ポレシャ居留地の西側は、僅かに高台となっている。狭い区画に足を踏み入れたマギーは興味深そうに見渡したが、古い町並みはほぼ無人のように見える。
「古いポレシャだよ。最初のポレシャ居留地だ」寂びれた町並みにじっと見入りながら、キャシディ副保安官が淡々と解説した。
「最初のポレシャか」朽ちた扉に興味深そうに指先で触れてから、マギーは辺りを見回した。
「……人がいないな。今でも住めそうな家があるのに」マギーの疑問に、キャシディは薄く笑った。
「……井戸から遠いからね」キャシディが顎をしゃくり、すぐ傍にある区画の入り口を示した。寂びれた井戸が奥まった袋小路に静かに佇んでいる。
「中央に井戸を掘ったら、丘近くの湧き水が枯れてさ。水脈が同じだったようで、それから段々と水が……人も減っていったんだ。今はもう殆んど住む人もいない」呟いてから、キャシディはマギーに尋ねた。
「退屈な話かな?」
「いや、続きを聞きたい」マギーが先を促がした。
「マギーって、こういう由来が好きだね。だから、隊商に加わっていたのかな?」年相応の娘っぽい軽い口調でキャシディが尋ねた。
「まあ、それもある」マギーは適当に誤魔化した。
「飲料水の量が、居留地の人口を抑制している。家屋は増やせても人は養えない。だから、参事会も市民を増やすのに及び腰になっている」立ち止まったキャシディは南側の防壁を眺める。
「南の湧き水やら小川なんかは、農業には使えても飲用にはあまり適さない。浄水器にしても限りがある。ポレシャは三百人が限界なのさ」
「……水か」呟いたマギーは、なにやら考え込んでいる。
「そう、水。
「……子供の頃、この辺りに住んでいたのかな?」とマギー。
「まあね」
他人の出自にさほどの興味がある訳でもないが、キャシディとは長い付き合いになるかも知れない。
旧ポレシャには廃屋が迷路のように密集している一角もあれば、点在している一帯もあるが、大半の建物は見るからに荒れ果てた廃墟と化していた。資材を取られたのか、壁や屋根が大きく解体された家屋も目立つが、中には今でも住めそうな佇まいの邸宅も残っている。それらも窓と入り口を塞がれているのは、よそ者が住み着いたり怪物が巣食ったりするのを防ぐためだろう。
「あの密集している家の一帯は、古いポレシャの防衛線だ。迷路にもなってるし、同時に防壁でもある」キャシディは足元を見ながら、どうやってかマギーの見ている一帯について語った。
「敵に攻められて、ポレシャで死にたい者たちは最後の最後にあそこに籠ることになっている」家の壁や石垣には弾痕の跡が刻まれ、風化した人骨が転がっている。
「その頭蓋骨は私のご先祖の一人だよ」とキャシディ。戸惑ったようなマギーに対して、楽しそうに笑っている。
「……畑も少しずつ増えていった。南の湧き水を作って畑を大きく広げて、八十年も掛けて今の防壁を作って。襲撃も幾度かは受けた。それでも僻地だったから、それほど強力な野盗には襲われずに発展し続けることが出来た。色々と運が良かった」
口には出さずとも、故郷に無事であって欲しいとのキャシディの気持ちは、流石にマギーにも伝わってくる。我ながら単純だと思いつつ(少しは肩入れしていいかな)と思うマギーだが、高台の階段から民兵詰め所を眺めてみた。キャシディと軍事的指導者の地位を巡ってライバルと見做されるチェスター中尉は、どうなのだろう。やはり力になりたいと思っている者たちが付いているのだろうか。
やがて、高台の階段を昇り切った場所に閑静な邸宅が建っていた。小高い丘を取り囲むようにして木柵や土壁の痕跡が残っている。
薔薇にも似たラナンキュラスが咲き誇る庭園には、飛び石状の歩道が敷かれている。マギーたちが足を踏み入れると、老執事を連れて、家の主人が玄関口まで迎えに出てきた。
「ようこそ、キャシディ副保安官」ヘルナル中尉は一見、物腰柔らかな老紳士だった。ヘルナル氏の外見を見たマギーは、僅かに戸惑いを覚えた。
「祖父?」耳打ちして尋ねるマギーに、キャシディが低い声で囁き返した。
「いんや。父」
年の差の大きい親子だな。と、マギーは微かに目を細めた。遅く出来た子は、しばしば親に溺愛されるものだ。ヘルナル中尉とジョナス君も例に漏れないとしたら、冷静に話を聞いて貰えるかは疑問だった。
「息子が味方に撃たれた件について、説明してくれるそうだね」穏やかな物言いのヘルナル中尉だが、二人を見つめる瞳は深みのある光を湛えていた。
「ただ、メリッサの事はよく知っている。
家族ぐるみの付き合いだ。よほどの事があったのだろう」二人を一瞥してから、マギーを値踏みしているのか、ヘルナル中尉は静かに視線を留めた。
「ジョナス君はなんと?」キャシディ副保安官が問いかける。
「一言も口を聞かない。食事もろくに取らないよ」困ったものだと言いたげに、ヘルナル中尉が首を振った。
キャシディが頷いた。
「ご子息が、先に味方に銃口を向けました。ですが、それにも一応の理由はあります」キャシディ副保安官の言い分を聞いたヘルナル中尉は、口元に形だけの笑みを浮かべた。
「入り給え、キャシディ・エヴァンス。それにお連れの人も」そう言って、踵を返す。少しだけ緊張を覚えながら、マギーはヘルナル中尉の後に続いた。
※
古代から中世初期の欧州社会において重要な役割を果たし、文明崩壊後の世界に復権した職業のひとつに牧者がある。自前で家畜の群れを所有する者もいるが、大抵の牧者は他人に雇われて、預かった家畜の群れなどを率いて牧草地から牧草地を転々と巡っている。
曠野の僅かな草原地帯では牧草も乏しく、養える羊や山羊も少なかった。居留地近郊の牧草を食い尽くさぬよう、居留地の有する家畜の群れは分割されて、幾人かの牧者たちへと振り分けられる。為に牧者の多くは牧羊犬だけを相棒に、家畜を引き連れながら、長ければ一週間ほども牧草地まで旅し続けることもある。
牧者は、孤独で過酷な仕事だ。中世においても家畜泥棒や野生の獣に襲われた記録が残されているが、ポストアポカリプスの世においては、更に脅威は増えている。
曠野はそれなりに危険な土地で、長く旅すれば襲撃を受けることは避けられない。家畜泥棒や狼、コヨーテの他に単なる追剥から野蛮な逸れ部族《トライブ》、単独でも恐るべき魔熊や鉄蠍、変異獣《ミュータント》やゾンビの群れ、野犬や巨大蟻等々、脅威は尽きない一方で、牧者たちは難敵の面々を古びたライフルで相手どらなければならない。
手練の牧者でも家畜を守り切るのが難しい為、大抵は二人、三人と連れ立って行動しているが、それでも常に少人数で家畜の群れを守らなければならないのに加えて、雇い人が増えても、牧草地で養える家畜が増える訳ではなく、一人頭の報酬も少なくなる。そして家畜の群れが大きな損害を受けた際、牧者に手落ちがあると見られれば損害を賠償しなければならない。為に、山羊や羊の肉は中々、庶民の口に入らない値段となっている。
それでも牧者は喰いっぱぐれの無い仕事だ。特に雇い主が大きな居留地であればなおさらである。羊であれば肉と乳が採れる。糞は良質な燃料になり、言うまでもなく羊毛と皮の需要が尽きることもない。そこから上がる収益の一部を報酬として受け取る。腕のいい牧者は、いればいるほどに雇い主は儲かるのだ。ポレシャ居留地においては、数百匹の羊と山羊が飼育されており、春から秋に掛けては放牧しつつ、冬には巨大な畜舎に飼い葉を集めて厳寒期を凌いでいた。だから、余程の事がなければ失業する恐れはなかった。本来であれば。
その日、ポレシャと契約している三十余名の牧者が雇い主である参議たちと面会したのは、議事堂の大部屋だった。室内は広かったが、流石に三十名近い人間を収容するとかなり手狭に感じられた。まだ肌寒さの残っている時期であったが、室内は薪ストーブが盛んに焚かれていた。ストーブに近い牧者は、あまりの熱気に上着を脱いでも汗を掻いている。
廊下には見事な壺や石像が飾られており、床下には薄いものの絨毯が敷かれている。そして壁には十人以上の民兵や保安官たちが並んでいる。集められた牧者の大半は落ち着かなげに互いに視線を交わしたり、雇い主からの話の内容を予期して陰気そうにむっつりと沈黙している。
「蟻の襲来が、冬ごもりの直前だったのが痛かったなぁ」牧者たちの目の前、居留地の参議を務める爺さんが、磨いていたパイプに火を付けながらのんびりと話し始めた。傍らで、杖を付いた若い参議が牧者たちを見据えていた。
「……働き手などが犠牲となった家族には減税もせにゃならんし、畑の被害でどっちみち減収だ。防壁やらゴンドラも再建せにゃならんのに財源もない」そうぶつぶつと呟いている。普段は雑貨店を営んでいる老参議の言い訳めいた物言いに、いい予感がする牧者など一人もいなかった。何故なら、壁には武装した保安官助手やら民兵やらが並んでいる。これはどう見ても、牧者たちが暴れ出すのに備えているようにしか見えなかった。
「……給料減るんかな」「分からん」牧者たちは荒事に成れているし、弓に拳銃、ナイフにライフルだって持っているが居留地相手に立ち向かう程、自惚れてはいなかった。
パイプを吹かしていた老参議が、ようやくに牧者たちへと向き直った。
「幾つかの畜舎は、ほぼ全滅だ。君らに頼む仕事がない」
革張り椅子に深々と腰掛けながら、机の上の書類を一瞥して投げて寄越した。
牧者の頭目の一人が机から拾い上げ、眺めて息を呑んだ。声にならない唸りを漏らした頭目の表情は強張っていた。
「……普段は分散させている羊たちを丁度、畜舎に集めたところだったからな。妊娠している雌羊も多かった」
「しばらく……ですか」牧者の頭目の訥々とした苦い問いかけに杖の参議が頷き返した。
「五年か、十年か。買い直すとして、まずは鶏やガチョウからだ。買い集めやすいし、増やしやすい。まずは、肉を供給しなければならん」
雑貨屋の爺さん参議がパイプを吹かしながら通告した。
「他に増やしやすいのは豚だが、これは近隣の農村から買う事になるだろう。
次に畑での労働に必要な牛や馬。羊や山羊は、まあその後だな」
「……首れすか?」まだ年若い女牧者が慄きながら舌足らずな口調で尋ねてくる。
「残された家畜に対して、牧者の数が多すぎる」首切りともとれる宣告に、牧者たちのざわめきが広がった。
「半分は残す。最後まで話を聞け」杖で床を強く叩きながら、参議が声を張り上げた。
「畜舎の再建計画もある。全員、首という訳にもいかん。
ただ、暫くは……そうだな。半分。それでも多いくらいだが」
「……半分」年若い牧者が短く呟くと、すすり泣きだした。若手の牧者を中心に嗚咽が広がっていく。予期していた反応と違ったのか。壁に並んでいた保安官助手がきまり悪そうに隣の民兵と顔を合わせた。
「何人かはしばらくは鶏や豚の世話、他の仕事もして貰いたい。給料は安くなるが、安全で食っていくことは出来る。何年かしたら、牧者としてまた働いてもらう」杖の参議が慰めるように言葉を続ける。
「老年のものには……長い間、働いてくれたものには、壁の外だが、ミドルトン通りにアパートの部屋を用意した」
「……ミドルトン通り」参議の言葉を受けて、牧者でも年かさの者らが身じろぎをした。
「退職金と、これが住所だ。見に行ってくれ。水は
「……アパートだってさ」「犬はどうなる」牧者たちが囁いている。
「あすこは、粗末なベッドを並べただけの安宿だろ」
「……悪い話じゃない。追い出されるよりずっとマシさ」老いた牧者が、そう言って孫ほどの若い牧者を慰めている。
「今から呼ばれたものは、別室に来てくれ」老参議が咳ばらいをしてから宣告した。
呼ばれたものが首なのか、それとも雇用が継続なのかのも分からない。終末《ポストアポカリプス》の世の中に安定した定職は滅多にない。騒めき、各々が不安や不満を抱きつつも、牧者たちはしかし、羊の群れのように静かに己の運命を受け入れるように見えた。
※
夕刻の議事堂の一室で煙草の煙が立ち込めていた。21世紀の初め頃、先進国の一部には喫煙者が迫害された風潮があったそうだが本来の煙草は虫除けであり、緊張した神経をリラックスさせる効果を持っている。有害な虫が多く、平均寿命が短い崩壊世界では、酒と煙草の二つの娯楽は再び、復権しつつあった。
牧者たちとの面談から四時間後。会議室で顔を合わせた有力市民たちは、三々五々と集まっては、コーヒーや紅茶、緑茶を啜りながら意見のすり合わせと報告を行っていた。
「取りあえず四名に部屋を宛がい、十六名を継続して雇用」と杖を突いた参議が報告する。
「牧者が十六名は多くないか?今の羊の数なら、三名もいれば事足りるだろう」簡易宿泊所を経営している男が疑問を呈した。
「同感だが……なにか考えがあるのかな」隣にいた倉庫の持ち主が尋ねる。
「せっかくの水場や牧草地も、あまり使わないと他所の集落やら遊牧民に取られますからね」卓上の地図を眺めながら、杖の参議が答える。
「特にミトやらスージやらは、うちの牧草地に目を付けてる。羊が少なくても、姿だけでも見せておかないと。それには土地を知ってる牧者が必要という訳です」
納得したように頷いた倉庫の持ち主だが、肥満した肉屋が唸り声を上げた。
「で、武装して腕が立つ失業者が十四人。勝手にスラムに住み着いたりはせんだろうな」なに言ってるんだと言いたげに、地主の一人である背の高い中年女性が冷たい声で吐き捨てる。
酒場の店主によく似た美人だが、左目に眼帯を付けていた。物騒なポストアポカリプスの世に、賊や怪物によって深手を負ったり、不具となった市民も少なからずいる。
「住み着くでしょうよ。ポレシャは豊かな居留地です。他所に行っても食える保障なんてないんだから」中年女性の言葉に市民たちは顔を見合わせて、ぶつぶつと呟いたり、不安そうに呻きを漏らしたりしている。
「出来るだけ、バラバラにしておきたいな。しかし、民兵が三名も死んだばかりなのに」
「四人だ。先ほど、モーガンが私の病院で亡くなった」と痩せた医者が告げた。
「モーガン?」誰かの疑問の声。
「ホワイトフィールドのところの娘っこだ。出血が多くてな。手遅れだった」いい娘だったのに、と痩せた医者が眼鏡を拭いた。
「撃たれたのは男じゃなかったか?」と肥満した肉屋が、腹を撫でながら問いかけた。
「スタンフィールドの倅は、手当てが良くて助かりそうだ」痩せた医者が頷いた。
「ああ、そうか。しかし、若い者ばかりだな」肥満した肉屋が億劫そうに汗を拭った。
「あっちが死ねばよかったのに」雑貨屋の老店主が唸り声を上げる。
「なんだ、爺さん。とんでもないことを言うな?」肥満した肉屋が目を剥いた。
「スタンフィールドめの小僧。硝石を作るとか抜かして糞の山を……」
「ああ、やめて頂戴。その話は、もう二度と聞きたくないわ」地主である中年女性がゾッとしたように耳を塞いだ。
「ドランのところの息子も死んでたな」肥満した肉屋が同情したように言った。
「あそこは一人息子だろう、気の毒にな」痩せた医者が首を振った。
「明後日にモーガンの葬儀を……」簡易宿泊所の経営者が手を上げながら告げるが
「待てないか?棺桶の都合がつかない。クリフのところに注文してるが」痩せた医者が遮った。
「それにしても……民兵が四名と保安官助手一名が戦死」杖を突いた参議が、悩まし気にリストを眺めて、呟いた。
「そこに武装した失業者が十四名。もしかしたら、他の牧者も不満を抱えているかも知れんが」簡易宿泊所の主が皮肉っぽく笑い声をあげた。
「牧者というのはもっと荒っぽいものと思っていたが、暴れ出すようには見えませんでしたな」杖を突いた参議の言葉に、雑貨屋経営の老参議が冷めた口調で応えた。
「今は、な」
「疑い深い人ですな」と杖の参議。
「でなきゃ、居留地を守ることは出来ん」老参議が鼻を鳴らして、珈琲を啜った。
「……若い牧者にはこの地で生まれ育った者も多いからな」肥満した肉屋が呟いた後に、指を鳴らした。
「いっそ、何人か民兵に採用したらどうだね?エヴァンスの娘が言ってただろう」
そう言った肉屋のアイディアに、簡易宿泊所の主が噛みついた。
「キャシディが言ってたのは、あくまで信用できるものを二人、三人と、様子を見ながら、斥候や傭兵として、だ」
不機嫌そうに唸りながら、簡易宿泊所の主が周囲を見回して吐き捨てる。
「纏まったよそ者集団に武装と権限なんか与えられるか」
「産出する皮や羊毛が減れば、被服を買う金も他所に流れる。迂闊に増税も出来ない。保安官と民兵から弾薬の補充要請が。例年以上に防備に力を入れないとならんが。被害がどのくらいになるのか、いまだ算出できていない」
卓上の書類を並べて眺めながら、杖の参議はつらつら問題点を口にしている。
「……保安官事務所と民兵をひとつに纏めては?弾薬代だけでも節約できる」
「で、誰が居留地の軍事力を一手に握るんだね?大変な権限だが」
参議たちは顔を見合わせた。欠席の参議もいるが、顔を出してもどうせ大した考えは浮かばない。議会と言い、参議と言っても、町内会による持ち回りの合議制に過ぎない。頭の出来も、人生経験も、市外の伝手とておおよそが似たり寄ったりの集まりの田舎市民に過ぎなかった。
「頭が痛いよ」誰ともなく、ため息が漏れた。
「まあ、生き残っただけでも良しとしよう」慰めの言葉が掛けられる。
中世封建制や社会主義制度の社会に似て、資源や職が限られる中、ポストアポカリプス世界の為政者たちは民衆に雇用を提供しつつ、限られた資源を分配する役割を担い、同時に有力市民や牧者を始めとする武力集団間の慎重なパワーバランスを上手く保つ事も要求される。議題は複数の分野に跨っており、とみに最近の会議は長時間に及ぶのが常で茶や紅茶、コーヒーなどは欠かせない。
巨大蟻の侵攻では、全滅した市民の一家もいた。それでも被害は限定的なものに抑えられた。よく練られた防衛計画に避難訓練が行き届いていたからだが、諸々の計画の立案者はもういない。
「……保安官の防衛計画が有効だったことは認めざるを得んが、本人が死んでしまってはなぁ」老参議が悩ましげに唸っている。
「再建計画も、どうしたものか……」肥満した肉屋が天井を眺めてぼやいている。
「少ない予算で出来ると豪語してたけど、集めてた本や計画書も吹っ飛んで、何考えていたのかも分からないし伝手も頼れない」酒場のオーナーがため息を漏らした。
「代わりもいないのに……なんで死んどるんだ!あいつは!」老参議が年甲斐もなくキレて机を叩いた。