラジオドラマに切り替えようとした。

「おい!」リジィが怒るが、猫耳ココは、新聞の切り抜きの放送番組を蛍光ペンで覆ってなあー、なあーと鳴いてる。猫耳の子が逃亡奴隷から波乱万丈の冒険をして戦車を拾ったり、親の仇を取ったりして凄腕ハンターになるまでの話らしい。

「まあ、わたしのもんじゃないけど……三十分だぞ」「にゃあー」。何らかの合意に達したらしい。喧嘩しなかったのでホッとして、マギーちゃんは目を閉じた。市民区画や門前町だとラジオが聞ける酒場もあるそうだが、町外れ地区にそんな良い物はない。ラジオを持っている家さえ、殆んどない。ラジオを聞けるのは浴場くらいか。レコードを流す店があったら、随分と上等な方だ。

 

 

 此の侭では鈍るなぁと思いつつも、お布団が気持ちいい。射撃や白兵の訓練も技量を維持できる程度には積んでいるつもりだが、少し心許ない。自由都市ズールの傭兵訓練学校で、短期訓練を受けるべきか迷ったが、もう少し決断を先送りしておく。

 

 安全で暖かい部屋に人数がいて武器と食べ物がある。時々、トイレに出たり、水を汲んでくるが、家の周りも含めて大分、安全になっている。夜に遠吠えや呻きが聞こえても、脅えないで済むのは大きかった。良い生活だ。怪物が少ないし、戦える武装と人数がいるのが何よりも心強い。時々は、近くの木柵やらバリケード。土嚢に防壁の様子を見回りもする。最低、三人。防刃コートを羽織って、すぐに逃げられるように用心しながら見回っている。木材も大分、貯まってきているので、春先にはまず街路の門を再建して、木柵を設ける予定だ。近所の住人も不定期に見回りをしている。何かあったら知らせにくる手筈だ。

 

 人の欲には際限がないものだ。屍者や変異獣、盗賊団にはこれから先も脅かされるだろうが、一方で暮らすに必要なものはおおよそ揃ったともマギーは弁えていた。

 停滞は恐れるべきかな、とも考えこむ。今以上の暮らしは中々に手に入らず、また維持するに労力も大きく成る。勿論、日々を怠惰に過ごすつもりはないが、上がりだな、とも思った。逆に言うと、マギーは満たされていた。

 

 これは、もっと良い装備を得て仲間たちの安全を確保したり、勢力を伸ばそうとする野心とは、また別の側面の充足だった。けして危険が去った訳ではない。これからも闘争や対決は生きる限り続くであろうし、時に難しい判断を迫られ、必死の逃走を強いられる時が来るかもしれない。それでも私は真っ当な人生を手に入れた、と一つの階段を昇り切った満足と、此処から先を人生の余禄として生きる精神的余裕。或いは油断かもしれないがマギーのうちに生まれていた。

 

 小屋の壁に嵌め込んだガラス窓から、茶を飲みながら雪化粧の敷地をゆっくりと眺める。油断しているな、と自覚しつつ、油断していていい、と景色を楽しんだ。ある者にとっては、魂の贅肉であり、別の誰かにとっては心のゆとりでもある。街並みの彼方、絶える日がない屍者の呻きや獣の遠吠えが遠く響いていた。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 真冬の町を散歩する。楽しめるのは日中でも昼時くらいだ。しかも、晴れていても零下2~3度まで低下している。実のところ、冬の散歩と言う発想が、庶民には縁遠い代物だ。懐に余裕のある職工や腕のいい労働者でも、厚手の羊毛服や毛皮、外套を羽織り、手袋やマフラー、頑丈な靴を持っていようが無駄に歩き回ったりする余裕はない。それらは生活と仕事の為のものだからだ。

 

 すぐに温かい屋内に戻って、濡れた衣服を乾かしたり、暖かい飲み物を楽しめるのは、富裕層――とは言わずとも、裕福な市民や商人だけのささやかな楽しみだ。嫌味な趣味ではない。一握りの熟練工や常雇いの定職持ちなども、無駄を楽しむように時々は冬の散歩を味わう。

 

「ふふ、うふふ」マギーは、サクサクと音を立てて雪を踏んだ。暖まった身体が徐々に冷えてくる。曠野は一年を通して乾燥している。肌に良くないので、殆んど毎晩、お湯で身体を洗っている。小屋に戻ったら暖かいお湯で身体を拭くのだ。

 白い息を吐いた。時々、遊びに顔を見せるセリシアもそうだが、今も巻き毛のルーなど雪が珍しいのか。駆けまわっている。楽しいのは、今だけだ。きっと毎年の寒さにうんざりするようになる。とは言え、曠野は、年間降雨量も乏しく、積雪も大した量ではない。

 

「散歩、行きたい人」マギーが尋ねても、手を上げたのは猫耳ココとニナ。巻き毛のルーだけだ。残りの面々は、正気か、こいつ、と言う目で見てきたので、置いてきた。奴らは、進化に置いてきぼりだ。仲間たちには、燧石銃《フリントロック》の銃口内部を乾いた布と槊杖《ラム・ロッド》で拭わせている。結露はマスケットの大敵だ。この間、それで死にかけた。火薬角も革袋に包んで、注意深く、胸からぶら下げた。肌に引っ付けると湿る。

 

 外套を羽織って厚着をしてから三人で外に出る。

「探検ニャー」と猫耳がのたまい、ニナは「……真冬の町は初めてだ」白い息を洩らしていた。ちなみに小屋に戻れば、すぐに火に当たれる。料理人リリーが欠伸をしつつ一緒に出てきて、畑の様子を眺めてから、「お茶やで」タオルに包んだ金属瓶を渡して小屋に戻っていった。これは下に熱く熱した石が入ってるので、暫く冷めない。

 

 いまだに壊れている門の残骸を抜けて、大通りへと向かった。人通りは少ない。

 自警団員たちが詰め所で火に当たっていた。焼いたパンとチーズを食べている。腹が空いた。念のために武装しているが、かなり気を抜いているようだ。こっちも人のことは言えない。もう、何か月もコヨーテやら巨大蟻の一匹も見かけない。出るとしても、ごく少数の野犬やら巨大鼠くらいだそうだ。時々、物陰でお茶を飲みながら、縄張りを確認する野良犬や野良猫のように地区内の街路を歩き回って、店や簡易宿泊所をのぞき込んだりする。避難所は態々、訪れなかった。生きるのがギリギリだった頃を思い出す。あの頃のマギーやニナより切羽詰まった貧困を、今はまだ見る気になれない。

 

 店舗や工房も殆んど閉じているか、昼から夕刻の短い間だけの営業だ。例外は、薪屋と粉屋くらい。水屋は雪の降る今の時期は、あまり熱心ではないようで御用の人はベルを鳴らせと乱暴に書いてあった。これが自治区や廃市街だと、盗まれるのでベルも付けられない。

 

 予約していた簡易宿泊所を訪れてみた。今年は結局、使わなかった。「どうにも大丈夫そうよ」と来訪して主人に言うと、感心したように大きく頷いてから「いや、大したもんだ」と称賛された。集合住宅《アパルトマン》の寝台や部屋一つを買い上げるだけでも一目置かれるものだが、一から家を作るとなるとこれはもう別格だ。

 例え、それが小屋ひとつであっても、黄昏の時代に家を築く困難さは並大抵のものではない。事業を立ち上げ、大勢の身内を養い、近所にパンと薪を配っているマギーを「最初から只者ではないと思ってたよ」などと主人は褒めてくるが、確かに出会った当初からマギーに対して妙に丁重だったので、満更、お世辞だけでもない。マギー自身にも確信が無かったものを見抜いていたのだから、人を見る目は大したものだと思いつつ、マギーは満面の笑みを返した。

 

「それなら、あんたの名前で余裕のないものを泊めるかね?」と主人が尋ねてきた。

「うん?もう、二月だろう」とマギーが首を傾げるも「本来の予約者が来ない分、少しだけ安く泊めてやっていた。勿論、客が来たら、隅の方に移ってもらうがね」と言う。了承すると態々、主人はその家族連れを呼び寄せ、礼を言ってきた。冬の命が掛かっているにしても。いや、悪くはないか。癖になったら傲慢になりそうだが、子供連れに恩人扱いされるのは悪い気分ではない。そこらへん、人の名誉心をくすぐるのも上手いようだ。「ありがとう!」と手を振ってくる坊主に手を振り返して、簡易宿泊所を後にした。

 

 最後に少し軽く自治区の方まで足を延ばした。と言っても、【町外れ】地区に面した治安の良い一帯だけだ。廃市街方面までは廻らない。人数が三人。不安定な冬に、例え巨大鼠やら野犬程度でも遭遇したくはなかった。まして、屍者などは。そんなことを言い合いながら、歩いていたら、閑散とした自由市場通りを抜けたあたりで、通りに面した廃屋から呻きが聞こえてきた。しかも、濁った呻き声だ。

 

 即座に立ち止まり、マギーの沈黙したままの手信号で背後へと早歩きした。屋台の物陰で、まずはニナが。次いでココが燧石銃《フリントロック》に装填し、最後にマギーが装填を終える。小さな廃屋だ。十人とかはいない筈だ。多分、五人もいない。

 越冬者たちが深夜に寝入ってたところを襲われたとしても、犠牲者――転じて屍者たちも、そんなに数はいないと思いたい。

 

(……何体いる?)それが重要だ。最初に自治区に侵入した屍者もそんな数はいないだろう。多数なら、夜警たちも見落とさない筈だ。多分。

(いや、分からんな)マギーは余り自治区の夜警たちの能力に信頼を置いていない。

 特に冬は疲労が積み重なり、隙も多くなるし、木柵やら、窓を塞いだ木材。扉の痛みも激しくなるものだ。数の判断を口に出して共有する。少し緊張した。間違っているとは思わないが、仲間の命が掛かっている。何時も恐い。

 

「どうする?夜警団に知らせる?」ニナが囁き、猫耳ココが賛同するように静かににゃ、と鳴いた。「いい考えだ」言いながら、マギーたちがじりじりと下がっていると、甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 

 迷う時間は無かった。血塗れの女が飛び出してきた。叫んで、助けを求めるように周囲を見回し、視線が合った。屍者かと思ったが、銃を構えて狙うと「違う!違うの!」叫びながら、立ち止まって、建物から追うように這い出てきた屍者たちが女に迫った。

「走れ!」それだけ言いながら、マギーは発砲。ニナも発砲。二体の屍者の額に穴が開き、屍者が崩れ落ちた。風体からして恐らくは貧しい放浪者か、浮浪者《ホーボー》だろう。猫耳ココは、敢えて遅れて発砲したが外れた。マギーたちは、再装填を行いながら、廃屋から視線を放さない。三体、四体と――四体目はやや小柄で少女。マギーは眉を顰めたが、冷静に発砲。次の確固射撃で四体とも仕留めた。

 さらに装填を行い、次の出現に備えつつ、街路の真ん中に崩れている女へと、慎重に歩み寄った。

 

 血まみれの女は、子供を抱きかかえていた。火が付いたように泣いている。女は困ったように見上げてきて笑った。「この子を……いえ、駄目ね」噛まれている。子供も。

 女が子供を見た。「ねえ、君の名前は?」問いかけている。

「貴女の子では?」ニナが尋ねるも、首を振るう。

「偶々、一緒にいただけ……旅の途中だって。老人に連れられてた」

 役立たずの夜警たちが銃声を聞いたのだろう。槍やらクロスボウ、アーキバス銃を手に、遠目に騒いでる。こっちには来ない。役立たずだ。マギーは顔を顰めつつ、ため息を漏らした。でも、まあ、恐い。仕方ない。

「ねえ、泣いてたら分からないよ」女は子供に囁きかけている。

「やっと、お、父さん。お母さんに……会えるはずだったのに」子供は泣きじゃくっていた。傷の痛みよりも、絶望に泣いているのか。十歳ほどか。栄養状態で随分と発育が変わるから、正確には分からない。

「残された時間を見つめなさい。お父さん、お母さんに、伝えたいことも伝えられなくなるよ」女が穏やかに言い聞かせてると、そして夜警たちがやっと駆け寄ってきた。

 

 

 

 

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